困った時だからこそ神頼み
沢山の誤字修正有難うございます。
めちゃくちゃ助かってます(((o(*゜▽゜*)o)))♡
「久し振りじゃな〜い。もうアタシすっごく心配してたのよぉ?」
「ごめんごめんママ。あの後スマイルドッグて言う傭兵企業に入ったんだ。それでアリゲーターから離れる事になっちゃってね」
ママに抱き着かれながら事情を説明する。因みにアリゲーターは地球連邦統一とガルディア帝国との国境付近にある宇宙ステーションだ。国境に近い事もあってか地球連邦統一軍の兵士を筆頭に様々な種族が行き交う場所だ。尤も様々な種族が行き交う場所なのだから様々なクソみたいな連中も腐る程居た訳だ。そんな場所で唯一の救いがこのM & Mなのだ。
「俺も正直自分の目を疑ったよ。何でこんな辺境の場所に来たんだ?」
「実は国境付近で結構怪しい動きが頻繁に起き始めたのよ。それで治安が悪くなっちゃってね。だから少しだけアリゲーターから離れようって事にしたのよぉ」
「そうなのか。でもママも知ってるんじゃない?この辺りも危ないって」
「そうなのよぉ〜。折角馴染みかけて来たのにまた移動しないと行けないなんて。本当についてないわぁ」
ママは体をクネクネさせて困ってますアピールをする。
「それで何処まで知ってるのさ。良ければ教えて欲しいんだ。勿論タダじゃない。経費で無理矢理払わせるさ」
「自腹じゃないのねん」
「当たり前さ。それが雇い主との関係なのさ」
グラスを取り出し氷を入れてお酒を入れる。勝手にやっても怒られない辺り俺はママのお気に入りの一人なのかも知れんな。それかママの器が無駄に大きいのか。
「そうねん。ねえシュウちゃん、この辺りの消失事件は知ってる?」
「勿論。結構昔の話なのに今だにミステリー界では人気の事件だもん」
お陰で今でもテレビ番組では時々特集が組まれる始末だ。何度も似たような編集してれば良いんだから楽な仕事だな。
「この辺りは昔はマシな場所だったの。まともな軍人さんが多く居てね。自分自身に誇りを持ってる連中が多かったの。でもあの大規模な消失事件で全てが消えたの」
当時の犠牲者は未だに全員把握出来て居ない。何故なら照合するデータ諸共消失したのだ。まあ惑星そのものが無くなったのだから調べようが無いのだ。故に大半が行方不明扱いだ。
「その行方不明が死亡に切り替わるのはいつになる事か」
「そうねん。後百年くらい経てば半数以上はそうなるわ」
「まだ半数残るのかよ」
結局この消失事件は様々な混乱と悲劇を生んだ訳だ。何せ生存可能な惑星五つくらいが消え犠牲者は何十億人だ。そりゃ嫌でも他の所にも飛び火するさ。
「それで?消失事件と今の状況に何の繋がりが……あー、一応繋がりはあるか」
「シュウちゃんも何か知ってるの?」
「実はちょっと前にセクタルの宇宙基地にカチコミに行ったんだよ。その時の増援にガチな連中が居たんだ」
あの戦いの後端末に事後報告があった。何となしに読んだのだが惑星ダムラカ所属の軍隊が居たらしい。
「正直何でセクタルなんかと協力してるのか分からないけど。普通なら地球連邦統一軍に編入されるんじゃない?」
「シュウちゃん。彼等は反旗を翻した組織よ?態々不穏分子を入れるリスクは無いわ」
「確かに。それで高い戦力を持つ宙賊に成り下がったら世話無いけどな」
「セクタル自体は大した事無いわ。問題なのは一部が正規軍並みの戦力を保有しているのよ。そして教養を学んでる軍人が徐々にセクタルの幹部になってる」
「そんな馬鹿な。全部消失した筈だ。軍民間合わせて消えたのは何十億人だ。艦船だって千規模で消えた」
「何も軍隊は全部一箇所に集まって行動はしないわ。ほらアリゲーターの様な軍隊だって居るじゃない」
「……国境警備隊。それに治安維持部隊に偶々遠くに派遣された連中もか」
そう言うとママは無言で頷く。しかしこれで連中の戦力が高い理由が分かった。治安維持部隊なら分相応な戦力しかないだろう。だが国境警備隊なら過剰とも言える戦艦や巡洋艦を保有している。恐らく超級戦艦もいる可能性も高い。最悪なのは国境警備の名目で使われている宇宙ステーション基地もあるかも知れない訳だ。
「色々考えたら頭痛くなって来た。セクタルは想定以上の戦力を持ってんのかよ」
今からでも遅くない。増援を要請した方が良い。それか撤退だな。とてもではないが現在の戦力では太刀打ち出来る訳が無い。
「なんか知りたくない情報まで出て来そうな勢いだな」
「他に知りたい事はあるかしら?」
「……他言無用で頼む」
「勿論よ」
ママの了承するウィンクを見て口を開く。現在この宙域にいる目的を。そして話終えるとママは静かに目を開けてこう言った。
「今回の渦中の人物じゃない」
「貧乏くじは想定の範囲内さ。まったく」
俺はママの台詞を聞いてやけくそ気味に酒を一杯煽るのだった。
あの後ママから色々と情報を聞き出す事が出来た。その結果第三皇女リリアーナ・カルヴァータは色々と規格外なお姫様だと。
「まさか第三のお姫様がそんな天才だったとは」
「学界では有名人みたいよ。新しいエネルギー理論とか目新しい化学物質とかね。特にエネルギー理論に関しては当時はかなり学界を賑わせたわ」
「そしてその技術が何者かに盗まれた挙句サードル星系に住む人々をドン底に叩き落とした訳か」
「何故ダムラカの上層部がリリアーナ・カルヴァータしか知らない【重力転換装置】の初期理論を手に入れたのかは分からないわ。だけど間違い無く扱い難い代物よ」
「扱い難い代物でも圧倒的な力が手に入る。人は欲に弱い生き物だからな」
リリアーナ・カルヴァータについて分かる範囲で端末から調べてみた。確かに色々と学界を賑わせていたのだが五十年程前から突然姿を見せなくなった。
表向きは持病の為となっている。
しかしその時は惑星ダムラカを中心とした勢力が独立を図ろうとしていた。そして何十億人と様々な惑星と共に消失した。
現段階では情報量が足りなさ過ぎて繋がりがあるとは思えない。だが無理矢理繋げれば見えてくる物はある。それが間違ってたとしても。
「嫌な事ってのは避けようとしても向こうからやって来るんだよ。銃口から弾丸なんて言うくらいにな」
カランとグラスの中の氷が鳴る。
「今シュウちゃんが何をすべきか私には分からないわ。けど覚えておいて。無理して死んだら悲しむ人は居るのよ」
「もし死んだら墓参りには来てくれるかい?」
するとママは少し悲しそうな表情をする。
「そんな意地悪なことを言う人には空の酒瓶しか渡しません」
「そいつは死ぬより辛いな。出来ればママとはまた一緒に杯を交わしたいからな」
そして最後に懐から紙幣の千クレジットを出しママに渡す。
「最後にいつものやるよ。良いよな」
「フフ、勿論よ。頑張って当ててね」
M & Mのメニュー表には現金千クレジットでママの名前当てゲームがある。もし当てれば今まで集めたクレジットをプレゼントしてくれるとか。因みにヒントは店の名前にある。Mが最初に来る名前で間違いないらしい。
「ラッキーボーイの実力見せてやるぜ」
それから男の名前を言うと漏れ無くママからのアイアンクローを進呈される。それが例え子供や老人だろうが関係無い。
「ママの名前は……マリリンで」
「ウフ♡残念♡」
ママが何時もの笑顔を見せて否定する。仕方が無いので席を立ちお金を払う。
「領収書は後で戦艦アルビレオ宛に頼むよ。それじゃあまた来るよ」
「ええ、待ってるわ」
ママの見送りを受けながら再びベルモットを渡り歩く。今回の依頼は唯の救出だけでは無い。恐らくリリアーナ・カルヴァータと大規模消失事件は何かしらの繋がりがある。あくまで予想の範疇でしか無い事だが半分確信している。
何故なら最悪な予想と言うのは高確率で当たるものだからだ。
ママと出会ってから三日が経った。そして俺達は召集命令を受け再びブリーフィングルームに集まっていた。既に傭兵達は揃っていたのでママの事を話す事にした。
「そう言えば伝えるのすっかり忘れちゃったけどベルモットにママが居たぜ。今度飲みに行ってやれよ」
「嘘!ベルモットに居るの。何でもっと早く言わなかったのよ」
「ママってM & Mのか?」
「そうだぜ。相変わらず元気な姿を見せてくれてたよ」
「そいつは良い。この後時間出来るだろうから顔だけでも見せに行きてえな」
アーロン大尉とチュリー少尉はママの事を知ってるのか結構食い付いて来た。どうやらこの二人もそれなりにママとの付き合いがあるみたいだ。
ミクニ少尉とバーグス中尉は誰の事か知らないのか首を傾げていた。
「ママってのはM & Mのバーやってるオーナーなんだよ。これが中々インパクトのある人でな」
「そうなのですか。因みにどんな人なんですか?」
「オカマだな」
「オカマ……ですか」
「けど中々人情と情報を持っててな。結構、俺達の様な連中には人気あるんだぜ」
「なら是非一度拝見してみたい」
「お?ならこの後俺の奢りで連れてってやるよ。おいキサラギ案内しろよ」
「奢ってくれるなら良いぜ」
「へっ、任せとけ。纏めて奢ってやるよ」
「やった!私ママの作るオリジナルのお酒好きなんだよねー」
何気にママの話題で賑わっているとセシリア大佐とクリスティーナ大尉以下副官とファング隊のメンバーが姿を見せる。しかし妙な事にクリスティーナ大尉の表情がいつもより綺麗な感じに見える。
「何であの人化粧してるのかしら?」
「化粧?ああそうか。だからいつも以上に綺麗に見えたのか」
「何よ。あんな気の強い女性が好みなの?」
「俺は美女美少女なら誰でも好みさ。勿論チュリー少尉もストライクだ」
「そ、貴方が節操無しなのが良く分かったわ」
俺の言葉を軽く流すチュリー少尉。流石戦場で揉まれた女は違うね。
そしてセシリア大佐が壇上に立ち口を開く。
「先の戦闘では御苦労だった。諸君達の奮戦があり数名の幹部の確保に成功した。また艦隊防衛も無事成功した事で戦力低下を防ぐ事が出来た。この場を借りて礼を言う」
セシリア大佐の賛辞に誰も反応しない。それはそうだろう。俺達にとって賛辞よりその後の情報が聞きたいのだ。セシリア大佐もそれが分かっているのか特に反応する事なく話を続ける。
「セクタル幹部の素直な情報提供と基地に残された情報によりリリアーナ様は一度この宇宙基地に監禁されていた」
「居なくて良かったぜ。艦隊の艦砲射撃が結構ガッツリ刺さってたからな」
まさに危機一髪だった訳だ。もしかしたら自分達の手でお姫様を蒸発させてたかも知れなかった訳だからな。助けに来たのに殺しちゃったら笑い話にもならん。
「以上の情報からリリアーナ様は資源惑星ユリシーズに居る事が判明した。そこで我々は直ぐにリリアーナ様救出の為行動に移す」
「直ぐと言いますと?まさかこの戦力でですか?」
「その通りだ。だが安心しろ。後三時間後に増援が来る手筈になっている」
バーグス中尉の不安を他所にセシリア大佐は言葉を続ける。その際一瞬だけ目が合ったのは気の所為では無いだろう。高いクレジットを払って後から領収書で回収したクレジットで手に入れたママの情報が生かされた瞬間だ。サンキューママ。
「増援の編成は緊急を要していた為、駆逐艦及びフリゲート艦のみの編成になっている。だが無理を言って数は揃えて貰った。それから機動部隊も増員される手筈だ」
妥当な所だろう。再び戦艦やら巡洋艦が派遣されたらそれこそ地球連邦統一軍に今以上に目を付けられる。今でもそれなりに目を付けられてるのだ。増援としては仕方ない所はあるだろう。
「現在ユリシーズ付近には多数の宙賊が集まってるとの確かな情報が上がった。それから中にはセクタルを中心とした戦力。そして……」
セシリア大佐は一呼吸入れて再び口を開ける。
「惑星ダムラカを中心とした国境警備隊が居る事も確認出来た。その戦力には戦艦及び巡洋艦も確認されている。恐らく正規軍装備のAWも存在しているだろう」
国境警備隊の言葉に少しだけ場が騒がしくなる。だがそれも仕方ないだろう。セクタルなんて良くて巡洋艦が数十隻保有出来ない宗教組織。それが突然正規軍並みの戦艦や巡洋艦。果てにはAWまでもが追加される始末。恐らく細かく見れば更に正規軍並みの装備品は増えるだろう。
「我々も国境警備隊の存在は盲点だった。調べた所、地球連邦統一軍にはダムラカを中心とした生き残り部隊の編入記録は殆ど無かった。恐らく上層部が反乱分子を入れる事を拒否した結果だろう。よって次の戦場になるユリシーズでは更なる激戦が待ち構えている筈だ」
スクリーンに出される戦力差は一対一と互角になっていた。それに戦力の詳細を見れば宙賊は所詮民間船に武装を取り付けた船やセクタルの旧式艦の割合は多い。無論ダムラカの持つ戦力も馬鹿には出来ないが互角以上の戦いは出来る。此処に来て漸く勝ち馬に乗れるのだ。
「リリアーナ様はユリシーズの資源加工施設に監禁されている。名目上、資源加工施設と謳っているが実際は兵器の実験施設だ」
そして施設の概要が説明される。対空砲やビーム砲台に戦車や戦闘機、更にAWとMWも複数配備されていた。その戦力は唯の資源加工施設にしては過剰だ。まさにそこに宝が有ると宣伝してるものだ。
「施設の破壊は極力抑えろ。リリアーナ様に万が一があってはならないが、実験施設故に危険も大きい」
「実験施設と言うなら何の兵器を実験している?まさかバイオ兵器じゃねえだろうな」
「いや、バイオ兵器ではない。確定では無いが恐らく……消失事件に関わる物だろう」
その事件は誰もが知っている。そして徐々に繋がりを見せ始める展開になりつつある。そして嫌な予想と言うのは得てして当たる物だ。
「神頼みってのはこう言う時に使うんだよな」
普段は微塵も信じてない神様って奴に頼るのも悪くは無いさ。それに普段頼ってない分こんな時くらい叶えて貰わねえとな。
再び騒めくブリーフィングルームの中、俺は一人愚痴るのだった。
ママはヒロインじゃないからね?嘘じゃないよ?