サキュバスの館6とメール
ネロMK-Ⅱの援護を受けつつ、宇宙の癒しへの入り口に到着する。
ドアの入り口にCloseの立札があれば直ぐに引き返す。だが、Openの文字が見えた瞬間に舌打ちをしながらマグナムを構える。
そして、ドアをゆっくりと開ける。
「誰か居るか?俺だ、シュウだ。知り合い以外は返事しなくて良いぞ」
店内に入り声を掛ける。返事が無ければ俺達も逃げるつもりだ。
「…………」
返事は無い。それならそれで構わない。直ぐに回れ右して逃げる必要がある。
既にネロMK-Ⅱが派手に暴れている。遅かれ早かれ暴徒共が音に引き寄せられる筈だ。
軽く店内を見渡してから逃げる事にした。だが、その時物音がした。
「も、もしかして……シュウ君なの?」
「本当に?偽物じゃないの?」
「マリア、ミリオ。何故、居るんだ」
よりにもよって、二人の声が聞こえてしまった。
マグナムも構えながら店内を再び見るとマリアとミリオがカウンター席から頭を出していた。
「えっと……その。そう、お店の準備があって」
「そうなのよ。今日、私達が買い出しとかの当番だったからね」
「クソッ……ハァ、逃げるぞ。店に隠れてても荒らされて意味が無い」
「いや、私達は中で隠れてるから。それよりシュウ君は直ぐに逃げた方が」
「ねぇ、ミリオ。今だと外の方が危険なんじゃ?」
不安そうな顔をする二人。いや、不安とは少し違う気がするけど。
(何だろう。この違和感は。気の所為だと思うのだが)
実際、店内で身を隠す方が安心するだろう。
だが、安全と安心は別物だ。
「外だろうが中だろうが関係無い。今動かないと死ぬだけだ」
その状況を高めたのは俺とネロの所為かも知れんが。だが、この程度の足止めでは暴徒共の暴走は絶対に止まる事は無い。
この混乱も直ぐに収まるだろう。サキュバスの館にも治安維持部隊は存在する。
装備も質もサキュバスの館側が圧倒的だ。つまり、時間までに逃げ切るか保護して貰える範囲まで行ければ良いだけだ。
「ネロ、聞こえるか?撤退するぞ」
『申し訳有りません。現在PS装備の暴徒と戦闘中』
その瞬間、ドアが吹き飛びネロMK-Ⅱが飛んで来る。
装甲の一部は切り裂かれ、対物ライフルは破壊。シールドも一部が切断されていた。
『……です』
「マジかよ」
ドシンドシンと荒い足音と共に店内に入って来たPS装備の暴徒。
赤黒い色だろうが錆が目立つPS。だが、装甲や鉄板を貼り付けており硬さ自体はあるだろう。
右手には重アサルトライフルを持ち、左手にはチェーンソーブレードを振り回してながら現れる。
【ダッハハハハ!木偶人形の割には中々歯応えのある奴だなぁ。気に入ったぜ。お前は俺様が貰ってやるよぉ!】
「全く、折角の最終日の休みだってのによ」
俺はマグナムを構えながらPS装備の暴徒に対峙する。
【何だぁ?テメェは。そんな豆鉄砲で俺様に反抗しようってか?】
「相手は俺だけじゃないぜ?ネロ、立てるか?」
『はい。戦闘行動に問題ありません』
俺の言葉にネロMK-Ⅱは立ち上がる。そして四連装ミニガンを投棄して近接装備を装着した。
【対PS用パイルバンガー】
パイルバンカーを装着したネロMK-Ⅱはファイティングポーズを取りながら身構える。
(俺はツッコまねぇぞ。パイルバンカー持ってる事にはな)
実際、こんな狭い場所では重火器は扱い難い。
相手が生身の奴なら問題無いだろう。だが、今回の相手はPSだ。
【ほぅ、ますます気に入ったぜ。なら、俺も付き合うとしよう】
敵PSは重アサルトライフルを放棄。チェーンソーブレードを両手で構える。
ネロMK-Ⅱと敵PS。
今や俺の存在は蚊帳の外だろう。
(取り敢えず、マリアとミリオには悪いが伏せてて貰うか)
俺は物陰に隠れながら二人に伏せろのジェスチャーをする。
『では、失礼します』
そう言ってからネロMK-Ⅱはパイルバンカーを構えながらブースターを吹かし突撃する。
ネロMK-Ⅱの突撃に合わせる様にチェーンソーブレードを振るう敵PS。
重厚な音と共にパイルバンカーから突付きが射出。
だが、敵PSは臆する事無くチェーンソーブレードを使い突付きを逸らす。
【間合いは貰ッ⁉︎ウグッ、良い蹴りだ】
『パイルバンカーだけが私の武器では有りませんので』
敵PSに膝蹴りを喰らわせ、更に腕に装備しているシールドで殴る。
鋼鉄と鋼鉄が打つかり合う轟音が店内に響く。互いに一歩も引かず格闘戦を行う。
無論、俺も唯眺めるだけで終わらせるつもりは無い。
「取って置きの一発ってやつをご馳走してやるぜ」
懐から特殊弾を一発取り出してマグナムに装填。え?特殊弾の値段?全然出回って無いから無駄に高いとだけ言っとくよ。
そして、敵PSに近寄る為に走る。
【唯の木偶人形だと思ってたが。中々、良い顔してんじゃねぇか】
「貴方に褒められても嬉しくはありません」
馬乗りになりネロを完全に抑え込んだ敵PS。そして、顔面の装甲を引き剥がしネロの容姿を誉める。
【身体も悪くねぇ。へへへ、こんな高価なアンドロイドを手に入れれるとはな。壁を越えて正解だったぜ】
「真っ当に働けば良いアンドロイドくらい手に入ります」
【分かってねぇな。他人のモノだから奪うんだよ。そっちの方が働くより簡単だからなぁ!】
そして自分こそが勝利者だと言わんばかりにネロの顔に手を出そうとする。
「いや、俺の存在忘れるとか。酷くない?」
至近距離まで近付けれたのもネロMK-Ⅱの活躍が有ってこそだ。
お陰で射程内に収める事が出来た。
【あん?何だ。まだ居たのか。わざわざ見逃してやってたのによぉ。大体、そんな豆鉄砲で俺様に勝てるとでも思って】
敵PSの奴が台詞を言い切る前に撃鉄を起こす。
「切り札ってのは常に持ってるのが強者の鉄則だ。あの世で他の屑共に教えてやるんだな」
そしてトリガーを引き特殊弾の弾頭が発射される。
弾頭にはHEAT弾と似た様な原理で科学薬品が詰め込まれている。着弾すれば超高温となり装甲を一瞬で溶かす。
しかし、弾自体がマグナムなので小さい。距離が離れてしまうと威力も命中率も非常に悪くなる。
だが、至近距離でならPSの胸装甲部分ですら貫ける事が可能。
高温の特殊弾頭は発射された運動エネルギーを存分に受け、頭部装甲内へと入り込む。
【グガッ‼︎‼︎アッッッ⁉︎⁉︎】
一瞬だけ声を出す敵PS。だが、口も喉もあっという間に焼かれながら溶ける。
特殊弾頭により穴が空いた場所からは火柱が出る。
そして、後頭部にまで入り込み頭の全てを溶かしてしまう。
痙攣をしながら敵PSは後ろに倒れ込む。
俺はマグナムの銃口から出る煙をフゥと吹きながら言う。
「呆気ない終わり方だったな。まぁ、考えが足りない奴ってのはどいつもこいつも同じ末路を辿るんだけど」
そもそも、俺が生身だからと言って目を離してた時点でアウトだ。
後は、ネロを手に入れたくて夢中になってたのも減点だったな。
「さて、取り敢えず脱出するぞ。ネロ、良くやったな」
「お褒めに預かり光栄です」
「MK-Ⅱは……まだ使えそうか?」
「はい。頭部、胸装甲以外は問題ありません」
「良し。武装を再装着しろ。マリア、ミリオ、脱出するぞ」
床に伏せていた二人を立たせ脱出の準備をする。
「脱出って。どうするマリア?」
「……仕方ないわ。行きましょう」
やはり違和感がある。しかし、素直に指示には従うし逃げる準備もしている。
俺は喉に骨が引っ掛かる気持ちのまま、マグナムに弾を再装填しながら警戒するのだった。
路肩に停めてある車に久々の登場でもあるハッキングツールを使い鍵を解除する。
「エンジンは無理矢理動かすか。この配線とこれかな?いや、これかも?」
取り敢えず経験と勘を使い何とかエンジン始動に成功する。
「ネロは後続から着いて来れるか?」
「ブースターを使えば5分程の移動速度には支障ありません」
「他に移動手段は?」
「直線なら履帯での移動でも速度は出ます」
「なら、その速度に合わせる。援護頼むぞ」
「お任せ下さい。マスターは私がお守りします」
車を動かし急いで逃げる。無論、暴徒共も此方に気付いており銃を発砲して来る。
しかし、ネロMK-Ⅱの持つ四連装ミニガンと二連ショットガンの弾幕により鎮圧される。
「ふぅ、随分とネロに助けられたな。隠密とは真逆になったが。結果的に誰も死なずに済んだ」
「助けに来てくれてありがとう。シュウ君」
「今回だけだぜ?後は自力で何とかする様にしてくれ。俺は今日には離れるだろうからな」
「もう行っちゃうの?残ってくれるならサービスするよ?」
マリアとミリオは落ち着いた雰囲気のまま良い事を言ってくれる。
やはり、先程の違和感は気の所為だったのだろう。
「次来た時に取っとくよ。まぁ、この混乱も直ぐに収まるだろうしな」
空を見上げれば最新鋭AWのウォーウルフが機動力を生かし空を飛びながら攻撃をしている。
(流石サキュバスの館だ。ウォーウルフを採用してるとか金持ってんな)
有る所には有り、無い所には無い。
何処の世界も同じなのだ。価値有る者達や場所に投資。そこから利益を得るのだ。
メリットがある事を証明し続ける。それが、この場所に住む者達の義務なのだ。
そうすればサキュバスの館は慈悲を与えるだろう。
だが、その義務を怠れば隅に追いやらる。最終的にアウターシティに追い込まれるのだ。
そして、扉を閉じて視界に入らない様にする。
(だが、価値を証明すればゴーストでも成り上がれる確率は高い。この場所が楽園って言った奴は詐欺師か節穴の何方かだな)
サキュバスの館は何処よりも厳しい実力主義の監獄だ。
警備隊のAW部隊が続々と現地に到着。
攻勢を強める警備部隊と勢いが衰えるアウターシティの暴徒共。
次々と処理される暴徒共を尻目に、混乱を利用して内側に入り込む連中も居る。
全ては内側に入らなければ何も始める事は出来ない。
「お前達、此処からが本番だぞ。最初にやるのは、この辺りの地域を掌握する。それから力を付けて一気に二層の内側に入る」
第三層の外側は内側よりも縄張り意識が非常に高い。故に直ぐに暴力で解決するか、同種族で固まる傾向が高い。
第二層からは社会性と品性が必要になる。しかし、第三層やアウターシティの者達からしたら鴨が多くいる。
悪事を働く為に第二層に行く事を目的としている者達は大勢居るのだ。
「ボス、上手く行きましたね」
「あぁ、使えない屑共だったがな。だが、良い囮にはなってくれた」
葉巻を咥えて火を着けて一服する狼の獣人。
大人数で連れて行く事は困難だった。下手に気性の荒い奴を連れて来ると、それだけで足枷になる。
だからこそ、クレジットを持てるだけ持って来て事業を始めるのだ。
「暫くは身を潜めるぞ。警備隊やサキュバスの犬共に目を付けられたくは無い」
まずは足場を整える事が大事だ。事を急かせば足元から崩れる可能性がある。
ゆっくりと確実にやる。またアウターシティに追い出されるのは御免だからな。
葉巻の煙を肺一杯に吸う。
そんな時だ。ふと、甘い香りがした。
とても良い香りだ。同時に危険が直ぐ近くに居ると勘が警鐘を鳴らす。
「あらぁ、悪い子達がこんなにも。これはリリス様に報告しとかないと」
「ねね、少しくらい摘み食いしても良いよね?ね?」
「ダメよぉ。そんな事したらリリス様を悲しませてしまうわぁ」
甘ったるい喋り方。そしてリリスと言う名前。
リリスと言う名前はサキュバスの館では神に等しい存在。何故なら初期のサキュバスの館が出来た頃から生きていると言われているからだ。
姿を見せる事は殆ど無く、限られた者達しか顔を合わせる事は出来ない。
恐怖に顔を引き攣らせながら振り向くと、二人のサキュバスは此方を見ている
そこにはシュウとネロと共に脱出した筈のマリアとミリオがいた。
しかし、雰囲気は全くの別物だった。
二人とも悪魔の様な羽と尻尾を生やしており、頭にもツノが二本出ている。
その姿はサキュバスの館を象徴する存在。
サキュバスが居たのだ。
「ま、待ってくれ!オレ達は何も」
「してないって言うのぉ?これだけの事をしでかしたのにぃ?」
「キャハハ!ねぇ、こいつまだバレてないって思ってるのかな?私達が此処に居る時点で終わりだって気付かないって相当馬鹿なんじゃない?」
全てバレている。そんな筈は無い。
あの協力者も下手に俺達を売る筈が無い。そんな事をしたら余計に自分の首を絞める事になる。
「あぁ、もしかしてぇ。協力者の心配してるのぉ?優しいわねぇ。けど、そいつならとっくの前に捕まってるわよぉ」
「そんな筈は無い!昨日も連絡を貰って!」
そうだ。奴の目的は恐らく第一層で何かをする事は分かっていた。
だがオレの目的と被る事は無かったし、互いに協力出来ると理解していた。
「だからぁ、その連絡相手が既に別人だったって訳。リリス様って本当に愛されてるよねー」
「まぁ、今回の件もリリス様が容認した話だしねぇ」
容認?この暴動も犠牲者が出る事も容認したと言うのか?
だとしたら、オレ達の計画は最初から知られていたのか?
「なん……だと?なら、最初からオレ達を利用して」
「んーとね。何かぁ、掃除したかったんだって。で、丁度良く知り合いのエルフに協力して貰った感じかな?」
「もう、簡単に教えちゃダメよぉ?でも、保安部隊の中も一度整理したかったからぁ。貴方達を利用しただけよぉ」
保安部隊内部での横流しや兵士の質が低下しつつあった。
なので一度内部を整理する必要があった。
例え、流血沙汰になろうとも。第三層とアウターシティだけなら容認した。
他でも無い。サキュバスの館の主人でもあるリリス様が決めた事。
「ふ、ふざけるな!こんな所でオレ達はッ」
武器を構える瞬間に二人のサキュバスが深い笑みを浮かべる。
「「大丈夫よ。全員、快楽の奈落へ堕として・あ・げ・る♡」」
その瞬間、オレ達は全員サキュバス様達の下僕に成り下がったのだ。
結局、アウターシティの暴動は警備隊の迅速な行動により直ぐに鎮圧された。
この一件で保安部隊は殆ど動く事は無く、市民からの不信感が爆発。そして、勢いがある警備隊は保安部隊内部の強行調査を実施した。
その結果、保安部隊の上層部にも汚職が発覚。更に保安部隊に所属する隊員も薬に手を出していたり、アウターシティと繋がりがある者達が居たのだ。
治安を守る筈の保安部隊が腐敗。地位が落ちただけで無く、上層部が責任を取る形で一斉に辞職する事態にもなった。
更にこの暴動により一部のアウターシティの者達が第三層に侵入。
しかし、判別は難しく現状として放置するしか方法は無かった。
無論、第三層に住む者達が自主的に警備隊に連絡をしたりするが、クレジットを渡され黙認する住人達が居るのは仕方ない事だった。
この暴動により様々な憶測が流れたが、時間が流れると共に沈静化。
再びアウターシティに繋がる扉は固く閉じるのだった。
傭兵企業スマイルドッグはサキュバスの館を後にした。
東郷組とも別れ、次いでにカリナ・スティングレイはサキュバスの館に残ると言うので置いて行く事にした。
俺はと言うと特に何かをする事は無かった。精々、マリアとミリオを警備隊に引き渡して別れた。
別れの挨拶は必要無い。
傭兵と一般人だ。これから先、再び出会う事は無いだろうからな。
「まぁ、元気そうで良かったけどな」
自室に戻りパソコンからメールの内容を処理して行く。
企業所属の傭兵とは言えエースパイロットとなると個人として依頼は来る。
大抵の場合は無視したりするが、暇な時は依頼を受けたりもする。
今回は二週間近く間を空けていたから、それなりの量のメールが来ていた。
「反乱分子の排除、労働者達の反乱鎮圧、アイドルコンサートの警備、艦隊護衛。選り取り見取りってやつだねぇ」
とは言え社長の事だ。この二週間の間に新しい依頼を受けたに違いない。
「残念ながら今回はご縁が無かったと言う事で。ポチッとな」
即読したメールをまとめて消して行く。しかし、まだ読んで無いメールは沢山ある。
これもある意味有名税と言っても過言では無いかも知れない。
暫くメール内容を処理して行く。
すると変わったメールがあった。
一瞬、何かの暗号かなと思ってしまった。だが、意味を理解した瞬間に怒りが込み上げてきた。
メールのタイトルには、この様に記されていた。
【60511から60512へ】
こんなメールをする奴は一人しか居ない。
タケルだ。そもそも605の番号の意味を知っている奴は、タケルと俺しかこの世に生きてはいないからだ。
だが、一つ不審な点もある。
タケルはこんな事で死んだ人を使う様な奴では無い。
そもそも、こんな事をしなくても軍事企業QA・ザハロフに所属しているし、主任にまで昇り詰めていた筈だ。
わざわざ遠回しな事をする理由が無い。それに、俺を殺したいなら直接的な連絡かやり方で来る筈だ。
(それに、この番号だってレイナが使っていたコールサインだ。タケルがレイナを利用する?いや絶対に有り得ない)
タケルの性格からして有り得ない。仮にやったとしたら容赦無くブッ殺しに行く。
「…………」
メールを睨むが変化は無い。少し警戒をしながらクリックして内容を見る。
[初めて出会った前哨基地で待っている。
AWに乗って来て欲しい。
ずっと、ずっと待ってるから。貴方が来てくれるまで。]
この文面だけなら過激なストーカーに見えなくも無いだろう。
だが、最後の文を見て息を呑んでしまう。
[M&W500をまだ使っててくれて嬉しかった。]
「馬鹿な……マグナムの存在は、俺とレイナしか知らない筈」
M&W500。この銃はレイナが俺の為にプレゼントしてくれた大切な物。
そして、この銃に関してはタケルは知らない筈。
無論、レイナがタケルに伝えた可能性はある。だけど、恋人のプレゼントを渡すのにタケルに言う必要は無いだろう。
「…………どうすれば。俺は、どうすれば」
答えの出ない自問自答。だが、答えは既に決まっている。
確かめる。
例え罠であろうとも。
レイナを使う奴が何者であろうとも。
「…………」
M&W500を眺める。整備され綺麗な状態を維持している。
光に反射するM&W500。
反射して映る俺の顔は酷く辛そうに歪んでいた。
まるで、未来の俺自身を暗示しているかの様に。
動き出す歯車は誰にも止める事は出来ない。
その先に待ち受ける運命が悲劇であろうとも。
だが、何事も絶対は存在はしない。
歯車を止める方法はある。
それは……
「始めましょう。私達の死闘を」
「終わりにしよう。俺達の運命を」
何方かの歯車を壊せば良い。
この物語に犠牲無くして運命を変える事は出来無い。