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苦手な大尉

SF(宇宙)での四期半ランキング一位になりました。

沢山の方達に読んで貰いありがとうございます(^^)

  俺は改修されたマドックに乗り込み出撃に備えていた。モニターにタッチしながら機体のコンディションと外の状況を調べる。現在味方艦隊とダムラカ艦隊が正面から撃ち合ってる所だ。しかし早くも何隻かの宙賊の船が爆散していく。

  因みにモニターにタッチするのは正にSF世界の鉄板だと思う。勿論アナログなキーボードみたいなのを押すのも全然有りだがな。


「久々のマドックだからな。ちょっと嬉しいかも」

「マドックだと嬉しいのですか?」


  ネロが俺の独り言を拾い聞いてくる。そんなネロを撫でながら答える。


「サラガンよりマドックの方が実質ワンランク上の機体だからな。サラガンとマドックどっちを選ぶと聞かれたらマドックの方を選ぶよ」

「しかしマスターはサラガンの使用率が高い様ですが?」

「そりゃ安いからな。壊しても安いから懐も大して痛まない。それに今の社長でも大破させても大概許してくれるし。MW乗ってた時もジャンにサラガン勧められたし」


  昔の事を少しだけ思い出す。五年前となると十四の頃だったか。当時はMWに乗って防衛任務に就いて、ようやくある程度のクレジットが貯まった時だった。

  その時の防衛任務でジャンと出会い共闘した訳だが。所詮MWに出来るのは時間稼ぎくらいが関の山だった。僚機や周辺に居た戦車はいつの間にか撃破されていた。

  それでもほぼ単機で、然もMWで防衛エリアを維持し続けた事でジャンに目を付けられたのを思い出す。

  勧誘されたが断ったのに意味は無かった。特別群れるつもりも無かったし傭兵団にも興味は無かった。唯AWに乗りたい。その一点で此処まで来たのだ。

  そんな話をしたらジャンは大爆笑しながら安価なサラガンの事を教えて貰った訳だ。


「お前ならサラガンでも充分だろう。もし生きて再び出会ったら俺の傭兵団に入れてやる」

「いや結構です」

「遠慮すんなよ。じゃあな」


  そう言い残し去って行くジャンを見送った訳だ。だが今なら分かる。ジャンがサラガン勧めたのはぶっちゃけ俺を試したかっただけだ。それ以外に理由は無い。

  そして前回サラガンに乗って会敵して引き分け……とは言えないが安価なサラガンでジャンのスパイダーに食い付いた。

  五年振りの再会も相まってかテンションが天元突破したのだろう。


「暫くはジャンと会いたくねえんだよな。寧ろ口調が地味に重なってしまうから色々面倒くせんだよ」

「サラガンがお嫌いなのですか?」

「いや。寧ろ使えば使うだけ良い機体だと理解してるよ。多少無茶しても耐えれるし。ギフトあるからサラガンでも全然問題無かったし 」


  ギフトがあるからMWでも耐えれた。なら安価と言えAWのサラガンに乗ればどうなるか。答えは簡単だ。


「でも今回の作戦は出たくねえな。武装は最高なんだけどな」

「35ミリガトリングガン及び予備弾倉用意完了してます。左腕に多目的シールドを装着済み。予備のビームガンと近接用アックスも懸架済みです」


  久々に撃てるのだ。あの圧倒的弾幕を。寧ろ施設内部や通路だと中々楽しい展開になりそうだ。


「トリガーハッピー冥利に尽きるな」


  色々考えてると通信が入ってくる。通信を開くとトリガー隊のメンバーが揃っていた。


『トリガー5聞こえるか?泣きそうな面は……してねえみたいだな』

「当たり前だ。この程度で泣き言なんて言ってられっかよ」

『度胸は一丁前なのよね。後は性格がもう少し墜ち着くと私好みになるんだけどなぁ』

「今日から俺紳士になります。皆さん宜しくお願いします」

『相変わらずの態度で逆に不安になる』

『その辺りも彼らしいので好感が持てますよ』

「何言ってんだよ。お前達だって平気そうじゃん」


  流石は皆少尉以上のベテラン勢だ。誰も慌てる事なく墜ち着いた様子でいた。


『それにしてもお前さんはお嬢さんに何したんだ?普通こんな編成はされねえぞ?』

「知ってるよ。やっぱりクリスティーナ大尉のやつだけデザート全部食べちゃったのがダメだったかな?」

『えー!全部デザート食べちゃったの?確かブルーベリーチーズケーキとかイチゴムースタルトとか出てたわよね』

『後は林檎パイも出ていましたね。それ全部取ったのかい?』

「おう。目の前で食ってやったぜ」


  あの時のクリスティーナ大尉の涙目で睨んで来たのは最高だったね。新しい扉が開きそうだったけど。


『やはり此奴は血も涙もない外道なる者か』

「権利ってのは使える時に使わないと意味は無いぜ」

『にしても結局ママには会えなかったな』

『仕方ないわ。あの後直ぐに出撃になっちゃったし』

「また今度行けば良いんじゃん。暫くはベルモットに居るだろうし」

『是非一度会ってみたい』

『僕もどんな方か気になりますよ』

「多分バーグス中尉はすぐに気に入られますよ。勿論一人の男性としてね♡」

『は、ははは……』


  ウィンクかましながら事実をバーグス中尉に言ったら頬を痙攣らせながら乾いた笑いしか出てこなかった。多分逆の立場だとげんなりするだろうけど。

  仲間達と楽しく会話してると再び通信が入る。お相手はクリスティーナ・ブラットフィールド大尉殿だ。


「悪いクリスティーナ大尉から通信だ。じゃあまた後でな」


 そう言って通信を切りクリスティーナ大尉に繋げる。


「如何されました?」

『いえ、その緊張はしてるかと思って』

「大丈夫ですよ。今更新兵気取るつもりは無いですからね。ブルって足を止めるなんて事はしませんよ」

『そう。この作戦はリリアーナ様の救出を行う名誉な事よ。絶対に成功させなさい』

「勿論。それが仕事ですから」

『それに前に会ったあの傭兵……』

「ジャンですか?」


  俺がジャンの名前を出したら此方を睨む様に見てくる。クリスティーナ大尉はかなり整った表情してるから睨んで来ると結構迫力があるんだよな。多分この辺りがもう少し墜ち着くとモテるだろうに。


『そのジャンって奴は何者なのよ。大体スパイダーなんて普通は手に入らないわ』

「まあ通信越しに聞こえましたがジャンは今大佐クラスになってるみたいですからね。スパイダーを使って貰いたい軍企業が居たんでしょう」

『ふん。たかが傭兵にあんな高性能機を与えるなんて』

「それだけジャンは確かな手腕の持ち主ですよ。それに指揮官としても優秀ですから。多分軍上層部や上流階級とも確かな繋がりがあるんでしょう」


  それにジャンはギフト【空間認識能力】と【敵意察知】の二つ持ちだろう。大抵のギフト所持者は一つだがジャンは珍しい二つ持ちだろう。尤も敵意察知はこの前指で銃を作った時に確信したのだが。

  勿論ジャンの奴がギフト持ちだと言うつもりは無い。言ったら絶対根に持つだろうし。何より面倒くさい事になるのは必然だ。


『随分とジャンについて知ってるみたいね』

「昔取った杵柄ってやつです。それより俺よりファング隊の連中と話した方が良いんじゃないです?たかが傭兵に構っている程暇なんですか?」


  俺は皮肉気に言うとクリスティーナ大尉は少し表情を固くする。そして此方を伺う様な気弱な表情になり見てくる。


『もしかして怒ってる?』

「キレてなーい」


  ヘルメットの上から顎の辺りを手でクイッとさせながら言う。当然ながらクリスティーナ大尉からの反応は小首を傾げるだけに終わる。残念である。


『そ、そう。怒って無いなら良いわ。ファング隊は大丈夫よ。連携も練度も確かなんだから』

「さいですか。それは良かったですねー」

『それで、その作戦中は私……達と一緒に行動しなさい。それが一番良い筈だから』

「別に構いませんよ。精々囮役頑張らせて頂きますよ」


  これまた皮肉の一つを言うと今度は凛とした表情になり言い放つ。


『囮をやるのは私よ。貴方の機体では無理があるわ』

「そうですか。ならその間に頑張らせて頂きます」

『無理しちゃダメよ。私が貴方をフォローするから』

「そ、そうっすか。あざっす」


  なんだか調子狂うぜ。皮肉を言っても真に受けるしやり難いったらありゃしない。

  それから作戦が第二段階に入るまでクリスティーナ大尉との楽しい楽しい会話をしていた訳だ。


『AW部隊に通達する。間も無く第二段階に移行する。各ユニットは最終チェックを行い待機せよ』

「と言う訳で一旦通信切ります。それでは」

『ええ。それじゃあ地上で会いましょう』


  クリスティーナ大尉との通信を切り機体の最終チェックに入る。そして機体が突入カプセルに移動する。


『出撃開始まで残り三分。その後降下部隊は順次ユリシーズ資源加工施設に降下開始する』

「やっとか。あー、無駄に疲れたぜ。苦手なんだよなあの大尉殿はさ」

「そうなのですか?」

「まあな。尤も話す機会は然程無いから良いけど」

「少し意外です」

「ん?何がだ?」


  俺はネロを見る。ネロの三点センサーが点滅し答える。


「マスターはクリスティーナ大尉との会話を随分と楽しんでいました。少なくともマスターのバイタルでは不快感は有りませ」

「もう良い!機体チェックを行え!」

「既に確認済みですが?」

「もう一度だ!」

「了解しました」


  ネロは再び機体チェックに入る。そして俺は静かに目を閉じて深呼吸して自身を墜ち着かせる。


「今度は地上戦か。然もお姫様の救出と来たもんだ」


  これが最後の戦いになるかは俺達降下部隊次第だろう。無論敵も降下して来る事は予想しているだろう。尤も艦隊戦の真っ只中で来るとは思わないだろうけど。


「未来はいつでも変えられる。少なくとも俺は変えられる」


 たかが三秒されど三秒と言うやつさ。





  第二段階に移行した瞬間、戦況が動き出した。味方艦隊からの対ビーム撹乱粒子ミサイルの攻撃。そしてダムラカ艦隊からのジャミング装置による撹乱。

  この二つが合わさりお互いのAW部隊の展開はほぼ無傷で完了する事になる。


『トリガー隊出撃せよ。繰り返す、トリガー隊出撃せよ』

『此方トリガー1了解した。じゃあなトリガー5、死ぬんじゃねえぞ』

「そりゃこっちの台詞だよ」

『お姫様の救出宜しくね。王子様?』

「そいつはバーグス中尉の方が様になるよ。今から代わっとく?」

『遠慮しておくよ。僕は王子様では無いからね』

『軍曹の王子も違うがな』

「喧しいわ。さっさと行っちまえ」


  傭兵共はビーム飛び交う宇宙へと出撃する。 そして今度は此方が出撃する番だ。突入カプセルが動き出し排出場所まで設置される。


『間も無く降下に入る。AW部隊及び陸戦隊はデコイと共に降下。降下完了後には敵資源加工施設周辺に存在する敵性勢力は全て撃破せよ』


 モニターにはカウントダウンが表示される。


『降下開始まで後十秒』


 そしてふと気付いた事があった。


『五秒前、四、三、二、一』


  どう考えてもジャンの機体は宇宙適性が高いだろう。つまり……


『降下開始』

「ジャンの奴地上には居ないんじゃね?」


  そして突入カプセルは戦艦アルビレオからユリシーズに向けて射出される。徐々に機体が揺れ始め轟音が鳴り響く。


「コレって中々キツイよな。普通大気圏突入なんてやらねえだろ。こちとら正規軍じゃねえんだよ。あ、でもこいつら正規軍だった」

「対G緩和装置作動」

「ふわぁ。突入カプセル様々だよな。コレって後で回収すんのかな?」

「基本的には現地で破棄されます。よって対G緩和装置も安価な物になります」

「そうなんだ。知らなかったよ」


  暫く降下は順調に進んでいた。モニターからも所定ルートを維持していた。そして残り1/4を切った瞬間、機体から警報アラームが鳴る。どうやら神頼みの時間が来たようだ。


「敵の警戒網がザルで助かったぜ。それでもこの瞬間だけはちびっちゃいそうだけどな!おいネロ。俺がちびったら黙ってろよ」

「了解しました。黙秘します」


 再び機体に振動が走る。どうやら敵さんのお出迎えが来た様だった。

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