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ナンバーズ

 研究施設内ではタケルによる一方的な虐殺が行われていた。

 命乞いをする研究員達は全て斬り殺し、警備隊とは激しい銃撃戦を繰り広げている。


「緩いな。訓練を怠り過ぎだ」


 タケルは自身のギフト【時間を延長させる】能力を使用する。

 タケルの見える世界は全て遅くなる。


 迫り来る弾丸や爆発の破片。


 タケルを殺す為に銃を撃ち続ける警備隊員。


 警報が鳴り、赤いランプが部屋をゆっくりと照らし続ける。


 タケルは弾丸を避けながら走り、刀を使い斬り飛ばして警備隊員達へと近付く。


【奴は、化け物ッ⁉︎】


 叫ぶ警備隊員の頭をヘルメットごと斬り飛ばし、流れる様に他の警備隊員へ斬り掛かる。

 中にはナイフを使い応戦する奴も居た。だが、動きが遅い攻撃など意味は無い。手首を斬り落とし、驚愕に染まる顔面を削ぎ落としながら次へと向かう。


「同士撃ちを恐れている暇は無いぞ」


 タケルは止まらない。警備隊員達が次々と斬り飛ばされ、血吹雪が宙を舞う。


【何で!何で弾が当たらなッ】


 悲鳴と怒声が徐々に減って行く。


【来るなぁ!化け物がああああッ】


 また一人。


【こ、こんな事が……有り得な】


 また一人。


【隊長?皆……どうして?何で俺達が殺されて……】


 最後に生き残った警備隊員。タケルはゆっくりと歩きながら近付く。


「どうして……か。簡単な事だ。貴様らは俺より弱かった。唯、それだけだ」

【わ、分かっているのか?俺達を殺しても、何も意味なんて無いんだぞ。ザハロフは絶対に貴様を逃す事はッ】


 警備隊員が最後まで台詞を言い切る事は無かった。

 恐怖と憎悪に染まったままの表情で首からズリ落ちる。そして大量の血が壁一面を染め上げる。


「元より……死は覚悟している。レイナも同じだった。なら、俺はレイナの願いを叶えるだけ」


 血が付着した刀を一振りし、綺麗にしてから鞘に戻す。そして頑丈に作られたアタッシュケースを回収する。


「…………」


 警報はいつの間にか静かになっていた。そして、タケルの歩く足音だけが廊下に響き渡る。

 タケルは研究施設の構造を理解する必要があった。


 確実に研究施設を破壊する為。


 そして、研究施設の重要な場所に高性能爆薬を次々と設置して行く。


「レイナ……約束は守る。お前の模倣品を世に放つ事は絶対に無い」


 秘密裏に作られた研究施設。それ故に内部からの裏切りに非常に弱い。


 だが、その裏切りを予想して無い程QA・ザハロフは甘くは無い。


 例え、裏切り者が現れたとしても対処は可能なのだ。






 タケルは順調に爆薬を設置し終えた。此処まで障害らしい障害が無いのは僥倖と言えよう。


「後は、脱出するだけ……か」


 アタッシュケースを持ち、血の海と化した通路を歩く。


「……レイナ」


 エレベーターに乗り込み地上へと向かう。


「シュウの奴は生きているだろうか?いや、お前は絶対にシュウと共に逝く。そうだろう?」


 タケルはアタッシュケースに向けて話掛ける。無論、返事なんて物は無い。


 だが、タケルにとって今や全てがどうでも良いのだ。


 守るべき女性を失った今、タケルがやるべき事は最後の約束を果たすのみ。


「待っててくれ。俺も直ぐにそっちに向かうから」


 そして、地上へと出て離脱用の輸送艇へと歩みを進める。


 地上はいつの間にか吹雪は止んでいた。唯、分厚い雲が空を包み込んでいた。


(せめて、最後は静かな場所でレイナと共に)


 惑星から離脱出来なくても構わない。だが、最後の最後までレイナと共に居る。


 今のタケルは生きる事を諦めていた。


 だから気付かなかった。


 自分を始末しに来た存在を。


 既に、手遅れの状況になっている事に。




 一発のグレネードがタケルの近くに着弾した。




 爆炎と爆風がタケルに襲い掛かる。

 咄嗟にアタッシュケースを抱え込みながら地面に伏せる。だが、爆風と共に飛んで来る破片がタケルに襲い掛かる。


 《やはり、裏切りましたか。タケル主任。いや……元主任と言えば良いかな?》


 突如としてタケルの近くに着地する3機のAW。

 どの機体も世に出ては居ない不明機。


「……ナンバーズ」


 そんな不明機を睨みながらタケルは言葉を口にする。


 《まさか、これだけの事をしておきながら簡単に逃げられるとでも?》

 《やっぱりぃ、ゴーストってバカばっかりしか居ないんだねぇ。だからアンタはゴーストのままなのよ》

 《哀れな。今の立場でも充分に恵まれていただろうに。欲を掻き過ぎたな》


 3機のAWがタケルに向けて銃口を向ける。だが、タケルは臆する事は無くアタッシュケースを抱きながら刀を構える。

 《え?何々?まさか、私達と戦うのぉ?生身で私達に勝てるとか思ってる訳ぇ?アンタさぁ……そう言うの、マジでウザいわ》


 QA-N16アルマータが持つ45ミリヘビーマシンガンが火を吹く。

 45ミリの弾丸が多数タケルに襲い掛かるが、タケルはギフトを使い回避する。だが、所詮は生身の状態。タケルは徐々に傷付き、血を流して行く。


 《そこまでだ、No.16。これ以上、あのアタッシュケースを危険に晒したくは無い》

 《りょーかい。でもぉ、元主任は殺しても良いんでしょう?なら、私がゆっくりとAW使って潰してやりたいなぁ》


 アルマータが前進してタケルに向けて迫る。


 《……下衆が》

 《はぁ?おい、今何て言った?》

 《下衆と言ったのだ》

 《私より上だからって言って余裕ぶっ漕いでるとぉ……背中から撃つわよ》


 アルマータがビームライフルと45ミリヘビーマシンガンと35ミリガトリングガン構えながら、接近用カタナを持つQA-N08ムラカタを睨み付ける。


 《フン……貴様の様な輩に殺される程、ワシは軟弱では無い》

 《下克上って言葉知ってるぅ?》

 《下克上とは相手が脅威となるなら意味がある》

 《ッ!カブキ風情が調子に乗ってぇ!》


 一触即発な状況。然も、タケルを目の前にしながらも無視して争いを始めようとする始末。


 だが、そんな状況は直ぐに収まってしまう。


 《両者、そこまでだ》


 No.5の機体QA-N05カイブノヴァが前に出る。

 そして直ぐに矛を納めるNo.08。格上相手には敬意を払ってる辺り、世渡りは上手いのだろう。

 だが、No.16は不満そうだった。


 《で、でもぉ。アイツが喧嘩売って来るんだよぉ?アンタからも何か言ってやってよぉ。No.05》

 《今はやるべき事がある。そうだろう?》


 No.5は冷静にタケルを見据える。タケルはアタッシュケースを抱えながらも睨み返す。


 《いやはや、そんなにも睨む必要はありませんよ。タケル()主任。我々の目的は唯一つ。そのアタッシュケースを渡して頂ければ結構です。そうすれば、貴方は見逃しても構いません》


 No.5にとってタケルの存在は眼中には無い。だから、これから先何処に行こうが関係無い

 QA・ザハロフにとってアタッシュケースの中に入っている代物が一番重要なのだ。それ以外のモノは全て用無しと言っても過言では無い。


 《あぁ、研究員達を殺した事に関しても不問にしても構いませんよ。ソレの改良など他の者達でも充分可能ですから》


 そして機体をタケルに向けて近付ける。だが、タケルは刀を構えながら反抗する。


「貴様らの様な屑共にレイナは渡さない。絶対にだ」

 《フフフ……貴方も、我々と同じ(むじな)の穴ではありませんか。大事な大事な幼馴染を兵器に転用した一人でしょう?》

「ッ……言われなくとも。俺は、レイナと共に逝く」

 《逝くのは貴方だけですよ》


 そして、ゆっくりと静かに移動していたNo.8のムラカタが接近用カタナをタケルに向けて突き出す。


 その時だった。


 レーダーに反応が出る。何かが接近して来たのだ。


【まさか……No.9?】


 スピーカーをオフにして身構えるNo.5。

 レーダーには徐々に接近して来るQA-N09ベスウームナの識別反応。


【何よ?まさか、この雑魚を助けに来たとかぁ?ちょっとぉ、聞こえてるんでしょう?何か言ったらどうなのぉ?】


 レーダーに映る方向に視線を向ける。しかし、機影は見えない。

 見えるのは一面の雪景色と分厚い雲に覆われた空。


 そしてレーダーを見れば反応が二つになっていた。


【二つ?何処に?まさか!】


 気付いたNo.5は直ぐに動く。そして上空から一機のAWが出て来たのと同時に一発のレールガンの弾が襲い掛かる。

 不意撃ちでの攻撃はムラカタの左腕と左肩武装を吹き飛ばす。


【ッ⁉︎裏切ったか……No.9】

【キャハハハハ!私ぃ、前からアンタの事気に入らなかったのよねぇ。そもそも、アンタみたいなゴーストを使わないと行けないとかぁ。全然、意味分かんないしぃ】

【全機散開。相手はNo.9だ。手加減している余裕は無いぞ】


 アルマータ、ムラカタ、カイブノヴァの3機は人間らしい素早い動きで散開する。


【捉えたぁ。なら、死んじゃいなよ!裏切り者!】


 アルマータは四脚軽量AWだ。多数の高火力武装を持ちながらも、高い機動性を保持している。

 右手に持つ45ミリヘビーマシンガンと左手に持つ35ミリガトリングガンで確実に仕留めに掛かる。


 だが、良く見れば敵はベスウームナでは無かった。


 大型のAW。そして紅と黒のツートンカラーで目立つ塗装された機体。


 間違い無くエース機。


「あの機体は……まさか、シュウなのか?」


 タケルは血を流しながらも目を見開きながら呟く。そして、同時に確信に変わった。


 レイナが死んだと言う事実。


「全員、死んで貰う。レイナとタケルを弄んだ事を悔やむんだな。慈悲は与えん」


 大型レールガンを構えながら猛スピード迫るブラッドアークの姿だった。

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