希望と罰2
《シュウ、私は本気だよ。だから、貴方も本気で来て。私に希望を見せて》
大型レールガンから放たれた弾丸は俺の頭上を通り過ぎて後方に着弾。
爆風が俺を襲うが気にする余裕は無い。
(ダメだ。今のレイナは冷静じゃない)
それ以外にも色々と違和感がある。
妙に話が統一されていないのだ。殺したいのか、愛し合いたいのか、再会を喜びたいのか。
まるでレイナが何人も居るかの様な違和感。
OS、リンク・ディバイス・システム、先の無い命。
恐らく、レイナは本当に死に掛けている。
いや、俺との戦いの中で死ぬつもりなのかも知れない。
俺が想像する以上に過酷な環境にいたのだろう。
もう、自我を保つ事が出来ないのでは?
(そんな筈は無い。折角、会えたんだぞ?なのに……何故、殺し合わないと行けないんだ)
仮にそうだとしてもだ。俺に出来る事は一つだけ。
「待っていろ。必ず、レイナを救ってみせる」
俺はブラッドアークに乗り込む為に走り出す。
「殺す必要は無い。機体の手足を一本、二本破壊すれば行動不能に出来る。ネロ!ブラッドアークを起動させろ!」
『了解しました。システム起動させます』
ハッチを開きコクピットの中に入る。そしてハッチを閉じて、モニターに映るレイナの機体を見据えながら操縦レバーを握り締める。
「レイナ、聞こえるか?この戦いが終わったら一緒に遠くへ行こう。そして治療もするんだ。良いな?」
俺はレイナに語り掛ける。だが、レイナの返事は肯定も否定も無かった。
【リンク・ディバイス・システムとの接続は正常。あぁ……これでやっと、私は貴方の隣に立てる】
4つ目のメインカメラが強く光り、此方を捕捉する。
【始めましょう、ベスウームナ。皆、私達の戦いを見守ってくれてる】
大型レールガンの銃口が此方に向けられる。
「……死んだ奴等は見守る事すら出来ないんだ」
試作プラズママシンガンをレイナ機へと向ける。
そして互いの持つ武器が同時に閃光を放つのだった。
互いに射撃による応酬を繰り返す。
試作プラズママシンガンで応戦する。だが、レイナが操る【ベスウームナ】は凄まじい運動性を発揮して全て回避してしまう。
「ッ⁉︎その動き!想像以上だよ!」
人間がそのままAWの大きさになったかの様な動き。
アーロン大尉を撃破し、バレットネイターを完膚無きまでに破壊したサラガン。
だが、あの動きがリンク・ディバイス・システムによる恩恵なら納得は出来るが。
(レイナ自身の才能か)
ベスウームナに向けてミサイルを発射するが、45ミリサブマシンガンで全て迎撃されてしまう。
「簡単に近寄らせるつもりは無い!」
一度距離を取る為に高く飛ぶ。だが、ベスウームナはブラッドアークに追従して来る。
【逃がさないよ。絶対に】
45ミリサブマシンガンを乱射しながら一気に間合いを詰めて来る。
メインブースターと両肩側面追加ブースターを全開に吹かし、あっという間に距離が縮まる。
「速い。だが、此処で引き退る訳には」
俺は試作プラズママシンガンを仕舞い、プラズマサーベルを展開。ベスウームナも同様に45ミリサブマシンガンを仕舞いプラズマサーベルを展開して振り被る。
【逃げちゃ駄目だよ。ちゃんと真剣に戦ってよ】
「俺は真剣だぜ。お前を必ず救うって決めたからな」
プラズマサーベルが激しく打つかり稲妻が発生する。
「足さえ消し飛ばせば!」
ベスウームナに押し込まれ地上に着地。そのままプラズマサーベルを弾きながら一気に後退。ビームキャノン砲を展開して脚部に狙いを定める。
トリガーを引くのと同時にビームキャノン砲から高出力のビームが発射される。
【無駄よ。そんな生半可な攻撃に意味なんて無い】
しかし、ベスウームナはブースターを少し使い軽くジャンプをして回避。そのまま大型レールガンで反撃して来る。
「クッ⁉︎生憎と諦めは悪い方なんでね!」
大型レールガンから発射された弾頭を咄嗟に回避するが、ビームキャノン砲に直撃してしまう。
「右肩ビームキャノン砲損傷。誘爆の可能性が高い為パージします」
ネロの判断によりビームキャノン砲が投棄される。
俺は試作プラズママシンガンと35ミリガトリングガンで弾幕を張り一度形勢を立て直す為に距離を取る。
「ハァ、ハァ、押されてるのか。俺が……こうも簡単に」
建物の陰に隠れるベスウームナ。だが、油断は一切出来無い。
【…………】
ベスウームナは建物越しから大型レールガンを構える。
「警告、熱源急上昇」
「マジかよ。問答無用ってか?」
躊躇無くトリガーを引くレイナ。それと同時に発射される大型レールガンの弾頭。
建物を吹き飛ばし、射線上の全ての物を薙ぎ払って行く。
「レイナ……クソったれが!」
再び機動戦に入り互いに射撃の応酬を繰り返す。
「速い……いや、上手いのか」
試作プラズママシンガンと35ミリガトリングガンの弾幕を最低限の回避をしながら、掻い潜り迫るベスウームナ。
レイナ相手に手加減出来る程の余裕は無い。だが、ベスウームナは確実に俺との間合いを詰めて来る。
「全く、最高の世界だぜ。本当にな!」
再び空に飛びベスウームナを捕捉。
(手加減している暇は無い。だが、レイナは死なせない。いや、死なせて溜まるか!)
ミサイルを発射してベスウームナを足止めする。ベスウームナはミサイルを回避する為に建物の間を駆け抜ける。
その隙を突く様に俺は機体を動かし、試作プラズママシンガンを構える。
(そう言えば……レイナは俺のギフト知ってたんだっけ)
トリガーを引き試作プラズママシンガンでベスウームナを狙う。
しかし、レイナは一切怯える気配は無い。冷静に、的確に回避して反撃して来る。
ミサイルと試作プラズママシンガンの弾幕を回避しながら反撃するレイナ。反撃する際は俺が回避する場所を予測しているのだろう。
ほぼ必ずと言って良い程に大型レールガンの弾頭とロケット弾が近くを掠めるのだ。
回避に徹しながらベスウームナの隙を待つか、作り出す為に反撃する。
しかし、ベスウームナは一切動じる事は無い。それどころかプラズマサーベルを展開して一気に間合いを詰めて来る。
「レイナ!俺は!お前を!」
試作プラズママシンガンを仕舞い、プラズマサーベルを展開。
だが、それはレイナにとって絶好のチャンスだった。
間合いが迫り再びプラズマサーベル同士が打つかり合う。
【残念だよ……シュウ。これで私の勝ち】
ベスウームナの左肩から特殊兵装アラクネが展開される。
3本のアームの先端には近接用サーベルが展開。
そのまま一気に3本のアームを振り被る。
「ッ⁉︎」
咄嗟の判断だった。
無意識に身体が動いたのだろう。
今までに培って来た技量が働いたのだ。
ブラッドアークの左足でベスウームナの脇を蹴飛ばしながら、35ミリガトリングガンをベスウームナの頭部に向けて叩き付けた。
ベスウームナの右顔面に35ミリガトリングガンがめり込む。同時に特殊兵装アラクネから繰り出された3本の近接用サーベルはブラッドアークの頭部の前面装甲と胸部装甲を斬り裂く。
「俺はぁッ‼︎」
一度開いた間合い。それを再び詰める為に操縦レバーを前に突き出し、ペダルを全開で踏み付ける。
「絶対にぃッ‼︎」
損傷した35ミリガトリングガンを放棄し、右手に持つプラズマサーベルを振るう。
「お前をぉッ‼︎」
ベスウームナの特殊兵装アラクネがプラズマサーベルを受け止める。そして八連装ロケットポッドからロケット弾が発射される。
「助けるッ‼︎」
被弾は覚悟の上。機体が壊れなければ構わない。
そのまま吶喊して左手にプラズマサーベルを展開させる。
ロケット弾が頭部と左肩に被弾。頭部の装甲とサブカメラが損傷、左肩の装甲が吹き飛ぶ。
だが、致命的では無い。
左手に持つプラズマサーベルをベスウームナの右腕の脇下に捻じ込みながら振り上げる。
ベスウームナの右肩が斬り飛ばされ、右腕と大型レールガンと宙を舞う。
【そうよ!それでこそ私達の希望!】
ベスウームナも45ミリサブマシンガンを投棄。プラズマサーベルを左手に持ち展開させる。
プラズマサーベルと3本の特殊兵装アラクネを振るいながら一歩も引き退る事は無い。
「希望何かじゃない。俺は、お前達を殺した罪そのモノだ!」
2本のプラズマサーベルを振るいながらベスウームナと接近戦を挑む。
【いいえ。希望よ。貴方は私達にとって眩し過ぎる程の】
互いに一歩も譲らずに接近戦による機動戦を行う。
ブラッドアークがプラズマサーベルを振るえば特殊兵装アラクネのアームが一本斬り飛ばされる。
ベスウームナが特殊兵装アラクネを使いプラズマサーベルを受け止め、その間にロケット弾が発射される。
ロケット弾はブラッドアークの頭部と左腕に直撃し吹き飛ばす。
ベスウームナがプラズマサーベルを振るう瞬間に、ブラッドアークに搭載されている胸部対物20ミリマシンガンが頭部を撃ち牽制する。
傷付き合い、徐々に損傷して行く2機のAW。
「レイナアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎」
【シュウウウウウウウウウウウウ‼︎‼︎‼︎】
プラズマサーベルが弾かれ、一度距離が離れる。
2機の間には共同墓地の墓石があった。
「うおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎」
【はああああああああああ‼︎‼︎‼︎】
だが、二人には墓石は見えていなかった。
2機が同時に間合いを詰めプラズマサーベルが再び打つかったのと同時に、墓石はベスウームナによって蹴り飛ばされる。
宙を舞う墓石。そしてホログラムが僅かに点滅する。
だが、墓石はブラッドアークの装甲に打つかり粉々になり空に散って行く。
残されていた墓石は二人の戦友の手によって破壊されたのだった。