表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/282

死者に代わって祈りを捧げる

誤字報告、感想ありがとうございます。

凄く助かりますし、励みにもなりますので感謝です!

 俺は第七兵器開発課に戻り、ママから得た情報をカヲリん達に説明する。


「それは本当なの?」

「本当だよ。兎に角、ASを急ピッチで組み上げてくれ。時間が無い」

「やだぁん。徹夜する事になりそうじゃない。お肌が荒れちゃうわん」

「喧しいわ。良いからやれっての」


 カヲリんが体をクネクネさせながら悶えてるけど無視する。目の保養にならないからな。


「しかし、本当にそれでやるんですか?言っては何ですが、AWの方だって満足な実機テストは出来ませんよ」

「リンク・ディバイス・システムがあるとは言え、搭載されるプラズマジェネレーターは従来の物より出力が圧倒的です。それに、試作段階ですので突然暴走する可能性だって」

「キサラギさん、やはり無理ですよ。唯でさえ勝てる見込みが少ないのに、時間すら無いなんて。このまま続けたとしても無駄死になるだけです」


 技術者や整備士達が口々に否定的な意見を出す。


「全く、どいつもこいつもネガティブな事を言いやがって」


 相手はデルタセイバーだ。こんな調子で作業に掛かられたら機体の方にも影響が出ちまう。

 俺は発破を掛ける為に声を大きめにして指示を出す。


「いいか、よく聞け。AWに関しては完璧に仕上げろ。ASは通常操作で良い」


 この際ASは切り捨てる気持ちでやる。元々デルタセイバーと戦う前の護衛艦隊用の装備に過ぎない。

 途中でAWの姿を晒しても問題無いだろう。


「それから、AWの武装は既に決めてる。向こうが想定してない武装だから不意打ちでなら勝機はある」


 俺が相手だと分かれば、クリスティーナ少佐も多少は考えるだろう。

 AWと武装に関して色々と考えて想定するだろう。


 それが命取りになるって事も知らずになぁ。


「想定してない武装ですか?」

「あぁ、普通の奴は操作出来ない武装。クリスティーナ少佐が俺だと分かれば尚更不意を突き易くなる」

「ビットとかですか。しかし、キサラギ少尉は適性は無かった筈では?」


 その通りだ。俺には適性が無い。

 特殊兵装系は普段の俺なら操作不可能だ。


 だが、俺にはレイナがある。


「世の中には例外ってモノもあるのさ」


 俺は不安そうな表情をする連中に対してニヒルな笑みを浮かべるのだった。




 三日間。カヲリん達はほぼ不眠不休で作業に従事してくれていた。

 無論、バンタム・コーポレーションが普通は認めないだろう。

 だが、デルタセイバーとの戦闘データを全て渡すと言うと快く了承。更に今持っている高速輸送艇ではASが搭載不可能だったので、大型クラスの高速輸送艇と交換する手筈も整えてくれた。


「もう、後戻りは出来ないな」


 人工太陽による朝日を見ながら俺は静かに黄昏る。

 無論、俺も黙って待ってた訳じゃない。

 デルタセイバーとの戦いに向けて勝率の低いシミュレーターを何度も行った。


 それこそ不眠不休でやり続けた。


 だが、この位の事を達成できなきゃデルタセイバーには絶対に届かない。

 ASの方も操作に慣れれば一個艦隊くらいならどうとでもなった。

 それでも三個艦隊相手に勝利を無理矢理捥ぎ取る必要がある。


 何度もやり直し、時にはデルタセイバーとタイマンするシミュレーターもやり続けた。


 やれる事はやった。後は実戦で証明するだけ。


「待っててくれ。必ず……必ずだ、俺が生かされた結果の証を刻み込んでやる」


 だから……まだ、成仏するんじゃねぇぞ。


「マスター、AWの調整完了しました。また、ASの方に関しても実戦での使用は可能との事です」

「そうか。ご苦労だったな」


 背後からネロが現状の報告をしてくれた。

 どうやらギリギリ間に合った様だ。最悪、間に合わない事も想定していたが杞憂に終わって良かった。


「ネロ、お前にも色々世話になって来たな。今更言うのも何だが、改めて言わせてくれ。有難うな」

「マスターのお役に立てた事を光栄に思います。それで、出撃はいつ頃に?」


 相変わらずクールな奴だ。

 まぁ、戦闘補助AIが自我に近いモノを持ってる事自体が異常なんだが。

 だが、それがネロの良さなのだろう。


 だからこそだ。此処で、お別れしないとな。


 俺はゆっくりとネロの方を見る。

 アンドロイドボディ姿のネロ。それは俺の趣味全開の美しい女性姿となっている。


 本当に綺麗な女だなと感心してしまう程だ。


「出撃は俺だけだ」

「マスターだけですか?では、私は元のボディに戻っておきます」

「いや、その必要は無い」


 俺はネロに近付き姿勢を正す。ネロも違和感を感じたのか少しだけ眉を顰める。


「本日を以て、お前を解放する。ご苦労だった」

「解放……ですか?しかし、私は唯の戦闘補助AIです。解放されたとしても」

「そこは安心しろ。既にカヲル主任に話は付けてる」


 優秀な戦闘補助AI。戦闘だけでは無く、作業の補助も可能な万能タイプだ。

 カヲル主任や他の連中も実際に作業してる姿は見てたからな。断る理由は無かった。 


「少ない額だが、コレだけ渡しておく」


 ネロの手を取り現金300万クレジットの入った封筒を渡す。

 IDカードでも良かったんだが、現金の方が問題無く使えるだろうからな。


「今まで良く耐えてくれた。初戦の頃はどうなるかと思っていたがな。まぁ、ウシュムガルでは命拾いしたからな」


 ネロを手に入れてから色々な激戦を潜り抜けて来た。

 俺の無茶に文句無く付いて来た。それだけで充分だった。

 これから先は本当の片道切符だ。その切符をネロに持たせる訳には行かない。


「本当はもう少し多く渡したかったんだがな。残念だが、その額しか残せなかった」


 高速輸送艇や専用の整備士達を雇う金は貯めていた。

 だが、その貯金は全て対デルタセイバー用のAWとASによって消えた訳だが。

 これでも足りない額だった。だが、デルタセイバーとの戦闘データを条件に譲歩して貰ったのだ。俺とデルタセイバーの戦闘中には、観測機が逐次データを受け取れる様になっている筈だ。


 間違い無くステルス艦が追従して来るだろう。


 エルフェンフィールド軍にバレたら色々ヤバい事になる。


「マスター、私は最後まで付いて行く事を望みます。ですから……」

「そこまでだ。俺が決めた事だ。野暮な事を言うのは無しだぜ」


 俺はネロの唇に人差し指を当てる。

 それでも口を開こうとしてたので、もう一言だけ伝える。


「それにだ。男の最後のカッコつけだ。黙って受け入れてくれ。頼むよ」

「…………お待ちしております。貴方が帰還する事を」


 ネロも良い女になったな。

 俺はネロの肩を軽く叩きながら、第七兵器開発課の格納庫へと向かう。

 ネロは付いて来る事は無く、唯静かに俺の背中を見続ける。




 第七兵器開発課へ戻るとASの中にAWが搭載される途中だった。

 AWをASに搭載するのだから、ASは大型にせざるを得ない。だが、大型にすれば搭載出来るプラズマジェネレータには余裕が出来る。


 より出力の高いプラズマジェネレータが搭載可能になる。


 無論、被弾するリスクは上がる。だが、多数を相手する事を想定している時点で無意味な事柄に過ぎない。


「カヲリん。準備の方はどうだ?」

「一応完成したわ。ASは通常操作。AWはリンク・ディバイス・システムが可能よ。間違えないでねん」


 少し肌艶が無くなったカヲリん。他のメンバー達も疲労困憊な状態だ。

 ギリギリな状況だったが間に合わせてくれた事には感謝しか無い。


 金に余裕があったらボーナスくらい渡したいくらいだったがな。


「俺のリクエストしたエンブレムは?」

「勿論AWの方に塗装済みよん」

「パーフェクトだ」


 クレーンとアームを使いASの内部に武装を施されたAWがゆっくりと搭載される。


「各部の接続位置を確認!」

「ズラすなよ。慎重にやるんだ」

「冷却剤、燃料の注入を開始」

「ASの武装再チェックだ。弾詰まりなんてさせるなよ!相手はデルタセイバーと艦隊になるんだ!」

「こんな無茶な装備初めて見るよ。これが……覚悟の違いってやつなのか」

「ボサッとするな。システムチェックは万全にしろよ。時間は無いんだからな」


 慌ただしく機体に群がりながら、作業を次々と終わらせて行く整備士達。


 俺は静かに深呼吸をする。

 間も無く出撃だ。俺は改めてカヲリんに感謝する事にした。


「無理無茶な事を頼んで悪かったな。だが、本当に感謝してるよ」

「……死に行く者の為に、最大限の事をしてあげただけよ」

「それでもさ。お陰で間に合う事が出来た」


 死に行く者……か。今の俺には妥当な名称だな。


「キサラギ少尉。例え、デルタセイバーを破壊出来たとしても貴方はお尋ね者になるわ」

「知ってる」

「それでもやるのね?今ならまだ引き返せるわ」

「俺は死に行く者なんだぜ?引き返すと思うか?」


 皮肉っぽく言うが、カヲリんは真剣な表情のままだ。


 そして姿勢を正し敬礼をする。


「幸運を祈るわ。貴方が無事に目的を達成する事を」


 それに対し、俺も姿勢を正し答礼する。


「そちらも、バレない様に上手く立ち回れよ」


 お互いの健闘を祈る戦友の様に。




 俺は高速輸送艇のコクピットに座りシステムを立ち上げてチェックする。


「ネロ……は、居ないんだったな」


 つい、癖でネロに頼ろうとしてしまう。

 長い付き合いでは無かった筈だ。だけど、ネロはいつも俺の味方で居てくれた。


「別れて正解だったな。この片道切符は俺達だけで充分だからな」


 モニターを見ながら高速輸送艇の格納庫にASが入り固定された事を確認する。

 ASの内部にはAWが搭載されている。そして、AWの中には()()が搭載されている。

 いや、搭載してしまったと言って良いだろう。


 本当なら破壊した方が良い。


 レイナも、きっとそれを望んでいる筈だ。


 なのに俺は諦めきれなくて、リンク・ディバイス・システムに手を出した。


「レイナの為、タケルの為……戦友達の為。どの口が言うんだよ」


 本当は分かっているんだ。


 誰かの為なんかじゃ無い。俺自身の為なんだって。


 それでも、記録だけでも残してやらないと。


 歴史に残らなくても、記録に残る事さえ出来れば。


「俺達の存在を無かった事には出来ないさ。そうだろ?」


 返事は無い。

 当たり前だ。今居るコクピットには俺しか居ないんだ。

 それに、生憎と俺には霊感は無い。レイナ達が残っているのかも分からないままだ。


 まぁ、自殺紛いな事をしようとしてる奴だ。普通は放置するだろうがな。


『キサラギ少尉聞こえる?間も無く出撃時間になるわ』

「あぁ、そうだな。カヲリん、最後の最後まで迷惑掛けたな」

『……そうね。良い男とは程遠い行いよん?』

「フッ、違いない」


 俺はカヲリんの言葉に同意しながら高速輸送艇の最終チェックを終わらせる。


 もう、後戻りするチャンスは無い。


 前へ進むのみ。


「さて、そろそろ行くよ」

『分かったわ。作業員は直ちに退避しなさぁい。でないと、宇宙に放り出されちゃうわよん』


 カヲリんの言葉に作業員達は素早く格納庫から出て行く。

 そして誰も居なくなった事を確認すると格納庫ハッチが開く。


『カタパルトとの接続完了よ。準備は良い?』

「あぁ、いつでも良いぜ」


 操縦レバーを前に押し出し、メインブースターを吹かし始める。

 格納庫ハッチが完全に開くと、ガイドビーコンが展開される。


「シュウ・キサラギ少尉、ヴィラン1、出るぞ」


 カタパルトから勢い良く射出される。

 慣れ親しんだGが身体を押さえつけて来る。


「目標座標確認。ワープ充填開始」


 徐々に感覚が変わり始める。


 戦う為の精神に切り替わる。


 躊躇も、戸惑いも必要無い。


 デルタセイバーを破壊する。


「ワープ開始。さぁ、始めるぞ。俺の……俺達の最後の戦いを」


 目の前にワープホールが展開される。

 大型クラスの高速輸送艇とは言え、何度かワープを繰り返す必要はある。

 航路を見ても大通りを使っているので、余程の事が無い限り敵性勢力と出会う事は無い。


 俺は自動操縦に切り替えてAWへ向かう。


 AWのコクピット内が俺の棺桶になる可能性が高いからな。


「まぁ、俺にはお似合いの場所だがな」


 俺は笑みを浮かべながらAWのコクピットハッチを開ける。


 この世界に来て、ゴミ捨て場で見つけたボロボロになった人型機動兵器のコクピット。


 興奮したのを今でも覚えている。


 その興奮は今も色褪せる事は無い。


 AWの存在があったからこそ、俺は最後まで腐る事無く成り上がれる事が出来たんだからな。


「やっぱり……人型機動兵器ってやつは最高だな。浪漫がある」


 コクピットハッチを閉めて静かに目を閉じる。


 恐怖は無い。寧ろ、安心出来る数少ない場所だ。


 目標座標まで時間は掛かる。だけど、コクピットの中に居れば落ち着いて行ける。


 目を閉じて安心している俺の後ろ姿をOSX-017は見つめ続けた。


 大切な人を愛でるかの様に。


 静かに見つめ続けたのだった。






『……行ってしまったわね』


 ワープホールに突入して行く高速輸送艇を見送るカヲル主任。

 きっと、生きて帰って来る事は無いだろう。既に自分自身が生きる事を諦めていたから。

 だけど、不思議とAWに関わると表情に力が湧いていた。


『因果な物よね。殺しの為に使うAWに対して可能性を抱いているだなんて』


 もしくは、単純にAWが好きなのかも知れないけどねん。

 アレだけの決意を抱いていたのにも関わらず、AWに関してだけは子供の様に興奮していた。


『だからこそ、だからこそなのよ。死者に捧げても、生者には何も還って来ないのよ』


 生き続ける選択肢もあった筈。


 連邦領内なら名誉市民として、色々優遇された生活を歩めた筈なのに。


 何なら、バンタム・コーポレーションに来てくれても良かった。


 キサラギ少尉。貴方は自分が思っている程、安い命じゃ無いのよ。


 その全てを蹴って無謀にもデルタセイバーに挑む事を選んだ。


『せめて、奇跡が起きる事を願うわ。死者に代わって……ね』


 私は、願わずにはいられ無かった。


 何も出来ない死者に代わって。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 頼む、頼むから……どうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ