悪魔の所業
宇宙(SF)にて日間、週間、月間ランキング一位になりました。
沢山の方達に読んで貰い恐縮です。
戦艦アルビレオに戻りコクピットから降りようとするとエルフの整備兵のオッさん達が笑顔で手招きしていた。勿論その笑顔の裏にある感情は知りたくはない。だが此処で引き下がったらなんか負けた気分になるので俺も満面の笑顔で彼等の元に向かう。
「笑顔でのお出迎えご苦労。エースのサインが欲しければ一列に並べよ」
ウィンクかましながらそう言った瞬間子供には見せられない表情をする整備兵共がいた。正直に言うと結構怖いっす。
「……ごめんなしゃい」
別にビビった訳じゃない。俺が折れないと更に面倒な事になるのは必然だ。そう某同業者的な奴だと面倒な事は嫌いなんだ。
この後それなりの説教を受ける筈だったのだがクリスティーナ大尉が整備兵達に話し掛けたので説教はお流れになった。サンキュー大尉。
「やっぱり俺ラッキーボーイやん。オカズも沢山貰えるし。ネロ、ちゃんとファング隊とのやり取りは録音はしてたよな?」
「勿論です」
「パーフェクトだ」
今回のオペレーション・イーグルアローによるセクタル宇宙基地の攻略作戦は成功に終わった。現在艦隊は半壊した宇宙基地の調査を行う為近くに駐留している。勿論今も陸戦隊が残党処理を行ないながら工作班が司令部で情報収集を行っている。
しかし今回の作戦で一番気掛かりなのがセクタルとは無縁の様な組織が存在していた。正確に言うなら表向きには消失した惑星ダムラカ所属の軍隊だ。そんな軍隊が何故セクタルと共に行動をしているのか。そして確かな戦力をセクタルは保有している事。そんな中で戦艦一隻と巡洋艦六隻で対処するのは厳しいのではなかろうか?
「ま、上には上の考えがあるんだろう。そしていつの時代も下の者達が負担を強いられるのさ」
どれだけ時代が進もうともこの辺りは変わらないのが不思議だ。所詮人間の進化なんて微々たる物なのだろう。
「しかし次の戦闘で俺はどうすんだろう?自分で言うのも何だけどあの機体を直すくらいなら買い直した方が良いよな」
最早スクラップ行きのサラガンを思い出しながらシャワー室に向かうのだった。
「彼奴は悪魔だよ」
この台詞は現場を見ていたエルフの兵士が呟いた言葉だ。何故そんな事を言ったのか。
それは戦闘が終わり誰もが腹を空かして食堂に来ていた時だった。そいつは黒い球体のAIを片手に持ちながら戦艦アルビレオのエリート部隊と呼ばれてるファング隊の前に現れたんだ。
「約束は覚えているよな?」
そう奴が言った瞬間、ファング隊の表情が強張ったんだ。だがそんな中クリスティーナ大尉だけが理解してない表情だった。とても可愛らしくキョトンとした表情でな。
「事実とは時に悲劇を生む物だ。そうは思わないか?」
「大尉は関係無い。そうだろ?」
「おや?あんたらの大尉殿はファング隊のリーダーじゃ無かったっけ?」
「それはそうだが……」
「何よ?皆どうしたの?」
ファング隊はマジで渡すの?今日から?と言うか大尉からも奪うん?と言った悲痛と正気を疑う疑問が混ざった様な表情を其奴に向ける。だが其奴は悪魔の様な笑みを浮かべて言い放つ。
「ほらお前ら全員の総意の言葉だ」
そう言うと奴は黒い球体を軽く叩く。すると音声が聞こえた。
『これから一週間ファング隊全員の飯のオカズを一品寄越せ。そうすればフォローくらいしてやんよ』
『そ、それだけで良いのか?』
『勿論。嫌なら諦めな』
『構わない。なあ皆そうだろ?』
『ああ、構わない。お嬢様の為なら安い物さ』
『好きにしてくれ。それくらいどうでも良い』
『オカズくらい直ぐに渡すさ。だから頼む』
そして場が一瞬で暗くなったんだ。そして今まで理解していなかったクリスティーナ大尉は徐々に理解し始める。
「まさか私を助けた理由って……」
「ぶっちゃけオカズ目当てだわ」
そう奴が言った瞬間クリスティーナ大尉の表情が固まる。そして途轍もない漆黒の邪気が出て来る。だが奴はそんなの関係ねえと言わんばかりに手を出す。というか良く平気で居られるな。
「では早速頂こうかな。ファング隊の皆さんは無駄な抵抗をしないようにな」
「……分かった。だが大尉の分は」
「知らんなぁ。ではクリスティーナ大尉からはデザートを頂きます」
そう言うと食後のデザートのプリンを躊躇無く奪って行く。それを見たクリスティーナ大尉は声を上げる。
「プリンはオカズじゃ無い!デザートよ!」
「俺の中ではデザートもオカズなんですよ。悲しいですな。これが人間とエルフの価値観の違いが生んだ悲劇と言うモノですな!アッハッハッ!」
「マスター、その様な価値観の違いは有りません」
「そこは笑っとけ」
「アッハッハッ!」
律儀に笑うネロ。そして躊躇無くプリンを強奪し一口で食べる悪魔。
「正に悪魔の所業」
「あいつ結構えげつない事するのな。今週のデザートとかオカズが結構豪勢なのを見通してたんだろうよ」
「可哀想に。少しだけ同情するわ。あ、プリン美味しい」
「何と言うか本当に彼がどう言う人間なのか分からないですね」
傭兵連中は我関せずを貫き通しながら御飯を食べる。そしてファング隊全員からのオカズを奪いながら其奴は言う。
「ゴチになりまーす」
「なりまーす」
その時のふざけた表情がクリスティーナ大尉の逆鱗に触れたのか。はたまた別の理由なのかは分からない。だがクリスティーナ大尉が顔を真っ赤にしながらシュウ・キサラギ軍曹に掴み掛かったのだった。
因みにこの件に関してキサラギ軍曹はセシリア大佐に抗議を直訴したが「下らん」の一言によりお咎め無しの通達が出されたのだった。
セクタル宇宙基地の情報抽出を終えて艦隊は再び宇宙ステーションベルモットで補給を行なっていた。そして今回は長期滞在が決まったので適当にベルモットを見て回る事にした。
その時クリスティーナ大尉が何度か此方をチラ見してたが無視して行く事にした。
「俺はベビーシッターじゃねえんだよ。それより臨時ボーナスも入ったからな。何か賭け事でもやるか?」
もしくは適当な酒場に入って一杯やるか。色々考えながら裏路地に入り酒場を探す。そして更に裏路地に入る道を左に曲がるとある店の名前がホログラムで表示される。
【M & M】
その店の名前を見た瞬間まさかと思い扉を開ける。しかしまだ開店してないのか誰も居ない。だがこの店の作りは間違いない。
そう思い店内に入りカウンター席に向かう。すると中から従業員のオカマが出て来た。
「あら、ごめんなさいね。まだ開店前なのよ」
「知ってるよ。でも前に何回か来てたからね。あんた新人さんかい?」
「もしかしてオーナーの知り合いなの?」
「向こうが覚えてたら知り合いになるさ」
「ちょっと待っててねん。オーナーお知り合いの方みた〜い」
野太い声を出しながら奥に引っ込んで行く新人のオカマさん。俺はカウンター席に座り勝手にボトルの酒を取り出し開ける。
「あら?もしかして……シュウちゃんなの?」
「お久〜。元気してたママ?」
先程の新人より更にパワーアップした巨漢のオカマがピッチピチのドレスを身に纏い姿を現した。
この巨漢のオカマこそがM & Mのオーナーのママだ。本名は本人と役所くらいしか知らない。だから店名から皆オーナーの事をママと呼んでいるのさ。