終わりの始まり
本来なら4、5月辺りから連載再開する予定だったのですが。
誤って3月に投稿予約していました。
なので続きは…その……これで途切れます。
ごめんなさい。
一通のメール。
このメールが俺の……俺達の運命を動かす事になったんだ。
例え、誰も救われ無かったとしても。
それは俺達が選んだ選択だ。
きっと……後悔はしない。
パソコンの画面を見続けて、どの位の時間が経っただろうか。
様々な仮定が浮かんでは否定する。しかし、その中で一つだけしっくり来る仮定があった。
「レイナが生きている?いや、有り得ない。もう、あの時には死亡判定にされて放置されてたんだ」
今でも直ぐに思い出せる。
野戦病院のベッドの中で血が滲んだ包帯で全身を包まれている姿。
左腕と両脚が無く、右腕しか残っていない姿。その残った右腕ですら手の原型は残ってはおらず、辛うじて呼吸をしていた姿。
致命傷を幾つも受けており死ぬのは時間の問題だった。
だが、俺はレイナの死を見届けただろうか?
あの後、俺は自暴自棄と八つ当たりを織り交ぜてタケルを言葉で責め立てた。
そして、タケルと殺し合いに近い殴り合いをして、俺は気を失ってしまったんだ。
その後のレイナとタケルの足取りは不明。
調べる勇気も気力も無く、この世界で生き残ると決めたんだ。
自分より上の奴には媚を売り、同じか下の奴には甘い言葉を使いながら囮にしたりして。
我ながら最低だなと思う。だが、お陰で早い段階で正規市民には成れた訳だが。
「どうする?俺は、どうすれば良いんだ」
自分に問い掛けるが、答えは既に出ている。
俺は現在地と目的地の距離を調べる。それから移動する日数を計算。
俺は意を決してメールに返信する。
多くは語らない。
きっと、会えば全て分かる筈だ。
[二週間以内に向かう]
今はこれだけで充分だ。
俺は直ぐに出掛ける準備をする。
現金やパイロットスーツ、着替えを鞄に詰め込んでいると、ネロが部屋に入って来た。
「マスター?出掛けるのですか?」
「丁度良い。後で球体ボディに戻っておいてくれ。ちょっと用事が出来た」
指示を出し出撃する事を伝える。ネロは直ぐに状況を察して準備に入る。
「分かりました。AWは使用しますか?」
「あぁ。後、高速輸送艇を手配しておいてくれ。その間に社長の所に一言伝えに行ってくる」
「了解しました。武装に関しては如何致しましょうか?」
「俺がやる。後は頼んだ」
「畏まりました」
俺は部屋から出ると真っ直ぐに社長室へと向かう。
二週間の暇があったが依頼は来る。それに、休んでた分は稼ごうとするだろう。
社長室の前に来てインターホンを鳴らす。
『キサラギか。どうした。貴様がインターホンなんぞ使うとは』
「真面目な話なので一応ね」
『まぁ良い。入れ』
ドアが開き社長室に入る。社長は端末を操作していたが、此方に顔を向ける。
「真面目な話か。何だ?退職でもしたくなったか?」
「いやいや、違いますよ。少し野暮用が出来ましてね。最低半月くらいは間を空けます」
「半月か。サキュバスの館で休めただろう……と、言いたいが。何かトラブルか」
社長の真剣な眼差しが、此方を見据える。俺は嘘を言わずに話を進める。
「トラブルではありませんよ。唯……恋人に会いたくなりましてね。いや、もしかしたら相手からしたら恋人では無いかも知れませんけどね」
「…………」
俺は今でもレイナの恋人であると自負している。けど、それは独りよがりな事なのかも知れない。
爆発に巻き込まれて致命傷を負ったレイナ。
俺を助けに来なければ死ぬ事は無かった。
恨まれても仕方無いかも知れない。
だが、それでも俺は……。
「ずっと、会えなかった。けど、チャンスが向こうからやって来た」
自身の手のひらを見る。
仲間も恋人も戦友も救えなかった手。
何が転生者だ。根拠も無い自信に浸り、仲間達の血で染めた愚か者の手だ。
「ほぼ間違い無く罠と見ていいでしょう。ですが、今行かなければ後悔する。例え、その先の道が塞がっていようとも」
だから覚悟は出来ている。
例え、タケルが俺を本気で殺しに来たとしても。
俺はそれを受け入れよう。
受け入れた上で足掻いて見せる。
それが、せめてもの償いと信じて。
「死ぬ覚悟は出来ている……と?」
「まさか。俺は俺ですよ。死ねと言われて簡単に死ぬ命ではありません。伊達にエースまで成り上がってはいませんよ」
「そうか。なら、良いだろう」
社長はあっさりと許可を出す。一言、二言……いや、五、六くらいは文句を言ってくると思ったんだがな。
社長は何かを感じたのか眉間に皺を寄せ不満げな表情をして俺を睨んで来る。
「何だ。儂が簡単に許可を出したのが不服か?」
「いえいえ。唯、既に受けている依頼もあるんじゃと思いまして」
「ふん、そんな事か。貴様はもう少し他の者達に関心を向けるべきじゃな」
グラスに高級ウィスキーを注ぐ社長。
「ニャメラにチュリーのエースクラスのパイロット。そして、貴様が鍛え上げた他の隊員達。例え貴様が居なくとも戦力としては申し分無い」
「鍛え上げた……あぁ、模擬戦で毎度ボコボコにしてオカズ分捕ってるだけですが」
「相手からしたら嫌だろう。食べ物の恨みは根が深い。だが、その分貴様との訓練には常に真剣だ」
お陰で練度が非常に高くなっているらしい。
社長はウィスキーを一口呷ると此方を睨みながら言う。
「今までの功績に免じて許可を出す。貴様の事だ。高速輸送艇も持ち出すつもりだろう」
「良くお分かりで」
「貴様がやりたい事が何かは知らんし、興味も無い。だが、輸送艇は儂の所有物だ。必ず返しに来るのだぞ」
そして再びグラスにウィスキーを注いで飲み始める社長。
遠回しに生還しろって言ってくる辺り、全く素直じゃない。だが、悪くない。
「了解です。では、暫く暇を頂きます」
「フン。精々、自分自身が納得出来る様にするんだな」
社長の有難いアドバイスを聞きながら敬礼して部屋を退出する。
挨拶を済ませ荷物を部屋から取り、格納庫に向かう。
「あ!先輩先輩って、その荷物は何なんスか?何処かに出掛けるんスか?」
丁度、整備兵達と一緒に機体整備に付き合っていたアズサ軍曹に声を掛けられる。
「まぁな。アズサは何だ?機体の再調整か」
「そうッス。私のアーミュバンカーは何とか直ったんスけど。まだ腕とかはサラガンの使ってるんで」
アーミュバンカーを良く見ると両腕だけはサラガンだった。
追加装甲も付いてはいるのだが、微妙に見た目がダサくなっているのは頂けないな。
「何なら両腕は一体型にしたら良いんじゃね?両肩は大口径ガトリングガン使うなら、120ミリ速射砲に切り換えても良いだろう」
「確かにそうッスね。自分、接近される前に敵は潰す予定なんで」
無駄にデカい胸を張りながら言うアズサ軍曹。
まぁ、一応コイツも強い分類に入るからな。大抵の奴なら近付く事は困難だろう。
サラガンでも充分戦えるだけのポテンシャルをアズサ軍曹は持っている。
後、何気に専用機持ってるし。
「もしくは二連装45ミリマシンガンも良いな。そっちの方が近接でも対処し易いし、見た目も悪く無くなる」
「確かにそうッスね。なら、今回は45ミリマシンガンにするッス!」
「頑張れよ。但し、無駄に弾はバラ撒くなよ。出来る事なら寄せ付けてから確実にバラバラにしてやれ」
アドバイスはしておく。俺が居ない分、アズサにはしっかりと敵を撃破して貰わんと困るからな。
まぁ、敵を倒す事には躊躇無くやるから余計な心配かも知れんがな。
「珍しいわね。キサラギ少尉がアドバイスするなんて」
「そうかい?偶にはアドバイスくらいはするさ」
チュリー少尉がドリンクを飲みながら、此方に近寄って来る。
気さくで、話し易く、スタイルが良いから男性陣の視線を独り占めしている。
まぁ、女狐らしいと言えばらしいのかな?
「なら、私には何かアドバイスしてくれるかしら?」
「ウォーウルフに乗れ。俺が言えるのはそれだけだな」
少し色っぽい感じで聞いてきたが、バッサリと切り捨てながらウォーウルフを勧める。
「ウォーウルフねぇ。悪くないとは思うんだけど。私、可変機が好みなのよね」
しかし、ウォーウルフに対して少々難色を示す。
チュリー少尉は可変機乗りなので通常機のAWでは不満があるのだろう。
「ヘルキャットも悪くは無い機体だが。積載量が少ないのが欠点だな。後は速度を見誤って可変を失敗するリスクがあるとかかな?」
とは言えだ。チュリー少尉は既にフォーナイトやヘルキャットを乗り続けている。
下手にウォーウルフやサラガンに乗り換えると戦力低下は免れないだろう。
勿論、彼女もプロの傭兵だ。並以上の動きをする事は間違い無いだろうがな。
「まぁ、チュリー少尉なら要らん心配だろうけどな」
「あら、珍しい。貴方が褒めるなんて」
「喧しいわ。そのフワフワ尻尾抱き締めるぞ」
俺がセクハラ発言すると、警戒する様に自分の尻尾を抱き抱えるチュリー少尉。
まぁ、その姿見るだけでも御馳走様なんだけどね。
「マスター、機体の搬入完了しました」
「そうか。じゃあ、行くか」
「そう言えば先輩。どこかに出掛けるんスか?」
「あぁ、ちょっとな。まぁ、野暮用だ」
俺は簡潔に説明したつもりだ。だが、チュリー少尉の目が鋭くなる。
「ねぇ、私には貴方が何する気なのか分からないわ。けど、勢いだけで行くと碌な目には遭わないわよ」
忠告のつもりだろう。心配してるつもりは無さそうだが、それでも一応って感じは分かった。
だから素直に忠告を受け取り返事をする。
「そうだな。そうかも知れない。だが、今行かなくてはならないんだ。例え……」
しかし、言葉が出る事は無かった。
今回ばかりは死ぬかも知れない。
タケルが本格的に殺しに来るというのであれば。
俺はそれを正面から叩き潰さなければならない。
何せ、俺達は……宿敵だからな。
「先輩……、自分、その」
アズサ軍曹が不安気な表情で何か言いたそうにしていた。
俺はアズサ軍曹の頭に手をやり、猫耳も含めて撫でる。
「何不安そうな顔してんだよ。俺を誰だと思ってんだ。スーパーエース様だぞ」
そして、アズサ軍曹の頭から手を離して高速輸送艇に向かう。
「では、マスター。私は本体の方に移ります」
「あぁ、それで頼む」
ネロは球体ボディをコクピットに接続。そして直ぐに球体ボディに移動する。
「ヴィラン1より管制へ。これより出撃する」
『了解しました。では、第一カタパルトへ移動します』
直ぐに対応してくれるのは安定のナナイ軍曹だ。
高速輸送艇が第一カタパルトに向けて移動している間に、輸送艇に異常が無いかチェックする。
『珍しいですね。キサラギ少尉が依頼も無しで出撃するのは』
「そうかもな。まぁ、少し昔馴染みと会って来るだけさ」
『……そうですか。ハッチ開放。進路クリア、発進どうぞ』
ナナイ軍曹は特に何かを言う事は無かった。
いつも通りに対応して貰ってる。それが今は何より有り難かった。
「了解した。ヴィラン1、出るぞ」
『キサラギ少尉、無事の帰還を』
俺はナナイ軍曹に軽く敬礼をしてから出撃する。
これから暫くは漆黒の宇宙を突き進む事になるだろう。
今居る宙域は決して安全な場所では無い。この宙域にも宙賊やオーレムは存在している可能性は高いからな。
「ネロ、交戦はなるべく控える。出来るだけ指定航路に沿って目的地へ向かう」
『了解しました。目的地は何方になるでしょうか?』
「目的地は……惑星トミオーの前哨基地だ」
今でも鮮明に思い出せる。
俺達が初めて出会った場所。
満足な装備が無くとも互いにフォローし合いながら生き抜いた場所。
笑い、涙を流し、苦楽を共にした戦友達。
愛する人を決めて勇気を出して告白した。
戦友から親友に変わった時。
親友から宿敵に変わった時。
そして、守りたかった戦友達、親友、恋人を失った場所だ。




