希望VSナンバーズ
一瞬の油断が命取りとなる戦場。
ベスウームナと思っていたナンバーズの目の前に現れたのはブラッドアーク。
全く違うAW。なのに識別はQA-N09ベスウームナのまま。
それが意味する事は唯一つ。相手はNo.9より強いと言う事だ。
【アンタさぁ、人様の惑星に土足で入って来るとかぁ。マジで常識とか無いわけぇ?】
アルマータは45ミリヘビーマシンガンと35ミリガトリングガンで正確な射撃をする。更に中口径グレネード砲も追加で撃ち込みブラッドアークを近寄らせない。
【No.16はそのまま不明機を牽制。No.8は接近。私は左翼に回り込み退路を潰す】
【承知】
【先に潰しちゃったらゴメンねぇ。No.5】
素早い動きで各々が行動に移る。無論、その動きは此方でも把握出来る。
「敵機、二手に分かれました。正面から一機急接近。接近戦仕様です」
「纏めて来ない辺り、合理的な奴が指揮してるか。なら、その隙を突かせて貰う」
ブラッドアークとムラカタの距離が瞬く間に詰まって行く。
【ほぉ、中々の度胸の持ち主。ならば、全力で応えよう!】
近接用カタナを構えながら神経を研ぎ澄ませるNo. 8。
しかし、相手はクリムゾン・ウルフと尊敬と畏怖を込められて呼ばれるエースパイロット。
馬鹿正直に相手をする奴では無い。
「お前は俺の盾になるんだよ」
左肩に装備されている四連装機関砲でムラカタに対して撃ちまくる。
だが、ムラカタは四連装機関砲の弾幕に臆する事は無い。
【ちょっとぉ!アンタ射線に入って邪魔なんだけどぉ?】
No.16の苦言を黙殺して目の前の敵機に集中する。
【チェストオオオオオ‼︎】
気合一閃。掛け声と共にブラッドアークを一刀両断する為に近接用カタナを振るう。
「フッ、良い一撃だ。だが……俺には視えてる」
近接用カタナが当たる直前に、右側面のサイドブースターを使い軌道から僅かに外れる。
その結果、振り下ろされた近接用カタナは僅かにブラッドアークの装甲を削るに止まる。
そして、俺は本命へと大型レールガンの銃口を向ける。
【無駄だ。この近距離でワシのムラクモに当てる事は不可能だ。まして、大型レールガンなどではなぁ‼︎】
大型レールガンには大きな弱点が一つある。
大型レールガンと言う一撃必殺と言わんばかりの超高火力武装。
だが、弾が出るまでにエネルギーを溜める為、隙が生まれてしまう。更にエネルギーを溜める時に銃口に光が出てしまう欠陥があり、ベテランパイロットクラスなら攻撃のタイミングを予測して回避する事は非常に容易なのだ。
故に対艦戦、対要塞戦でしか役に立たない武装。
だが、俺には三秒先を見据える事が出来る。
相手が回避する場所に銃口を向ければ良いだけなのだ。
これ程、相性の良い武装が他にあるだろうか?
「避けれるモノなら避けてみろ」
トリガーを引く。エネルギーが大型レールガンの機関部から発生。溜まった高エネルギーが大型レールガンの銃口から見える。
【フン、愚かな。その様な武器はワシ相手には通用せんわ!】
【キャハハハハ!そんな武装を使ってるなんてさぁ。アンタも、No.9も馬鹿ばっかッ⁉︎】
大型レールガンの攻撃を右に回避したムラクモ。
「この瞬間を待っていた」
目の前に居るムラクモで大型レールガンの発射光を遮断。そして、射線に入っていたアルマータに大型レールガンの弾頭が直撃。左脚部を2本吹き飛ばす。
俺の狙いは最初から後方に居座て、戦場にも関わらず気が抜けている馬鹿な敵。
そのまま、アルマータは地面に弾かれる様に着地する。
【ッ⁉︎No.8!アンタ、何やって【逃げろ!No.16!】……え?】
自分達は選ばれた存在。
これから先は私達が次世代機のパイロットモデルとなり、時代遅れのエースパイロット共を蹴落として行く筈。
(なのに……何で?何で、私は……こんな…………身体にぃ……)
No.16のコクピットを大型レールガンの弾が貫通。
No.16が最後に見た光景は自分の下半身が無くなり、爆発が迫る瞬間だった。
【No.16がやられた?No.8、一度奴から離れるんだ】
【ッ、承知した】
No.5の指示に従うNo.8。だが、不用意に距離を詰めた事が仇となっていた。
ブラッドアークは既存のAWよりも高性能な次世代機。
ナンバーズが使うAWも間違い無く次世代機クラスだろう。だが、それはパイロットの反応速度に確実に追従出来るピーキーな内部仕様。
他の部分は既存のAWより若干性能が良い程度。
故に間合いが離れる事が無い。
【クッ、妙に勘の良い奴だ】
No.5のカイブノヴァはビームキャノン砲とビームマシンガンでブラッドアークを狙う。
しかし、下手に撃てばNo.8のムラカタが被弾してしまう可能性が高い。
「何だよ。随分と弱腰じゃないか。なら……お前は、もう要らない」
No.8の背筋に悪寒が走る。同時に凄まじい殺意を目の前の紅のAWから感じてしまう。
だからだろう。No.8は逃げるのを止めた。
【この殺意……実に素晴らしい。その殺意こそ、ワシが戦うに相応しい好敵手よ】
【待つんだ!No.8!不用意過ぎるぞ!】
最早、No.5の声は聞こえない。今は唯、目の前の強敵を破壊する事が何よりも重要なのだ。
【逝くぞ!ムラカタよ!ワシの一撃をしかと受けてみよ!】
ムラカタを急停止させ、ブラッドアークに向けて突貫させる。
「覚悟を決めたか。良いぜ、相手になってやる」
【ヌアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎】
大型レールガンで近接用カタナを構える敵機を狙う。
右肩に装備されていたショットカノンをパージして近接用カタナ一本で勝負を仕掛ける。
だが、まだだ。この間合いでは避けられる。
この時、両者の思考は奇しくも一致していた。
大型レールガンのトリガーを引く。再び機関部からエネルギーが発生。
近接用カタナの間合いに入る。
後一歩あれば確実に仕留めれる。
【「勝負‼︎」】
下段から振り上げられる近接用カタナ。
斬り飛ばされるブラッドアークの左腕と四連装機関砲。
そして、交差する瞬間にコクピットに向けて放たれる大型レールガンの弾。
一瞬の擦れ違い。だが、その一瞬が勝敗を分けた。
【ゴホッ……見事、だ】
好敵手との一瞬の死闘。
同時にリンク・ディバイス・システムを最大限使用出来た満足感。
己の全てを込めた一撃。
それを全て好敵手は対処してみせたのだ。
No.8は一言の賛辞を述べ、満足感に包まれながら地面に倒れるのだった。