希望と罰3
ある日、一人の少女が一つ年下の男の子に出会ったの。
その男の子は純粋で、眩しくて、誰よりも毎日を楽しく生きていた。
全て見る物が新しい物を見るかの様に。大人に混じって楽しそうにしてたの。
自分の境遇にめげる事は無かった。それどころか男の子は少女にも手を差し伸べたの。
その手に少女は救われたの。
でも……男の子がMWに乗り始めた時、離れて行く様に感じた。
MWの操作を楽しそうにしていた。そして、どんどん上手くなって行ったの。
男の子がAWに乗ったらもっと離れてしまう。
だから少女は離れたくない一心で危険な戦場でも着いて行こうとした。
そして……少女は死んだ。
代わりに出来たのが少女の姿をした兵器。
【私は……貴方の隣に立つ為に、今まで生きて来た】
お互い満身創痍に近い状態。
ブラッドアークは左腕を損失。頭部は損壊しメインカメラから見る画像は砂嵐が現れる始末。
胸部装甲や他の装甲部分も斬り裂かれ、破損していた。
ベスウームナも右腕を失い、特殊兵装アラクネは全てのアームが斬り裂かれていた。
八連装ロケットポッドは弾切れ、追加ブースターはミサイルのデコイとしてパージして損失。
【貴方の隣に居たかった。あの時、私は自分で決めたの。この身体になる事を】
既に瀕死の状態だった。私はそのまま死んで処理される筈だった。
だけど、チャンスが来たの。
もう二度、まともな生活は出来なくなる。死ぬまで手駒になれと言われた。
それでも、私は選んだの。
「……自分から強化人間になったって言うのか」
【それしか追い付く手段が無かった。どんな代償を払っても良いって思ってたの】
死ぬ事が決まった肉体を捨て、新たな機械の身体を手に入れた。
例え、自分自身が徐々に無くなる事になろうとも。
私は後悔していない。
【だってそうでしょう?貴方は、もうそんな場所にいる。唯の少女だったら追い付けない場所】
けど、今なら追いつける……追い越せる。
【もう、私の全てはOSに移された。此処にいるのは抜け殻同然のモノ】
後は全てタケルに託している。
無責任かも知れない。
それでも私は貴方に勝ちたい。
【やるべき事は全て終わらせた。後は……貴方を破壊するだけ。だけど、それでも追い付けない】
自分を犠牲にリンク・ディバイス・システムのOSになった。
だけど、それでも貴方に届かない。
後、少しなのに……。
「……レイナ」
静かに涙を流すレイナ。俺は今直ぐにでもその涙を拭ってやりたい。
だが、レイナはそんな事を望んでいない。
レイナが望んでいるのは希望だ。
ならば、なろうではないか。
希望に。
「お前が追いかけたいと、肩を並べたいと、追い越したいと思ってる奴はな。この程度の障害を超えられ無いと思っていたのか?」
俺はレイナに語り掛ける。
「俺は負けねぇよ。なんたって……お前達の希望なんだからな」
【ッ!……そう、だよね。超えられるよ。私が……殺戮兵器になったとしても!】
「なら遠慮は要らねぇよ」
右手に持つプラズマサーベルを展開する。
それに呼応する様にベスウームナも左手に持つプラズマサーベルを構える。
「来い。そして、追い付いてみせろ。希望が切り開いた道を辿って。俺が居る場所まで」
【えぇ!遠慮はしない!私は……貴方に追い付きたい!】
ベスウームナは再び此方に接近して来る。
お互いの武装は既にプラズマサーベルのみ。
だが、まだ戦える。俺達は戦えるんだ。
ブラッドアークとベスウームナはプラズマサーベルを何度も交えながら機動戦に移行する。
互いに高機動型AW。そして、空も飛ぶ事も出来る。
最新鋭機でもあるブラッドアークに追従出来るベスウームナ。
レイナ自身の技量と機体スペックが合わさり非常に手強い敵となってい。
「だからと言って俺が引き退る事は無い!俺は!お前達の!希望になっているからな!」
ペダルを踏み込みブラッドアークを突っ込ませる。
ベスウームナは避ける事無くプラズマサーベルで振るう。
【ずっと!この場所に憧れていた!この場所に私は今立っている!貴方と!一緒に!】
空を2機のAWが駆ける。
激しく、情熱的に、この瞬間だけの為に命を燃やし尽くす。
ブラッドアークが振るうプラズマサーベルを的確に受け流し、反撃するベスウームナ。
ブラッドアークの装甲が切り裂いても、致命的な被害を与えれ無い。
そして、ベスウームナが決めに掛かる。
【私は!貴方に!】
ブラッドアークのコクピットに向けてプラズマサーベルを突き立てる。
だが、コクピットにプラズマサーベルの先端が装甲を熱して溶かし始めた瞬間。
ブラッドアークは右肩側面ブースターを全開に吹かし、プラズマサーベルからの攻撃を回避。
そしてブラッドアークはプラズマサーベルを横薙ぎに払う。
ブラッドアークとベスウームナが交差したのと同時に、二人は理解した。
全てが終わったのだと。
夕陽がブラッドアークとベスウームナの戦いを見届ける。
半壊したブラッドアーク。
コクピット横に致命的損傷を受けたベスウームナ。
長い様で短い戦いの勝負は決した
「私は……貴方の隣に立ちたかった。ねぇ、私は……貴方の隣に立てたかな?」
「…………」
レイナはシュウに問い掛ける。だが、シュウは答える事は無かった。
「そうよね。私は負けた。それが……全てよね」
散発的な爆発がベスウームナの機体内部で起こる。
もう、ベスウームナに戦う力は残っていない。
それでも、ベスウームナは後ろを向き続けているブラッドアークの背中に向けて左腕を伸ばす。
振り向いて欲しい。
最後に声を聞きたい。
それでもシュウは沈黙したまま。
レイナが諦めたその時。シュウは口を開く。
「そうだな。お前の憧れの存在はな……簡単に、誰かを隣に立たせる程弱くはねぇんだ」
「……そっか。フフ……貴方らしい。やっぱり、シュウは強いね」
「唯な……」
僅かな沈黙。俺は振り返る事なく彼女に言い放つ。
「俺の背中には触れられたよ」
自分なりに精一杯の言葉を彼女に掛ける。
「あぁ……そっかぁ。私、ようやく……認められた気がする」
ゆっくりと機体をブラッドアークに近付ける。だが上手く動かす事が出来ない。だが、それでもブラッドアークの背中に腕を伸ばし触れる。
「この位置……昔から…………変わらないね」
「あぁ、そうだな」
「ありがとう……シュウ。最後に貴方に会えて良かった」
「俺もだ」
ブラッドアークに触れてた腕が徐々にズレ落ちて行く。だが最後まで触れ続ける。それが何よりも大切な事だと思いながら。
「さようなら……大好きな人」
「あぁ、さようなら……愛した人」
レイナは最後に通信からデータを送る。
そして、爆発がコクピットまで迫る。
それでも……レイナは幸せそうな表情をしながらモニターに映るブラッドアークの背中を見続けたのだった。
笑顔を読者に届ける事を心掛けてます(^^)




