没落国家
この世界には三つの巨大国家が存在している。
地球統一連邦。
ガルディア帝国。
自由惑星共和国。
圧倒的な軍事力を使い、数多くの惑星を傘下に入れ、手中に収めている。
各惑星から税を徴収するのと同時に、治安、秩序、発展を民衆達に与えている。
宙賊やOLEMと言った秩序を乱す輩には厳正な対処をする事で、民衆達からの支持を得ている。
他にも公共施設や交通機関も整備しており、三大国家の市民達には当然の権利として利用可能となっている。
しかし、世の中には例外が存在している。
その代表例として真っ先に挙げらるのが非正規市民
そして、もう一つ代表例が存在している。
没落国家。
元々は反巨大国家思想を持つ者達が三大国家から離反し、手が届かない宙域を新たなる新天地として移住した事から始まる。
厳しい道のりを乗り越え、手に入れた新天地。
しかし、その新天地は三大国家にとっては丁度良い島流し先となってしまったのは皮肉と言えよう。
結果として没落国家の組織構成は、かなり複雑な物となってしまった。
故郷が亡国となった元王族。
政争に敗北し、政界から追放された政治家。
経済戦争で敗北した軍事企業。
違法に手を染めた傭兵企業。
迫害や戦火に追われ、行き場を失った難民達。
邪教に手を出し、多くの信者を不幸と悲しみのドン底に叩き落としたカルト教団。
碌でも無い理由で追放された、由緒正しい血筋を持つ御令嬢。
戦火に身を置き過ぎてしまい、戦場から抜け出せなくなった元軍人。
ゴースト達が最後の行き場所として訪れる場所。
三大国家から爪弾きにされ、見捨てられた者達が最後に集う宙域。
しかし、その宙域に行くには非常に長く険しい道のりが立ち塞がる。
没落国家と一番近いのが自由惑星共和国なのだが、厳しい国境封鎖を実施している。
一応、ワープホール中継宇宙ステーションが両国間に存在している。だが、自由惑星共和国側は基本的に、定期便として食料援助をする時にしか稼働させない。
例外として稼働させるとしたら、大規模に粛清した後に主犯含めた実害ある関係者達を追放する時。
または、犯罪を犯した大量のゴースト達を強制的に島流しにする時に使用されるくらいだろう。
その為、没落国家に行くとしても道中の移動はワープ機能を保有する艦艇が必須。
通常航行で行くとしたらコールドスリープに入り、50年以上の年月を掛けなくてはならない。
更に立地は非常に悪く、没落国家の保有する惑星周辺には頻繁にOLEMが現れる程だ。
常に死と隣り合わせの宙域。
大量のOLEMと世界に馴染む事が出来なかった者達。
そんな宙域でも新しい命は生まれ、社会に馴染む。
三大国家とは違うベクトルで突き進んで行く没落国家。
その名の通り、没落して行く国家の成り果てなのだ。
歓声が響き渡る。
空を舞う大量の紙吹雪。
大通りには軍事パレードが行われており、多数の軍事兵器が練り歩く。
歩兵、パワードスーツ兵、装甲車、戦車、自走砲、多連装ロケット車輌、MW、AW。
戦列を組み、一糸乱れぬ歩行をする兵士達。
上空には戦闘機が華麗な飛行を魅せる。
「レオナルド様バンザアアアアアイ‼︎」
「タハール王家に栄光あれえええええ‼︎」
「打倒!三大国家!」
「我ら!貴族主義こそ宇宙統一に相応しい!」
兵士達が敬礼をしながら歩いて行く。
彼等の視線の先には軍、企業の上層部。
そして、貴族主義の象徴的存在。
レオナルド・フォン・タハール13世。
圧倒的なカリスマだけで、民衆から絶大な支持を受けている。
徐々に勢力を失い掛けていた貴族主義を再び持ち直す事に成功。更に、タイミング良くOLEMからの被害が例年より少なかった事も追い風となっていた。
「……で?いつまで軍事パレードは続くのかな?そろそろ飽きて来たんだけど」
作り笑顔を崩す事無く、隣に居る側近の者に聞く。
「後、2時間程です。その後、レオナルド様による演説があります」
側近の言葉を聞いて僅かに肩を落とすレオナルド・フォン・タハール13世。
「2時間かぁ。全く、民衆達に対するゴマ擦りも面倒だな」
「しかし、それで民衆達はレオナルド様を支持し続けます。それに、今はタイミングが良い状況ですので」
天然でありながら人類種や他種族が移住可能な惑星ヘヴン。惑星ヘヴンを中心に9個の資源惑星をテラフォーミングする事で移住スペースを大幅に確保。
更に軍拡にも力を入れており、対OLEM戦力として非常に頼もしい存在となっている。
三大国家との国交は殆ど断たれているが、一部の個人や団体だけが通信などを繋げていた。
しかし、没落国家は隔離された場所。
故に思想や主義もそれ相応の物になるのは必然だった。
「この5年、惑星ヘブンを中心とした宙域でオーレムによる襲撃が格段に減っております」
「でも、原因が不明なんでしょう?情報部や軍は何をやっているんだい?」
「無論、彼等も原因は模索し続けております。もう少し、お待ち下さい」
「狂信者共が、これもご先祖様の御加護〜何て未だ言い続けている。良い加減、妄想と現実の区別くらい付けて欲しいよ。全く」
タハール王家の歴史は長い。
亡国の王族出身でもありながら、その高いカリスマ性を持って迷える民衆達を纏め上げたエルヴィン・フォン・タハール1世。
更に、この時には食糧プラントとしてテラフォーミングしていた3つの惑星の内、2つをOLEMの襲撃により失われた時。
混乱する軍と民衆をタハール1世が纏め上げ、OLEMの撃退に成功した偉業を成し遂げたのだ。
しかし、食糧プラントとして稼働していた2つの惑星を失った事は手痛い事だった。
その結果、食料の価格が高騰。民衆達は暴動に発展仕掛けていた。
『このままでは共和国側に戻って来るのでは?』
そう考えた共和国側の諜報員は、直ぐに本国に食糧援助を要請。
共和国も事態を重く見て連邦、帝国にも食料か資金を提供する様に迫った。
結果として連邦と帝国は資金のみを定期的に援助する事になり、共和国は食糧援助に力を注ぐ形となった。
結果として、タハール1世は共和国からの食糧援助を受け入れた。
民衆の不安を取り除けるなら、自身のプライドは要らない。
正に指導者として鑑みたいな存在だった。
タハール1世が亡き後も、脈々と由緒正しい血筋が受け継がれながら民衆達を導き続けていた。
そして、長年の素晴らしい栄光と実績を言い続けた結果。腐敗と汚職の温床になってしまった。
徐々に民衆からの支持を失い続けるタハール家。
無論、腐敗や汚職を何度も摘発していたが一向に無くなる気配が無い。
民衆達は呆れ果て、惑星ヘブンから他惑星へと移住する始末。
力を失い始めていた時だった。
上っ面だけは非常に良いレオナルド・フォン・タハール13世によって、タハール家は再び息を吹き返したのだ。
血筋と七光により総統の地位に居座る存在であるが、レオナルド・フォン・タハール13世の演説は多くの民衆達を引き込んだ。
「他の惑星は、まだ僕に従うつもりは無いのかい?今、1番の軍事力を保有しているのはタハール家の筈だが」
「それは理解しております。しかし、惑星ヘヴン、アール、エール、サラーンの四つの惑星以外は別の主義を掲げておりますので」
惑星ヘヴンを中心とした、王政・貴族主義に賛同している同盟。
しかし、他の惑星では軍国主義と資本主義を中心として貴族主義に対抗。
今では貴族主義に四惑星、軍国主義に三惑星、資本主義に三惑星と分断してしまったのだ。
更に、この5年間で軍国主義側と資本主義側に大量のオーレムが襲撃。
少なく無い戦力を失った結果、貴族主義に対抗する為に同盟を結ぶ事となった。
「このままでは、内戦に発展する可能性が高い。そうなれば一番の被害者は僕自身なんだよ?全く、責任無き者達は自由に暴れる事が出来て羨ましい限りだね」
此処で一番の被害者が、自分自身だと言い張る辺り流石と言えるだろう。
内政、軍事、治安は全て部下に丸投げ。自分は演説や外交のみ行っている。
自分の役割を理解して他の事には手を出さない。
ある意味、理想の指導者なのかも知れない。
それでも、本来の指導者なら守るべき市民達の事を第一に考えるべきなのだ。
だが、ゴースト出身者が多い没落国家。そんなゴースト達によって支えられてる社会に目を向ける事は無く、寧ろ守る義理は無いと考えているのが上層部では浸透している。
「最近ではセクタル、OLEM保護団体、QA・ザハロフが入って来ましたな。特にQA・ザハロフはリンク・ディバイス・システム搭載型AWを使用しているとか」
「セクタル自体は大した戦力は無い。だが、保有していた技術自体は多少役に立つだろう」
「OLEM保護団体。全く、あんな厄介な連中などオーレムの群れに放り込めば良いのだ。面倒事だけを増やした害悪な連中め」
基本的に来る者は断らない。断れない没落国家。
しかし、没落国家はOLEMからの襲撃が非常に多い。
理由は非常に単純で戦力不足が原因なのだ。OLEMを殲滅する前に取り逃す事も多く、次に現れると更なる戦力を追加した上で現れるのだ。本来なら殲滅する事で情報を持ち返らせない様にしなくてはならない。
しかし、OLEMに対して戦力不足なのは否めず、間引きされるかの様に定期的にOLEMからの襲撃を受け続けている。
皮肉にも、OLEMのお陰で宙賊が殆ど居ないので治安自体は悪くない。
「軍による軍事統制。経済重視による発展。何方も三大国家と変わらない。やはり、貴族主義こそが僕達には相応しいでは無いか!」
周りの不甲斐無さに苛立ちが込み上げて来たレオナルド。
ワイングラスに高級ワインを注ぎ込み、味わう事無く一気に飲み干す。
OLEMの襲撃により失った2つの惑星の再利用は不可能となってしまった。何故なら、OLEMの死骸、体液は殆どの知的生命体にとって有害となっているのだ。
残っているテラフォーミングされてた惑星でも食糧問題の解決は難しい。
一度は残っている惑星一つを全て食糧プラントにする計画もあったが、既に住み着いてる民衆達からしたら堪った物では無い。
そして、慢性的な食糧不足と利権を手にしたい一部の者達によって、低階層の市民達は貧しい食生活を強いられている。
そんな不安定な情勢下でありながら、高級ワインを一気飲みする辺り、貴族主義も碌な物では無い。
苛立つタハール13世を落ち着かせる様に、側近の者が動き出す。
「良いでは無いですか。プライドが無い者達は楽な方へ逃げてるだけです。しかし、我々は違う。そうですよね?レオナルド総統閣下」
「……その通りだ。そして奴等は遅かれ早かれ気付くだろうからな。我々、タハール王家に従えば全て上手く行くと」
「では……例の計画の実行許可を。既に種は植えて、充分に育っております。また、各派閥からの協力も得ています。後は栽培するだけです」
側近の者は優越感を隠す事なく、笑みを浮かべながらレオナルド・フォン・タハール13世に意見する。
既に計画は実行可能であり、手回しも充分行なっていると。
無論、計画を立ててから実行するまでの準備期間は決して短くは無い。
「……10年か、随分と待たせたものだ。良いだろう、許可を出す。早急に実行して結果を出せ。結果を出せば軍国主義と資本主義の連中も、僕に頭を下げるだろうからな」
「畏まりました。吉報をお待ち下さい」
側近は深く頭を下げてからレオナルド・フォン・タハール13世の前から姿を消す。
一人になったのと同時に、レオナルドと愚痴に花を咲かせる馬鹿者共を見下す様な表情になる。
「頭を下げるのは貴方もですよ。レオナルド・フォン・タハール13世。ですが、安心して下さい。今度から、私が……貴方を使って上げますよ」
無駄に高いカリスマ性だけが取り柄のレオナルド・フォン・タハール13世。
だからこそ、最後の最後まで操り人形で居続けて貰わなければ困るのだ。
「新生国家樹立。その礎にして差し上げます。光栄に思いなさい」
側近はそう呟いて暗い通路に消えて行くのだった。
エルフェンフィールド軍保有訓練宙域。
肩装甲にオレンジ色の帯塗装が施されている12機のGX-806スピアセイバーが、編隊を組みながら暗礁宙域に向け高速で移動していた。
『30301より各機、周辺警戒は怠るな。教官は必ず来る』
『01、そんなに警戒しなくても大丈夫じゃない?この宙域なら奇襲は難しい筈よ』
『教官とは言え、レーダーからバレない様に接近する事は不可能。幸い、多目的レーダー装備を2機配置している』
近〜中距離では圧倒的な強さを誇る教官。
訓練生達が搭乗しているGX-806スピアセイバーの方が性能では勝っている。
しかし、実戦経験から来る手慣れた機動戦、射撃戦、近接戦は目を見張る強さ。
口は悪いし、態度も悪いが確かな腕前。更に生き残る為の術を心身共に叩き込んで来る。
訓練生達も、自分達の実力が飛躍的に向上している事を実感している。
まだ半年しか経っていないが、教官の実力を認めており、誰一人として異議を唱える者は居なくなっていた。
『分かっている。だが、それでも僕達は敗北し続けている。他の中隊も、未だ教官には勝ててない』
『伊達に元エースパイロットって訳じゃ無いわよねー。年齢も私達より、かなり年下なのに』
『教官は短命種だからな。それでも、20歳であの技量。才能やギフトだけじゃ無いよ』
エルフェンフィールド軍は50歳以上から軍事学園への入学を募集している。
そして、今期の303訓練中隊のメンバー達の殆どの訓練生達が50歳以上で軍事学園に入学している。
そんな中、短命種でありながら20歳と言う若さで教鞭を振るう教官。
最初は年下と言う事もあり、多少見下した所もあった。
そして見下した分だけ、沢山の肉体的訓練が追加された。
今では訓練生達にとって、人生教訓の素晴らしい思い出の一つとなっている。
「無駄口が多いのは減点だな。それに、警戒が散漫になっている」
エルフェンフィールド軍、グレー塗装の教官機仕様ZC-04サラガン。更に頭部は狙撃仕様になっており、精密カメラと高精度スコープが搭載。
その為、通常のサラガンとは違いメインカメラは大型になっている。
コクピットの中から303訓練中隊の通信を傍受していたのだが。少しばかり警戒心が緩くなり始めていると感じていた。
「大方、俺が暗礁宙域の中から出ないと考えているんだろう。全く、戦いは射撃戦だけじゃ無いぜ?ヒヨッコ共」
デブリに紛れている状態で、75ミリスナイパーライフルを構えているサラガン。
銃口の先には12機のスピアセイバー。
「残念だったな。俺は……武器を選ばなくても強いんだよ」
狙いを多目的レーダー装備のスピアセイバーに絞る。
75ミリスナイパーライフルの狙撃スコープとサラガンの頭部を連動させ、サラガンのCPUが動きを予想。
そして、俺のギフトを使用して3秒先読みして行く。
「エースパイロット様だからなぁ……後、元じゃねえよ」
若干の私怨を込めながらトリガーを引く。
75ミリの弾頭は吸い寄せられる様に後方で警戒しているスピアセイバーに直撃。
『うわッ!しま』
『30309、コクピット直撃。大破』
『狙撃だ!狙撃は何処からだ!逆算して』
『30311、コクピット直撃。大破』
『2時方向!正面に発光を確認!』
『前方にスモーク散布!その後、シールドを構えて突撃!数が有利な内に仕留める!』
隊長機の指示に従い前方にスモークを展開。お陰でヒヨッコ共が見えなくなってしまったが。
「……やっぱり、狙撃はなぁ。つまらんよなぁ」
ギフトを使えば3秒先読みが出来る。それは煙幕から出て来る場所が予め分かると言う事。
今回の訓練の目的。
それは、俺の指導と訓練に慣れて来て、気が抜け始めてる訓練生達を引き締め直す為に行う物だ。
近接戦、射撃戦、機動戦と近〜中距離戦闘は常に行って来た。
だが、狙撃による一方的にやられる恐怖心をまだ味わわせていない。
慣れ始め、調子に乗りつつある鼻っ柱を再び叩き折るのには丁度良いだろう。
「……視えた。悪いなヒヨッコ共」
連続でトリガーを引く。
煙幕から一気に飛び出す10機のスピアセイバー。だが、飛び出た瞬間に3機が落とされる。
『嘘でしょう⁉︎あの人、狙撃も出来るの⁉︎』
『ランダム回避!接近を続けろ!』
『畜生!当たれ!当たれグワッ⁉︎』
『30312、コクピット直撃。大破』
瞬く間に6機のスピアセイバーが墜とされる。
それでも、ビームキャノン装備のスピアセイバーは狙撃地点に向けて反撃を開始。
ビームによる弾幕が教官機に向けて展開される。しかし、お返しと言わんばかりに2機が狙撃され大破判定を受ける。
だが、距離は充分縮める事が出来た。
『01より各機、このまま一気に叩く!反撃させる隙を与えるな!』
『やってやるわよ!今日こそ教官を倒すんだから!』
『もう好きにはやらせねぇぞ!機体の性能差で押し潰す!』
4機のスピアセイバーはビームライフル、45ミリアサルト、45ミリヘビーマシンガンを撃ちまくる。
「流石に移動するか」
肩と肩側面に追加ブースターを装備しているサラガン。
その機動力は直線での速度なら、スピアセイバーより速い。
しかし、本来ならデブリ帯では、その機動力を生かす事は難しい。
「ほらほら、このままだと逃げられるぞ?」
『二手に分かれるぞ。02は僕に付いて来い』
『了解!絶対に逃さないんだから!』
2機のスピアセイバーはそのまま追跡を続行。
しかし、徐々に距離が離れて行く。
『ッ……速い。いや、上手いんだ。流石は教官だ』
『だが、まだ射程範囲内だ。このまま追撃をッ』
『30307、頭部に直撃』
『07!まだ動けるか!回避してッ⁉︎』
『30305、コクピット直撃。大破』
被弾した07の方を見てしまった05のスピアセイバーのコクピットに、容赦無く75ミリが突き刺さる。
「誰もが抱く事だ。被弾した味方を庇いたくなる気持ちは……な。ん?上か」
75ミリスナイパーライフルを上に向けて構える。
すると、デブリの陰から1機のスピアセイバーが現れる。
『教官!今日こそ勝たせて頂きます!』
「フン、テメェらみたいな実戦のジも知らないヒヨッコに負けるか」
2挺の60ミリアサルトショットガンを乱射しながら迫るスピアセイバー。
(これ以上、距離を詰められるのは厄介だな)
俺は手持ちのグレネードを2つ放りなげて後退する。
グレネードは60ミリの散弾に当たり爆発。そのまま煙幕代わりにする。
しかし、それでも爆煙の中から飛び出して来る1機のスピアセイバー。
「馬鹿が。煙幕から出たら殺される。散々目の前で見て来ただろうが!」
容赦無く75ミリスナイパーライフルの銃口から火が噴き出し、弾頭がスピアセイバーに向かって行く。
『01!後は任せたわッ』
『30302、コクピット直撃。大破』
大破判定を受けたスピアセイバー。
だが、その背後から更に1機のスピアセイバーが現れる。
「ッ⁉︎デコイだったか!」
『この間合いなら!』
近接用ランスを構えながら一気に間合いを詰めるスピアセイバー。
75ミリスナイパーライフルを再び構える。しかし、横からビームが何発か飛んで来る。
『やってくれ!01!お前なら、教官を倒せッ⁉︎』
『30307、コクピット直撃。大破』
仲間の死を犠牲にしながら迫る隊長機。
俺は冷静に左手に45ミリサブマシンガンを装備する。
照準内に隊長機のスピアセイバーを捕捉。そのままトリガーを引き弾幕を展開させる。
しかし、多目的シールドを構えながら臆する事無く突っ込んで来る。
『目を逸らすな!最後まで足掻け!思考を止めるな!』
俺が散々訓練生達に言い聞かせている言葉。その言葉を口に出しながら、近接用ランスを突き出して来る。
咄嗟に回避して至近距離で75ミリスナイパーライフルで撃破を試みる。だが、銃口を向けようとした瞬間に近接用ランスに弾き飛ばされる。
『今日こそ勝たせて頂きます!キサラギ教官!』
近接用ランスを振り被るスピアセイバー。
45ミリサブマシンガンを撃つが、多目的シールドに全て防がれる。
俺は無意識に近接用サーベルを取り出し、近接用ランスを受け止める。
「……まさかな。俺にサーベル抜かせるとは」
『接近戦は僕の得意分野ですよ!キサラギ教官!』
本当なら近接用サーベルを使うつもりは無かった。
全て射撃武器だけで終わらせるつもりだった。狙撃による一方的に殺される恐怖と対処を教え込ませる筈だった。
だが、303中隊の訓練生達は俺に近接用サーベルを使わせた。
使わないと決めていたにも関わらずだ。
「褒めてやるよ。お前達は……強くなったな」
『ッ⁉︎それは!本当に!光栄です!』
更に近接用ランスで攻め立てるスピアセイバー。
流石は近接戦が303中隊の中で一番強いだけの腕前。徐々に押し込まれて行く。
だから、ほんの僅かだけ隙を見せる動きをした。
もしかしたら、今日こそ教官に勝てるかも。
初めて自分達の強さを認められた。
高揚する気持ちは簡単には抑えられない。
『今だッ‼︎貰ったあああああああ‼︎』
スピアセイバーが近接用ランスを突き出す。
サラガンが持つ近接用サーベルが弾き飛ばされる。
同時に距離が更に縮まる。
「悪いなヒヨッコ。まだ、やられんよ」
AWには最後の自衛武装が標準搭載されている。
近接用コンバットナイフ。
腕部の袖下部分から近接用コンバットナイフを展開。
そのまま右手に掴み取りながら、スピアセイバーのコクピットに向けて突き刺した。
『30301、コクピット直撃。大破。訓練プログラム終了します。各機は帰還して下さい』




