過去の栄光と過去に囚われた男
レイナを殺し、タケルも殺した。
恋人と親友を失ってから一週間程が経っていた。
今の俺は高速輸送艇の中で深傷を負った場所を治療していた。
治療と言っても満足な医療機器は無い。精々、応急処置程度が良い所だろう。
だが、ネロのお陰もあり順調に治療は進んでいた。
「マスター、包帯を交換します。起き上がれますか?」
「……あぁ、今起きる」
タケルを殺した後、あの研究施設は爆発を起こして崩壊した。
理由は不明だが、タケルが死んだら爆発する仕組みだったのだろう。
レイナを徹底的に苦しめた研究施設だ。タケルにとって破壊する理由は充分だったのだろう。
だが、残された俺はどうすれば良いのか。
今の俺の手元にあるのは傷だらけのM&W500とタケルの形見とも言える刀。
そして、アタッシュケースだけだ。
あのアタッシュケースは5桁の暗証番号があった。だが、俺は暗証番号の答えを知らない。
鍵開けの奴に開けて貰うか、自分でハッキングツールを使って開けるかの何方かだ。
「5桁の番号かぁ。何かあったっけ?」
少し考えてみるが何も思い付く事は無かった。代わりに、これから先の不安要素が多過ぎて気分が萎えてしまう。
現状、今の俺の立場は非常に拙い。何故なら軍事企業QA・ザハロフに喧嘩を売った様な物だ。
レイナを殺し、惑星の防衛艦隊を壊滅させ、ナンバーズを始末。更にタケルを殺して研究施設は木っ端微塵になってしまった。
誰がどう見ても俺が犯人だと言っている様な物だ。
無論、多少の偽装はしたが焼石に水。所詮、俺が出来る事はAWで戦う事くらいだからな。
そんな状況でスマイルドッグに戻ったら巻き込む事は確実だ。
その為、俺は既に社長に簡潔に状況を説明して退職した。お陰で退職金代わりに高速輸送艇は貰えたけどな。
とは言え、状況が落ち着き次第一度戻る様に社長から命令された。
つまり、今の俺はフリーとして半端な傭兵って訳さ。
「あー、そう言えば一応あの番号も5桁だったな」
かつて俺達が所属していた部隊。
外人部隊第603歩兵小隊。
俺は自分の識別番号を入力してみた。
しかし、違っていた。
次にタケルの識別番号を入力してみた。
だが、これも違った。
最後にレイナの識別番号を入力してみた。
アタッシュケースの鍵が開いた。
「マジかよ。タケルの奴……単純過ぎだろ」
しかし、俺もタケルの立場なら同じ事をしていただろう。そして、タケルからは単純って小馬鹿にされたかも知れない。
だが、もう誰も残っては居ない。
俺は一度だけ深呼吸をしてからアタッシュケースを開ける。
中には紅い色をした丸い精密機械が保管されていた。
そして、その丸い精密機械にはリンク・ディバイス・システムに使われる接続部分も繋がっていた。
「これが……レイナの全てが注ぎ込まれたOSか」
レイナは破壊して欲しいと願っていた。
だが、何故タケルはこのOSを持って行こうとしたのだろうか?
暫くOSを眺めているとOSが僅かに光り始めた。
俺は、その光を見続けた。
何かが動いている。そう見えた。
だから、もっと近くで見たんだ。
この選択がレイナの願いを破る事になってしまった。
何故なら……中に、レイナの姿を見てしまった。
小さな姿で裸の状態で蹲りながら、俺を見続けるレイナ。
(違う。コレはレイナじゃない。レイナじゃ……ない)
俺は目が離せなかった。
もう、二度と出会う事は無い筈だった。
もう、二度と触れ合う事も出来ない筈だった。
だが、このリンク・ディバイス・システムのOSを使えば?
俺は考え続けた。だが、もう答えは決まっていた。
そして、俺に出来る事。
それこそが、俺が出来る最後の贖罪なのだ。
例え、関係の無い人々を巻き込む事になったとしても。
俺はきっと……後悔はしない。
この一週間、様々な者達の運命を変えた。
レイナとタケルが残した物。何も、それは小さな惑星内で収める必要は無かった。
タケルは己の立場を利用して、リンク・ディバイス・システムで大量に消費された被験者達の実験映像を保管していた。
タケルは信用されていた。リンク・ディバイス・システムを完成させるにはレイナの協力は必要不可欠だった。
故に、タケルはレイナのフォローとサポートを行い確実に成果を出した。
他の者達から見れば、身内を利用して主任と言う立場を手に入れた下衆野郎と思われていたくらいだ。
だからこそ、タケルは研究施設への出入りが許されていた。
だからこそ、多くの被験体を見て来た。
だからこそ、軍事企業QA・ザハロフにとって破滅的なスキャンダルを大量に保有していたのだ。
そして、タケルの死後。その大量の破滅的なスキャンダルはある一つの星系内で拡散された。
その星系はQA・ザハロフの影響力は殆ど無く、確実に多くの者達の目に入る事となった。
【特報!】リンク・ディバイス・システムを現在進行形で作ってるヤベー件について
1:無名の野次馬
禁止条約ガン無視とかスゲェよな。三大国家が動くのも時間の問題か?
2:無名の野次馬
あの映像が本物ならな。
3:無名の野次馬
てか、誰がやったんだよ。絶対に個人じゃ無理だぞ。何せ数が多過ぎる。
4:無名の野次馬
企業か、宗教か、軍から離反した宙賊か。まぁ、どっちにしろ株価の状態は常にモニターしといた方が良いな。
5:無名の野次馬
俺、あの映像途中で見るの止めたわ。悲鳴がさ……耳にこびり付いて離れないんだよ。
6:無名の野次馬
あの映像本物なのかな?正直な話、信じられんわ。
7:俺は本物だぞ
全部本物だよ。やっと確認が終わった。
8:無名の野次馬
嘘乙。あの映像が本物なら拡散した奴は間違い無く投獄送りだよ。
9:ハッキング大好きマン
いや、嘘とは限らんゾイ。ワイはハッキング系ギフト持っとるけど。
調べてみると結構キナ臭い案件になりつつあるで。
まぁ、そんな上等なギフトやないから時間掛かるけど。
10:俺は本物だぞ
最初に拡散した奴は知らんが。まぁ、死ぬ覚悟で拡散しただろうよ。
11:無名の野次馬
おいおい。今時、本物に限り無く近い映像なんて殆どじゃ無いか。どうやって見分けたんだよ?
12:俺は本物だぞ
電子の妖精舐めんなよ。因みに本物だと確定したのはNo.14222の映像。
あの映像に出てた人。傭兵ギルドの公式記録では2年前に戦死してた。
13:妖精アイドル⭐︎
因みに他にも正規市民で行方不明扱いの人達が居たからねー。
いやー、あの映像が全部偽物なら死者に対する冒涜だよねー。
あ、因みに私も電子の妖精でーす⭐︎
14:ハッキング大好きマン
はえー、電子の妖精が2人も居る事に驚きを隠せないワイがおる。
15:無名の野次馬
電子の妖精も本物かどうかも分かんねぇだろうが!
あ、因みに僕は共和国の方に映像の方は通報させて頂きました。
16:無名の野次馬
しかし、あの映像が全部本物だとしてだ。
幾つあるんだよ。
17:妖精アイドル⭐︎
全部で29953人だねー。
後、この人数でも全員分じゃないと思うけどねー。
18:無名の野次馬
3万超えは確実なの?それってヤバくね?
そもそも正規市民を巻き込んでる時点で三大国家が動く可能性が上がるってのに。
この実験を行なった奴等は馬鹿なのかな?
19:無名の野次馬
全宇宙からしたら大した数じゃないからヘーキヘーキ
20:無名の野次馬
ヘーキな訳無いだろ!良い加減にしろ!
21:無名の野次馬
一つ気になってるんだけど良い?
電子の妖精が凄いのは知ってるけど。どうやって本物かどうか見分けるのさ。
22:俺は本物だぞ
簡単な事だ。映像の中に入るんだ。
そこから情報を得る事が出来れば本物確定。
23:妖精アイドル⭐︎
映像の音声って色々入ってるんだよー。
それこそ本来なら聞こえ無い声も聞こえるのさー。
だから、心霊映像とかに入っちゃうと色々不味い事になるんだよねー
私は一度だけ入った事あるけどー。アレはもう無・理⭐︎
24:ハッキング大好きマン
ワイには理解出来無い世界やな。
因みに他にどんな音声が聞こえたんや?
25:俺は本物だぞ
被験体に対して過程を調べてるとか。
ゴーストよりエースパイロットの脳味噌が欲しいとか。
ナンバーズの安定化と新規AWの量産体制の話とか。
間違い無く大企業が関わってるな。こりゃあ、他の星系に居る連中にも調べて貰った方が良いな。
26:ハッキング大好きマン
しかし、アレやな。これだけ騒いでるのにワイらの星系内で火消ししようとする企業は無いよな?
何でウチらの星系で拡散させたんやろ?
27:妖精アイドル⭐︎
多分だけどー。少なくとも消せないくらい拡散させる必要があったんじゃ無いかなー?
火消しが居ないなら、後は勝手に広がるだけだしー。
多少時間は掛かるけどー。その辺りは良く考えてるなーって思った。
28:俺は本物だぞ
既に他の星系総合サイトにも拡散されつつある。
後はそこから火消しをしようとする個人か企業を調べれば良いだけだな。
29:妖精アイドル⭐︎
でもー、何か色々映像を調べてみるとねー。
ゴーストに対して色々考えちゃったなー。
特にレイナって人とタケルって人に関してはねー。
30:俺は本物だぞ
……そうだな。
レイナ、タケルは苦しみながらも足掻いていたかりな。
他人事ながら同情したよ。
31:ハッキング大好きマン
何があったんや?その2人に。
32:俺は本物だぞ
詳しくは言わん。だが、この2人も犠牲者だと言う事だ。
33:妖精アイドル⭐︎
長期間の実験。消えて行く自我。それを止められない無力感。
この2人だけでも悲劇のストーリーが出来るわー。
後、追加でシュウって名前も聞こえたなー。多分、この人も関係者かなー?
34:無名の野次馬
流石にレイナ、タケル、シュウだけじゃ分からんな。
まぁ、後は三大国家の連中頼みかな?
35:俺は本物だぞ
さて、俺はそろそろ消えるよ。逆探知されたら敵わんからな。
36:妖精アイドル⭐︎
私もー。じゃあねー。
37:無名の野次馬
流石、電子の妖精やな。関係無い話なのに狙われる確率が高い。
38:ハッキング大好きマン
そうやなぁ。せやけど、こんな映像の出来事が本当に起きてるとしたら。
世も末やな。
案外、ワイくらいの奴が一番生き易いのかもな。
一度燃え上がった炎は簡単には消せない。
それを行なったのが大企業なら尚更だった。
火種は次々と他星系に拡散。
事態を把握した頃には既に手遅れとなっていた。
軍事企業QA・ザハロフ。
様々な顧客のニーズに応えた兵器を提供し、三大国家軍、自治軍、傭兵、バウンティハンターから多数の支持を集めている。
私設軍隊も所有しており、顧客の要請によっては艦隊派遣なども可能となっている。
また、三大国家にも多少の顔は利くらしく、色々と便宜を図って貰っている。
だが、一方で様々な悪事も囁かれていた。
制圧した街の住人を保護の名目で拉致。
捕虜として捕えた兵士や傭兵が行方不明になる。
ゴーストに対し過激とも言える程の弾圧。
軍事企業QA・ザハロフの功績が大きく成れば、同時に悪い噂も大きくなった。
無論、これらは他の中小軍事企業による僻みなどと言われており、本気にしてる者達は殆ど居なかった。
しかし、軍事企業QA・ザハロフにとって審判の日が迫っていた。
今まで培って来た信用と実績が、轟音と共に崩壊する。
それは、大企業として多くの関係者を巻き込む災害へとなるのだ。
その日、ロイド・ザハロフ氏は最悪の報告を受けた。
誰にも見つからない様に細心の注意を払っていた惑星OSXでの大惨事。
研究員、並びにナンバーズ達の死亡。そして、何より研究施設が爆破されたのだ。
研究施設の爆破。それはリンク・ディバイス・システムに関する貴重なデータを失った事を意味していた。
「タケル主任は何処に居る?今直ぐに呼び寄せろ」
『タケル主任は死亡しておりました。私も、俄には信じられませんが』
「ッ⁉︎なら、No.9はどうした!」
『先程、No.9も戦死した事が確認出来ました。グンマー星系、惑星トミオーです』
「惑星トミオーだと?誰に殺された」
QA・ザハロフの艦隊司令官からの報告を受けたロイド・ザハロフは一瞬目眩に襲われる。
一体、誰がどうやってNo.9とタケル主任を殺したのか。
いや、内部からの犯行なのは間違い無いだろう。何故なら惑星OSXは第一級機密情報なのだから。
『幾つかの航路情報をハッキングした結果ですが。傭兵企業スマイルドッグ、シュウ・キサラギ少尉だと判明しました。また、衛星画像になりますがNo.9との戦闘も確認出来ました』
シュウ・キサラギ。この男には聞き覚えがあった。
No.9とタケル主任の知り合いだと言う事。
戦場を共にした事も。
そして、仲違いし別れた事も。
「傭兵、シュウ・キサラギ……か。で、そのキサラギとか言う奴はどうなった」
『はい。惑星トミオーを出たら直ぐに惑星OSXに向かっていました。恐らく、状況的にNo.9が惑星OSXの場所を漏らした可能性が有ります』
「ッ⁉︎ゴースト風情が!僕を裏切ったと言うのか!今まで生かしてやった恩を忘れたか!」
ロイド・ザハロフは机の上に置いてあった高価な時計を投げ捨てる。
「リンク・ディバイス・システムにどれだけ投資したと思っているんだ!いや、落ち着け。まだ、完全に失った訳では無い筈だ」
直ぐに冷静になり、艦隊司令官に指示を出す事にした。
「司令官。君は最初に惑星OSXに艦隊を派遣。直ちに研究施設を調べ上げ、施設内の残骸は全て回収するんだ」
『了解致しました。直ちに艦隊を編成し出撃致します』
そして通信を切りナンバーズへ繋げシュウ・キサラギの確保を命じようとした時だった。
緊急で別口の通信が入る。
それと同時にインターホンが鳴る。
『会長!大変です!映像が、映像が大量に流出してます!』
「映像?何だそれは」
『リンク・ディバイス・システムで使われた被験体の様子が流出してるんですよ!それも大量にです!』
目の前が真っ暗になった。
被験者達の大半はゴーストだが、中には正規市民も含まれている。それに、人体実験はゴーストに対して行っていたとしても印象は最悪になる。
『然も、正規市民や名のある傭兵を使った実験映像までも流出しております!もう、各支部に抗議の連絡がとんでも無い事になってます!我々だけでは対処出来ません!』
ドアが勢い良く叩かれる。もう、ここまで来たら言い逃れは難しいだろう。
だが、僕には金と権力がある。それさえ使えば再起は不可能では無い。
『それから、連邦軍の部隊が現在そちらに向かっております!今直ぐに脱出をッ⁉︎な、何だ貴様らは!』
【連邦だ。大人しくしろ。抵抗する者は射殺する】
秘書が声を荒げる。しかし、通信から聞こえた声で詰んだ事を理解した。
【地球連邦統一軍、第十三独立部隊所属のレオナルド・ロウ大佐だ。軍事企業QA・ザハロフに対し強行調査を実施する。コレが令状だ。抵抗する者は全て逮捕、または射殺する】
地球連邦統一軍の介入。恐らく帝国、共和国も介入して来るだろう。
そして、先程まで激しく叩かれていたドアは静かになっていた。恐らく、ドアを破る為に何かしらの準備をしているのだろう。
【ふん、ロイド・ザハロフだな。聞こえているのだろうが、返事は必要としていない。開発禁止条約に該当しているリンク・ディバイス・システム。これに手を出したツケを払って貰う。それだけだ】
「待ち給え。我がQA・ザハロフは大企業だ。つまり、下手に手を出せば大勢の関係者が不幸になる」
それこそ、一部の連邦高官にはリンク・ディバイス・システムを搭載した新規AWに関して話は通しているのだ。
軍事企業QA・ザハロフを切り捨てると言う事は、身内をも切り捨てるのと断言している物だ。
【だろうな。だが、それ以上の者達が多数の利益を得る生活を送れる。貴様らの不祥事によって営業停止はほぼ確定だ。そうなれば空いたスペースに多くの企業が入るだけの話だ】
営業停止。それだけは何としてでも阻止せねばならない。
(僕が逮捕されるだけなら良い。だが、営業停止だけは駄目だ)
ロイド・ザハロフは考える。此処で無駄に抵抗すれば印象は悪くなるだろう。
営業停止になれば、空いたスペースには様々な中小企業が流れ込むだろう。
そうなればQA・ザハロフの立場は非常に危ういものとなってしまう。
「分かった。今、ドアを開ける」
観念してドアを開ける。すると完全武装した連邦兵が次々と侵入して来る。
(まだだ……まだ、完全に終わった訳では無い)
そして連邦の軍服を着た指揮官らしき人物が入って来た。
「初めましてだな。ロイド・ザハロフ。貴様に逮捕状が出されている。大人しくして貰おう」
「逮捕状ねぇ。果たして、その逮捕状で大丈夫なのかね?僕はこれでも連邦に少なく無い額を寄付しているんだがね」
「残念だが、その少なく無い額では到底庇う事は出来無いと言う事だ。だがら……私がこの場に居る。理解したかね?」
此方を小馬鹿にする様な言い方。だが、此処で怒りに身を任せる訳には行かない。
「ロイド・ザハロフ。貴様はまだ自分達が助かると思っているだろう。無論、貴様自身は助かるだろうな。だが、軍事企業QA・ザハロフは解体。また、貴様には監視が付く。既にこの事は決定事項だ」
「待ちたまえ!僕の逮捕だけで良いだろう?何も、解体する事は無いだろう!」
このままでは最悪な形になってしまう。自分の人生を積み上げて来たQA・ザハロフは何がなんでも存続させねば。
そして、あの頃の大戦を復活させるのだ。
かつて、リンク・ディバイス・システムによって数多くの英雄を生んだ地球連邦統一、ガルディア帝国による大戦を。
それこそ自由惑星共和国を巻き込めば更なる戦争経済による発展と躍進が待っているのだ。
不老に近いロイド・ザハロフにとって、現在の停滞気味の経済戦争は己を徐々に殺しに来ているようなものだ。
だからこそ、全宇宙を巻き込む大戦が必要なのだ。
だが、世間は大戦を望んではいなかった。
「貴様の言い分は他の者が聞く。大人しくしていれば丁重に扱う事は約束しよう」
「……ッ⁉︎今の世界がそんなに惜しいのか!連邦、帝国、共和国が睨み合い、僅かな小競り合いしかしない現状が!このまま人口が増え続ければ、国家の維持すら危うい風前の灯火の分際で!」
遂にロイド・ザハロフの堪忍袋が切れた。
三大国家は強力であり、絶対的な存在だ。だが、汚職に加えて杜撰な国家運営をしているのも事実。
既に多くのゴーストを放置している事こそが、何よりの証拠と言えるのだ。
故に今更、正論で此方を追い詰めて来るのは論外なのだ。
「ゴーストですら碌に管理出来ず、その場凌ぎで大衆共を満足させる政策。それに、何の意味があると言うか!僕はねぇ!先を見据えているんだよぉ!今こそ、三大国家による大戦が必要なのだ!その為のリンク・ディバイス・システムだ!」
「……過去の栄光に囚われた亡霊か。流石、リンク・ディバイス・システムに唯一適合した者の言う台詞だ」
ロイド・ザハロフ。この宇宙で唯1人だけリンク・ディバイス・システムに適合した人物。
だが、その適合性は他の者では応用出来なかった。
次々と記憶を失い、理性が消えて行く戦友達。
その悲劇を間近で見続けたロイド・ザハロフ。
だからこそ、リンク・ディバイス・システムの可能性を誰よりも信じていたのだ。
そして、新たな時代の道を切り開くと確信していた。
リンク・ディバイス・システムの性能を誰よりも熟知していたのだから。
「貴様の言い分は理解した。理解したが、それを認める訳には行かない。それを認めてしまえば大勢の罪無き市民を犠牲にするのだから」
「何が罪無き市民だ!僕達を散々利用した挙句、講和なんてしやがって!そして、現状に甘んじてる愚民共こそ罪を精算させるべきだ!」
これ以上の話し合いは平行線のまま。そう理解したレオナルド・ロウ大佐は部下達に指示を出す。
そして、ロイド・ザハロフを囲む様に移動する完全武装した兵士達。
「……認め無い。絶対に認め無い。例え、QA・ザハロフを解体したとしても。僕が生き続ける限り何度でも」
「連れて行け。これ以上、亡霊の言葉に耳を傾けるな。連れて行かれるぞ」
レイナ、タケルを苦しませ続けた男。
だが、誰よりもリンク・ディバイス・システムに関して熟知していた。
だからこそなのかも知れない。
今の世界に不満を抱いてしまった。
不老だからこそ過去に囚われてしまった。
共に戦った戦友達の死を無駄にしない為に。
再び過去の栄光を取り戻そうと足掻き続けた末路がコレだ。
哀れだった。兵士達に連れて行かれるロイド・ザハロフを見ながら僅かな同情を抱いてしまう程に。




