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真摯ある説得

 模擬戦を行う場所はデブリが多い宙域と何も無い宙域が半々くらいの状態。

 勿論、実機を使用した模擬戦なので見学する者達は大画面スクリーンを見るしか無い。


 一部を除き、多くの者達は301訓練大隊の敗北だと考えていた。


 理由は単純で戦力差が大き過ぎるからだ。


 これでは、模擬戦では無く兎狩だと比喩する者も居た。


 しかし、予想とは裏腹に戦いは最初からガラリと変わった展開を見せた。


 304訓練大隊が最初に接敵。その5分後に304訓練大隊は壊滅した。

 だが、まだ相手側には余裕があった。

 305、306訓練大隊が無傷で残っている。つまり、戦力差は二倍ある訳だ。


 合流し、数の優位を生かして勝つ。


 だが、彼等の悪夢はまだ始まったばかりだった。


【隊長機がやられた!】

【次の指揮は!誰だッ】

【何で俺達の攻撃が当たらないんだ!反則でもしてるんだろ!】

【可笑しいだろ!あんなに上手く連携出来るなんて!これじゃあ、僕達が当て馬にッ⁉︎】

【馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!あんな奴に……あんな、素性がまともじゃ無い奴の教えに負けるなんて!】


 悲鳴に近い通信。接敵して、最初の方で指揮をする機体が全機墜とされた。

 後は、烏合の衆を徐々に減らして行く作業になって行く。


『アイン02、03、04敵を攪乱するぞ』

『アイン02了解』

『教本通りの動きだけで、戦場を生き残れると?舐めるな』

『左翼側の敵を殲滅確認。中央のフォローに行く。ツヴァイ中隊続け』

『これじゃあ、模擬戦にならんな。次の正規軍相手を期待しよう』


 淡々と敵を減らして行く301訓練大隊。

 本当にコイツら訓練生?ベテランの正規兵が入ってない?と疑いたくなるくらい冷静さ。


 戦いは決したと言っても良いだろう。


「これは……少々、驚きました。まさか、ここまでの差が出来るとは」


 最初に呟いたのは、第一近衛師団隊長のマリエル大佐。

 近衛師団と言う訳で実力、血筋共にエリートの集まり。その隊長なのでマリエル大佐の実力と指揮能力は折り紙付きだ。


「あぁ、そうだな。最初の戦力分散は良く無かった。だが、あの実力差なら集まっていたとしても結果は変わらん」


 手厳しい感想を言うのはセシリア准将。

 元々、デルタセイバーの強さを常に見て来た人物だ。

 多少は譲歩する目は持っているだろう。だが、簡単にその譲歩が出ないのも事実。


 故に手厳しい感想が出るのは仕方無い事だった。


「ふぅむ、キサラギ教官の実力は私自身も多少は知っているつもりだ。ASでの操縦もそうだが、AWはそれ以上。ギフトを保有しているとは言え、戦いのセンスが桁違いなのだろう」


 次に口を開いたのは第五機動艦隊を率いるマッセナ中将だ。

 以前、マッセナ中将はデルタセイバー封印の為の護衛艦隊として行動を共にした。

 所属不明艦隊相手に苦戦を強いられていたが、俺の乱入により事無きを得た。


 まぁ、代わりにデルタセイバーの護衛は失敗したけどな。


「それにしても、キサラギ教官は……凄いですね。(わたくし)も救われた身ですから、凄いのは知っていましたが」


 第三皇女リリアーナ様からは良い反応を得た。もしかしたら、誰か一人か二人くらいは護衛に抜擢されるかも知れない。

 そうなれば、これでもかと教えた甲斐があったと言うもんだ。


「当然の結果ですよ。この一年間、アイツらを徹底的に扱き上げましたから。偉いさんの息子、娘とか関係無くですがね。最初は反発する奴も居ましたが、実力差と将来を約束したら多少大人しくなりましたからね」

「将来を約束ですか。随分と大きな事を言いましたね」


 マリエル大佐は若干呆れた表情をする。

 だが、既に実力と結果は見せた。後は、各々が諦めて認めるだけだ。


「マリエル大佐、貴女も実力者だ。同時に俺も実力者だ。それも、下から這い上がった生粋のですよ?」

「確かに、その様ですね。その辺りは認めましょう。ですが、それで名誉ある近衛や特務に配属されるとは限りません」


 それでも、強気の姿勢は崩さないマリエル大佐。

 まぁ、簡単に崩されても困るから丁度良い。


「仮に、一般部隊に配属されたとしても問題ありません」

「ほぅ、何故です?理由を聞かせても?」


 俺はニヒルな笑みを浮かべながら、話を聞いてる奴等全員に聞こえる様に少し声を張り上げる。


「戦場を支配するのは強い奴だけ。その上澄みがエースパイロット。そんな存在が味方として一個大隊存在する。味方からしたら、こんなに心強い事は無いでしょう?」


 他のお偉いさん達も聞き耳を立てる。

 もしかしたら、自分の艦隊にエース部隊を引き込める可能性がある。

 そうなれば、それなりの待遇で迎え入れる準備もするだろうからな。


「それに、言ってはなんですが。エース部隊を野放しに出来る程、エルフェンフィールド軍は安泰では無いでしょう?」


 軍事技術は三大国家よりも上だとしても。

 それに、現状AWの性能差は徐々に埋まり始めている。

 デルタセイバーが与えた影響は大きく、三大国家も次期主力機の開発を行っている。恐らく、遅くても来年には次期主力機の先行量産型が配備される筈だ。

 それに、既に2ヶ月程前にZM-05マドックの後継機ZMF-09ヴェノムが販売されている。

 参考にしているのは勿論、ZCM-08ウォーウルフ。元々ZM-05マドックユーザーを対象とした機体だ。

 更に、全体の性能の殆どはウォーウルフを超えており、新たなライバル機として登場したのだ。


「ZCM-08ウォーウルフ、ZMF-09ヴェノム。何方も維持コストを抑えつつ、高性能に纏まってます。だが、ガイヤセイバーはどうですか?また改修して性能向上させてるらしいじゃないですか。だが、コストに見合う性能が無ければ意味が有りませんよ」


 ウォーウルフは既に価格以上の名機としてのブランド力が付いた。

 ヴェノムもウォーウルフと同じコンセプトなので、同様のブランド力を手に入れたのも同然。


「言っちゃあ何ですけど、俺と接敵したガイヤセイバーでも充分な性能持ってたと思うんですけどね。あのサイズで飛行も出来て、ビーム兵器も使えるんですから」


 GXF-900ガイヤセイバーの性能は決して低くは無い。

 そもそも、人型形態でありながら重力下で高速飛行出来るのだから充分だろう。

 それに、ガイヤセイバーの性能を満足に発揮出来るパイロットは多くは無い。


 何故なら、GXT-001デルタセイバーを受け継ぐ機体なのだから。


「成る程。貴様の意見は実に貴重な物だ。特に、AWに関してはな」

「お褒めに預かり光栄ですよ。セシリア准将殿」

「だが、ガイヤセイバーが追い詰められ、貴様の機体に敗北した。それでは、許されん事なのだ」


 セシリア准将は鋭い視線を俺に向ける。いや、普通に怖いんですけど。

 貴女、結婚してるんでしょう?だったら、もう少し柔らかい視線を送っても良いのよ?


「敗北するのは当然でしょう?だってさ……」


 俺は大型モニターに向けて指を指す。

 模擬戦の結果が大型モニターに表示される。

 相手側は全滅。対して、301訓練大隊の損害は中破2機、小破8機。


「三倍の戦力差でも圧勝するんですよ?俺の指導はさ」


 だとしたら、俺自身が戦えばガイヤセイバーに勝つのは当然だろ?

 俺の言葉にセシリア准将は口を開く事は無かった。




 次は正規軍一個大隊がアグレッサーとして参戦する。

 対するのは三倍の戦力差を覆し、勝ち抜いた301訓練大隊。向こうも最初は侮っていただろう。

 だが、今は真剣そのものだ。


(そろそろ行くか。後は、保険でも掛けとくかね)


 俺は席を立ち上がり、セシリア准将の方を見ながら言う。


「さて、自分は先にお暇させて頂きますよ」

「何処に行くつもりだ?まだ、貴様の教え子達は戦っている」


 少し睨む様に俺を見て来る。

 しかし、此処でビビる様な俺じゃない。

 そもそも、既に勝負は決まってる様なもの。そんな戦いに興味は無い。


「結果が分かっている戦いを見学するのは、つまらないんでね」


 俺の言葉に一瞬だけ場が静かになる。

 まぁ、暗に正規軍に負けないと宣言したんだ。軍人としては聞き捨てならない発言だ。

 だから、俺は保険を掛ける。


「あ、そうだ。マリエル大佐、もし良ければアグレッサー役やって頂けません?」

「……どう言う事ですか?」

「分かってるでしょう?実戦経験が無いにも関わらず、正規軍相手に圧勝。アイツらは天狗になる可能性がある」


 因みに、301訓練大隊が天狗になる可能性は低い。

 何故かって?俺が直々に叩き潰して来たからな。

 それに、どんな相手でも侮るなと耳にタコが出来るくらいには言い聞かせた。


 だが、周りはそんな事知らない。


「お願いしますよ。第一近衛師団の中から選りすぐりで天狗の鼻をへし折って欲しいんですよ」

「つまり、我々が現実の厳しさを教える……と?随分と豪勢な指導になりますわね」


 少々、勿体ぶった言い方をするマリエル大佐。そんなマリエル大佐を見て、呆れた表情をしながら眺めるセシリア准将。


 手応えは充分だ。


「でしょうなぁ。でも、戦ってみたいでしょう?」

「…………」

「デルタセイバーを叩き潰した男が徹底的に鍛え上げた一個大隊。一年間とは言え、手を抜いた事は一度もありませんよ」


 俺のセールストーク(真摯な説得)を聞き、目を瞑り暫し考え事に耽るマリエル大佐。

 そして、マリエル大佐は静かに口を開く。


「良いでしょう。我々、近衛の実力を今一度再認識させる良い機会です。ですが、訓練大隊相手に同じ大隊をぶつけるのは忍びありません」


 マリエル大佐はこの場に居る者達全員に聞こえる様に、綺麗で演劇で聞く様な声を出しながら宣言する。


「我々、近衛は一個中隊で相手して差し上げます。では、私は準備の為に一度失礼します」


 それでは。と一言残して颯爽を去って行くマリエル大佐。

 しかし、こうも簡単に口車に乗る様子を見て、シュウちゃん少し心配しちゃう。


(まぁ、詐欺に遭っても逆に相手を引き摺り出すから問題無さそうだけど)


 そして、俺もマリエル大佐に続く様に退場する。

 その間にも正規軍相手に優勢に戦い続ける301訓練大隊。

 周りのお偉いさんや訓練生達の身内は、静かにだが興奮している様子だった。



 因みに、クリスティーナ中佐は宇宙ステーション防衛任務に出ているよ。

 幾ら暇人とは言え、伊達にデルタセイバーを操縦していた実力保有者では無いのだ。

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