サキュバスの館2
サキュバスの館は超級戦艦の中心部が巨大なドームとなっている。
そこには一つの巨大都市が存在しているのだ。
高層ビルが立ち並ぶのは勿論の事、遊園地や人工海を完備。更に天井には人工とは言え空を映し出し、様々な天候や四季を作り出していた。
無論、四季に関しては様々な種族に配慮してか建物は基本的に密閉型となっている。
そして一番目を引くのが都市を囲う様な頑丈な装甲で覆われた壁だ。
この壁は宇宙での戦闘により装甲が破られた時の最後の砦として市民達を守る為の代物だ。
が、実は別の面も存在している。
それが壁の外側に存在している【アウターシティ】だ。
言い方は様々で、掃溜め場、スラム、貧民街、武装地帯、侵入禁止区域などなど。どれもこれもまともな呼び方は無い。
特に犯罪者やマフィアの巣窟となっており、アウターシティに逃げれば警備隊は追い掛けて来ないと言われている程だ。
まぁ、逃げた先で人身売買の商品リストにされる可能性が非常に高いらしいがな。
「おぉ……、こいつはスゲェな。マジで巨大都市があるじゃん」
夜空の下には多数の明かりを灯した建物が並ぶ。高層ビルの間を空飛ぶ車やモノレールが行き交い、都市を更に輝かせる。
時間的には仕事終わりだろうか。道路には様々種族がおり、皆に帰宅の帰路に就いている。
中には俺達みたいな観光客もおり、歩道には出店や屋台が建ち並び賑わっていた。
遠目から見れば美しい巨大都市として終わるだろう。
だが、ここはサキュバスの館。
数多くの大人の男女を満足させ、依存させて来た魔窟。
そう、この場所には綺麗な花があるだけでは無いのだ。
「さて、俺も色々頑張ったからな。自分にご褒美は当然だと思う訳よ」
因みにネロちゃんとは別行動である。理由を聞けば戦闘用OSのアップデートとボディメンテナンスを行う為だとか。
高価な戦闘用アンドロイドボディには整備する時間と金が掛かる。そして丁度良く時間が取れたので本格的にやる事にしたのだ。
夜の街を歩けば本当に様々な種族と擦れ違う。
虫型星人と人間が肩を抱き合い、笑いながら歩く。
獣人とエルフのカップルが腕を組みながら甘い空気を出している。
何の種族か分からない奴が大道芸をして道行く人を楽しませている。
この場所は非常に居心地が良い。不平不満はあるだろうが、お互いに尊重し合っているのが良く分かる。
同時に俺には眩し過ぎる場所だと感じてしまった。
「いやいや、こんな時にセンチメンタルな事を考える必要は無いっての」
今は己の欲望に正直になるべきなのだ。その為に一人となって夜の街を出歩いてる訳だしな。
看板を持ちながら呼び込む人やバニー服を着てお客を強引に引っ張る兎の獣人達。
その間を縫う様に歩いて行く。取り敢えず今は酒が飲みたい気分だ。序でに小腹も空いてるからな。
「あの店にするか。見た目は悪くないしな」
周りの店より高級感と清潔感がある。後、呼び込みの子がバニー服を着ているのと可愛い子なのだ。
「一人入れるかな?」
「大丈夫ですよ!では、ご案内しますね」
「あぁ、宜しく」
俺はバニー服を着ている呼び込みの子の後に付いて行く。
「お客様一名入りまーす!」
「「「「「いらっしゃいませー!宇宙の癒しへ!」」」」」
まぁ、至って高級感があるキャバクラだろう。女の子達も全員バニー服を着てお出迎えしてくれる。
女の子達は皆容姿もスタイルも良いので当たりの店だろう。
しかし、バニー服流行ってんのかな?妙に街中でもバニー服着てる連中を多く見たんだよな。
「では、此方の席にどうぞ。女の子は誰を選びます?」
「そうだなぁ。俺の自慢話に頷いてくれる女の子と綺麗な子で頼むよ。安心しな、金ならある」
「畏まりましたー。では少々お待ち下さい」
俺は案内された席に座り、端末を操作して軽く宇宙情勢を調べる。
バンタムコーポレーションから発売されたZCM-08ウォーウルフの販売数が好調である事。
地球連邦統一とガルディア帝国との関係は惑星ソラリスの犠牲者を皮切りに悪化を続けている。既に国境付近では小競り合いが多発していると。
未確認OLEMの存在を三大国家は否定。しかし、惑星ソラリスからの生き残りから多数の目撃情報がある。
エルフェンフィールド軍が次期主力AW機の選定を延期。理由に関してはノーコメント。
惑星ニュージェネスにて地球連邦統一政府の内政干渉により、ゴースト更生労働法が大幅な修正を余儀無くされた。
同惑星にてエルフェンフィールド軍が武力介入をした可能性有り。詳細は現在調査中。
QA・ザハロフが新型AWの完成間近だと発表。現在のAW業界に楔を打つ事が出来るか注目。
「ふぅん。ガイヤセイバーに関しては別に採用しても良いと思うんだがな」
空も飛べるしビームシールドも搭載している。これ以上の性能を求めるのは少々酷と言う物だ。
(まぁ、十中八九俺がガイヤセイバーをボコボコにしたのが原因だろうがな)
並のパイロットにエースパイロットクラスの働きをしろと言う事自体が土台無茶な話よ。
そもそもブラッドアークも俺の専用機であり高性能なAWなので、デルタセイバーが相手だろうとも簡単に負ける事は無いのだ。
「しかし、他のトピックスも微妙に暗い話題しか無いな」
少しは明るい話題は無いかなと検索していると女の子達がやって来た。
「お待たせしました〜。ミリオで〜す」
「マリアです。本日は御指名頂き有難う御座います」
端末から顔を上げれば二人の女の子がやって来た。
ミリオは明るいキャラなのか笑顔が非常に良く、何より豊満なボディに男が好きそうな泣きホクロが非常にそそる。
マリアは一見クールなのだが決して愛想は悪くない。現に見つめると僅かに頬を緩めてくれるので、胸の中にグッと来るのが非常に良い。
「おぉ!来たか。じゃあ、早速乾杯と行こうか。序でに何か食べ物でも頼もうぜ」
ミリオとマリアを左右に座らせ気分はハーレム野郎だ。
「わぁ!私も何か頼んで良いですかぁ?」
「良いとも良いとも。この店のオススメを頼んでも構わんよ。ちょいと小腹も空いてるからね」
「でしたら、此方のお酒に合うオツマミを注文させて貰いますね」
ワイワイと賑やかになる。そして香水の良い香りもして来た。
徐々に気分も盛り上がって良い気分にもなる。
しかし、何だろうかな。初対面と言う感じが微妙にしないのだが。
「じゃあ出会いを祝してカンパーイ!」
「乾杯です」
「あぁ、乾杯だ」
取り敢えずグラスに注がれた酒を挙げて乾杯。
それから気分を切り替えて自慢話をする事にした。
「そう言えば名前をまだ言ってなかったな。シュウ・キサラギだ。一流のエースパイロット様だぜ」
「えー!本当に?凄いなぁ。じゃあ、一杯ミッションを達成して来たの?」
「勿論さ。色々成功したり失敗したりしたが。まぁ、命優先にして来たから今がある訳さ」
「凄いですね。その勲章も任務を達成したやつですか?」
マリアが勲章を指差しながら聞いてくる。
「そうだぜ。任務を死ぬ気でやったから貰えた勲章だよ」
「一つは連邦のやつですね。偶に身に付けてる人を見ます。もう一つは……ちょっと分からないですね」
流石にブルーアイ・ドラゴン勲章は知らないか。
見た目は非常に綺麗だし高価な勲章でもあるからコレクターには有名な勲章だろう。だが、市場に出回る事は殆ど無いから知らないのは無理は無い。
「こいつはエルフ共に気に入られれば貰える勲章だよ。オークションに出せば1000万クレジットは超える代物さ」
「1000万クレジット!しかもエルフ達からの勲章かぁ。簡単には手に入らない勲章だよね?」
「あの偏屈共に気に入られるだけの事をしないと無理だからな」
こんな感じで酒を飲みつつツマミを食べる。
しかし、やはりと言うべきか。やっぱり初対面って感じがしないんだよなぁ。
何だろう。強いて言うなら実家に帰って来た気分?
「なぁ、俺達ってさ。初対面だよな」
「そうだよー。何々?お持ち帰りしたいのぉ?ダメだよぉ。プライベートなら良いかもだけどぉ」
「そうだよなぁ。初対面だよなぁ。けど、何かホッとしてると言うか。落ち着くって言うか」
「似た様な経験をされたのですかね?デジャヴは経験によっては偶に起きるらしいので」
「だよなぁ。まぁ、俺の気の所為だろうな」
デジャヴなら仕方ないだろう。俺は気分を切り替えて目の前の料理を食べる。
「ところでキサラギさんって、何で傭兵になったんですか?」
「んぁ?そりゃあAWに乗る為だよ。ガキの頃は良く廃棄場に行ってゴミ漁りしつつ、AWのコクピットの中で過ごしたもんさ」
「そうなんですか?何か私達の昔の知り合いに似た様な子が居ましたね」
「居たねー。口止めとか言って串焼きとか貰ってたし」
確かに何人かに串焼きを買ってやったな。多分、ミーちゃん辺りが口を漏らしたんだろうけど。
まぁ、子供だからね。仕方ない事さ。
「奇遇だな。俺も何人かのガキンチョに串焼きとか余った肉片を渡してたよ」
「えー?本当に?」
「本当だって。まぁ、その子達は皆白服の連中に連れて行かれたんだがな」
今思っても本当に救いがねぇよな。誰一人として助ける事は出来なかった訳だし。
種類がよく分からない酒を一口飲む。飲み易くて口当たりも悪くない。良い酒だな。
「もしかして何ですが……、孤児院に居ました?」
「おう、居たよ。クソ生意気なガキ共のお守りをしてたけどな」
「えっと……名前もそうだけど。もしかして、シュウ君……なの?」
恐る恐ると言った感じに聞いてくるミリオ。
「どのシュウ君の事を言ってるのかは知らん。だが、孤児院に居てイリナ姉さんとかの手伝いをやってたシュウ君なら此処に居るがな」
俺もまさかとは思いつつイリナ姉さんの名前を出してみる。
すると二人は驚く様な反応をした。
「嘘ぉ。私もあの孤児院に居たよ。まさか、こんな場所で出会うなんて……」
「思い出した。確かミーちゃんの我儘に付き合ってたよね」
「ミーちゃんとか懐かしいな。確か一緒に連れて行かれただろ?此処に居るのか?」
あの我儘娘を見れると思ったがどうやら居ないらしい。
「後、二人は此処にいるんだけど。他の子達は別のお店や独り立ちしちゃったから」
「ミーちゃんは凄いんだよ!だって超有名人になってるんだから!シュウ君も見た事あるよ!」
「俺が見た事あるって?だとしたら、かなりの有名人でないと無理だぜ?」
「本当だって!多分、調べれば直ぐに分かると思うよ?」
だが、俺は調べるマリアの手を制した。
「マリア、調べる必要は無いさ。何せ、俺は傭兵だ。まともな人種じゃないのは俺が一番理解してるからな」
「そんな事……」
「気持ちだけ受け取っとくぜ。それより後の二人も呼んで来てくれよ。折角の同郷が集まったんだ。賑やかに行こうぜ」
せめて今、この場所に居る者達だけ顔合わせ出来れば良い。
自分の力で前に進み自立した奴らも居るんだ。そいつらの邪魔をするなんて無粋な事をするつもりは無い。
真っ当な奴は真っ当な奴と一緒に居れば良い。
AWに乗りたいからと傭兵への道へ進んだ奴と再び出会う必要は無いんだ。
「さぁ!盛り上がって行こうぜ!序でにシャンパンタワーでも頼もうかな!」
俺は久々の出会いを懐かしんで楽しむ為に、高い酒を注文したのだった。