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惑星ユリシーズ

  セシリア大佐が再び口を開くと自然と皆静かになる。


「諸君達も色々言いたい事はあるだろう。だが今はリリアーナ様の救出を第一に考えろ」


  その言葉に全員の意識が切り替わる。それを感じたセシリア大佐は概要の説明に入る。


「これより三時間後に開始されるオペレーション・ヴァルキリーライセスの概要を説明する。第一段階は惑星ユリシーズ軌道上に集結しているセクタル……いや、ダムラカを中心とした敵艦隊に対し攻撃を開始する」


  スクリーンに映し出されたのはエルフ艦隊がユリシーズ軌道上のダムラカ艦隊に対して攻撃を仕掛ける様子。この時点で先制攻撃を行えるのが理想だ。


「第二段階で対ビーム減衰粒子搭載のミサイルを射出。敵艦隊の前面に散布後AW部隊の突入を開始。そのまま敵艦隊及び敵機動部隊に対し攻撃を行う」


  この時に一斉にAW部隊を敵艦隊群に突入させて中から食い破るつもりだろう。勿論対ビーム撹乱粒子があるのでビーム兵器の威力は低下する。その代わり、敵艦隊のビーム攻撃の性能も著しく落ちるだろう。

  だが腐っても艦隊だ。実弾仕様の副砲に対AWミサイルに対空砲もある。生半可なやり方では被害は此方が大きくなるだろう。


「この時此方の艦隊を前面に出す。そして旗艦アルビレオ及び巡洋艦のビーム砲台の威力増加を施しながらAW部隊の援護を行う。無論駆逐艦、フリゲート艦による援護も行わせる」


  艦隊の前進。俺達の様なAW部隊には有難い事だが一歩間違えれば味方艦隊そのものの被害が大きくなる。正に正念場となる戦いになるだろう。


「尚、これらの行動は全てブラフだ。本命は第二段階開始と同時にリリアーナ様救出の為、実験施設に対して実施する軌道上からの降下作戦だ」


  もう一つの作戦の同時進行。無論敵も馬鹿じゃない。味方の艦隊が攻撃されれば直ぐに移動し脱出しようとするはずだ。それを未然に防ぐのが目的だろう。


「降下戦力には陸戦隊及び一部AW部隊を投入する。今から降下作戦における部隊を選抜する。ファング中隊、マッド中隊、そしてトリガー5だ」


  全部で二十五機のAWが投入される。そして陸戦隊の戦車、装甲車、強化外骨格(パワードスーツ)が投入される訳……ん?


「トリガー5て誰だっけ?」

「お前の事だよ。どうやら運も尽きたみたいだなキサラギ。死ぬんじゃねぇぞ」

「あんた何したのよ。セシリア大佐にセクハラでもしたの?」

「成仏せよ」

「えっと……頑張ってね?」


  正直に言って実感が湧かないのが本音だ。そもそもAWの無い俺にどうしろと?まさか歩兵時代にリターンするんか?


「貴様が降下部隊に編入されたのはクリスティーナ大尉から推薦があったからだ。後で感謝する様にな」


  俺はクリスティーナ大尉を見ると何故かちょっと頬を染めてそっぽを向く。何処に頬を染める要素があるんだ?何処に感謝する要素があるんだ?

  アレか。クリスティーナ大尉のやつだけ全てデザート取ったから恨んでんのか。

  日頃の行いを思い返すと色々心当たりがあるのでプチ後悔。


「それから貴様の機体は現在マドックをベースに突貫作業で改修中だ。そんな不安そうな顔をするな。貴様の戦闘データが反映され操作しやすくなる筈だ。またプラズマジェネレーターに関しても軍用の物に換装しておく。感謝しろよ」

「素晴らしい対応に感謝しますよ。セシリア大佐殿」


  これはかなりハードな戦いになりそうだ。そしてセシリア大佐は再び作戦の説明に入る。作戦を聞きながら色々考えるが結局やる事は変わらない。

  要は撃って避けて斬り裂いて避けての繰り返しだ。


「ま、なるようになるさ」


 いつも通りやれば良い。それ以外に出来る事は無いのだから。





  惑星ユリシーズ軌道上にはダムラカ艦隊及びセクタル艦隊と宙賊、ならず者が多数集まり陣形を組んでいた。

  その中にはフリーの傭兵団【シルバーセレブラム】の戦艦ガーディも存在している。そして艦橋には団長のジャン・ギュール大佐が落ち着かない様子で座っていた。


「堪んねえな。もう直ぐドンパチが始まるってんだからよ。あー、早く戦いてえな!ええおい!」

「ちょっと興奮して部下を威嚇しないの。それよりあのキサラギって子本当に強いの?」


  そんなジャンの後ろから抱き着く美しい女性がいた。肌は褐色で銀の髪が波打つ。そして長い髪から特徴的な長い耳が飛び出ている。

  所謂ダークエルフと呼ばれる種族がいた。


「ジェーンか。俺の今の気持ちが分かるだろ?もう少ししたらキサラギの奴と戦える。こんな楽しい事はねえだろ」

「随分と入れ込んでるのね。確かに腕前は確かかもだけど所詮量産機乗りよ?ジャンが満足する相手には思わないわ」


  ジェーンは更にジャンに抱き着きながら前に移動し膝の上に座る。そして自身の整った顔をジャンの無精髭の生えた頬に擦り寄せる。


「その量産機相手に引き分けたんだよ。もし奴が俺と同じ機体に乗ったらどうなるか。マジで楽しみで堪んねえんだよ」

「ジャンがそこまで言うなんて珍しい。そのキサラギって子に少し妬いちゃいそうよ」

「ハッハッハッ!妬くな妬くな。エルフの嫉妬は闇金からの取立てよりエグいからな」


  ジャンは嫉妬を滲ませるジェーンにキスをする。するとジェーンの表情は蕩けてしまう。序でに嫉妬も何処かに蕩けてしまう。


「それにだ。思い出したんだ。俺も大概ネジが外れてるがアイツもかなりネジが緩んでる。後一押し何かがあれば化けるぜ」

「そんなに緩んでるの?」

「ああそうだ。何せキサラギは……」


  視線をジェーンから外し艦橋から見える宇宙空間を見る。すると艦内に警報が鳴り響く。そんな中ジャンはニヤリと口元を歪める。


「アーマード・ウォーカーに乗る為に傭兵になったんだからな」


  艦橋内が騒がしくなり全艦隊に第一種戦闘配備が通達されるのだった。




  セシリア大佐率いる艦隊は本国からの増援艦隊と共に惑星ユリシーズまでワープを行った。


「敵艦隊を捕捉しました」

「全艦隊に通達。前進しつつ陣形を整え」

「了解。全艦隊に通達」

「AW部隊出撃用意。繰り返すAW部隊出撃用意」


  旗艦アルビレオを中心に陣形が形成される。今作戦では巡洋艦に駆逐艦、フリゲート艦の旗艦役を担って貰い戦線の維持及び指揮を執る。無論アルビレオの周辺にも駆逐艦、フリゲート艦が揃っている。


「各艦隊陣形整いました。同時に駆逐艦隊射程に入ります」

「全艦隊攻撃開始!砲撃始め!」


  エルフ艦隊が砲撃をしたのとほぼ同時にダムラカ艦隊の砲撃が始まる。エルフ艦隊の青いビームとダムラカ艦隊の赤を中心として様々な色のビームが宇宙を彩る。

  その光景をみてセシリア大佐は不謹慎にも神秘的で美しいと感じてしまう。


「流石正規軍なだけありますな。中々統率が取れてます。幸いにも敵艦隊には超級戦艦が居ない事も有利ではありますが」

「その様だ。だが宙賊にならず者まで集めてる以上賊と大して変わらん」


  副官の壮年の男性と話す。だが彼女達は微塵も油断はしてはいない。どの様な形であれ第三皇女リリアーナ・カルヴァータを攫ったのは事実。その手腕とスパイ能力は群を抜いていると見ている。

  無論本国でもスパイに対する強制捜査を行っているがダムラカとの繋がりは依然見つかってはいない。


「AW部隊の出撃用意完了しました」

「対ビーム撹乱粒子ミサイル発射用意。AW部隊に通達。間も無く出撃だ。各員の奮戦を期待する。全艦隊に通達、作戦第二段階に移行せよ」

「了解。全艦隊に通達。作戦第二段階に移行せよ。繰り返す。第二段階に移行せよ」

「降下部隊出撃準備。降下ルートの再計算急げ」


  スクリーンに映し出されるのはリリアーナ・カルヴァータが監禁されてる資源加工施設。そして艦隊との距離と降下ルートが再計算されて表示される。


「降下タイミングは良いみたいですな」

「その様だな」

「全艦、対ビーム撹乱粒子ミサイルの装填完了しました。いつでも行けます」


  その言葉を聞き目の前の敵ダムラカ艦隊に視線を向ける。そして帽子のツバを掴み位置を整える。


「対ビーム撹乱粒子ミサイル発射!」


  そして対ビーム撹乱粒子が展開されたのと同時にAW部隊に出撃命令が下されるのだった。

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