デルタセイバーVSファントム
多少の損傷を出したがデルタセイバーの確保に成功した。
ジャミングが効いている間、エルフェンフィールド艦隊は追撃に時間が掛かるだろう。
それに、バンタム・コーポレーションから派遣されてるステルス艦も何処かに待機している筈だ。
座標は指定して無いが、大体の座標は分かるだろうからな。
「しかし、このポンコツエルフは何度も戦場のど真ん中で寝込むとは。神経が図太いんかね?」
デルタセイバーに乗ってても気絶させられたのだ。
恐らく、今回の敵はデルタセイバー対策を万全にした形で挑んだのだろう。それに、パイロットの技量も相当な筈。
簡単に捉えられる程、デルタセイバーは生半可な存在では無い。
「それに、ちゃっかり階級も上がってるみたいだし」
俺は何となくムカついたので無理矢理デルタセイバーを上下に振るう事にした。
モニターに映るデルタセイバーとクリスティーナ中佐。
シャカシャカとマラカスの様に振ってやると、首周りと立派なお胸様が結構な勢いでガクガク、たわんたわんと揺れまくる。
「ハッハッハッハッ!両方共めっちゃ揺れてるやん!これ大丈夫かな?バレたら俺、殺されるんとちゃう?」
流石にバレたら色々と不味い気がするし、色々と俺の株価も暴落してる気がする。
しかし、これから始まる戦いを目の前に気を失っているもんだからさ。
何か、ちょっとだけイラッとしちゃったんだ。
そんな風に巫山戯ているとクリスティーナ中佐が目を覚まし始める。
「おっと、お遊びはここまでかね」
デルタセイバーを放り投げるのと同時にクリスティーナ中佐は目を覚ます。
【ン……アレ?私は一体】
「おはよう。クリスティーナ中佐殿」
【ふえ?え?えぇ!な、何でキサラギ少尉が!】
目が覚めて俺が居た事に驚くクリスティーナ中佐。
まぁ、その気持ちは分からんでも無い。戦場で気を失って目が覚めたら顔見知りが居た。
頭の整理が追い付かないのも仕方ない。
「おいおい、そんな驚く事は無いだろ?別に俺がこの場所に居る事に、疑問を抱く必要は無いんだからさぁ」
安心させる様に言いながらも操縦レバーを握る手に力が入る。
【で、でも、私……敵の攻撃を受けて】
「あぁ、デルタセイバーを鹵獲しようとした盗人共なら、半分くらいは始末したよ」
【そ、そう……なの?有難う】
「お礼なんて要らないさ。俺が……自分の為にやっただけなんだからな」
僅かな沈黙。恐らくクリスティーナ中佐も俺の雰囲気に違和感を感じているのだろう。
普通なら冗談の一つや二つ、煽りの三つや四つくらいは言ってただろうからな。
【えっと……私達、味方の艦隊から随分離れた宙域に居るみたいだけど】
「そうだな。もう……これで邪魔者共は居なくなった訳だ」
【キサラギ少尉?貴方、一体何をするつもりなの】
警戒心を出すクリスティーナ中佐。
だが、もう遅い。
「ククク……これから始まる事から目を逸らしたいか?だが、ジャミングが効いている今だけは…………誰も助けには来ないぞ」
俺はデルタセイバーに向けてファントムを一気に加速させる。
咄嗟の反応で避けるデルタセイバー。
【ッ!キサラギ少尉!】
「まだ分かって無い様だから一度だけ言ってやるよ」
更に速度を乗せてから反転。デルタセイバーを照準内に捉えながらトリガーに指を掛ける。
「俺と戦え。デルタセイバー」
そして俺は躊躇無くトリガーを引いた。
高出力ビーム、プラズマと60ミリ機関砲4門から放たれる弾幕がデルタセイバーを襲う。
無論、デルタセイバーも回避機動を取り反撃態勢を取る。
だが、反撃が来ない。
【待って!キサラギ少尉!私達が戦う理由なんて無いわ!】
「有るさ!お前がデルタセイバーに乗り続ける限りなぁ!」
通り過ぎてからデルタセイバーに向けてミサイルを発射する。
先程の戦いでミサイルの残弾は1/4にまで減ってしまった。だが、まだミサイルが残っているのは運が良いと言えるだろう。
(大型対艦ビームカノンが使えないのが痛いがな。まぁ、まだ使い道はある)
デルタセイバーは大量のミサイルをビームライフルとビームガトリングガンを使いながら迎撃、回避して行く。
「まだ戦う気が無いか?なら、戦う理由を与えてやろう」
既に敵意剥き出しで攻撃しているのに、反撃して来ないデルタセイバー。
舐めてるのか?俺は本気なんだぞ。
あぁ、そうか。綺麗な軍人さんだから大義名分が欲しいのか。
なら、幾らでもくれてやるよ。
「ならば、貴様が俺を殺さない限りエルフェンフィールド艦隊を攻撃し続ける。今もデルタセイバーを捜索する為に残ってるだろうからなぁ。半壊気味の超級戦艦も居る事だし、壊し甲斐があるってなもんだぁ‼︎」
右手の近接用大型クローから高出力プラズマサーベルを展開。
そのまま一気にデルタセイバーに向けて突っ込んで行く。
【…………ッ】
「味方を見殺しにしたくなければ俺と戦ええええええ‼︎‼︎‼︎デルタセイバーアアアアアアア‼︎‼︎‼︎」
デルタセイバーに向けて高出力プラズマサーベルを突き立てる。
しかし、デルタセイバーを貫く事は無かった。
代わりに対艦ビームサーベルを構えて高出力プラズマサーベルを受け止めていた。
「ッ!良いぜ。やっと殺る気になったか!デルタセイバー!」
デルタセイバーを弾き飛ばして再びファントムを加速させる。
だが、デルタセイバーはファントムを追撃する為に追いかけて来る。
「……ッ、この加速に追い付いて来るだと?対デルタセイバー用に調整したファントムだぞ」
恐らくデルタセイバーの背中にある追加装備が原因だろう。
だが、簡単に追い付けると思うなよ。
俺はコンソールを弄り、メインブースターのリミッターの制限を解除。
「警告。これ以上の加速は搭乗者に負荷が掛かります」
「上等!デルタセイバー相手に手加減は無用だ!ブースター全開!ブッ飛ばすぜ!」
「了解。ブッ飛ばします」
二つのメインブースターから出ている噴射色が青から白に変わる。
そして身体に掛かるGが一気に増して行く。
「クゥッ!慣性抑制装置を超えるG!だが、俺のテクで制御してみせる!」
バランスが崩れ掛けるが無理矢理加速させ機体制御の安定を図る。
【ッ!離れて行く!】
デルタセイバーとの距離が離れて行く。
無論、デルタセイバーもビームを撃ちながらファントムを逃さない様にする。
だが、この高速域で狙いを付けて攻撃する事は至難の技。
そして完全にデルタセイバーを振り切ったのと同時に俺は決めに掛かる。
「大型対艦ビームカノンのチャージ開始!」
「警告。チャージを行った場合高確率で誘爆します」
「レイナ、大丈夫だ。俺を信じてくれ」
「了解しました。チャージ開始。しかし、発射は不可能。9秒以内にパージして下さい」
大型対艦ビームカノンに再びエネルギー充填を開始。
同時にファントムを反転させてデルタセイバーに向けて吶喊して行く。
「9秒のチキンレースだ!さぁ、始めようぜ!デルタセイバー!」
互いに高速で接近して行く。
「受け取りな!最後のミサイルだぜ!」
3秒先読みしてからミサイルを発射。
ファントムの速度も合わさり凶悪極まりないミサイル群。
しかし、デルタセイバーは殆ど迎撃し、被弾してもエネルギーシールドで防いでしまう。
ミサイルが爆発して爆煙がデルタセイバーを包む。
だが、その一瞬の視界不良を俺は待っていた。
爆煙内に向けて高出力ビーム、プラズマを撃ち込む。
デルタセイバーが飛び出て来るのを待つ。
「視えた!受け取れえええええ‼︎‼︎‼︎」
そしてデルタセイバーが飛び出る方向に向けて大型対艦ビームカノンをパージ。
但し、クリスティーナ中佐もファントムが来るのを待っていた。
【キサラギ少尉ィ‼︎】
対艦ビームサーベルを構えて上段から振り下ろす。
ファントムの下部を勢い良く斬り裂いて行く。
だが、デルタセイバーの目の前には爆発直前の大型対艦ビームカノン。
【しまッ⁉︎】
大型対艦ビームカノンは溜め込んだエネルギーに耐え切る事が出来ず大爆発を起こす。
俺は再び反転してデルタセイバーに向けて突撃して行く。
「正面装甲の一部損傷。下部装甲、拡散ビーム砲の破損を確認」
黒煙が上がるファントム。だが、速度はまだ落ちていない。
俺は右手の大型近接クローから高出力プラズマサーベルを展開。そのままデルタセイバーに向けて突っ込んで行く。
「テメェがこの程度で墜ちない事は知ってるんだよぉ‼︎」
そしてデルタセイバーが居るであろう場所に向けて高出力プラズマサーベルを突き立てる。
同時に爆煙の中からもう一本の対艦ビームサーベルを構えるデルタセイバーが現れる。
一瞬の交差。
そして離れて行く両者。
高出力プラズマサーベルがデルタセイバーの背部ユニットに突き刺さる。
対艦ビームサーベルがファントムの左メインブースターを斬り裂く。
「第二メインブースター損傷甚大。燃料の供給カット。自動消火装置起動を確認」
「まだだぁ‼︎まだ、火力は落ちてねぇ‼︎」
操縦レバーを引いてファントムを急反転。そして最後の足掻きと言わんばかりに加速して行くファントム。
【まだ墜ちないの?どれだけ頑丈なのよ!そのASは!】
使用不可能になった背部ユニットを切り離し、ビームライフルとビームガトリングガンを装備し直して反撃して来る。
だが、ファントムの正面装甲は対デルタセイバー用に調達された特殊装甲。
「正面装甲の損耗率が80%を超えました」
「流石はデルタセイバーだな。火力の高さは伊達じゃねえなぁ‼︎」
デルタセイバーを捕捉。そしてトリガーを引いて、お返しと言わんばかりに高出力ビーム、プラズマを撃ち込んで行く。
更に間合いが詰まれば60ミリ機関砲4門も追加で撃ち込む。
しかし、ダメージレポートを見ればファントムは限界に近い。
既に殆どの箇所が赤く点滅している始末。
それでも最後までデルタセイバーに向けて攻撃を続ける。
「高出力ビーム砲損傷。第一、第三60ミリ機関砲破損」
更に距離が縮まると対艦ビームサーベルを装備するデルタセイバー。
俺は体当たり覚悟でデルタセイバーに接近。
無論、ギフトを使い先読みしながらだ。
だが、奴もエースパイロット。
咄嗟の反応でデルタセイバーを上に移動。ファントムに打つかるスレスレで回避しながら、機体を捻る様に動かし対艦ビームサーベルを振るう。
【終わりよ‼︎キサラギ少尉‼︎】
そして、ファントムの第一メインブースターを斬り裂いて離れて行くデルタセイバー。
勝負は決したと言えるだろう。
既に戦う武装を殆ど失ったファントム。
ビームライフルの銃口を向けながら、ゆっくりと近付いて来るデルタセイバー。
【キサラギ少尉。貴方の負けよ】
「あぁ、そうだな。もう、コイツで戦える武装も機動力も無くなった」
【なら、武装解除して。今ならまだ間に合うわ】
「間に合う?一体何が間に合うって言うつもりだ。ん?」
【……デルタセイバーの損傷は全部所属不明機の所為よ】
まさかな。軍人として誇りを持ってるクリスティーナ中佐がこんな事を言うとは。
初めて出会った時からは想像出来ない程だ。
「ククク……ハハハハハ…………アッハッハッハッ!」
【な、何が可笑しいのよ!】
「甘いなぁ。甘過ぎるんだよ。俺はなぁ、生半可な覚悟でデルタセイバーに喧嘩を売ってる訳じゃ無いんだ」
そして俺は煙幕と対ビーム撹乱粒子を展開。ファントムの周辺にバラ撒いて行く。
【キサラギ少尉!もう止めなさい!】
ファントムから装甲をパージ。
そして本命のAWを出して行く。
ZQA-N017 ルグレ
レイナの全てが注ぎ込まれたOSX-017を最大限活かす為に改修された機体。
ZCM-08Rブラッドアークをベースに大破したQA-N09ベスウーナムのパーツを注ぎ込んだ機体。
全てはデルタセイバーを破壊する為。
全ては俺達の存在を記録に刻み込ませる為。
その為なら大企業も軍も利用する事に躊躇など一切無い。
「……行くぞレイナ、第二ラウンドの始まりだ」
ファントムの中から武装を携えてゆっくりと姿を現すZQA-N017ルグレ。
左肩には紅い狼を中心に右側にマグナム、左側に刀、下側に605の数字が刻まれたエンブレム。
ブラッドアークとベスウーナムのメインカメラがデルタセイバーを捉えるのだった。




