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サキュバスの館5

 平和な場所が一変して戦場となる。

 人々は暴徒共から逃げ惑い、警備部隊員達が避難誘導をしつつ迎撃している。

 この状況になってしまったのには訳がある。アウターシティに不必要なモノや都合の悪いモノを押し込み過ぎたのだ。

 その中には公に出来ない代物まであったのだから始末に負えない。まさに身から出た錆と言えるだろう。

 しかも、その代償を支払うのが何も知らない市民達なので余計にタチが悪い。


 だからこそ、今は市民達を助ける必要があるのだ。


 だが、悪意は様々な所に侵食していた。


「おい!何故機体が出せない!」

「わ、分かりませんよ。全てのAW、MWにシステムエラーが出ているんです」


 保安部隊のAWパイロットは近くに居た整備兵を問い詰める。


「そんな馬鹿な事があって(たま)るか!早く復旧させろ!」

「い、今、やってますよ。だから、もう少しだけ待機してて下さい」


 しかし、保安部隊のAW、MWが全てシステムエラーを起こしており混乱していた。更に装備が保管されている部屋にはロックが掛かっており開ける事が出来ない状況。


 恐らく内部犯による犯行と見て良いだろう。


 それも複数犯だ。


 だが、余りにもタイミングが良過ぎる。恐らく計画的に行われていると見て良いだろう。


 しかし、何故保安部隊と言う街の治安を守る要となっている所にまで侵食していたのか。


 それはサキュバスの館に特有の社会問題と言えた。


 サキュバスの館には様々な種族が存在している。それ故に違法物を取り締まるのが困難なのだ。


 ある種族では有害であっても、別の種族では無害な場合。

 宗教や伝統による容認。


 違法となる物は勿論検品してはいる。しかし、その種族の儀式や伝統と言った場合には例外としている場合があるのだ。

 これは、その種族の固有の特性や象徴を尊重する為に特例措置として許可を出している。

 だが、中には特例措置を悪用して物品の横領や横流しを行う輩もいる。

 その結果、中毒症状に悩まされたり闇金に手を出したりしてしまう者達が後を絶たないのだ。


 そして、誘惑を断ち切れず保安部隊のメンバーも手を出してしまっていたのだ。


 だが、それでもサキュバスの館は問題無く動いている。

 それは堕ちる者達より新規で入って来る者達の方が多いからだ。

 故に自己管理がしっかりとしている者達は、無闇に他種族の伝統や宗教には参加せず安全第一で過ごす。

 それに、そう言った代物に手を出さなくてもサキュバスの館には充分な娯楽と快楽が存在しているのだ。


 無論、中には快楽に負けてサキュバスやインキュバスに摂取される者達も後を絶たないのだが。

 それでも皆、幸せそうに堕ちるので平和的(?)と言えるだろう。


 誘惑に負け、我が身を破滅へと堕とした保安部隊のメンバーは何とかして這い上がろうとするだろう。

 だが、中毒症状や闇金の高い金利に手が回らなくなってしまう。

 そんな時だ。保安部隊の内部を少しだけ荒らせば、全てを帳消しにすると言われたのだ。

 借金も無くなり、中毒症状を和らげる為に更に薬を大量に貰える。

 しかし、一人一人内容は違っていた。


 ある者はAWとMWに細工をする。

 ある者は保管庫の鍵を全て破壊。

 ある者はシステムエラーを直すフリをする。


 だが、当人達にとってはどうでも良い事なのだ。そもそも、自身がやったとバレない様にする事が大前提なのだ。

 その結果、市民達に被害が出ようが保安部隊が身動きが取れなくなろうが関係無いのだから。


「まだシステムエラーは直らないのか!」

「申し訳ありません。これは一度リセットしてから再構築した方が早いかも知れませんね」

「……再構築にはどの位掛かる」

「凡そ、半日以上は掛かるかと」


 時間が掛かり過ぎる回答にヘルメットを床に叩き付けるAWパイロット。

 そんなAWパイロットを冷めた目で見ている整備兵に誰も気が付かないのだった。






 警備部隊にもAW部隊とMW部隊は存在する。

 サキュバスの館とは言え、街中で民間用MWを使い暴れたりする輩や重武装をして強盗をしている集団は居る。

 そう言った者達に対処するエキスパートが警備部隊にはある。

 特にAW部隊は治安部隊のAW部隊とは違い数が少なく、市民が憧れるエリート部隊と言っても差し支え無い。


【壊せ!壊せ!俺達を追いやった報いを受けさせてやるんだ!】

【ヒャッハハハハ!見ろよ!警備隊のクソ共が無駄な抵抗してやがるぜ!ご苦労様な事だぜ!】


 作業用MWに武装を施した暴徒のMW部隊。その殆どは装甲板を取り付け、重火器をポン付けした物ばかりだ。

 だが、装甲に重火器を装備している作業用MW相手に歩兵の銃火器では対抗出来ない。


『応援はどうした!もう保たないぞ』

『もう少しで応援は来る。それまで持ち堪えるんだ!』

『保安の連中は何やってる!普段からAWを持ってるだろうが!』


 応援に来た装甲車を盾にしつつ、対戦車ミサイルで応戦するも追い詰められる警備部隊。


 だが、突如として暴徒のMWが爆発する。


 そして轟音と共にやって来たのは警備隊所属のAW部隊。


『ローテ1より各機。味方部隊の支援と市民の保護を優先とする為、敵は徹底的に処理せよ』

『『『『『了解』』』』』


 冷静な声と共に現れたのは最新鋭のAW。

 6機のZCM-08ウォーウルフが上空を飛行しながら敵MWを次々と撃破して行く。


 何故、警備部隊なのに最新鋭AWであるウォーウルフが配備されているのか。


 まず、保安部隊は三大国家の主力AWを採用する風習がある。


 三大国家とも深い繋がりがあるサキュバスの館。だからこそ、様々な(しがらみ)があるのは仕方が無い事なのがも知れない。


 だが、そんなくだらない柵が無い警備隊のAW部隊は厳しい実力主義だ。

 特にAWの数に限りがあるので尚更だった。


 そんな中、高性能で他のAWより頭一つ飛び抜けているウォーウルフはマドックの強化装備仕様を退け、無事にローテ小隊に配備されていたのだ。


【ひ、卑怯だぞ!空なんか飛びやがって!】

【うわあああ⁉︎や、やられちばぁッ⁉︎】

【撃ち返せ!空飛んでたってAWには変わりはねぇんだ!】

【アレは……ローテ小隊のエンブレムだ!こ、こんな場所に居られるか!俺は逃げギャッ‼︎】


 反撃すると撃破され、建物の陰に隠れても回り込まれ撃破される。

 高い機動力と攻撃を回避する運動性。更に武装も多少の重装備でも問題無いウォーウルフ。市街地であろうとも優位に暴徒共のMWを破壊して行く。


『諸君、ウォーウルフの初実戦だが。調子はどうかね?』

『最高ですよ。特に我々はサラガンからの転換でしたからね。直ぐに操作には慣れましたよ』

『短時間とは言え上空を飛べるなんて。バンタムは中々良い機体を作りましたね』

『大型化したから被弾するリスクが上がったと思いましたが。この運動性なら問題無いですね』


 ローテ小隊からの反応は非常に良好であった。


『そうか。それは何よりだ。聞いた話では、このウォーウルフは開発中の最終模擬戦でエースパイロットが乗るサラガンを倒したそうだ』

『そうなのですか?なら、バンタムのテストパイロットは中々良い腕をしているのですね』


 仲間達がテストパイロットを称賛するが、ローテ1は訂正する。


『そうでは無い。どうやらバンタムから協力を依頼された傭兵が自ら買って出たらしい』

『ウォーウルフでは無く?』

『そうだ。サラガンに乗り最後の壁役となったとか』


 最初、聞いた時は妙な話だと思った。

 傭兵と言えば目立ちたがり屋が多い。普通は自分が試作機のパイロットをやりたがる筈だろう。

 だが、後から理解したのだ。傭兵は自らを礎としてウォーウルフの糧になったのだと。


『私はその話を聞いて痺れたよ。このAW(ウォーウルフ)はエースパイロットによって仕上げられた機体と言っても過言では無い。そう考えると実に効率的で素晴らしい機体だとな』


 サラガンとの互換性が非常に高い為、整備や転換訓練も容易な物となっている。

 これは間違い無く現場が求める声を反映した結果なのだろう。

 新型AWとなれば整備や操作性は一からやり直しになる可能性が高い。だが、ウォーウルフは極力現場の負担を抑えながら高性能なAWに仕上げた。


 これは戦場を知らなければ出来ない事だ。


『いつの日か、その傭兵に会って感謝を言いたい物だ』


 ローテ1はそう言いながら敵MWのコクピットをプラズマサーベルで突き刺すのだった。






 ネロと共に逃げ惑う人々の波に逆らいながら宇宙の癒しへと向かう。その間にも警備隊の連中が避難誘導をしていたので、既に避難しているかも知れない。

 それならそれで構わない。だから店の確認だけして知り合いが居なければ、俺達もトンズラする予定だ。


「正面の大通りに武装勢力を確認。迂回する事を進言します」

「迂回ルートを割り出せ。多少の時間が掛かっても構わない」

「此方です。付いて来て下さい」


 ネロに先導して貰いながらマグナム(M&W500)を構えて走る。

 今や警備隊と暴徒達とで激しい銃撃戦が繰り広げられている。

 現在の戦況は不意の奇襲を行った暴徒側が有利だろう。だが、上空には攻撃ヘリと戦闘機が飛んでおり、制空権は警備隊が保持している。

 恐らく、数時間後には鎮圧されるだろう。


 だが、こんな戦略的価値も無ければ勝算も無い戦いに意味はあるのだろうか?


 それとも、別の理由があるのか。


「チッ、こんな事ならSMG(ヴィクター)持ってれば良かったぜ」

「問題は有りません。私は戦闘機能も備わっておりますので」

「そうかもな。だが、慢心は厳禁だぜ?ネロちゃん」


 宇宙の癒しにまで後、数十メートル。だが、店の前には暴徒共が5人程集まっていた。

 近場に警備隊員の死体とアサルトライフルがあった。だが、アサルトライフルにはIDロックが掛かっており使えない。


「はぁ……贅沢な装備は時に足枷となる。全く、今日は厄日だな」


 余り音は出したく無い。だが、今は至る所で銃声や爆発が起きている。

 マグナムの音程度ならバレないと信じたい。


「マスター、此処は私にお任せ下さい」

「ネロ、出来るか?」

「はい。こんな事もあろうかと【ネロ・キャリアーMK-Ⅱ】を既に手配済みです」

「……え?何だって?マークツー?」

「到着した様です」


 すると上空の何処からか現れたのは小型高速飛行ドローン。俺達の上空を通過するのと同時に大きな箱がパージされる。

 パラシュートが開きゆっくりと俺達の側に着地。そしてネロが近付くと箱が開き、中からネロ・キャリアーMK-Ⅱがゆっくりと出て来る。

 MK-Ⅰの時よりも武装も装甲もパワーアップ。更に若干大型化しており威圧感も増している。


 いやー、久々の登場だけどさ。こいつ、一発ネタじゃ無かったんか?


「あ、あのー、ネロちゃん?俺としては隠みt」

「では、始めます。接続開始」


 ネロとネロ・キャリアーMK-Ⅱの夢のコラボ。

 ネロ・キャリアーMK-Ⅱの前面装甲が開くのと同時に履帯部分が立ち上がる。

 そこにネロが入り込むと即座に装甲が閉じる。


 履帯部分は足の前面に展開。被弾時の装甲としての役割を果たす。

 右腕には四連装ミニガンを二門。左腕にはシールド付きショットアサルトを二門。火炎放射器は二次被害の可能性が高くなるので廃止。

 両肩には対物ライフルと各種弾頭が選べるグレネードランチャーを装備。

 後はMK-Ⅰとほぼ同じ装備がMK-Ⅱには装備されている。


 全体的な強化を目的としつつ脚と腰と背中にブースターを追加しており機動力が向上。更により確実に敵対勢力を識別する為に最新のサラガンのメインカメラの一部を装備。


 より硬い装甲。

 より高い火力。

 より高い機動力。

 より正確に状況確認するメインカメラ。


 メインカメラが一瞬光るのと同時に各部から冷却剤が噴出。


 そして決めポーズを取り、真のネロ・キャリアーMK-Ⅱが爆誕したのだった。


『敵は全て排除します。マスターは知り合いの方達を救出して下さい』


 既に敵対勢力絶対殺すマンと化したネロMK-Ⅱ。

 俺の隠密行動計画とは真逆のパターンで暴徒達に向けて銃口を向ける。

 相手も此方に気付いてはいたが。既に手遅れ。

 二門の四連装ミニガンの砲身がゆっくりと回転した瞬間。


『Open Combat』


 妙に流暢な声と共に凄まじい轟音と僅かな悲鳴が聞こえる。だが、その悲鳴もミニガンから放たれる弾丸の嵐と轟音によって掻き消されてしまう。


『Destroy』


(いや、デストロイちゃうねん。そもそもネロちゃん、君そんなキャラじゃ無いでしょう?)


 心の中で突っ込んでしまうが順調に暴徒共を惹き付けつつ処理していたので、文句は飲み込む事にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一つ質問失礼します。 160話でガイヤセイバーに乗ってる愉快な大尉殿が振られた(?)時に主人公が『サキュバス宮殿』を勧めていた描写があった気がするのですが、それは今舞台になっているこの『サキ…
[一言] やだ……ネロちゃん!抱いて!(思わず眼の前に飛び出して蜂の巣より風通しが良くなる読者)
[良い点] そのうち雑魚の乗るMWぐらいぶち殺しそうやなネロ。 エースパイロットの戦闘ログで学習してるんかな。 [一言] なんか一人だけ孤島型の殺人事件やってるんだが。
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