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見えない敵

 秘密結社E.G.Fの戦闘員達は全員が精鋭揃いだ。

 三大国家の軍の中から選りすぐりの者達だけが一同に集まる。

 無論、E.G.Fは簡単に動かせる戦力では無い。

 三大国家の軍閥に於けるトップに居る者達が承認して初めて動かす事が可能となるのだ。

 また、E.G.Fの軍事基地は全て隠匿されている。三大国家の領域は広大だ。故に隠す場所は幾らでもある。何ならその宙域を全て封鎖させて侵入禁止区域に指定する事も可能だ。


 そして、軍事施設全てには三大国家の最新鋭に近い軍事技術が集められている。


 艦艇、AS、AW、MWなど多種に渡り、状況に応じた装備を整える事が出来る様になっている。

 故に、指定された座標から近いE.G.F軍事基地は直ぐに作戦行動が出来る状態になっているのだ。


「諸君、集まって貰ったのは他では無い。E.G.F総司令部からE.G.F第105軍事基地に命令が下された」


 E.G.F第105軍事基地の司令官は戦闘員全員を作戦室に招集していた。

 各々も全員が招集される事態を予想しており、既に覚悟を決めている。


「作戦内容を説明する。三日後にエルフェンフィールド軍が保有するGXT-001デルタセイバーの鹵獲作戦を行う」


 GXT-001デルタセイバー。この名を出した瞬間に目を細める者、眉間に皺を寄せる者、腕を組み直す者と様々な反応を見せる。


「目標となるデルタセイバーは、三大国家との秘密協定により封印される事が決定された。場所はエルフェンフィールド軍が様々な事情で封印や、政治的に隠蔽工作した時の情報を保管している【宇宙要塞リーベスヴィッセン】だ。その為、封印された場合回収する事は事実上不可能となってしまう」


 モニターに映し出されたのはエルフェンフィールド軍が保有する、資源を掘り尽くした小惑星を利用した巨大な宇宙要塞。

 岩壁には分厚い装甲や多数の砲塔、対空砲、ミサイル発射管が設置。駐留艦隊や宇宙要塞のAW、MW部隊も存在している。

 更に強力な威力と長大な射程を保有するエクスターミ収縮砲もある。

 エクスターミ収縮砲の威力は、OLEMのマザーシップにダメージを与える事が出来る程のお墨付きだ。


「我々はデルタセイバーを搭載されたエルフェンフィールド軍の護衛艦隊を強襲。同時にデルタセイバーが出て来るまで徹底的に攻撃を続ける事だ」


 宇宙要塞の様な大規模な軍事施設がある宙域は限定されている。それこそ、エルフェンフィールド軍が絶対に守るべき宙域に存在している。

 無論、宇宙要塞を保有するだけで多額の金が飛んで行く。故に数は多くは無いものの、最重要拠点として機能しているのだ。


 しかし、その道中までの安全は保証されている訳では無い。


 エルフェンフィールド軍の領域内に侵入するのだ。国境沿いの警戒網を潜り抜ける事が出来れば、強襲する事自体は容易い。


「エルフェンフィールド軍の損害は多くなっても構わない。我々の目的はデルタセイバーのみだ。早期にデルタセイバーが現れた場合は鹵獲。そのまま宙域を離脱する」


 無論、簡単に侵入する事は出来ない。何より護衛艦隊とは言え、最低一個艦隊を相手しなくてはならない。

 生半可な戦力で任務達成する事は不可能と断言出来る。


「尚、今作戦に於ける戦力は第105軍事基地の駐留艦隊、艦載機は全て使用する。また、現地にてE.G.F第81独立艦隊と合流する事となっている。少数精鋭の中でもトップクラスの猛者達だ。頼りにしても構わん」


 第105軍事基地の駐留艦隊と言うが戦力としては少ない。

 だが、三大国家軍の技術が組み込まれた艦艇と艦載機。例え、数で劣っていたとしても互角以上に戦えると確信している。


「それから作戦実行と同時に第105軍事基地は放棄する事が決定した。今作戦に於いて第105軍事基地は使命を果たす事となる。作戦終了後は合流ポイントにて回収し、別の軍事基地への配属となる」


 全ての戦力を放出する事となったE.G.F第105軍事基地。

 例え、戻る事が出来たとしてもエルフェンフィールド軍の護衛艦隊とデルタセイバーを相手にするのだ。


 恐らく半数以上は帰還出来ないだろう。


「デルタセイバーの性能に関しては諸君達も多少は聞き及んでいるだろう。だが、簡単な説明と対策を伝える。ブラン技術大尉、後は頼む」


 そして、基地司令官はブラン技術大尉と場所を変わる。

 ブラン技術大尉は敬礼しながら本題に入る。


「皆さん、お疲れ様です。GXT-001デルタセイバーの性能は現存するAWを大きく凌駕しています。高い火力、エネルギーシールドによる防御力。更に重力下では飛行も可能です」


 今まで集めたGXT-001デルタセイバーの戦闘映像を映し出し、その性能の高さを説明して行く。


「光学兵器の殆どは防がれます。実弾兵器もエネルギーシールドの厚さによって減衰、または防がれます」


 改めて見てもデルタセイバーの性能は異常だ。

 通常のAWと殆ど変わらない大きさなのに、性能だけが突出し過ぎている。


 例え、エルフ独自の魔術や魔法を組み合わせたとしても限度はある筈。


 にも関わらず、想定以上の性能を出している様に見えるのは気の所為だろうか?


「しかし、ある一定の速度に於いては物理的な接触が可能となっています。この映像をご覧下さい」


 ブラン技術大尉は別の映像を映し出す。

 それは惑星ニュージェネスで起きた戦闘の一つだった。

 だが、この戦闘がデルタセイバー攻略の足掛かりになる可能性が高いのだ。


「これはデルタセイバーとZXGT-01ウシュムガルとの戦闘映像になります」


 ZXGT-01ウシュムガル。地球連邦統一軍が保有する戦略級AW。

 機動力は低いものの、高い火力と防御力は本物であり、拠点防衛や拠点攻略では猛威を振るう。

 映像では飛行するデルタセイバーに多数の武装を使い、攻撃を行うウシュムガルが映し出されていた。


「この場所です。この時、デルタセイバーはウシュムガルの右手武装を破壊。直後にウシュムガルに間合いを詰めます。しかし、ウシュムガルの予備の右手武装からの不意打ちを受けます」


 そして、ある映像で画面が止まる。

 それはウシュムガルがデルタセイバーに追い詰められそうな瞬間、突如としてウシュムガルからの不意打ちにより撃墜されたのだ。


「ウシュムガルの両腕有線飛行型ビーム砲の飛行速度は決して速くは有りません。デルタセイバーが押し負けたのは不意打ちによる攻撃が大きい要因ではありますが、右手武装の重量と推進力に押された結果です」


 デルタセイバーを巻き込みながら建物に突っ込んで行く。

 そして、ウシュムガルの持つ大量の武装で追撃されていた。


「また、この接触の際にはエネルギーシールドの発生は確認されていません。つまり、ウシュムガルの飛行ビーム砲と同速度でならエネルギーシールドは起動しないと考えています」


 再びデルタセイバーとウシュムガルの戦闘シーンが映し出される。


「不確定要素が多い事は承知しております。しかし、現状デルタセイバーのエネルギーシールドを機能させない武装はコレしか有りません」


 ブラン技術大尉も確定要素としては不安が残っているのだろう。

 だが、既に時間が無いのだ。デルタセイバーが宇宙要塞に封印されれば、二度と手に入れる事は出来ない。


 限りある情報でデルタセイバーを攻略しなくてはならないのだ。


「対AW鹵獲用電磁ワイヤーです。既に武装は用意しています。デルタセイバーと直接戦闘する機体は全て装着して下さい」


 AW、MWの電子機能にダメージを与える為の武装。

 主に対テロ部隊や特務部隊で使用される事の多い武装だが、出力を高めれば敵パイロットにもダメージを与える事も可能だ。

 問題点があるとすれば扱い難い、射程の短さ、当てる事が困難な事だろう。


「質問はあるかね?」


 しかし、伊達に秘密結社E.G.F所属のメンバー達では無い。

 寧ろ、望む所だと言わんばかりの表情をしている。


「無いようだな。それから、デルタセイバーの戦闘データは既に最新の物がシミュレーターに移されている。調整はしっかりと行え。以上だ」


 司令官が敬礼すると隊員達は答礼する。

 隊員達は直ぐにパイロットスーツに着替えてシミュレーター室へ向かうだろう。


 例え、今作戦が汚れ仕事だとしても彼等は忠実に任務を熟すだろう。


 秘密結社E.G.Fに入った時に覚悟は出来ている。


 自分達の行いが宇宙の治安を守ると信じている。


 故にエルフェンフィールド軍への攻撃に対し躊躇する者は一人も居ないのだ。





 現在、エルフェンフィールド軍は突然現れた大量の宙賊の対処に追われていた。

 エルフ達が排他主義的な所があるのは事実だ。だが、この広い領域を全て自分達だけで守る事は不可能に近い。

 その為、指定宙域の防衛を任せる形で他惑星国家と同盟を組む事はある。

 また、防衛を任せるに当たって同盟惑星国家には輸出モデルの兵器を送っていたりもしている。


 しかし、その同盟惑星国家から増援が要請された。


 今まで宙賊が暴れて民間船や企業の輸送艦隊を脅かす事はあった。

 だが、この一週間で宙賊の出現率が平均の1200%を超えた。


 そう、宙賊が大規模な艦隊を率いて現れたのだ。


 本来なら有り得ない事が起きている。

 宙賊の装備も上物では無く、旧式の艦艇、AW、MWばかり。それでも中にはASを保有している情報も入って来ている。


 最早、パトロール艦隊だけでは対処出来ない事案となっている。


 同盟惑星国家も指を咥えて見ている訳では無い。自軍の艦隊を出して迎撃に向かっているのだが、次から次へと新手の宙賊が現れて来ているのだ。

 宙賊の艦隊を撃退する事が出来たとしても、新手の艦隊と合流されて再び現れる。

 既に経済にも影響が出始めており、このままでは打撃を受けてしまう。

 無論、エルフェンフィールド軍も同盟惑星国家に向けて艦隊を向かわせている。しかし、無尽蔵に現れる宙賊艦隊の対処は困難を極めていた。


 そして、この宙賊の裏には三大国家の存在があると確信もしていた。


「確固たる証拠は無い。だが、状況的にそうとしか考えられんか」


 セシリア准将は戦艦アルビレオの艦橋に居た。

 既にオペレーター達は艦隊の出撃準備の確認作業をしている最中だ。


「アルビレオは先の戦闘で弱点が露呈してしまいましたからな。そうなれば、デルタセイバーを抑え込む様に圧力を掛ければ良いだけですが」

「上の連中が欲張り過ぎたな。三大国家から睨まれるのは当然の結果か」

「えぇ、その通りです。恐らくですが……」


 副官は若干眉間に皺を寄せながら呟く。

 間違い無く三大国家の艦隊は来る。自分達の痕跡を残さない秘密裏に作られた艦隊がだ。


 だが、この短期間でその様な戦力を用意出来るのだろうか?


 幾ら三大国家とは言え互いに協力出来る関係では無い筈。


 故に多数の傭兵企業が相手になるとセシリア准将は考えていた。


「分かっている。連中は必ず来る」

「しかし、我々の運はまだ尽きていません。間も無く増援艦隊が来る時間です」


 副官が言うのと同時にレーダーにワープ反応が出る。

 空間が僅かに歪みワープホールが出現。一際大きなワープホールから巨大な船体が姿を現す。



 超級戦艦サザンクロス



 戦艦の3倍以上大きさを持つ巨大な船体。

 多数の武装と艦載機を保有。更に戦艦以上の火力、装甲厚、高い威力を誇る収縮砲。

 その大きな船体と重厚な存在感は艦隊旗艦として相応しい能力を持つ。

 超級戦艦サザンクロスを筆頭に巡洋艦8隻、駆逐艦10隻、フリゲート10隻が合流した。


「セシリア准将、超級戦艦サザンクロスより通信です」

「繋げてくれ」


 オペレーターが超級戦艦サザンクロスと通信を繋げる。

 モニターにはチョビ髭と顎髭が整えられ、若干の小皺が目立つものの衰えを見せないシブメンのイケてる軍人が映し出された。


『超級戦艦サザンクロス艦長、マッセナ中将だ』

「戦艦アルビレオ艦長、セシリア・ブラッドフィールド准将です」


 互いに敬礼をしながら挨拶を済ませる。

 最初に口を開いたのはマッセナ中将からだった。


『セシリア准将、君の功績は聞いているよ。同じエルフェンフィールド軍人として非常に誇らしく思う』

「光栄です。マッセナ中将」

『うむ、准将も予想はしているだろう。宇宙要塞リーベスヴィッセンへ向かう道中、必ず波乱は起きる』

「はい。承知しております」

『ならば話は早い。命令を伝える。戦艦アルビレオ及び護衛艦隊は所属不明勢力と接触しようとも強行突破せよ。全ての敵勢力は超級戦艦サザンクロスと我が艦隊が対処する』


 マッセナ中将は鋭い視線をセシリア准将へ向けながら命令を伝える。

 同時にマッセナ中将の雰囲気が一瞬だけ変わる。


 まるで、これから来る敵に対して戦意を燃やしているかの様に。


 セシリア准将は少しだけ気後れしながらも苦言を呈する。


「しかし、超級戦艦を守るには……些か、艦艇の数が不足しているかと」

『承知している。今作戦に於いて、超級戦艦サザンクロスを無理矢理護衛に回したのだからな。それに、現状では他の艦隊に余裕がある訳では無い』


 宙賊艦隊による大規模な攻勢。

 目的は略奪や艦艇の拿捕。また、民間人を多数人質にすれば多額のクレジットを要求される。

 そうなってしまえば秩序は乱され、エルフェンフィールド軍を筆頭に自治軍に対する民衆の信頼は軒並み低下するだろう。


 何より、エルフェンフィールド軍が持つ高い技術力と言うブランドに大きな傷が付く。


『それから、もう一つ。索敵にはレーダーだけに頼るな。目視での監視員を配置。また、偵察機による常時防空監視を行う事とせよ』

「了解しました」

『恐らくだが……敵は、傭兵企業では無いだろう』

「では、やはり三大国家の艦隊が?」


 セシリア准将が問い掛けるが、マッセナ中将は首を横に振る。


『分からん。だが、必ず()()は来る』

「奴等……ですか。三大国家では無い別勢力の可能性があると?」

『いや、三大国家の連中なのは間違い無い。断言しよう。無論、確証は無いがな』


 マッセナ中将は何かを知っている。だが、確実と言える情報が無い可能性が高い。


(軍上層部でも情報を掴めて無いのか。三大国家でかなりの秘匿性が高い軍隊とは一体……)


 見えない敵。だが、確実にソレは迫って来ている。


「分かりました。警戒は強めておきます」

『それで構わん。それから、我が艦隊の被害は気にするな。兎に角、セシリア准将は宇宙要塞リーベスヴィッセンに入る事を最優先としろ。そうすれば連中とは言え手は出せん』


 マッセナ中将は通信を切る。そしてセシリア准将は思案顔をしながら椅子に座る。


「マッセナ中将殿は何か知っていましたな」

「あぁ、だが中将殿も敵の詳細は分から無いと見た。三大国家にも秘密裏の軍隊がある可能性が高くなったが」


 それでも、エルフェンフィールド軍の兵器群は三大国家より質も性能も上な筈。

 そもそも、性能面だけで見るなら宇宙一を自負している程だ。


(だからと言って艦艇やAWの性能は我々の方が圧倒している筈。物量戦術を基本としている三大国家に突出した兵器は少ない)


 それともデルタセイバーとはまでは行かないものの、ZCM-08ウォーウルフの様な次世代機を配備しているのだろうか?

 仮に配備したとしても少数部隊なのは明白だ。三大国家のAWを全て次世代機に更新するなど到底無理な話だ。

 現に三大国家の第二線級戦力の大半は一世代、二世代前の旧式で固められているのだから。


「デルタセイバーは出撃させる訳には行かんだろうな。各艦へ通達、監視員を配置させ目視による対空警戒を厳とせよ……とな」


 不安が未だに残るものの、間も無く出撃時間だ。


 臨機応変に対応する。


 軍人として、様々な戦場に出向いた経験を活かす事を念頭にセシリア准将は指示を出して行くのだった。







 一隻のステルス艦が近くで見ている事に気付かぬままに。

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