呪縛の始まり
軍事企業QA・ザハロフの営業停止命令。
この命令が三大国家から発せられたのと同時に、リンク・ディバイス・システムの開発が続行されていた事が裏付けされた。
同時に大量の被験体の存在が事実である事の証明にもなってしまった。
軍事企業QA・ザハロフの株価が大暴落したのを皮切りに、関わりを持つ企業の株価も暴落。更に風評被害も合わさり被害が増して行く中小企業。
更に軍事企業QA・ザハロフから支援を受けていた組織や自治軍にとっては最悪だった。
今まで安定していた供給元が突然無くなったのだ。そして、その穴埋めは容易では無いのは誰の目から見ても分かる事。
結果として補給の目処が経たなくなった事から停戦、または敗退する状況が相次ぐ結果となった。
「マスター、今ならスマイルドッグに戻る事は可能と判断しますが。如何致しましょう?」
「そうだな。一度連絡は……止めておこう。盗聴されてる可能性は高いだろうし。取り敢えずスマイルドッグの位置を傭兵ギルド経由で調べてくれ」
「畏まりました」
軍事企業QA・ザハロフの失態。更に創設者であり経営者でもあったロイド・ザハロフの逮捕。
最早、軍事企業QA・ザハロフが建て直す事はほぼ不可能だろう。既にQA・ザハロフの縄張りとしていた場所には多くの企業が入り込んでいる。
お陰でQA・ザハロフとその傘下企業以外の株価は上昇している。
「本当は……俺が奴を殺したかったんだがな」
しかし、今のQA・ザハロフの状況を見ると、正直かなりスカッとしている。
この様な状況も、全てタケルの犠牲の上に成り立っている。
タケルは自身が死んだのと同時に、被験者達の映像を流出させる様に細工していたのだ。
主任と言う立場だったからこそ、実験映像を大量に別の所に保管させていた。
そして、自分達の様な悲劇は二度と起こさせない。
レイナを人柱としたOSを量産させる訳には行かない。
俺達の関係は修繕不可能だった。
だが、その想いは同じだったのだ。
だからこそ、これ以上の望みは必要無い。後は勝手に周りが追い詰めて行くだろうからな。
「尤も、報復の一つか二つくらいは来そうだけどな。やれやれ、厄介な置き土産を残してくれたもんだぜ」
それに、QA・ザハロフはリンク・ディバイス・システムの運用を前提とした新型AWの生産。そして、育成されたパイロット達の存在も明らかとなった。
詳細な情報は三大国家からの規制により閲覧する事は不可能となっている。
しかし、事実としてリンク・ディバイス・システムは運用可能レベルまで開発されていたのだ。例え、多くの犠牲者達の上に成り立っていたとしてもだ。
その性能は間違い無く、現在運用されているAWより頭一つ、二つ飛び抜けているだろう。
実際、俺も不意打ちがあったからこそ対応は出来た。
また、連中は連携を重視していなかったのも勝因としては大きかった。
後はパイロットが微妙だったのもあるな!間違い無いね!
しかし、リンク・ディバイス・システム搭載機であろうともだ。
あの機体に勝つ事は不可能だ。
断言する。リンク・ディバイス・システム搭載機が束になって戦ったとしても、勝つ事は難しいだろう。
何故なら、あの機体こそ唯一無二の存在なのだから。
「流石は主人公機様だよな。絶対的な勝利者って奴?フン……ムカつくぜ」
この一週間、俺はずっとこの調子だ。
今も治療しているので寝たきり状態だから尚更色々と考えてしまう。
レイナを殺した事。
タケルを殺した事。
引き継がれたOSの事。
これから先の事。
そして、戦友達は俺に全てを託して死んだ。
俺が希望だから。
「希望……か。此処まで来たら、引き下がれねぇよな」
傷だらけのM&W500と刃毀れしている刀を見ながら決断する。
レイナ達に幻想を抱かせてしまった。
なら、俺は最後までやり遂げる義務がある。
俺が希望である事を証明しなくてはならない。
それが……俺に出来る唯一の贖罪なのだから。
「レイナ、タケル、俺も直ぐに後を追う。だから……まだ、成仏するんじゃねぇぞ」
高速輸送艇は進路を傭兵企業スマイルドッグに向ける。
そして、俺は覚悟を決める。
世間に認められなくても構わない。
歴史に名が残らなくても構わない。
唯、決して消す事の出来ない傷跡を残す。
例え、その戦いで俺自身が死のうとも。
アタッシュケースから出された紅いOS。
OSは静かにシュウを見続ける。
これから先の出番を密かに待ち望みながら。
傭兵企業スマイルドッグへ無事に帰還する事が出来た。
宙賊やOLEMに絡まれなかったのは運が良かったと言えるだろう。
俺は痛む身体を無理矢理動かして立ち上がり、操縦席に移動する。
「マスター、そのまま横になった方が良いかと」
「いや、大丈夫だ。ずっと寝た切りだと身体が鈍りそうでな」
ネロの制止を無視して運転席に座る。
「此方、ヴィラン1。着艦許可を求む」
『IDを確認しました。お帰りなさい、キサラギ少尉』
対応して来たのは安心と安定のナナイ軍曹だ。
『社長から連絡です。傷を治療した後で良いので部屋に来る様にと』
「分かった。必ず後で行くと伝えといてくれ」
『分かりました』
ガイドビーコンが出て格納庫ハッチが開く。
高速輸送艇をガイドビーコンに合わせてから自動モードに切り替える。
後はオートパイロットで全てやってくれる。便利な世の中だよな。本当に。
『それから、キサラギ少尉宛に大破したAWが届いてましたが。如何致しますか?』
「ちゃんと届いたのか。そのまま置いといてくれ。暫くしたら持って行くからさ」
『……了解しました』
レイナが搭乗していた機体。
レイナの全てが注がれたOS。
エースパイロットである俺自身。
リンク・ディバイス・システム。
既に手札は揃っている。
俺は自然と笑みを浮かべていた。
これから始まるんだ。俺達の本当の戦いが。
『キサラギ少尉……その、何かあったのですか?』
「ん?あぁ、まぁ……色々な」
『そうですか』
珍しくナナイ軍曹から心配された。恐らく俺の顔に出てたんだろうな。
何か有りましたって感じでさ。同時に笑みを浮かべてたんだ。余計に気になってしまったんだろう。
「気になるか?」
『いえ、プライベートな事なら聞くのは遠慮しておきます』
「そうか。だが、それが一番良い選択だよ。ナナイ軍曹」
律儀な奴だなと思ってしまう。それがナナイ軍曹の良い所でもあるのだ。
「ネロ、後は任せる。機体の修理も手配しておいてくれ」
「了解しました。マスターは何方に?」
「最後のお別れってやつをな。じゃあ、後は頼んだぞ」
俺は一度パイロットスーツに着替える事にした。
最後にやる事がある。
パイロットスーツに着替えて、傷だらけのM&W500と刃毀れしているタケルの刀を持つ。
そして、高速輸送艇から降りて甲板へと繋がる通路へ移動する。
「ん?よぉ!キサラギ少尉じゃねえか!生きてたんだな!」
「ヨッシャ!俺の勝ちぃ!後で一杯奢れよ」
「あれ?おいおい、俺達を無視かよ。何かあったのか?」
途中、他の同僚に声を掛けられるが無視して行く。
もう、この場所に長く居続けるつもりは無い。
俺が居続ける限り傭兵企業スマイルドッグは軍事企業QA・ザハロフに狙われ続ける可能性が高いのだから。
「そう考えると、社長も案外甘いんだな」
治療を終えるまで残って良いと言った訳だからな。まぁ、状況をもう少し説明しないと駄目だった気はするけど。
俺は甲板に出る為にエアロックの扉を閉めて空気を抜く。そして宇宙へと繋がる扉を開ける。
「……静かだな。宇宙ってのはさ」
甲板の上へ降り立ち漆黒の宇宙を眺める。
徐々に目が慣れてくると星々の輝きが見えて来る。
星々の輝きは漆黒の宇宙を彩る。あの輝きの中には、多くの知的生命体が住んでる場所もあるかも知れない。
これだけ広い宇宙なのに、生命体が住める惑星は限られている。
だからこそ、ゴーストが生まれるのは必然だったのだろう。
誰かが下層階級に居なければ、この世界は保つ事が出来無いのだから。
「レイナ、タケル……俺は、俺達はまだ終わってない」
俺の手元にある二つの形見。
光に反射して輝く銃身と刃。
俺にとって爛々と輝く星々よりも、ずっとずっと綺麗に見える。
だが、俺にはコレしか残っていない。
どのくらいだろうか。ずっと二つの形見を眺め続けていた。
そんな時だった。背後で空気が抜けて扉が開く音がした。
「キサラギ少尉。こんな場所に居たんですか。まだ、傷が治って無い筈です」
「何だ?俺の心配でもしに来たのか?」
「そうです……少しだけですが」
「そうか……やっぱり、お前は良い女だよ。ナナイ軍曹」
宇宙服に身を包んでいるナナイ軍曹。どうやら俺を探しに来たらしい。
「皆、貴方の事を内心では心配しています。声には出しませんが」
「ククク……素直じゃねぇな。全く、俺が負傷しただけで不安がるなよな」
何だかんだと言いながら、俺は少しだけ嬉しかった。
傭兵企業スマイルドッグ。此処に所属出来た事を誇りに思う。そして、頼れる同僚達に出会えた事に感謝したい。
だが、出会うタイミングが遅過ぎた。
結局、俺はまだ前に進む事が出来ていないのだから。
「……その銃と刀は?」
「……俺の過去そのものさ」
レイナからプレゼントとして貰ったM&W500。
タケルがレイナを守り続けた刀。
「ごめんな。何も……してやれなくて」
静かに銃と刀に語り掛ける。
「忘れないから。お前達の事……絶対に忘れないから」
俺が出来る事。
2人の死を無駄にさせない。
戦友達が俺を生かした結果を残す。
「もう少しだけ、待っててくれ。必ず、必ず……」
過去に浸る時間は終わりだ。俺は前に進まなくてはならない。
例え……その先が破滅へ続く道であろうとも。
「だから……さようなら」
俺は銃と刀を宇宙へと手放した。
ゆっくりと俺から離れて行く。
光に反射して輝きながら離れて行く。
もう、二度と手にする事は出来ない。
涙は出なかった。当然だ。もう、俺には泣く権利なんて無いんだから。
「あの、宜しいのですか?大切な物だったのでは?」
「良いんだ。これで……これで、俺は前を向いて行ける」
ナナイ軍曹の心配そうな声で聞いて来る。
だから、俺は何も問題無い様に言う。
事実、もう過去に浸る必要は無くなったのだ。
「そうですか。それは、良い事なのでしょうか?」
「勿論だ。レイナの事も、タケルの事も……全部、これで終わりになるんだ」
「なら、良かったです。少しだけですが、心配しましたので」
少しだけ明るい声になる。
この時、ナナイ軍曹は一つの勘違いをしてしまった。
ナナイ軍曹の中ではキサラギ少尉が本当に前に進むと思っていた。
キサラギ少尉がレイナと言う亡き女性を慕っている事は知っていた。
死者が生者を縛る。
キサラギ少尉は間違い無く死者に、そして過去に縛られていた。
だからこそ、前を向いて行けると聞いて嬉しく思うのは当然だった。
1人の女性として、1人の想い人として喜ばしいと感じるのは。
「良いんだ。これで…………」
だから、最後にキサラギ少尉が言った台詞を聞き逃してしまった。
僅かな声で呟いた独り言。
その独り言こそが、シュウ・キサラギの本音だったのだ。
これで……失うモノは無くなった。
To be continued……
やったね!全ての過去から解放されたよ!
これは実質ハッピーエンドと言っても過言では無いよね!(鬼畜の所業)
と言う訳でお疲れ様でした。第五章は終了となります。
毎度の事ながら長期更新停止してますが、ちゃんと完結は目指してますので安心して下さい。
今回の話も過程はどうあれ、色々決着が付いたのは良かったかな?と思ったりしてます。
その代わりに主人公のメンタルが逝きましたけど()
まぁ、多分大丈夫でしょう!ヘーキヘーキ!
本来ならこのまま続きの話も書こうかなと思ったのですが、話の内容的に第五章で区切った方がいいかな感じまして終わりにしました。
続きは第六章でお会いしましょう〜。
そして、いつも誤字報告感謝してます。お陰で本当に助かってます。1人で書くと気付かないので難しい所です。
最後に、この小説III count Dead ENDを気に入って頂ければ幸いです。
もし、良ければ高評価、いいね、感想、レビューなどして頂けるとテンションめっちゃ上がります!
宜しくお願いします!それでは、第六章で!
何故?何故なの?何故、私達が戦わなければならないの!
彼女の頭の中で疑問ばかりが浮かんで来る。
それでも、目の前のAWは攻撃の手を緩める気配は無い。
様々な武装を的確に使用し、攻撃容易く回避する技量。
何よりデルタセイバーの弱点を知っているかの様な戦い方。
【記録に刻ませて貰う。この宇宙で最も強いデルタセイバーを破壊した存在として】
そこに価値はあるのか?
【あるさ】
今までのキャリアを捨てる程。
【必要無い。この瞬間の為なら】
命を賭ける程なのか。
【今、この時、この瞬間に……この命を使う。躊躇する理由など一欠片も無い】
歪でありながらも完成されたAWが迫る。
次回、記録に残す戦い
【歴史に名を残す必要は無い。俺達は、そう言う存在なのだから】




