リンク・ディバイス・システムの後遺症
新築で無駄にデカい家。目の前の家を一言で言い表すとこうなる。
本来なら教官の立場上、カルヴァータ防衛学校運営の寮生活になる。しかし、監視と逃走防止を含めて特別待遇になってる訳さ。
「本ッッッ当に嬉し過ぎて涙が出そうだぜ。畜生め」
態々新築を建てた辺り、クレジットには苦労して無いのが分かる。
その有り余るクレジットで、借金チャラにしてくれと思った事は一度や二度では無い。
「ただいまー」
「お帰りなさい、シュウ。ご飯もお風呂も出来てるわよ」
笑顔で出迎えてくれたのは、我等が麗しきクリスティーナ・ブラッドフィールド中佐殿。
エルフの中でも頭一つ二つ飛び抜けている美貌に、手入れの行き届いた蒼色の美しいロングヘアー。
更にスタイル抜群で性格も常識的。そして確かな血筋を持ち、神に愛され過ぎてる女エルフだ。
「そうかい。御付きのエルフさん達には感謝しないとな」
「私も料理は手伝ったんだから!すっごく感謝しなさい!」
「……お前、いつ帰宅したんだよ。マジで暇なの?」
「貴方がデルタセイバーを破壊しなかったら忙しかったわ」
GXT-001デルタセイバー。破格の性能を持ち、現行のAWを過去の物にしてしまった罪深い女さ。
デルタセイバーが与えた影響は非常に大きかった。その一つとして、巨大軍事企業は新たなAWを開発せざるを得ない状況に陥ってしまったのだ。
その中で、最初にバンタム・コーポレーションがZCM-08ウォーウルフを発表。
次世代機としての性能は確保しつつ、コストを抑える事に成功。結果として、多くの傭兵企業やフリーランスの傭兵に受け入れられた。
「そう言えば、あの時はデルタセイバー破壊して無かったよな。けど、結構なダメージは与えた筈だが」
「うーん……一応、機密扱いだから誰にも言っちゃダメよ。封印しつつ、秘密裏に修理と改修が行われてるから」
俺は自分の存在意義を懸けて、全てを費やしデルタセイバーに挑んだ。
あの時、情けも躊躇もしなければ、クリスティーナ諸共デルタセイバーを破壊する事は出来ただろう。
しかし、俺はソレをしなかった。
何故かと問われれば、俺の我儘に無理矢理付き合わせてしまった。
その我儘で死なせてしまうのは、少々忍びない。
だから、俺一人だけ死ぬつもりだった。
けど、生き残ってしまった。
89億クレジットの借金を背負う形でな!畜生め!
「まぁ、そうなるよな。エルフェンフィールド軍の切り札の一つだもんな。簡単には手放せんか」
「そうよ。それに、誰かさんがガイヤセイバーも大破させちゃったから配備が延期しちゃってるし」
「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ。俺は仕事をしたまでさ。それ以上も無ければ、以下も無いぜ」
俺の言い訳にやれやれと言った表情をするクリスティーナ。
それから先に食事を摂ることにした。
料理は赤ワイン煮込みのステーキにサラダ。そして、スープとパンがセット。
実に上品な料理にシュウちゃん感激しちゃう。
「はい、コレもね」
クリスティーナから渡されたのは透明な薬が入っている小瓶。
これこそがエルフの秘薬らしい。
エルフの愛情と愛憎マシマシで開発された秘薬。心無しか、変なオーラが見えるのは気の所為だろうか?
「……フゥ、あのさ、無味無臭何だからさ。最初から普通にバレない様に入れとけよ」
「もう入ってるわ。これは、私からの追加分よ」
「過剰摂取になるだろ。俺を殺す気か」
何やねん。私からの追加分って。
愛情でも詰まってるとでも言いたいのか?
愛情と言えば何でも許されると思うなよ!
「さて、御付きのエルフさん達に最大限の感謝を込めて。頂きます」
「そうよ!私が選りすぐりの者達を呼んだんだから!感謝しなさい!」
「お前のそのポジティブ思考にも感謝するよ」
御付きのエルフ達が良識人だから、エルフの秘薬の過剰摂取しなくて済んでる所があるからな。
「あ、そう言えば。明日、私も臨時の教官としてカルヴァータ防衛学校に行くから。宜しくね、キサラギ教官」
「そう言えば、セバスさんが言ってたな。何だ?実戦的な事でも教え様ってか?」
「そんな感じね。一応、私はエルフェンフィールド軍ではエースパイロットだから」
豊かな胸を張り、ドヤ顔になるクリスティーナ中佐殿。
しかし、現役の軍人でAWのエースパイロットを務めるクリスティーナ。
見た目良し、血筋良し、階級は中佐なので見栄えと実力も兼ね備えている女傑と言っても過言では無い。
最近では、エルフェンフィールド軍の兵員募集の広告塔にも抜擢されてる始末。
訓練生共からしたら、憧れの的になっている事は間違い無いだろう。
「そうかい。なら、そのエースパイロット様の胸でも借りようかねぇ。偶には、アイツらにも自信を付けさせてやらんとな」
「……ねぇ、それって私が負ける事前提で言ってない?」
ジト目になりながら見つめて来るクリスティーナ。
そんなに見つめられたら照れちゃうだろ?
「言ってない言ってない。ほら、明日の準備もあるだろ?早く飯食べようぜ」
「そうね。後で一度話し合いもしたいもんね」
「いや、しなくて良いです」
楽しい食事を終えて、風呂に入り、一日の疲れを癒して行く。
「フゥ、残念だけど俺の入浴シーンで我慢してくれ」
クリスティーナの入浴シーンは、お預けってやつさ。
俺は体を綺麗に洗い、シャワーを浴びる。そして、再び湯船に浸かりリラックス。
「さてと、野郎の入浴シーンなんて誰も得しないからな。そろそろ上がるぜ」
誰に対して言ってるのかって?言わせんなよ。
風呂から出ると冷たいミックス牛乳が用意されていた。
気遣いが完璧と言える御付きのエルフ達には感謝しかないね。
「あ、シュウ。そう言えば……その、記憶は大丈夫?」
「んあ?あぁ、大丈夫だよ。この前も医者に診て貰ったけど、悪化はしてないらしい」
風呂上がりのミックス牛乳を飲んでると、クリスティーナが俺の心配をしていた。
俺は一部とは言え記憶を失ってしまった。
理由は単純明快だ。禁忌とも言えるリンク・ディバイス・システムを使用した為だ。
リンク・ディバイス・システムを簡単に説明すると、脳に直接コードをブッ刺してAWを操縦するって訳だ。
そうなると、直感的にAWを動かせるから新兵でもベテラン並の操縦技能を手に入れれるって訳さ。
まぁ、代わりにデメリットが沢山ある訳だがな。
本来ならリンク・ディバイス・システムを使った時点で徐々に記憶を失って行く筈。
更に、かなりの高性能なOSだったのだろう。対デルタセイバー用のピーキーなプラズマジェネレーターの制御。
擬似ギフト的な役割をも可能となっており、特殊兵装のビットとアラクネも使用出来た。
色々と都合が良かった訳だが。それでも、かなりの負担が脳味噌に掛かる筈だった。
(でもなー、なーんでか知らんけど。使ってた時は、不快感も違和感も無かったんだよなー)
本当に不思議なOSだった。まるで、リンク・ディバイス・システムの欠点を全て無くしたかの様な。
もしくは、あの紅いOSが守ってくれてたのか。
「…………」
正直に言えば結構な記憶を失ったのは事実だ。
特に、現状俺が記憶してる限りだとデルタセイバーに挑んだ理由が弱過ぎるんだ。
(大事な記憶を失った……かもな)
昔の記憶も一部失ってるらしいからな。らしいって言ってるけど、正直にいって何を失ったのか分からないんだ。
「ねぇ、大丈夫?やっぱり、私心配だわ」
少し考え事に集中していると、クリスティーナが心配そうに俺を見つめていた。
若干潤んだ瞳で見て来るもんだから、少しだけドキッとしたのは秘密だ。
「いや、本当に大丈夫さ。確かに、過去の記憶を一部失ってしまった。だが、医者によれば今の所は悪化してる気配は無いらしいからな」
後は、最近の記憶も一部失ってるらしいがな。とは言え、辻褄自体は大体合うもんだから違和感は殆ど無い。
「あ、そうだ。一つ聞きたい事があるんだけど。良いか?」
「ん?何かしら」
相変わらず天然なのか、可愛らしい仕草をしながらクリスティーナは俺の方を見て来る。
そんなクリスティーナの目を見ながら問い掛ける。
「俺がデルタセイバーに挑んだ理由何だけどさ。宇宙一強いAWを破壊する事と記録に残す事。これ以外の理由を知ってるか?」
俺の問い掛けに、クリスティーナの表情が僅かだが強張る。
「……ごめんなさい。私には分からないわ」
「……そっか。まぁ、俺が気にし過ぎているのかもな。事実、宇宙一強いAWを倒せたし、記録もエルフェンフィールド軍が取ってるだろうから良いんだけど」
そう言ってからミックス牛乳を一気に飲む。
それから暫くクリスティーナと話をしてから自室に戻り、綺麗に敷かれているベッドの上に倒れ込む。
「…………」
何不自由しない生活。
軍に所属している状態とは言え、普通の教官より自由を与えられている。
クレジットに関してもそうだ。クリスティーナから渡されたブラックカードを、私生活になら好きに使って良いと言われている。
更に月一でリンク・ディバイス・システムの後遺症が無いか診断してくれている。
因みに、リンク・ディバイス・システムの接続部分は、しっかりと埋められている。
既に切除して取り外している。だが、完全な切除となると神経系を傷付ける可能性が非常に高かった為、一部は残して俺の細胞を培養して埋めている。
まぁ、リンク・ディバイス・システムは二度と使用は出来無くなった。代わりに首の後ろ部分から突起物が出ているくらいかな?
色々と便宜も計って貰ってる状況に文句など無い。
現状、デルタセイバーを破壊した上での状態。
普通なら軟禁されるか、強制的に片道切符の任務に使い捨てとして処理されるか。
だが、現実は違った。
一度でも何かしらの形で認めて貰えれば、慈悲と慈愛が深いエルフ。
ある意味、この性質に救われている。
しかし、しかし……だ。
この状況を受け入れ続けて良いのだろうか?
「いや、良くねーよ。全然良くねーよ。俺にも一株のプライドとかあるのよ?」
このクソったれみたいな世界に転生して来た。
非正規市民から泥水啜って正規市民に成り上がった。
エースパイロットとして戦場を駆け抜けて来た。
マザーシップ破壊にも貢献して、地球統一連邦政府より名誉市民の階級まで与えられた。
「まぁ、後半年は我慢すれば何とかなる……と思いたい」
少なくとも、今の生温い湯船に浸かってる状態を受け入れ続けるつもりは無い。
無論、それでエルフェンフィールド軍に対して不義理を働く事になるのは確実。
流石の懐深いエルフとは言え、俺がやる事は限度を超えてしまうだろう。
「大体、89億クレジットなんて返せる訳が無い。ちょっとした国家予算並じゃねーか」
数字的には◯平よりも多いんじゃ無いかな?アッチは確か……60億くらいだったかな?
「違法ギャンブルとかに興味無かったのは良かったなぁ。やっぱり、AWしか勝たんわ」
まぁ、賭けるとしても俺自身に賭けるからな!勝率が高いのは保証するぜ。
「取り敢えず、社長とオペ子に任せるしか無い……か」
俺は目を瞑り、一週間前の事を思い出した。
・ミックス牛乳
何がミックスされてるのかは不明。でも、美味いからヨシ!
ちゃんとサービスシーンも入れときました!吹雪偉い!超偉い!(自画自賛)




