初体験は色々ある
資源加工施設ではセクタルの戦闘員が多数いるのだが、主要幹部の大半はダムラカを中心とした軍人だった。
しかし下っ端の人間には余り関係は無く、いつも通りに施設の周辺見回りをしているパトロール部隊が空を見上げ話していた。
「今宇宙では戦闘が起きてるらしいな。俺も参加したかったぜ」
「お前AW動かせないだろ。MWで何すんだよ。対空砲の代わりでもやんのか?」
「残念だったな。実は三日前にAWの資格取れたんだよ。後は機体が配備されれば晴れてAW部隊の仲間入りよ。つまり、お前達とももう直ぐお別れになるのさ」
「けっ、言ってろ。どうせ直ぐに撃墜されるのがオチだよ」
「悔しがるなよ。俺には適性が有ったんだ。コレが才能の差てやつさ」
仲間達を煽る様に言う。徐々に周りは険悪な雰囲気になるが、そいつは気付かずに自慢を続ける。
「大体俺の様な奴がこんな所に居る事が間違ってんだよ。早くAWが配備されねえかな。最初はサラガンだろうけど専用機とか欲しいよな。まあ、お前達には関係無い話だろうけどな!」
この瞬間何かが切れる音がする。そして自慢し続けた馬鹿面に三つの拳が突き刺さる。そいつは吹き飛ばされて一瞬で気絶したのか動かなくなる。しかし誰一人として介抱するやつは居なかった。
「あの馬鹿が居なくなって精々するぜ」
「だな。寧ろこっちから願い下げだよ」
「言えてる。大体あいつ空気読めねえからな。それにAWに乗ってもビビって何も出来ねえって」
「専用機は無理だが代わりに直ぐに後ろ弾は貰えるだろうけどな」
その言葉に笑い声が響き渡る。そして上を向いた瞬間何かが見えた。
「何だアレ?デブリか?」
「確かあの辺りで戦ってる筈だ。撃沈した艦の残骸だろ」
「そっか。あの辺りで戦ってんのか」
それから暫く流星の様な輝きを見せる残骸に目を向ける。あの光一つに何十何百の命が燃えてると思うと不思議な物だ。不謹慎な事だろうが美しいと思ってしまうのだから。
「ん?アレこっちに向かってないか?」
「多分燃え尽きる前に来てんだろ。多分この辺りに沢山のクレーターが出来るかもな」
「そうか。なら移動した方が良いのか?」
だが彼等は動かなかった。多分この瞬間まで自分達の所には落ちないと思ったのだろう。だが違和感を持った一人が双眼鏡で見る。そして自分の目に映った光景に目を見開く。
「アレは……残骸じゃねえ。突入カプセルだ」
「は?てことは……」
「此処に敵が来るのか?今宇宙で戦ってる最中に」
「ボサッとするな!司令部に報告だ!畜生、レーダーは仕事してねえのかよ!」
「マジかよ。と言うかもう目と鼻の先じゃねえか。俺達は唯のパトロールだぞ。何でこんな事に」
「知らねぇよ。早くエンジン掛けろよ。急げ」
そして彼等は通信で司令部に連絡する。この時宇宙ではジャミング装置が作動した為、艦隊からの連絡は無かったのだ。無論目視でも確認出来ただろうが、エルフの艦隊がAW部隊と共に前進してた為見落としていたのだ。
「あれ?誰かあの馬鹿を乗せたか?」
仲間に聞くと首を横に振る。最後にデカイため息を吐いてから急いで回収しに戻るのだった。
資源加工施設では警報が鳴り響き戦闘員達が慌ただしく移動していた。司令室でも殆ど人員が急ぎ報告を伝えていた。
「エルフ共も中々度胸のある事をする。まさか此方のジャミングが連中を手助けする事になるとはな」
「その様ですね。防衛ラインには通常兵器だけの配置で宜しいので?」
「そうだ。AWの展開は間に合わん。なら戦車やヘリには時間稼ぎをして貰う。AW部隊は施設前での防衛戦を行う。展開が完了次第防衛ラインを下げさせろ。それで例の兵器はどうなってる」
司令官の男性は副官に問いただす。無論副官も理解しており直ぐに返答する。
「はい。動力のパワー不足もカルヴァータの協力もあり解消しました。ですがテスト運転はまだしていない状況です」
「テストは実戦でやれば良い。アレが完成した暁には地上の覇者が誰なのかエルフ共に教えてやらんとな」
司令官達が話をしていると司令部のドアが開く。ドアの先には少々趣味の悪い派手な服装をした小太り気味の中年男性が居り、司令官に向かって大股で近付いて来る。
「おい!どうなってる!何故敵が攻めて来ているのだ!敵は全て宇宙で抑えるのでは無いのか!」
「ご心配なく。現在対処中ですので。それで他に何か用事でも?」
「何かでは無い!監視はどうなってる!この場所が攻め落とされたら我々セクタルの兵器生産に必要な加工資源が無くなるではないか!」
「元々この施設の加工能力は高が知れてます。それを我々が使える様にしただけ。さも自分達がやったと言うのは頂けませんな」
軍人の睨みを受け中年男性はたじろぐ。だが首を横に振り再び気合いを入れ直す。
「だが我々が居なければ貴様等も生きては行けなかっただろう?つまり貴様等は我々セクタルの為に奉仕する。当然であろう」
「その奉仕を現在遂行中です。で?他に何か用事でも?」
「ええい!もう良い!それよりリリアーナはどうなってる?」
「大人しいものです。我々の監視に静かに従ってますから」
「ならワシはリリアーナの様子を見にうひっ⁉︎」
そう言った瞬間司令官と副官からの凄まじい殺気を受け奇声が出てしまう。
「我々は貴様のくだらぬ事に協力してる訳ではない。理解したならさっさと失せろ。君、この方がお帰りの様だ。見送りたまえ」
「了解しました」
司令官は側にいた兵士に見送らせる。扉を出るまで睨みを受けたが全て受け流し戦況を再び確認する。
「迎撃ミサイルの効果は薄いみたいだな」
「はい。発見が遅れた影響で対空砲の稼働数が充分ではありません。また敵のデコイの中にチャフが散布されてる様で迎撃ミサイルの効果は薄くなっています」
「だが焦る必要はない。所詮この数の半分はデコイだ。問題なのは此処にカルヴァータがいる事がバレてると言う事実だ」
「はい。恐らく救出の為に陸戦部隊の突入が予想されます」
「此処の歩兵戦力は数しか居ない。パワードスーツを装着した陸戦隊相手には足止めにもならん」
司令官は副官と話しながら敵の進行ルートを割り出すのを見る。
「だが、アレが起動すれば敵の地上戦力など全て殲滅出来るからな」
この時、司令官は勝利を確信した表情になるのだった。
突入カプセルの中は快適とは言い難い。大体敵の迎撃によりそれなりに振動が伝わる。そして次の瞬間には被弾して制御不能になりながら隣の奴にぶつかり爆散するのが定番な訳だが。
「降下ルート修正開始。間も無く突入カプセルのパージ開始します」
「何とか無事降下出来そうだな」
どうやら映画の様な展開にはならずに済んだ。そして徐々に地上に近付いてくる。
「高度四千フィートに到達。突入カプセルパージ開始」
そして突入カプセルから外の世界を見ると荒廃した何もない光景が目に入る。
「観光名所は期待出来そうにねえな」
マドックに付いてる降下装備用のパラシュートが展開。地面に近付くとブースターが発動する。そして緩やかな着地に成功する。
「何事も初めては緊張するもんだな。俺も初体験の時には色々緊張したもんだ」
「そうなのですか?」
「一つは良い女と。もう一つは引き金を引いた時さ」
そしてマドックを集合地点まで移動させる。他の部隊も降下に成功して順調に集まって来ていた。
『これより私達ファング中隊、マッド中隊は先行して敵防衛部隊を撃滅します。続いて戦車を盾に陸戦隊は行動を開始』
『了解』『了解です』
『ファング中隊、全機続け!』
『マッド中隊もファング中隊に遅れるな。行くぞ』
勢い良く行動を開始するファング中隊とマッド中隊の皆さん。まあ目標のお姫様救出が出来るかも知れないと考えれば当然だろう。
「取り敢えず付いて行くか。遅れたら色々文句言われそうだし」
俺は最後尾のマッド中隊の後ろに着いて行く。マドックのスピードではエルフェンフィールド軍の主力量産機【GX-806スピアセイバー】には着いて行けない。何せ三大国家軍の保有するAWより頭一つ飛び抜けた性能を持っているのだ。
スピアセイバーの特徴を簡単に言うなら高機動、高火力を高性能で両立したAWなのだ。流石に重装甲とまでは行かないが標準的な厚さを持ち傾斜装甲により見た目以上の硬さを持つ。然も見た目もデルタセイバーに何処と無く似てるのもあってかなりカッコいい。正に最強の量産型AWの一つなのは間違いないだろう。
そんな凄いAWなのだからスピードは速いのは当然であり、ぶっちゃけマドックの場違い感が半端無い。
『トリガー5遅れてるぞ。怖気付いたか?』
「言ってろよ。こちとら全力疾走してんだよ。分かったらサッサと前向いてろ」
『ふん、臆病風に吹かれたか。クリスティーナ大尉の期待に応えられんとはな。精々落胆されん事を願うんだな』
「なら精々自分達のスピアセイバーに落胆されん様にな。旧式のAWやMWに撃墜されたってんなら笑い者にされるのは必然だがな」
『貴様調子に乗るなよ』
「後ろ弾撃つ度胸もねえ癖にイキんなよ。大体野郎の尻ばっかり目を向いてると痛い目に遭うぜ?」
『なら貴様が前にぬっ!くそ、掠ったか』
「だから言っただろ?前向けってさ」
その言葉を皮切りに敵の防衛部隊が此方に向けて攻撃を開始する。M505A9ブルバウンド戦車による二連装155ミリ砲の砲撃とCR-9チャンパー攻撃ヘリからの上空からのミサイルにより一時的に動きが止まる。
「防衛部隊にしては普通だな。数だけは一丁前だけど」
AWが居ないにしても正面からぶつかるなら手こずる戦力になるだろう。
だがクリスティーナ大尉の操るデルタセイバー。ファング隊、マッド中隊のスピアセイバー。何方もビームライフルが標準装備されてるAWだ。然もデルタセイバーは火力、機動力、防御力の全てを兼ね備えた夢の様なAW。
そんな高性能機を相手にしなくてはならないセクタル防衛部隊はと言うと。
【AWが空を飛んでるぞ!跳んでるんじゃない!飛んでるんだ!】
【対空ミサイルを回避しやがった⁉︎ああビームが!ビームがあああ⁉︎】
【対空弾幕を絶やすなあああ‼︎絶対にいいいあああ‼︎】
【正面の連中もヤバイぞ。増援を要請しろ!このままでは戦線が保たない】
【奴等は……ば、化け物を相手に何て……うわあああ⁉︎】
悲痛な叫びと共に蹂躙されていた。最早戦いとは言えないくらい酷いものだった。現実は非情な物だと改めて理解した。
「あ、軽装甲車見っけ」
俺はそんな連中を尻目に隅っこの方から対戦車ミサイルを撃とうとしてる軽装甲車を35ミリガトリングガンと対人12.5ミリで対処する。
この時確かな連携が出来ていた。エルフ達は戦車と攻撃ヘリで俺は軽装甲車と近くにいる歩兵達と時々攻撃ヘリを。
「果たしてコレが連携と呼べるのかどうかは知らんけど」
「役割分担が適当かと」
俺はネロの突っ込みに反応する事が出来ずに敵に対処するのだった。
降下部隊が戦闘開始している頃。宇宙でも激戦が繰り広げられていた。
戦艦のビーム砲がフリゲート艦に直撃し直ぐに爆散。
攻撃機のサンダーボルト編隊が駆逐艦の対空砲を果敢に潜り抜けながら攻撃を仕掛ける。
サラガンが接近戦を仕掛けようとするもスピアセイバーのビームライフルが何発も被弾し撃墜。
仇と言わんばかりにマドックがスピアセイバーにミサイルを放つが逆にビームに貫かれ爆散。
戦況はエルフェンフィールド軍側が優勢に進んでいた。だがこの戦況は当然の流れだった。
艦隊数は増援により埋まり主力機であるAWスピアセイバーの補充もされた。対してダムラカ艦隊の戦力には元正規軍はいるもののセクタル、宙賊などの寄せ集め。更に艦隊にも旧式が目立つ。AWや戦闘機はアップグレードで対応出来るが艦隊に関しては出来る所が限られていた。
結果としてダムラカ艦隊は徐々に劣勢に陥り始めていた。だがそんな戦況の中奮戦している部隊が居た。
【オラァ!洒落臭せえんだよ!】
ジャン・ギュール大佐率いる傭兵部隊シルバーセレブラムだ。しかし一番目立っているのが本人が操る銀色のスパイダー機が多数のビットを操り敵を複数相手に優勢に戦っていた。
『チィ、この程度のビットに』
【ダメじゃない。余所見しちゃ】
『ぐう⁉︎直撃か!』
距離を詰めビット兵器に対応しようとした一機のスピアセイバーが居たが、突如現れたパープルカラーのスパイダーの散弾砲によりズタズタにされて行動不能に陥る。
【ねえジャン、一旦後退しましょう?このままだと周りの囮が消えちゃうわよ?】
【雑魚が消えようが構わしねえよ。それよりキサラギは何処だよ。こんだけ暴れてんだから、あの嬢ちゃんと一緒に来ると思ってたんだがな】
【またキサラギ?本当……妬けちゃう】
そう言いながらお互い背を向け合いながら再び攻勢に出る。そして団長と副団長に続けと言わんばかりにシルバーセレブラムの団員も攻撃に入る。
そんな時だった。突如白い軽量機と帝国軍機の可変機が攻撃を仕掛けながら突撃してくる。咄嗟に回避するが仲間が何機か喰われる。
【ようやくお出ましか。お前らを待ってたんだぜ】
『ほう。これはこれはジャン・ギュール大佐ではないですか。傭兵界ではかなりの実力者か』
【ハッ!実力者か如何かなんざ周りが勝手に騒いで言ってるだけだ。テメェの様な有象無象みたいな奴がな】
『ならその実力を確かめさせて貰う!』
【邪魔くせえ!行けよビットォ!】
ビットを展開し四方から攻撃を仕掛ける。だが高い機動性を持つアーロン・ラスカル大尉専用機XBM-001Aラプトルはプラズマサーベルを展開し一気にジャンとの間合いを詰める。
【ジャン!そいつの軽量機はかなりのカスタムされてる!】
『アンタの相手は私よ!』
【この私とジャンの邪魔をするなら先に墜として上げるわ】
『やれるならいつでもどうぞ!』
FA-14フォーナイトも可変を生かした高機動でプラズマサーベルを展開しすれ違いざまに斬り裂いてくる。無論ジェーンも回避し直ぐにビームライフルで反撃する。だが背中に目が付いてるかの様に回避され、再び攻勢に出る。
『此方トリガー2援護します』
『周りは此方でも対処する。ドローン射出』
トリガー2は狙撃を行い周りの傭兵を牽制する。更にトリガー4の両肩に付いていたシールドが実はドローンだったと言う事実に仲間達は少しびっくりする。
【テメェらが来てるって事はキサラギも居るな。俺に不意打ちは無駄だぜ?】
『その喋り方あのクソガキみたいで腹が立つな。だが生憎だったな。キサラギは此処には居ない』
【はったりなんぞ俺には効かねえよ!さっさとキサラギを出せよ!今度は本気で相手してやんねえと可哀想だからな!】
ビームマシンガンで牽制射撃しながらプラズマサーベルを展開しアーロン大尉と相打つ。
『残念ながら本当だ。奴は此処には居ない』
【なら何処に逃げたんだよ!俺自ら出向いてやらあ‼︎】
『……無理だと思うわよ?』
【何?】
アーロン大尉とジャン大佐の会話を聞いていたチュリー少尉が呟く。そしてその呟きに反応するジャン。
【なら何処に居るんだよ。答えろ女】
『アッチよ』
【アッチ?……アッチて、アッチ?】
『そう。アッチよ』
チュリー少尉が指差す方向は惑星ユリシーズ。つまりそう言う事だと理解した瞬間だった。
【何で降下してんだよ】
『さあ?クリスティーナ大尉に聞いたら?』
【そのクリスなんたら大尉はどこにいんだよ】
『アッチにいるけど?』
【馬鹿な。こんな、えぇ……嘘だろ?】
この時ジャンは途轍もなく落胆していた。折角キサラギ軍曹と再びガチンコ対決が出来ると楽しみにしていたのだ。にも関わらず肝心の本人が居ないのでは話にならない。
そしてジャンの操るスパイダーが反転して戦艦ガーディに向かう。
【ジェーン、俺帰還するわ。他の連中も適当にやって退がらせろ】
【キサラギは良いの?】
【居ないんなら仕方ねえわ。俺はガーディで指揮を執る。なるべくガーディ近くで戦え】
【分かったわ。私はこのまま前線指揮を取れば良いのね】
【ああ。お前以外に頼れる奴は居ねえよ】
そしてトリガー部隊を無視してジャンは帰還する。無論追撃がない様にビットを展開しながらだ。
『あのクソガキも結構つらい人生送ってんのな』
『そうね。あんな戦闘狂に目付けられてるなんて』
『少しだけ同情……いや、クレジットを渡した方が喜ぶか?』
『彼の人生は波乱が多そうですね』
去って行くジャンを見送るトリガー隊は少しだけ彼に優しくしてやろうと考えるのだった。