決着
その人は誰よりも私達を気に掛けてくれていた。
ゴーストとして生まれた以上、這い上がるしか無い。
でも、這い上がる事が出来るのは一部の者達だけ。
他は這い上がる事が出来ずに終わるか、更に落ちて行く。
生まれが全てを決める世界。
諦めと妥協で成り立つ世界。
だけど、あの人は違った。
最後まで諦めずに足掻き続けている。
今もそうだ。
真っ向勝負。接近しては交差して相手を傷付けて行く。
既に目の前は真っ赤に染まり、口からは鉄の味しかしない。
呼吸が苦しい。今直ぐ楽になりたい。
だけど、デルタセイバーを倒さなくてはならない。
俺が生かされた事に価値があるんだって。
戦友達、親友、恋人、子供達。
皆の死が、無駄なんかじゃない事を証明しなくては駄目なんだ。
もう、モニターに映るデルタセイバーしか見えてない。
警告も何も聞こえない。
唯、倒すべき存在を見続けるしか出来ない。
(届かない。ギフトを使っても……レイナの力を借りても……)
それでも、後少しが……届かない。
世界から愛されてる存在に正面から立ち向かっている。
私達を背負いながら。
語り掛けても振り向いてくれない。
手を挙げても反応は無い。
私達はもう死んだ存在だから。
クリスティーナは既に俺の動きに的確に対処している。
出力が落ちているとは言えビームサーベルは展開出来ている。
射撃武器があれば少しは変わっただろうがな。
「ゲボッ、ガハッ……ハァ、ハァ、遠いなぁ」
遂にバランスを崩して在らぬ方向へ飛んで行くルグレ。
手に力が入らない。操縦レバーを握る力がなくなって行く。
そして、追撃をする事無く見守るデルタセイバー。
(やっぱり……無理だったんだ。あんなデタラメみたいな存在に勝とうだなんて)
諦めが俺の中で広がる。
だから、俺は口に出して言ったんだ。
「……ハッ、笑わせんな」
誰の記憶にも覚えられる事無く消えて行く存在だった。
なのに、まだ……あの人は覚え続けている。
でも、あの人は死に掛けている。
最後まで側に居続けたい。
見守りたい。
死なせたく無い。
操縦レバーを再度握り締め、足に力を入れる。
メインカメラが強く光り、再びルグレは動き出す。
「レイナ、タケル……!これが、これが本当の最後の一撃だ。これで……全てを終わらせる‼︎」
更にデルタセイバーから距離を取る。
そして反転してデルタセイバーに向けて一直線に突っ込んで行く。
【もう止めなさい!キサラギ少尉!それ以上戦ったら本当に、本当に死んじゃうわ!】
デルタセイバーも再びビームサーベルを展開して待ち構える。
唯、真っ直ぐにデルタセイバーに向かって突っ込んで行く。
モニターにデルタセイバーを捕捉し続ける。
だから、守るんだ。
私達が……
俺達が……
僕達が……
貴方を守る。
今度こそ……。
「俺は、無力でひ弱な存在さ。だがな……そんな、ひ弱な存在に希望を抱いた馬鹿共が居たんだ」
警告音が鳴り響き、赤い警告灯がコクピットを照らす。
だけど、妙に静かな気がした。
「だから決めた。今だけ、今だけは……馬鹿共の希望になるって。道化じゃない……本物の、希望になるんだって‼︎」
その時だった。
身体中の痛みが和らいだんだ。
まるで、何かに包まれるかの様な。
暖かく、とても懐かしい感覚。
既に身体と内臓は高負荷なGによりズタズタになってる。
限界が来たのだと思った。
もう、戦えないんだと。
だけど、僅かだけど力が戻って来る。
そして、懐かしい匂いがコクピット内に広がる。
(感じる……今、俺の側に居る。見えないけど確かに居るんだ。レイナ、タケル、皆。やっと……やっと…………)
涙が溢れる。
もう、何も怖く無い。
見て貰える。
お前達の希望がちゃんと記録に残せる瞬間を。
ギフトを使い3秒先を視る。
デルタセイバーもビームサーベルを構えて接近して来る。
相対的に距離が縮まって行く。
そしてデルタセイバーのコクピットにビームサーベルが届く瞬間を……。
「……視えた」
あぁ、そうだよな。これ以上……犠牲は要らないよな。
お前達の希望が、無用な犠牲を出す瞬間を見せる訳には行かない。
だから、俺は……
トリガーから人差し指を離した。
だって……俺は、本物の希望に成れたんだから。
これ以上の犠牲は必要無いんだ。
俺に命を繋いだ意味は証明されたんだ。
デルタセイバーに勝てた未来は……確かに、見えたんだから。
デルタセイバーのビームサーベルがルグレの腹部に刺さりプラズマジェネレーターを貫く。
ルグレの持つビームサーベルはデルタセイバーのコクピットハッチを融解する。
抱き合う様にその場に止まるルグレとデルタセイバー。
ルグレの内部で爆発が起こり始める。
コクピットの中にも火花が散り始め、コンソールが破損して行く。
それでも、俺は満足していた。
モニターを見ればクリスティーナが脱出しろと声を張り上げて言ってくる。
「レイナ……タケル…………皆、俺は」
ルグレから連続した爆発が起きる。
操縦レバーを操作してデルタセイバーを押し出す。
俺達は…………
離れて行くデルタセイバー。
クリスティーナが悲鳴を上げる。
_____________勝ったぞ。
プラズマジェネレーターに限界が訪れる。
コクピットの中にも爆発の炎が広がる。
だが、恐怖は無い。
だって、そうだろ?
皆が……側に居るんだからさ。
そして……宇宙に一つの光が瞬いた。
このまま終わっても違和感が仕事しない()




