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デルタセイバーVSルグレ3

 エルフェンフィールド艦隊は態勢を整えながらデルタセイバーの捜索を行なっていた。


「ジャミングが酷いな。このままではデルタセイバーの捜索に手間取る」

「はい。しかし、敵が撤退した以上ジャミングも無くなると思っていましたが」

「再編してる可能性は高い。だからこそ、今が移動するチャンスなのだが」


 セシリア准将は今も黒煙を上げ小規模な爆発が起こっている超級戦艦サザンクロスを見ながら溜息を吐く。

 超級戦艦サザンクロスに敵の攻撃が集中したお陰で、戦艦アルビレオに被害は殆ど出ていない。


 代わりに超級戦艦サザンクロスの被害は甚大だ。


 第一メインスラスターと機関室は損失。残りのメインスラスターも損傷。

 左舷側は武装を幾つか失ったくらいで軽微なものだが、右舷側の被害は多い。

 右舷第二格納庫は今も火災が続いており、誘爆の危険が高い。

 更に他の区画にも近距離からの収縮砲と大型ミサイルの直撃を受けている。

 他にも多数の被害を受けているのだが、流石は超級戦艦と言える堅牢性を発揮。

 驚くべきことに、今なお艦隊指揮が可能な状態を維持していた。


「兎に角、デルタセイバーの捜索を最優先だ。それから……奴の居場所も探しておけ」

「キサラギ少尉でしたな。彼は本当にデルタセイバーを破壊できるのでしょうか?」

「無理だろうな。あのASではデルタセイバーは破壊出来ん」


 セシリア准将は断言して副官の言葉を否定する。

 そもそもデルタセイバーは規格外過ぎるAWなのだ。

 偶然の産物で完成されたデルタセイバー。だから量産する事はほぼ不可能になっている。

 しかし、その性能の高さと戦闘データがGXF-900ガイヤセイバーの開発に大きく貢献したのは言うまでも無いだろう。


「でしたら尚更分かりませんね。デルタセイバーの強さはキサラギ少尉も理解してる筈ですが」

「…………」


 そう、副官の言う通りなのだ。

 デルタセイバーと共闘、敵対した事のある数少ない人物。


 だからこそデルタセイバーの脅威は誰よりも理解している筈。


 戦略級AWウシュムガルすら使用して敗北したのだ。


 普通なら敵対する事は選ばない筈。


「……戦う理由は人それぞれだ。もしかしたら、キサラギ少尉は魅入られたのかも知れんな」

「魅入られた、ですか?」


 今もデルタセイバーの捜索を続ける味方部隊に視線を向けながら、セシリア准将は口を開く。


「あぁ、デルタセイバーの」

「准将!11方向に高エネルギー反応を検知!」

「何だと?デルタセイバーが出した最大エネルギーデータと照合しろ」

「データ照合中……ッ、デルタセイバーに近い反応ですが、今まで以上の高エネルギー反応です」


 セシリア准将は目を細めながら溜息を吐く。


「あの男、やはりデルタセイバーに挑んだのでしょう」

「……愚かな。誰よりも理解している筈なのに。艦隊を向かわせろ。最大船速!急げ!」


 エルフェンフィールド艦隊がデルタセイバー回収の為に動き出す。




 しかし、彼等の戦いはまだ終わりを見せない。




 ビームサーベルを振るいながら激しく交差し続ける2機のAW。


 GXT-001デルタセイバー


 ZQA-N017 ルグレ


 デルタセイバーは左肩から先を失い、装甲も傷だらけになっている。

 しかし、分厚いエネルギーシールドは健在で致命的なダメージは受けていない。


 まだまだ余裕があると言える状態。


 対してルグレはどうだろうか?

 こちらも左肩から先を失っている。更に無理矢理ニコイチした結果、幾つかの不具合も発生。一部のスラスターは機能を停止。

 装甲もデルタセイバー以上にボロボロになっている。


「ハァ、ハァ、ハァ……ゲホッ」


 更にパイロットにもダメージが蓄積され始めており、優劣は明らかだった。


「…………後、少しだ。行くぞ、レイナ」


 再び加速してデルタセイバーに立ち向かうルグレ。

 そして正面から対応するデルタセイバー。


【もう貴方に勝ち目は無いわ!諦めなさい!】

「へっ!その余裕が何処まで持つかな?」

【何を?デルタセイバーはまだまだ戦える!でも、貴方は機体も身体もボロボロじゃない!】


 ビームサーベルで激しく鍔迫り合いをしながら至近距離で睨み合いをする。


「今まで、その馬鹿みたいなエネルギーを出した事はあるか?あるなら、その代償を知らない訳じゃねえだろ」

【代償?そんなモノ……ッ!まさか、貴方】


 クリスティーナ中佐はモニターを確認する。

 そしてデルタセイバーからのメッセージに目を向ける。


「超級戦艦を破壊した時、お前は気を失ったよなぁ。じゃあ、気を失わなかったらどうなるかな?」


 徐々にデルタセイバーの出力が下がり始め、エネルギーシールドが維持出来なくなる。


「お前は、戦場のど真ん中でも運良くジェネレーターを休ませる事が出来てただけ。そんな馬鹿みたいなエネルギーを発生させ続ければ色んな箇所からエラーが出るよなぁ‼︎」

【クッ⁉︎不味い!】


 そして完全にエネルギーシールドが喪失。

 更に急速にエネルギーを失ったデルタセイバーは光を失い始める。


「ハッ!お前を守ってくれるエネルギーシールドが消えたな!なら、後はテメェの腕で何とかするんだなぁ!」


 そしてデルタセイバーにビームサーベルを振り上げる。

 何度も受け止めるデルタセイバー。


 しかし、遂にその時が来た。


「貰ったぁ‼︎」

【ッ⁉︎駄目ッ!デルタセイバー!】


 クリスティーナ中佐が防御する為にビームサーベルを傾ける。

 しかし、その防御を避けながらビームサーベルを振り下ろす。


 そしてデルタセイバーの左胴体がビームサーベルによって斬り裂かれる。


「ヘッ……耐え続けた甲斐があったぜ。レイナ!後少しだ!今度こそデルタセイバーを仕留める!」

「了解しました」


 しかし、ルグレも限界に近い。


 いや、既に限界は超えている。


 それでも動き続けている。


【よくも、私の大切なデルタセイバーを!】

「ハッ!テメェのミスを他人に押し付けんな!全部テメェが招いた結果だよぉ‼︎」


 エネルギーシールドが喪失しているとは言え、火力と機動力は落ちてる気配が無い。

 ビームサーベルからビームライフルに切り替えるデルタセイバー。

 乱射に近い射撃だが、当たれば一発でルグレは破壊される威力。


 だが、そんな射撃に当たる訳が無い。


「何だよ、チキってんのか?大切なモノをこれ以上傷付けられたく無いってか?」


 そして射撃の合間を縫う様にデルタセイバーに一気に接近して行く。

 流石にビームライフルでの対応が不可能と判断したのだろう。迎え打つ為に再びビームサーベルを構える。


 右肩の多目的シールドを前面に押し出す形にしながら。


 俺は笑みを浮かべた。


(勝てる。このまま行けば、俺は……俺達は)


 一気に距離が縮まりビームサーベルをデルタセイバーに向けて横薙ぎに振るう。

 デルタセイバーは多目的シールドを使い防ぎながら、横合いからビームサーベルで反撃。

 反撃のビームサーベルを紙一重で回避しながら一度距離を取る。


「レイナ、次で仕掛ける。行くぞ」

「……了解です」


 勝利がチラつき始めた。


 宇宙最強のAWを破壊。


 誰も成し遂げる事なんて出来ないし、やろうともしない。


 だが、俺達が成し遂げる。


 そして反転して再びデルタセイバーに向けて突っ込む。

 デルタセイバーもビームサーベルに持ち替えて後退しながら迎撃する。


「ガハッ!ハハ!アハハハハハ!無駄にエネルギーを消耗して大丈夫かねぇ?えぇ‼︎デルタセイバー‼︎」


 俺の想いに応える様にルグレは更に加速して行く。

 突然加速した事でビームサーベルに持ち替える時間が無くなったデルタセイバー。


 多目的シールドを構えながら耐える事を選択。


「無様だなぁ‼︎情け無い相棒を腹ん中に入れてると、素人みたいな動きしか出来なくなるもんなぁ‼︎」

【ッ⁉︎舐めないで‼︎】


 俺の挑発に乗ってしまったクリスティーナ中佐。

 多目的シールドを構えながら体当たりする事を選ぶ。


 だが、俺はルグレを勢い良く回転させながらビームサーベルを縦に振り下ろす。


 同時に()()()()()()()()()を切り離す。




 一瞬の交差。そして一撃離脱でデルタセイバーから離れて行くルグレ。




 多目的シールドを縦から半分に斬り裂かれたのを間近で見てしまうクリスティーナ中佐。


 そして目の前に現れる燃料切れに見える追加ブースター。


 クリスティーナ中佐は一度冷静になる様に努めてから、ビームライフルの銃口を離れて行くルグレに向ける。


 しかし、ルグレは突然反転して再び接近して来る。


 そして照準にルグレを捉えながらトリガーを引こうとした瞬間だった。



 先程、放棄された追加ブースターが突然動き出す。



「行けぇ‼︎ビットォ‼︎」



 デルタセイバーの後方からブースター型ビットが突っ込んで来る。


【そんな!キサラギ少尉は空間認識も使えたの⁉︎】


 想定外のギフト能力を使い続けるキサラギ少尉に驚きを隠せないクリスティーナ中佐。

 本来、ギフトは希少な代物。ギフト保有者でも一つ。多くて二つくらいしか持つ事が出来ない。

 仮に三つ、四つ持てば脳の処理能力を超える事になり、最悪死に繋がってしまう。


 しかし、キサラギ少尉はビットを操っている。


【クッ⁉︎こんな事!】


 ビームライフルでブースター型ビットを迎撃する。

 しかし、ビームライフルの攻撃を避けながらデルタセイバーに近付いて来る。


「ビットだけに集中して良いのかよぉ‼︎」


 咄嗟の判断だった。


 撃つ瞬間にルグレに向けてビームライフルを放り投げる。


 ビームライフルを斬り裂くルグレ。


 しかし、堪まっていたエネルギーが爆発してルグレは軌道がズレてしまう。


「まだだ!喰らいやがれ!」


 血反吐を吐きながらブースター型ビットをデルタセイバーに突っ込ませる。

 デルタセイバーはビームサーベルを抜き放ちながら、振り向き様に上段から振り下ろす。


 頭部に目掛けて突っ込んでいたブースター型ビットを斬り裂く。


 しかし、後一つのビットが見当たらない。


「ッ⁉︎下からアグッ⁉︎」


 デルタセイバーの背中にブースター型ビットが突っ込み爆発。

 体勢を崩されるデルタセイバーに向けて直上からルグレが一気に突っ込む。


「ウアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

【やらせない!デルタセイバーは!絶対に!】


 互いにビームサーベルを突き出しながら交差。


 ルグレの胸部装甲と胸部対人用20ミリマシンガンが破壊される。


 対してデルタセイバーはどうなったか?




「良い顔だったぜ……。デルタセイバー」




 デルタセイバーの頭部が宇宙空間へと舞い散るのだった。




 しかし、ルグレも限界に近い。


 いや、既に限界は超えている。


 それでも、まだ動き続けている。


 まるで……希望の先を見守るかの様に。









 出力が低下してもデルタセイバーは健在だった。

 それでも、今まで受けた事の無いダメージを受け続けていた。

 デルタセイバーの左胴体は斬り裂かれ、頭部も喪失。更に左肩から先を失い、メインブースターを損傷していた。


 ルグレも同様に左肩から先を失い、胸部装甲は無くなりコクピットブロックが剥き出し状態。


 だが、それ以上にパイロットへの負荷がデカ過ぎた。


 リンク・ディバイス・システムとOSX-017を使用しても高負荷なGと多数のギフトを同時運用。余裕の無い戦闘はパイロットを想定以上に疲弊させた。


 それでも、デルタセイバーに挑み続けた。


「ゲホ、理屈じゃあ……無いんだよ」


 俺は静かに語る様に言葉を口にする。


「奪われ、踏み躙られるのが日常だった。だから……だから、せめて、俺だけでも手を差し伸べてやりたかった」


 絶望にばかり目を向けるのでは無く、希望を持たせてやりたかった。


 生きる価値を見出して欲しかったんだ。


 それが偽善だとしても。


「だが、いつの間にか立場が逆転していた。生身の体一つでAWに立ち向かうアイツらを。俺は……唯、黙って見てる事しか出来なかった」


 モニター越しから見える光景。次々と仲間達が死んで行く姿。


 外人偵察部隊605機動小隊。


 満足な戦闘装備なんて無ければ、MWも戦車も無い脆弱な部隊。


「お前に出来るか?そんな事。俺には出来ない。それでも、アイツらに要ら無い希望を抱かせてしまった。アイツらを……殺したのは」


 他でも無い俺自身なんだ。


 無闇に希望を持たせてしまった結果。アイツらを見殺しにしてしまった。


【キサラギ少尉……】

「レイナも、タケルも……ゴホッ、怖かっただろうに。辛かっただろうに。自己が、徐々に消えて行く恐怖。目の前で守るべき存在が苦しんでるのに救えない無力感」


 希望なんて抱かせなければ、もっと早く楽になった筈だ。


 AWのOSになる必要も無かった。


 大切な人の代わり扱いをする事も無かった。


「俺と関わったばっかりに、負の感情を沢山味わう事になっちまった。地獄みたいな場所に向かわせてしまったんだ。本当は……もっと、世界には沢山の希望があるって教えてやりたかったんだがな」


 美味い食べ物。綺麗な景色。小綺麗で清潔感ある生活。


 前世の様な恵まれた生活を送ってほしかった。


 けど、それは傲慢だった。


「何も……残してやれなかった。結局、ゴーストに生まれた時点で絶望しか無かった。希望を教えなければ……レイナも、タケルも、長く苦しむ事は無かったんだ」


 最後の最後まで希望を抱いていた。


 紛れもなく俺の人生最大の大罪だ。


「俺が殺したんだ。レイナも、タケルも……この手で」


 だから自分の手で終わらせた。


 俺の大罪は誰にも渡さん。


 この先苦しみ続けるのは俺だけで良い。


「滑稽だろ?挙句の果てには勝てる確率がクソみたいに低い戦いに挑む馬鹿な奴なんだ」

【貴方は……仲間の為に戦ってるの?】

「贖罪も合わせてだけどな」


 守れると信じていた。自分が特別な存在だと思っていた。何かを成し遂げる事が出来るって……根拠も無く、信じていた。


 なのに、俺は何も出来なかった。


 誰一人……守る事すら出来なかった。


 誰一人……救えなかった。


 子供達も……お世話になった姉さんも。


 戦友、親友……愛する人すら。誰も守れなかった。


 だから、これだけは譲らない。譲って堪まるかよ。


 俺が……俺達がこの宇宙で一番だって事を。


 例え、報われない事だとしても。意味なんて無い事だとしても。


「墓碑の前で、成仏するなって言ったんだ。けど、俺は一度も戦友達に会えた事は無い。夢の中ですら出て来た事も無い。きっと、俺みたいな奴に愛想尽かしたんだろうがな」

【そんな事無いわ。誰よりも、キサラギ少尉は死んだ人達に寄り添ってる】

「寄り添った所で、アイツらは生き返ったりしないさ」


 俺はビームサーベルを展開する。


 恐らく、これが最後のチャンス。


 もう、機体も俺自身も保たない。


 デルタセイバーも俺に応える様にビームサーベルを展開。


【……………………】

「……………………」


 もう、これ以上の言葉は要らない。


 レーダーに映るのはエルフェンフィールド艦隊が此方に向かって接近して来る事くらい。


 そして同時に接近。ビームサーベルを構えながら突っ込んで行く。


 互いの全てを使って相手を殺す為にビームサーベルを振るう。


 デルタセイバーのコクピットハッチがビームサーベルに斬り裂かれる。


 ルグレの左脚部がビームサーベルに貫かれる。


 デルタセイバーの腹に膝蹴りを喰らわせる。



 まだだ……。



 俺はまだ……。



 アイツらの分まで……。



「何も、報いてやれていないんだああああアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、素晴らしい、、、素晴らし過ぎる! [一言] コミカライズしたなら アニメ化もお願いします(笑)
[良い点] ロボットの戦いで壊れていく美。 良きかな!
[一言] 第三者視点から見たら、デルタセイバーのとばっちり感がすごい。 現実で言うなら、乗り納めに高性能のスポーツカーに乗ってたら、改造マシマシの一般車に煽り運転される感じ。
感想一覧
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