防衛艦隊の悲劇
研究施設でタケル主任の裏切り。
警報が鳴り、警備隊とタケル主任との激しい攻防戦が繰り広げられている頃。
惑星OSXの防衛艦隊は状況を把握しつつあった。
「主任の裏切りか。所詮はゴーストだったと言う訳か」
「艦長、如何致しましょう?」
「陸戦隊の降下用意。それから、念の為に例の部隊にも通達しておけ」
「了解しました」
「尤も、この惑星から離脱する事は不可能だと理解しているだろうに。これだからゴーストは。奴らには考え無しが多いから嫌いなのだ」
タケルとレイナの事を知っている多くのQA・ザハロフ社員達は嫌悪感を抱いていた。
次期主力AWにとって重要なOSにゴーストが関わる。更にOSのメインシステムの基盤に使われていると言うでは無いか。
「丁度良い。目障りな奴が自分から死にに来たのだ。確実に始末しろ」
そして、艦長自身もタケルの存在が気に入らなかった。
そもそも、ゴーストの分際で上の立場になっている事自体が不愉快極まり無い。
この様な考えを持つ者達が正規市民の中には多い。その為、ゴーストから正規市民に成り上がって来た者達を見下す傾向も高くなっているのだ。
「コレは……艦長、この宙域にワープ反応」
「何だと?誰か来る予定は」
「有りません。まさかとは思いますが」
「艦隊へ通達。陸戦隊の降下中止。ステルスを最大出力。警戒態勢に入れ」
防衛艦隊は姿を消す。
そして現れたのは一隻の小型高速輸送艇。
艦隊の主砲が小型高速輸送艇に向けられる。
しかし、小型高速輸送艇から一機のAWが射出される。
「不明艇からAWを確認。識別はQA-N09ベスウームナです」
「……全艦に警戒解除を。全く、これだからゴーストは」
艦長は味方AWであると認識すると、防衛艦隊の警戒とステルスも解除させる。
それが最悪の結果を産む事になるとは誰も思わなかった。
レーダーに映るQA-N09ベスウームナは高速で防衛艦隊に向けて接近して来る。
距離が一気に縮まる。目視出来る程に。
「ッ高熱源反応!」
「何だと⁉︎」
オペレーターの言葉に艦長は耳を疑う。しかし、モニターに拡大されたQA-Nベスウームナの姿は全く違う機体だった。
「No.9が……負けた、だと?」
レイナの存在は気に入らないが、実力は確かなのは認めていた。
それこそ新型OSのベースとなっている程なのだから。
だからこそ、艦長は自身の目を疑ってしまう。
大型レールガンを此方に向けている所属不明AW。
QA-N09ベスウームナのメインカメラが一瞬だけ禍々しく睨み付けて来る様に強く光る。
それが艦長以下、艦橋に居た者達が最後に見た光景だった。
俺はQA・ザハロフが保有する防衛艦隊を強襲する事に成功した。
頭部をベスウームナの物に換えたのは識別を欺瞞させる為。
そして、レイナと最後まで共に居る事の意思表示だ。
「敵戦艦の艦橋に直撃を確認」
「ネロ、輸送艇が惑星に突入する時間を割り出せ」
「推定突入時間は5分です」
現在の高速輸送艇は自律航行にしてある。そして高速輸送艇には大気圏突入機能が搭載されている。
俺が無事に惑星OSXに辿り着くため、高速輸送艇は絶対に破壊される訳には行かない。
つまり、制限時間5分以内に敵防衛艦隊を殲滅する必要がある。
「了解した。まぁ、戦艦を先に潰す事には変わらん。一気に回り込むぞ」
難易度の高いミッションだ。だが、やり遂げて見せる。
今度こそ、救うんだ。
レイナが最後に託した希望を絶やす訳には行かない。
ブラッドアークを敵戦艦に接近させる。最初の一撃で艦橋に直撃出来た事は幸先が良い。
「一大軍事企業を敵に回すんだ。確実に殺らせて貰う」
敵戦艦の背後に回り込みながら、右肩の240ミリキャノン砲と左肩の四連装機関砲をエンジン部分に撃ちまくる。
【メインエンジンに被弾!機関内部にも被害が!】
【艦橋をやられたか。第三艦橋で指揮を執らせろ】
【隔壁を閉鎖させろ!爆発を止めるんだ!】
しかし、戦艦は簡単には落ちない。メインの艦橋を潰したとしても、他の艦橋が有れば戦闘は続行可能。
なら、残りの艦橋も破壊するだけだ。
「ネロ、艦橋の位置を表示」
「了解しました。表示させます」
モニターに艦橋の位置が表示される。そして艦橋に近付き確実に破壊して行く。
「コレで終わりだ」
最後の艦橋を左手に持つ60ミリショットアサルトで穴だらけにして破壊。
指揮系統をズタズタにされた戦艦は内部爆発を止められなくなってしまう。
【この艦はもうダメだ!逃げよう!】
【馬鹿言うな。まだ退艦命令は出てない。それに、戦艦は簡単に落ちる事は無い。この程度の衝撃でビビるんじゃない】
【AWを発艦させろ!大至急だ!】
一部の独断による判断で格納庫のハッチが開き、ガイドビーコンが出る。そしてAWが急いで出撃態勢を取る。
だが、全てが手遅れだった。
【邪魔だ!轢き殺されたいのか!アレイ1、緊急出撃をッ⁉︎】
ハッチが開き進路が確保されたと思った瞬間。大型レールガンを構えたブラッドアークの姿をモニター越しに見てしまう。
「格納庫ハッチの案内ご苦労様。そして、さよならだ」
出撃態勢を取っていた敵AWに大型レールガンの弾頭が直撃。そのまま弾頭は敵AWを貫通して格納庫を破壊。
弾薬や燃料。そして、AWやMWが大量に積み込まれている格納庫。そんな危険な場所を破壊力が高い大型レールガンの弾頭が貫く。
格納庫内は一瞬で火の海になり、弾薬や燃料に次々と誘爆。
逃げ惑う整備兵達やパイロット達を容赦無く炎の中へと包み込んで行く。
「次は真下に居る巡洋艦だ」
そして格納庫から大爆発が起こるのと同時に、一気にブースターを全開にする。
爆発の衝撃波を利用しながら更に加速するブラッドアーク。
「ッ!この程度の加速を手懐けられないでエースを名乗れるものかよ!」
更にブースターを噴かし一気に敵巡洋艦に迫る。
【旗艦がやられたのか!この短時間で!】
【敵機!本艦直上!は、速過ぎます!】
【対空弾幕!敵を近寄らせるな!】
慌てた様に敵巡洋艦から対空砲による弾幕が張られる。しかし、未だにIFFを切り替えていない事が彼らにとって最大の不幸となってしまう。
敵巡洋艦の艦橋を大型レールガンで貫き破壊。更にVLSミサイルハッチが開いたのを確認したので、240ミリキャノン砲で狙う。
「これで終わりだ!次ィ!」
240ミリの弾頭が連続でVLSミサイルに直撃。内部で大爆発が起こり誘爆。そのまま艦艇が真っ二つなる程の大爆発が起こってしまう。
【旗艦バウロズ、巡洋艦ゼノン轟沈!】
【敵、本艦に接近!】
【IFFの変更完了しました!】
【対AWミサイル発射!駆逐艦、フリゲート艦は本艦周辺に集合させろ!密集陣形で敵を近寄らせるな!】
大量のミサイル群がブラッドアークに向けて迫る。更に駆逐艦、フリゲート艦からもミサイルとビームが発射される。
「最後の巡洋艦か。一気に終わらせるぞ」
「ミサイルの接近を確認。ジャミングプログラムを起動します」
「頼むぞネロ。今はお前だけが頼りだからな!」
「お任せ下さい。全力でフォロー致します」
ネロの心強い言葉に頷き、モニターに映る光景だけに集中。そしてギフトを使いながら敵巡洋艦から放たれるビームと対空弾幕を回避して行く。
【敵AW更に接近!全て回避されています!】
【馬鹿な……奴は、リンク・ディバイス・システム何て無い筈なのに】
信じられない光景だっただろう。恐怖心など無いと言わんばかりに弾幕を最短距離で潜り抜け、瞬く間に巡洋艦に迫るブラッドアークの姿。
味方の駆逐艦、フリゲート艦の援護砲撃すら回避しながら迫り来る姿は恐怖以外何者でも無い。
「終わりだ」
そして艦橋に迫る大型レールガンの弾頭。
【あの機体……まさか、クリムゾン・ウルフッ】
ブラッドアークの存在をようやく理解した巡洋艦の艦長。
しかし、その時には全てが手遅れだった。
艦橋は破壊。そして、手慣れた様にVLSミサイルハッチや砲塔を次々と破壊。
艦内で誘爆が多発するも、隔壁を閉鎖させる指示を出す事が出来無い。
「後は……時間的には1分くらい余りそうだ」
残された駆逐艦、フリゲート艦は必死の抵抗をする。
しかし、ステルス艦故の装甲の脆さが仇となり瞬く間に破壊されて行く。
そして、一方的な虐殺と言っても良い程にQA・ザハロフの防衛艦隊は5分もしない内に壊滅してしまうのだった。
???「ガイドビーコン何か出すな!やられたいのか!」