E.G.F艦隊VSエルフェンフィールド艦隊
宇宙要塞リーベスヴィッセンの周辺宙域はワープ航行が不可能となっている。
ワープジャマー装置。
突然の強襲を防ぐ為に、宇宙要塞リーベスヴィッセンの周辺宙域にはワープジャマーが展開されているのだ。
だが、同時に味方の救援が遅れる事も意味していた。味方のワープ航行をも阻害してしまうからだ。
それは、諸刃の剣と言っても過言では無い。
しかし、宇宙要塞リーベスヴィッセンが持つ防衛能力と絶大な火力と圧倒的な防御力は、並大抵の艦隊では落ちる事は無い。
だからこそ、宇宙要塞リーベスヴィッセンは周辺宙域の絶対的な存在として鎮座しているのだ。
「准将、間も無くワープ航行に入ります」
「そうか。このワープが終われば宇宙要塞リーベスヴィッセンへ到着するか」
「今の所、順調な航行が出来て何よりですな」
セシリア准将は副官の言葉を聞きながらも警戒は続けていた。
途中、宙賊の艦隊が現れると思っていたが一度も現れる事は無かった。味方のパトロール艦隊とは何度かすれ違ったが、それだけで終わっていた。
「そう言えば、宇宙要塞リーベスヴィッセンには近衛艦隊が待機しているそうだな」
「はい、第一近衛師団を率いる艦隊です。また、デルタセイバー封印の為にリリアーナ皇女様も既に到着済みです」
「そうか。少なくとも姫様に被害が及ぶ事が無いのは安心だな」
第一近衛師団。本来なら本国である惑星カルヴァータの防衛任務、及び王族の護衛を担っている。
近衛部隊と言えば、エルフェンフィールド軍の中ではエリート中のエリート。故に装備も常に最新の物が与えられている。
無論、近衛の名に相応しい技量と指揮能力を持つ者ばかりが配属されており、教導隊として時々正規部隊相手に指導する時もある。
「また、あの煩い女を相手せんと行かんのか」
「マリエル大佐ですか。確か、セシリア准将と同期だったと聞いてますが」
「その通りだ。出会った時は優秀で大人しい奴だった。だが、段々と小言を言う様になって来てな」
それは准将側に問題があるのでは?と副官は思ったが口に出す事は無かった。
多少、思い当たる節はあったのでマリエル大佐に少し同情したのは副官だけの秘密だ。
そして、予定通り艦隊はワープ航行に入る。
ワープ航行に入ってしまえば実質強襲を受ける事は無い。
基本的にワープ航行は安定してるから運用出来る。なので、ワープ空間内で戦闘を行えば不安定になり、予定座標に到達出来なくなる。
最悪な場合は未開の宙域に辿り着くか、永遠に時空の狭間を彷徨うかだ。
超級戦艦サザンクロスを筆頭に艦隊がワープ空間に入る。
しかし、後方で潜む一隻のステルス艦に誰も気付く事が無い。
【時間だ。やれ】
ステルス艦から一瞬だけエネルギー波が放たれる。同時にワープ航行が強制終了してしまう。
艦内に警報が鳴り響く中、マッセナ中将は確認を急がせる。
『何事だ⁉︎状況を報告しろ!ワープ航行が終わるにはまだ早い筈だ!』
『不明です。緊急プロトコルが作動してワープ航行が緊急停止しました』
そして更に超級戦艦サザンクロスや他の艦艇に幾つもの衝撃が走る。
『ッ⁉︎被害を報告しろ!』
『第7、第8、第27ブロックに被弾!』
『レーダーに多数の機雷を確認!待ち伏せです!』
『艦載機緊急発進!偵察機は周辺宙域の偵察を行え!AW、MW部隊は機雷の排除を急がせろ!近場の機雷が排除されたのと同時に対空砲を展開させろ』
レーダーを見れば大量の機雷が敷設されていた。
この宙域に来る事が予測されていたのか。しかし、突然のワープ航行の中断。
マッセナ中将は目を細めながら呟く。
『……誘われたか。なら、この後は遠距離からの砲撃か?だとしても、この超級戦艦サザンクロスの存在は想定外の筈』
何故なら、超級戦艦サザンクロスはマッセナ中将が急遽予定を変更して動かしたのだ。
本来なら超級戦艦サザンクロスも同盟惑星に派遣される予定だった。だが、デルタセイバー封印の報告を受けたマッセナ中将は奴等が動き出すと確信したのだ。
『あの時の雪辱を果たさせて貰うぞ』
若き頃、マッセナ中将は一度だけ所属不明艦隊の襲撃を受けた事があった。
輸送物の中身は不明だった。だが、当時最新のレーダーに反応しない艦隊が強襲して来たのだ。
また、相手のAWはエルフェンフィールド軍と同等かそれ以上の性能があった。
当然、応戦はしたが輸送物は奪われてしまった。だからこそ、マッセナ中将は今回のデルタセイバー封印の輸送中に強襲して来る事が予想出来た。
宙賊より遥かにタチの悪い連中がだ。
『艦隊、及び各砲塔に通達しろ。周辺を最大限警戒。不明瞭でも構わん。何か異常や違和感を感じたら即時攻撃をしろ』
『了解です。通達します』
『私が居る限り、火事場泥棒が二度も成功すると思うなよ』
各砲塔の監視モニターが周辺を警戒する様に動く。
そんな中、第三主砲の担当兵員は周辺宙域を監視していた。
『大尉殿、何か映りますかね?今の所、機雷くらいしか見えませんが』
『良いからちゃんと良く見とけ。ワシも照準器で確認しておく』
『しかし、本当にマッセナ中将の言う通りになってますね。どんな敵が来るんでしょうか?』
若いエルフの口振りからして敵を脅威とは思っていないと予想出来た。
だが、無理は無いだろう。エルフェンフィールド軍は自他共に認める技術大国だ。
だからこそ、若いエルフは自国の技術力の高さに誇りを持っていたのだ。
『……ワシも一度だけ所属不明艦隊の攻撃を受けた事がある。ある輸送任務を行ってる最中だった』
『え?それって話しても大丈夫なやつです?』
『大丈夫では無い。だが、聞いておけ。今とは違う状況だが、レーダーや目視では見えなかった』
『敵はステルス艦って事ですか?』
『恐らくな。だがな、ワシは見たんだ。僅かにボヤけていた艦艇の姿を』
しかし、大尉は違った。
敵を侮ると痛い目に遭う。実際、痛い目に遭ったからこそ敵を侮る事は無かった。
それは長い間軍属に所属している証拠でもあった。
信念を持つ者、大義を背負う者、義務を果たす者。
そして、エースパイロットと呼ばれる者達は敵となれば総じて脅威となる。
『あの頃と違って技術は進んだ。今のセンサー性能は昔とは格段に違う。同時に連中のステルス技術も格段に上がってる筈だ。だからこそ、最後に物を言うのはワシらの目だけよ』
『目視は見えないって言ってませんでしたっけ?大尉殿』
『完璧な物はこの世に存在などしない。だからこそ、若い奴の目が一番頼りになる。ワシも年だから見え辛い事が多々あるがな』
そう言うと再び照準器に目を通す大尉。無論、若いエルフも双眼鏡で監視を続ける。
『まぁ、頑張りますよ。自分もこんな場所で死にたくは……ん?何か揺れた様な』
一瞬。ほんの一瞬だ。見ていた場所が僅かに揺れたのだ。
目を細めて再び見直すが、空間が揺れる事は無い。
『場所は何処だ?』
『え?いや、気の所為だと思います。一瞬だけでしたし。見間違いかも知れませんから』
『構わん。不明瞭でも攻撃許可は出ているからな』
『……それもそうですね。なら、座標送ります』
揺れたと思われる座標を送る。第三砲塔が指定座標に向けて動き出す。
超級戦艦の主砲となれば戦艦以上の火力がある。船体が大きくなればエネルギー確保も容易になるからだ。
故に超級戦艦と呼ばれるデカさは伊達では無いのだ。
『…………ッ!そこだ!』
第三砲塔の砲口からエネルギーが収縮される光が一瞬光る。
漆黒の宇宙を駆け抜ける強力なエネルギーの塊。しかし、何も当たる事は無く嘘空の中へと消えて行く。
それでも2射、3射と繰り返し続ける。同時に他の砲塔も追従して、近い場所を狙い撃ち始める。
だが、何も当たる事は無かった。
やはり気の所為だったのでは?
誰もが思ってい始めた時だった。
『拡散で一か八かだ』
大尉が一言呟きながら主砲の設定を僅かに変える。
再び漆黒の宇宙へと砲撃を始める。
三連装から放たれた強力なエネルギーの塊。
そして、何かに当たった。
『爆発を確認!何かが居ます!』
『本当に敵が居るんだ。見えない敵が』
『ボサッとするな!周辺警戒は続けろ!思ってた以上に距離が近いぞ!』
他の砲塔も順次狙い始める。エネルギーシールドを張っていないのか容易に船体へ着弾して行く。
【作戦は続行。時間までカウント30秒】
エルフェンフィールド艦隊が僅かに喜びを感じている間にもE.G.F艦隊は着実に距離を縮めていた。
【距離、配置、全てが一定の条件下に於いて戦艦アルビレオは通常の戦艦へと落ちる。間も無く時間だ。エネルギーシールドを展開。AW部隊援護の為に砲撃開始】
E.G.F艦隊はエルフェンフィールド艦隊に位置を悟られない為に全て時間合わせで行動していた。
決められた時間に全ての配置を完了させる。通信を取らなくとも完璧に作戦通りに行う。
【艦隊、通信解除。目標、超級戦艦サザンクロス。及び護衛艦隊】
【各艦へ通達。目標、超級戦艦サザンクロス。及び護衛艦隊】
E.G.F艦隊はエネルギーシールドを展開し始める。同時に一部の艦艇がステルスを解除して姿を現す。
『ッ⁉︎レ、レーダーに多数の反応を検知!敵艦隊が左右に分かれ、我が艦隊に対し挟撃態勢を取っています!』
『敵艦隊、既に射程圏内に入っています!』
『馬鹿な。この距離でもレーダーに反応しないだと?』
『ビーム撹乱粒子散布!砲撃来るぞ!』
既に射程圏内に入られた事に、エルフェンフィールド艦隊とAW、MW部隊は驚き一瞬だけ動きが止まってしまう。
だが、E.G.F艦隊には関係無い。成すべき事を成すのみ。
【デルタセイバーを出す為の生贄としては充分だな】
E.G.F艦隊の戦艦、巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦がエルフェンフィールド艦隊に向けて砲撃を始める。更に大量のミサイルも発射される。
『応戦しろ!敵は我々を挟撃しているが超級戦艦クラスは居ない!各艦との連携を取り集中砲撃を行い確実に敵艦を撃破して行け!』
マッセナ中将は果敢にも指揮を執り直ぐに応戦態勢を取らせる。
高い技術力を保有するエルフェンフィールド艦隊。
三大国家の技術が集まったE.G.F艦隊。
【全艦、砲撃始め】
『艦隊!砲撃始めぇ!』
互いに信念と大義を信じて戦いに身を投じて行くのだった。




