E.G.F艦隊VS独立傭兵3
【フリゲート艦02、04。駆逐艦01、05、06大破……いえ、轟沈します!】
【な、何なんだアレは?一瞬で5隻を失った……だと?】
オペレーターの悲鳴に近い報告を聞き、E.G.F艦隊の司令官は悪夢を見ている気分になる。
精鋭中の精鋭を集めて創り上げられた秘密結社E.G.F。
その保有する軍事技術も宇宙一を自負していた。
だが、相性が悪過ぎた。
相手は対デルタセイバー用に造られた大型AS。
E.G.Fは規格外な存在。だが、相手も規格外な存在。
なら、後は互いの技量が勝負の分かれ目となるのは道理と言えるだろう。
「次は大物を狙わせて貰う!レイナ!デルタセイバーから一番近い敵艦を出せ!」
「了解。レーダーとモニターにマーキングを出します」
一番デルタセイバーに近い敵艦。
「戦艦か。なら、手加減は要らねぇなぁ‼︎」
再び大型対艦ビームカノンにエネルギーをチャージする。無論、その間は何もしない訳では無い。
【敵大型ASを旗艦へ近寄らせるな!砲撃を続けろ!直掩隊は盾になれ!】
巡洋艦2隻と駆逐艦3隻がファントムの前に立ち塞がる。
しかし、敵はファントムだけでは無い。
横合いから強力なビームが巡洋艦のエネルギーシールドを削り切ってしまう。更に砲撃が続き1隻の巡洋艦が被弾してしまう。
【……戦艦アルビレオか。第81独立艦隊は何をしている!】
【ダメです!第81独立艦隊にも被害が多数出ています!】
【それがどうした!戦艦アルビレオの砲火力を此方に向けさせるな!】
被弾した巡洋艦が戦艦アルビレオに反撃するが、お返しと言わんばかりに大量のビームが船体に直撃し貫通。そのまま爆沈してしまう。
『キサラギ少尉の援護と言う訳では無いが。このままデルタセイバーを持ち逃げされる訳には行かん』
戦艦アルビレオを筆頭に、エルフェンフィールド艦隊の左舷側砲塔が攻撃を開始して行く。
「余計な手出ししやがって」
だが、お陰で僅かに弾幕が薄くなった。その1秒にも満たない時間に一気に間合いを詰める。
「ビームとプラズマセットの弾幕返礼だよ!」
高出力ビーム砲と高出力プラズマ砲の合計4門から次々と攻撃をして行く。
フリゲート艦、駆逐艦も必死に反撃するが、威力が足りずファントムの正面装甲で防がれてしまう。
次々とビームとプラズマが被弾して行く駆逐艦。エネルギーシールドが瞬く間に無くなり船体にビームとプラズマが貫き爆沈。
流れ作業の様に隣の駆逐艦に攻撃を集中して墜として行く。
【何故墜とせない!敵には攻撃が当たっているのに!】
そんな最後の台詞を吐きながら60ミリ機関砲の弾を艦橋に受け、宇宙へ放り出される駆逐艦の艦長とオペレーター達。
「これで終わりだ!受け取れ!」
大量のミサイル、ビーム、プラズマ、60ミリの弾幕を一身に受け止める最後の巡洋艦。
【総員退かッワアアアアアッ⁉︎⁉︎】
艦橋、メインスラスターに次々とミサイルと60ミリが被弾。更にエネルギーシールドが維持出来なくなり船体にビームとプラズマが突き刺さって行く。
「行くぞ!レイナ!戦艦を墜とす!」
「了解しま……拡散ビーム砲展開。下方より接近する敵を排除しました」
「ナイスだレイナ!その調子で頼むぜ!」
不意打ちを狙っていたレグルスに拡散ビーム砲を喰らわせる。
直撃を受けたレグルスは爆散。しかし、爆煙の中から可変した状態でシリウスが突っ込んで来る。
【この間合いなら!】
人型に変形し、電磁サーベルを抜き放ち接近戦に持ち込むシリウス。
「チィッ!カトンボが!叩き落としてやるよ!」
電磁サーベルを構えるシリウスに向けて近接大型クローを横薙ぎに振るう。
しかし、敵も手練れだ。
完全に見切られた挙句、左の近接大型クローを斬り裂かれてしまう。
そのまま大型対艦ビームカノンにも電磁サーベルが突き刺さってしまう。
【終わりだ!】
「舐めるな!」
操縦レバーを右に傾けてファントムを回転させる。
電磁サーベルを突き刺したまま、吹き飛ばされるシリウス。
吹き飛ばされたシリウスに向けてミサイルを放つが、可変してそのまま離脱して行く。
引き際も弁えてる辺り、かなりの手練れなのが窺える。
「大型対艦ビームカノンにダメージを確認。エネルギー充填システムに異常発生。再チャージには爆発の危険が出ます」
「今チャージしてる分は?」
「問題ありません。一発のみ発射可能です」
「充分だ。戦艦を墜とせる火力が残ってるならな!」
姿勢を戻して戦艦に向けて突撃を開始。
【敵大型ASが本艦に急速接近!】
【増速だ!間合いを詰めさせるな!距離は取り続けろ!】
【ミサイル装填完了!】
【ミサイル全弾発射!続いて艦砲も撃ちまくれ!】
E.G.Fの戦艦から多数のミサイルがファントムに向けて放たれる。
更に主砲、副砲も殺意を込めて砲撃を開始。
【ッ!まさか……いや、そうだ。分かったぞ。奴の狙いは我々E.G.F艦隊。デルタセイバーを収容させない腹積もりだ!】
流石は艦隊を任される司令官。直ぐにキサラギ少尉の目論見を看破する。
しかし、ファントムは殺意剥き出しで戦艦に近付いて行く。
途中、何機かのシリウスが140ミリ対艦ライフルと45ミリヘビーマシンガンで迎撃に出る。しかし、最低限の回避機動をするのみで無視されてしまう。
【何て速度だ!追い付けないぞ!】
【不味い。このままだと旗艦がやられる】
追撃するも瞬く間に距離を離されてしまう。
「警告。ミサイル接近」
「ミサイル発射用意。自爆を3秒後にセット」
「了解。自爆を3秒後にセット完了」
そしてギフトを使いタイミングを見計らう。
「逝って来い」
良い塩梅の未来が視えたのと同時にトリガーを引く。大量のミサイルが前方に向かって発射される。
互いのミサイルが交差した瞬間にミサイルが自爆。爆発が起こり、戦艦から放たれたミサイルの進路が大幅にズレる。
更に誘爆も起こり大爆発が発生。
凄まじい爆発が起こりE.G.F艦隊の司令官は一瞬だけ安堵してしまう。
【やったか……フゥ、デルタセイバーの収容を】
【司令!敵大型ASは健在!更に接近して来ます!】
オペレーターから悲鳴に近い報告を聞き、目を疑う。
あの大爆発の中、生きていたと言う事実から目を逸らしたくなる程だった。
【敵の位置は!】
【既に対空砲の射程内!敵大型ASが上方へ移動!】
【対空弾幕!奴を近寄らせるなああああああ‼︎‼︎‼︎】
戦艦の上へ進路を取るファントム。対空弾幕と副砲からの砲撃に晒されてながらも速度を落とさない。
直上に近い位置を陣取ったファントム。
一気に反転して急降下して行く。
「まだだ……まだ、まだ」
戦艦との距離が縮まる。そして密度が上がる対空弾幕。
砲弾が次々とファントムの正面に当たる。
しかし、止まる事は無い。
【我々は……秘密結社E.G.Fなのだぞ!貴様の様な不穏分子にッ】
「沈めえええええええ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
大型対艦ビームカノンから大出力ビームがE.G.Fの戦艦に向けて放たれる。
戦艦のエネルギーシールドが大出力ビームを受け止めて僅かな時間防ぐ。
しかし、耐える事が出来たのは本当に僅かな時間のみ。
【ッッッ⁉︎⁉︎⁉︎】
凄まじいビームのエネルギーが艦橋を直撃。そのまま装甲を融解。
機関部も貫き、戦艦の下部からビームが飛び出る。
一瞬だけ、時間が止まったかの様な感覚が見る者達の間で広がる。
次の瞬間、戦艦の艦内で誘爆が多数発生。
艦中央で一際デカい爆発が起きる。
そのまま船体を真っ二つにしながら爆沈してしまう。
【せ、戦艦が。一撃で……墜とされた】
【隊長!このままでは艦隊が……いや、それに我々は何処に降りれば】
無論、まだ戦艦は一隻残っている。
だが、残っている戦艦に凄まじいエネルギーを保持したビームが直撃してしまう。
何処からの攻撃?答えは一瞬で分かった。
『敵戦艦に直撃!エネルギーシールドを貫通してダメージを確認しました!』
『我々エルフを舐めるな。補正システムが修復出来ないなら勘で撃てば良い。次弾!エネルギー充填急げ!それから修正座標は逐一報告しろよ!』
大破して黒煙と白煙を出し続けている超級戦艦サザンクロス。その下部に搭載されている大型砲塔がE.G.F艦隊に対し、今尚牙を剥き続けている。
【艦長、旗艦が墜ちました。これより本艦が指揮を引き継ぎます】
【我々E.G.Fに失敗は許されない】
【では、デルタセイバー収容は続行致します】
【…………】
先程の攻撃でエネルギーシールドの減衰が著しい。更に船体に大きなダメージを受けてしまった。
幸いワープ機能は死んでいないが、奇跡に近い状態だ。
【敵を見誤ったか。デルタセイバーと戦艦アルビレオだけだと思い込んでいた】
だが、デルタセイバーを狙う別勢力が居た。
仮に別勢力がデルタセイバーを奪いに来たとしても、対応は可能だと想定されていた。
しかし、結果はどうだ?旗艦を失い左翼側の艦隊は7割以上損失。
このまま続行すれば、全滅は避けられないだろう。
【……遺憾ながら撤退する】
【宜しいのですか?】
【我々は負けたのだ。あの、大型ASによってな】
こうして話してる間にも、味方の駆逐艦が大量のビームとプラズマを受けて大破、炎上してしまう。
【これより左翼側は撤退だ。右翼側と第81独立艦隊もタイミングを見て撤退させろ】
【了解しました。デルタセイバーは?】
【放棄しろ。破壊したら恐らく三大国家とエルフの間に深い溝が生まれる。それだけは避ける必要がある】
既に数える程にまで減ってしまったE.G.F艦隊。
これ以上戦っても無駄な損害を出すだけ。
責任は多少被るだろうが、生き残り情報を持ち帰る事も重要な事。
【時には潔く負けを認める必要もあるのだ。信号弾を放て】
艦隊を退避行動に移しながら信号弾を放つ。
【それから、ジャミングは我々全員の撤退が済むまで継続させろ】
【了解しました】
【フン、精々デルタセイバー捜索に手間取るが良い】
最後の足掻きとしてジャミングだけは継続させる。
しかし、もしかしたらと艦長は考えていた。
(あの大型ASのパイロット。明らかに我々とエルフェンフィールド艦隊を狙っていた。狙いは我々と同じか。それとも……)
GXT-001デルタセイバー。多くの者達の運命を混乱に陥らせた存在。
なら、そんな存在を疎ましく思うのはE.G.Fや三大国家だけでは無い筈。
【なら、この場は譲ろう。撤収作業を急げ】
E.G.F艦隊が撤退して行く。
味方艦隊からの撤退信号を見ていた捕獲部隊は、僅かな混乱を起こしながらも努めて冷静になる。
【……隊長、撤退信号です】
【あぁ、そうだな。デルタセイバーは放棄して行く】
【破壊しなくて宜しいので?】
【たった今、命令が来た。破壊はするな。我々が撤退するまでジャミングは掛かり続けるらしい】
【了解しました。では、撤退しッ⁉︎隊長!前方から奴が来ます!】
あの黒い大型ASがE.G.Fの計画を全て破壊した元凶。
部下のレグルスが45ミリサブマシンガンを二挺構えて、大型ASに向け様とする。
【止めろ。下手に手を出すな。奴の狙いは恐らく】
そのまま速度を落とす事無く、真っ直ぐに突っ込んで来るファントム。
そして右の大型近接クローを使い、デルタセイバーを掴み取り離れて行く。
【宜しいのですか?】
【構わん。我々相手に終始優勢に戦ってた奴だ】
離れて行くファントムを見送る事しか出来ない。
だが、それで良かったのだろう。下手に攻撃をすれば、こちらが死んでいた可能性は非常に高い。
【奴の狙いもデルタセイバーなのだろう】
【……鹵獲では無さそうですが】
【あぁ、だろうな。奴の狙いは恐らく……】
撤収しながら隊長は思考する。
あの大型ASを自由自在に操り、ギフトを使い誘導まで行っていた。
間違い無くトップクラスのエースパイロットが搭乗している。
そのエースパイロットに執着されたデルタセイバーとクリスティーナ中佐。
【デルタセイバーの破壊だ】
デルタセイバーのパイロットに僅かながら同情を覚えながら、部下を引き連れて撤退して行くのだった。