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狂気、苦難、覚悟

更新再開します!

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「レイナ、本当に行くのか」

「うん。もう決めたの」


 タケルはパイロットスーツに着替えたレイナに問い掛ける。しかし、レイナの意志は堅く一歩も譲る事は無かった。


「何故だ。何故、そこまでして奴に(こだわ)る。もう、充分だろう」

「タケル……私だけじゃ無い。皆がそうだった」


 レイナのAWが格納庫から搬入されて行く。

 格納庫の扉が開くと吹雪なのか大量の雪が入って来る。


「私達は誰にも認められない。最初から希望も未来も無かった筈」

「そうかも……な。だが、お前は充分やって来た。それに、ザハロフにも義理は果たした」


 既に、この時にはネオ・アーマード・ウォーカーの搭載OSは完成していた。

 だが、レイナの頼みによってタケルは完成しているOSを隠蔽していたのだ。


 レイナもタケルも危険な綱渡りをしている状況。


 それでも、レイナはシュウの元に行く事を決断したのだ。


 それが殺し合う事になったとしても。


「今、逃げたとしても見逃される筈だ。OSさえ渡せば俺達は自由に」

「そうだね。そうかも知れない。もう、私は用済みだから」


 レイナは静かにタケルの側に近寄る。

 タケルは苦しそうな表情をして今にも泣き出しそうな雰囲気がある。


 レイナは思う。


 私の所為でタケルは必要以上に苦しんでしまっている。


 これ以上迷惑を掛ける訳には行かない。


 だから、最後は全てから解放されるべきなのだ。


 もう、私の側に居てはダメなんだって。


 レイナはタケルの頭を撫でる。あの頃よりずっと背が高くなったタケル。

 タケルは静かにレイナの手を受け入れる。


「タケル。ずっと側に居てくれて有難う。ずっと守っててくれて有難う。本当は私がタケルを助けたかった」

「お前には充分救われていたさ。お前が居なければ、俺は……こんな辛い場所で耐える事は出来なかった」

「なら、お互い様だね」


 レイナは笑みを浮かべる。しかし、タケルの表情は暗いままだ。

 そんなタケルの頬に手を添えて伝える。


「私は行くよ。きっと、皆が待ってる。皆が私とシュウを見届けてくれる」


 レイナは自分の機体を見る。

 黒とダークブルーのツートンカラーの大型AWが輸送艇の中に搬入されて行く。


 自分にとって忌み嫌う存在。


 同時に自分にしか動かす事が出来ない機体。


 何方かが欠ければ動かす事は出来ない欠陥機。


 だが、そのポテンシャルは最強のAWとしての一角に相当する。


「あの時、シュウは最後まで諦めなかった。私達を守る為にAWに向かって果敢にも立ち向かった」


 MWで被弾しながらも敵AWを撃破した。そして、最後の最後まで戦い続けていた。

 それでもシュウは倒されてしまう。でも、殺される訳には行かなかった。


「だから、私も同じ場所に立つ。そして、同じ様に戦う。それで……やっと、シュウの隣に立てる気がするの」


 守られてばかりの人生だった。


 タケルにも、シュウにも、皆にも守られていた。


 私の我儘に付き合ってくれた戦友達。


 命の危険があるのは分かっていたのにも関わらず。


 あの時は皆が同じ考えだった。




 私達の希望を絶対に絶やす訳には行かない。




「レイナ……」

「例え、この手でシュウを殺す事になっても。私には……それだけで、生きた意味があるから」


 例え、忌み嫌う機体であろうとも。


 シュウを倒せるなら、この機体に乗り込む事に……同期する事に躊躇はしない。


「大丈夫。私達の希望は簡単には落ちない。きっと、最後の最後まで戦ってくれる筈」


 果たして、最後に立ってるのは何方だろうか。


 そして、残った方は何を思うだろうか。


 愛する人を殺すと言う業を背負う事に耐えれるだろうか。


 だが、もう後戻りはしない。


 私達が初めて出会った場所で全てが終わる。


 あの地で眠る戦友達もきっと見届けてくれる筈。


「じゃあね、タケル。私達の分まで……生きてね」


 レイナは機体に向けて歩き出す。

 タケルはレイナの後ろ姿を見届けるしか出来無かった。


 この瞬間、二人は互いに違う道を歩む事になる。


 タケルはレイナと共に最後まで生きたかった。


 例え、レイナに未来が無くとも。最後まで側に居るつもりだった。


 レイナはシュウを殺して最後は後を追う事を決めていた。


 例え、シュウに殺されたとしても。永遠にシュウの心の中に残り続ける事が出来る。


 それはきっと素敵な事なのだ。


 未来に目を向け、希望を語り、優しく手を差し伸ばしたシュウの中で生き続ける。


「待っててね。今……イくから」


 覚悟を決めた(レイナ)は戦場に向かう。


 それを見送る事しか出来無い(タケル)は苦しみ続ける。




 誰にも止められない戦いが始まろうとしていた。






 惑星トミオー。グンマー星系の一つにある惑星だ。

 資源戦争による大企業同士の争いから、トミオー国防軍を巻き込んだ戦争に発展した場所。

 多くの都市と街を戦火の渦に巻き込み、惑星トミオーの民衆の憎しみと怨みを大量に買う事となる。

 その結果、民衆の反乱によりトミオー政権は瓦解。更に傭兵を雇い大企業に対しテロ活動を実施。


 トミオー政権が求めた大経済惑星とは裏腹に混乱と治安悪化による内戦が勃発。


 そして大企業も利益(メリット)より被害(デメリット)が上回る判断し即時撤収。


 残されたのは破壊し尽くされ廃墟となった多数の都市と街。

 民衆の支持を失なったトミオー国防軍は各派閥により分断。

 そして戦争により残された兵器を回収して売買して生計を立てるスカベンジャーの巣窟となった。


「マスター、間も無く惑星トミオーになります」

「そうか。接近して来る何かはあるか?」

「レーダースキャンをしましたが何も検知しませんでした」


 惑星トミオーの軌道上には宇宙ステーションがある。そこに停船している旧式の軍艦が多数あるが動く気配は無い。

 理由は二つある。

 一つは統制する筈の政権が瓦解してしまった事。本来なら政権を背後から操ろうと画作していた自由惑星共和国も、操る政権が無ければ意味が無いと判断して撤収したのだ。

 もう一つは派閥争いにより軌道上艦隊の指揮系統が孤立してしまったのだ。更に悪い事に艦隊司令官は頭は回るのだが欲深いのに臆病なので、無断で艦隊を動かす事による責任追求を逃れたかったのだ。

 軌道上艦隊の下では、まだ派閥争いが継続している状況下。

 高みの見物に徹して最後の最後で美味しい所だけを掻っ攫う予定の艦隊司令官殿。

 結果として宇宙ステーションに残されたのは、無闇に動く事の無いトミオー軌道上艦隊が停泊している状況だった。

 宇宙ステーション自体は稼働しているのだが、遠目から見ても無様なハリボテ艦隊だと良く分かる。


 本来なら惑星トミオーの軌道上に来たら通信の一つは来る筈だ。


 だが、何も来ない。


 宙賊の様な多数のならず者の艦隊かオーレムが攻めて来ない限り動くつもりが無い。


 唯、そこに存在しているだけだった。


「……無駄にデカい置物だな」

「マスター、地上に降下しますか?」

「あぁ、そうだな。場所は多分……この辺りだ」


 正確な場所は覚えてはいない。だが、前哨基地があった場所を調べれば予想は出来る。

 俺が居たと思われる前哨基地は既に放棄されていた。

 前線が移動した為、前哨基地の役割が無くなったからだ。

 無論、第二線としての役割はあっただろう。だが、トミオー政権が瓦解し戦争相手も撤収。

 第二線の前哨基地を運営し続ける資金も余力も無い状態だ。

 後は各派閥が生き残りを掛けて血で血を争う内戦に勝たなければならないのだがら。


「…………」


 俺達が命を懸けて守った前哨基地。それが今や放棄され廃墟と化している。

 だが、もはや何も思う事は無い。戦争になれば守った場所が次の日には放棄されるなんてザラだ。


(タケル、レイナ。お前達も、この場所に居るのか?この、何も無い場所に)


 命を懸けた結果がコレなのだ。


 果たして正気で居る事が出来るのだろうか?


「マスター、間も無く大気圏に突入します」

「……そうか」


 俺は平気だ。もう、慣れたから。


 だが、あの二人は耐えれるだろうか?


(レイナ……タケル……皆…………、俺は)


 マグナム(M&W500)を取り出して眺める。


 僅かに傷付きながらも銀色に鈍く光る。


 俺はマグナムを暫く眺め続ける。


(俺は……どんな運命だろうと足掻いてみせる。今までもそうだった。そして、今回も最後まで足掻いてみせる)


 そして覚悟を決めてホルスターに戻すのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか恋人がヤンデレファイナルアタック仕掛けてくる覚悟は決めてないよなぁ。 [一言] タケルさんよぉ・・・
[一言] 三人、隣に立って欲しかったよな。 向かい側も、はみちょも違うだろうに、今更目指したものを変えるはずもなし、かぁ。
[一言] 連載再開感謝 どうあっても苦い終わりしか見えないけど楽しみにしてます
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