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救われぬ者達

 傭兵企業はニュージェネス政府からの契約が打ち切りとなった。

 当たり前だ。本来の目的でもあるヤン・ハオティエンの捕縛も殺害も出来なかったのだ。また、地球連邦統一政府がシュナイダー政権に対して内政干渉に近い事をしている状況だ。

 とてもでは無いが傭兵企業に構っていられる余裕は無くなった訳だ。

 更にシュナイダー政権にとって悪い事は続く。惑星ニュージェネスの経済状況は既に破産状態なのが連邦に露呈してしまったのだ。

 その結果、惑星ニュージェネスの住人達は他惑星への出国が固く禁じられる事となった。これからは地球連邦統一政府から与えられる仕事を受け続ける事となる。

 儲けは大きいが納期は厳しいし自分達に対しての還元率は高くは無い仕事が大量に送られて来る。何故なら儲けの殆どは惑星ニュージェネスの建て直しに充てられるからだ。


 三大国家は同盟または傘下となっている惑星には寛大でもあり、救いの手を差し伸べる。


 元々惑星ニュージェネスに寄生し、蝕み続けた市民達。


 そのツケを支払わせるだけの事。


 だが、当の市民達は納得が行かないのか抗議デモを行ってる始末。


 それでも莫大な国家の赤字を返済させる為なら連邦は一切容赦しないだろう。


 まぁ、容赦しないのは納期の催促や次から次へと与えられる大量の仕事だろうがな。


「過労で倒れても無駄に発達した医療技術により復活される訳か。いやはや、ニュージェネスの市民達に同情するぜ」


 ヤン・ハオティエンの宇宙への脱出阻止を成功させた俺は特に何も言われなかった。

 報酬も無ければ罰も与えられる事も無い。精々傭兵一人が勝手に暴れて勝手にボロボロになって帰還して来ただけ。

 それ以上もそれ以下も無いのだ。


「無茶ばかりしてる貴方にそう言われると、ニュージェネスの市民達は浮かばれませんよ」

「本当ッスよ。ブラッドアークも半壊してるし。まだ新しい機体なのに勿体無いッス」

「私としては百万クレジット払ってくれたから良いけどね」

「とか何とか言って最初に迎えに行くって言ったチュリー少尉じゃないッスか。……ハッ!ま、まさかチュリー少尉も先輩を狙って」

「馬鹿な事言わないで頂戴。稼ぎが減るのが嫌だっただけよ」

「本当ッスかぁ〜?」

「……本当よ」


 アズサ軍曹から疑いの目を向けられるが、そっぽ向いて返事するチュリー少尉。

 その姿を見て更に騒ぎ出すアズサ軍曹。そんなアズサ軍曹をナナイ軍曹が鎮めようとするが、身体能力的に無理なのはご愛嬌と言うやつだ。


「まぁ、何はともあれ迎えに来てくれた事は感謝するぜ。それとナナイ軍曹。例の映像は撮れたかな?」

「はい。こちらに」


 ナナイ軍曹は俺が頼んでいた戦闘映像をしっかりと撮ってくれていた。

 きっと向こうの連中は歓喜するだろうな。何せ作られた紛い物とは違う本物のエースパイロットの戦闘映像だ。しかも一騎当千の戦いだから貴重な代物だ。


「おう、サンキューな。後は向こうが勝手に編集するだろうしな」

「先輩先輩。その映像をどうするんスか?」

「気になるか?まぁ、後は向こうの出方次第だしな。今後にご期待下さいってやつだ」


 俺はそう言ってから改めてブラッドアークを見る。

 装甲はボロボロで右腕は損失。頭部の右装甲は欠けてしまいサラガンのセンサー類が剥き出し状態。更に武装類も殆ど失っており、如何に無謀な戦いを敢行したのかが良く分かる。


「だが、勝ったのは俺だ」


 どれだけ損傷しようと関係無い。相手を蹴散らし、思惑を破壊した。そして生きて帰還して来れたのだ。


 試合には負けたが勝負は勝たせて貰った。


 俺は共に激戦を潜り抜けたブラッドアークに感謝しつつ、ネロを脇に抱えて自室に戻る。

 既に俺達は惑星ニュージェネスからの撤収準備に入っている。後はニ、三日後には宇宙へと戻る事になるだろう。


 それから三日後には俺達スマイルドッグ社員は全員宇宙へと離脱して行く事になった。




 そして、追加の荷物が増えた事に誰も気付く事は無かった。




 宇宙に戻りようやく一息付けると言った所だろうか。

 既に地上組の傭兵達は宇宙に戻れた事を心無しか喜んでいる様に見える。

 そして、俺はと言うと速攻で社長にお呼ばれされた訳なんだが。


「やれやれ、人気者は辛いものがありますな。やはりエースとなると色々と有名税が付くもんな。そう思いません?社長」

「そうかも知れん。だが、今回はナナイ軍曹と名誉市民と言う立場に救われた様だがな」

「えぇ、その通りですよ。ナナイ軍曹には感謝してますよ。そして、同時に名誉市民まで昇り詰めた自分を褒めてあげたいくらいです。色々便利なのが身に染みましたしね。特に、不祥事があっても勝手に揉み消してくれる存在が居る訳ですから」


 俺は接客用のソファーに座りながら足を机の上に置く。

 態度は圧倒的に不適切なんだが、社長の機嫌が妙に良いのだ。


「まぁ、済んでしまった物は仕方がない。次からは注意しとけ」

「次にウシュムガルに乗る機会があるならそうしますよ。所で社長、何か良い事でもあったん?」

「そう思うか?」

「うん。顔が微妙にニヤついてるし。下手したらNTR物語に出て来るセクハラ親父と同じ面してますよ」

「……減俸されたいのか?貴様は」

「へへへ、サーセン」


 ため息を一つ吐いてから社長は姿勢を正す。


「昨日の事だ。大物からの大口依頼が入った。しかも極秘でウチにだけだ」

「ワォ!そいつは凄いじゃ無いですか。因みに大口って額的には?」

「既に全額支払われておる。それも新造の戦艦を購入出来る程の額だ。更に消耗した武器、弾薬、部品も向こうが出す事になっとる」

「マジっすか?つまり、それだけ厄介な依頼なのは理解してますよね?」


 そんな美味い話がある訳が無い。仮にあったとしても絶対に裏があるのは確実だ。安易に依頼を受ければどうなるか分からない。

 だが、実際その美味い話に飛び付いたのがウチの社長様なのだがな。


「無論だ。だが、依頼内容に比べて破格の額だ。まぁ、それも貴様のお陰でもあるんだがな」

「俺のお陰?まさか俺のファンとか言わないで下さいよ」

「それに近いかも知れんぞ。何せ貴様の戦い方に見惚れたらしいからな。貴様になら安心して依頼を出せるとな」


 まさか本当に俺のファンとはな。全く、どんな物好きが依頼を出した事やら。

 こうなると依頼内容も道楽紛いな物になりそうだが。


「で、依頼内容は?スマイルドッグをまとめて使う訳何ですから。戦闘はあると思いますが」

「無論、戦闘はある。だが、今回は別組織と共闘し一帯の宙域の制圧が目的らしいからな」

「ふぅん。相手の規模はどの位か分かります?」

「ウチと共闘する組織よりかなり上らしい。元々は若干下回っていた戦力差だったとか。だが戦闘により想定以上に消耗してしまったらしい。だが、絶望的と言う訳では無い。ワシも調べたがオーレム相手より楽な相手だ」


 オーレムと比べたら大半の組織は楽になるだろうよ。

 まぁ、それでも手間取る相手は多少居るくらいになりそうだが。

 社長から端末にデータが送られて来たので簡単に目を通しておく。どうやら相手はマフィア擬きの連中らしい。

 戦力自体は結構あるみたいだが、各地に分散しているとの事。つまり電撃戦で行けば案外楽に制圧出来るかも知れんな。中には小惑星を利用した要塞擬きもあるみたいだが。


 まぁ、俺が居れば何とかなるだろ!何せ専用機持ちのエースパイロット様だし!


 盛大な自惚れと壮大な自尊心に頷きつつ、端末の情報を見ていると社長は誰かと連絡を取っていた。然も随分と下手に出てるので恐らく依頼主だろう。


「はい、はい。分かりました。では、案内させますので少々お待ち下さい。えぇ!えぇ!勿論です。態度はアレですが、ちゃんと仕事には誠実な奴ですので。ご安心下さい。ワシからも言っておきますので。はい。では、お待ちしておりますので」


 社長はふぅと一息吐くと此方を睨む。そんな怖い目で睨むのはやーよ。


「キサラギ、先に言っておくぞ。絶対に無礼な態度と脅しはやめるんじゃぞ」

「社長は俺を何だと思ってるんです?今までだって依頼主相手にはちゃんと良い子にしてるでしょう?」

「そうだったか?まぁ、そうだな。いや、稀に無礼な事もあったな」

「へいへい。ちゃんと良い子にしてますよっと」


 俺はソファーから立ち上がると社長の側に移動する。

 まぁ、立ち位置的こうした方が見栄えが良いからな。

 それから少し待つとナナイ軍曹が依頼主を連れて現れた。


 しかし、その依頼主が中々に因縁深い奴だったのだがな。


「この度は無理な依頼を受けて頂き感謝致しますわ。社長様」


 一言で言うなら妙齢な美女。誰もが振り返る程の美女なのだが、どこまでも自由と傲慢が見て取れる独特な瞳。


 ヤン・ハオティエン本人が居たのだ。


「……マジでぇ?」


 あんまりな展開に流石の俺ちゃんも言葉遣いが雑になる。

 いやさ、ほんの三日前まで敵だったやん?特に俺なんて最後の最後に派手に暴れまくったやん?

 なのに俺達の所に依頼して来たのが驚きと戸惑いが出てしまうのは仕方ない事だ。

 まぁ、大した度胸の持ち主だと言う事は間違い無いんだがな。


「フフフ、そんな驚く事は無いわ。私は正規のルートで傭兵企業スマイルドッグに依頼を出したもの。既に目的は達成した時点で貴方達と敵対し続ける理由は無いんですもの」


 ヤン・ハオティエン曰く既にお互い戦う相手では無い。だから以前の事は水に流して依頼を受けてね。

 勿論、報酬は色付けるから。


 俺から言わせたら脱出手段の一つとして利用しただけだろうがな。


「社長、この男女をとっ捕まえて連邦への手土産にしましょう。そうすれば一生遊んで暮らせる額は貰えそうですよ」

「馬鹿者。そんな事したらワシは一生追われる身になるわい。だが、ワシらは上手くやれると思うがな。幸い、貴様は物分かりは良いからな」

「物分かりが良くても、感情的にはアレですがね」


 しかし、依頼は依頼だ。然も既に大金が支払われてる。

 こうなると話は別だ。依頼を完遂しようじゃないか。


「所で二つ聞きたいんだが。もう一つの共闘組織ってのは?情報には書いてなかったからな」

「貴方も良く知る組織ですよ。まぁ、どちらかと言うと三日前に甚大な被害を出した組織かしらねー」

「三日前?……まさか、東郷組?」


 正解と言わんばかりにウィンクする男女。

 何なんコイツ。俺の事嫌いなの?

 そもそも嫌われる様な事したか?


 心当たりが無いか胸に手を当てて少しだけ考えてみる。


「……うーん。妥当な対応かなぁ」


 嫌われてる理由に付いて心当たりが山程あったのでプチ後悔。


「本来なら私が東郷組に関して手を貸す予定だったの。そして予定通り戦力増強は出来ていたのよ。でも、それをたった一人で破壊したのがア・ナ・タ・よ」

「ハン!俺に破壊される様な柔な戦力を増強した所で大して意味は無いぜ。男女さんよ」 


 色っぽい声を出して来るもんだから、ちょっとだけ距離を取りたくなった。

 考えてみて欲しい。目の前に居る男女は誰にでもなれる可能性がある。それこそ俺や社長だけで無く、ナナイ軍曹、チュリー少尉、アズサ軍曹にもだ。

 性別も正体も不明な依頼主。更に正直に言うと気味が悪いとしか言えない。


「はっきり言うぜ。俺はお前が嫌いだ」

「あらら、残念。嫌われてしまったわ」


 全く気にして無いのかクスクスと笑みを浮かべながらソファでゆっくりと寛ぐ。

 そんな男女にナナイ軍曹が紅茶と茶菓子を用意する。


「それで、もう一つの質問は何かしら?」

「あんたの正体……と言いたいがノーコメントされるのは目に見えてる。なら、今回の名前は何て言えば良いんですかね?」

「フフ、名前ね。では、改めて名乗らせて頂きますわ。カリナ・スティングレイよ」


 ヤン・ハオティエン改め、カリナ・スティングレイと言う名前。

 偽名だろうが、偽名では無い名前。誰にでもなれるからこそ偽名を必要としない。何ともややこしい存在だ。


「フン。まぁ、良い。依頼である以上やってやる。だが、妙な事をしてみろ。救命艇に食糧と水と一緒に押し込んで無理矢理追い出してやるならな」

「キサラギ。貴様が嫌う理由は理解出来る。だが、コレは既に決まった事だ。割り切れ」

「……チッ、分かってますよ。依頼は依頼ですからね。然も破格な好条件での依頼。きっちりとやらせて頂きますよ。プロとしてね」

「なら良い。後はお前から他の奴らに言っておけ。多少反抗する奴は出るだろうが、お前が従うなら他の奴も大人しくなる」

「はいはい、分かりましたよ。それでは、失礼致します」


 俺はドアの方に向かい出て行く。無論、ちゃんと敬礼をしてから退出する。


「全く、大した度胸だぜ。まさか戦った相手に依頼を出すとはな」

「しかし、今の我々とカリナ・スティングレイとの接点はほぼ有りません。つまり、初対面に近い状況にあります」


 いつの間にか横に居たナナイ軍曹が話し掛けてくる。

 確かにカリナ・スティングレイとの接点は無い。だからこそ、あの男女は裏方に居ながら派手な事が出来るのだ。


 だが、俺に言わせて貰えばだ。あんな危険な存在と関わりを持つ時点でアウトなんだ。


「分かってるさ。他の連中にはカリナ・スティングレイの存在を言う必要は無い。強いて言うなら東郷組と上手くやれよとしか言えんがな」

「それで良いかと。社長も言ってましたが、キサラギ少尉が従えば他の者達も自然と従います」

「やれやれ、俺はリーダー役はやってるつもりは無いんだがな」

「しかし、皆が貴方を頼りにしているのは間違い有りません。でなければ暴走しているウシュムガルに立ち向かう事はしません」

「……フン。今度の模擬戦は少しだけ加減してやるよ。まぁ、加減するのは敗者に付ける罰だけだがな」

「それだけで充分です。それでは私も用事が有りますので。失礼します」

「おう、お疲れさん」


 取り敢えず、やるべき事はサッサと片付ける事にする。

 少なくとも共闘する東郷組とは仲良くとまでは言わないが、同士撃ちなんて最悪なケースは避けたいからな。


「ま、なる様になるか」


 世の中ってのは案外何とかなってる物なのさ。






 バンタム・コーポレーション。数々の軍事兵器から多数の大人と子供向け玩具を主力として販売している一大企業だ。

 更に傑作AWのZC-04サラガンの産みの親でもあり、今も数多くの戦場でサラガンの姿を見る。

 そんなバンタム・コーポレーションの次期主力商品として新規開発されたのがZCM-08ウォーウルフだ。

 大型化した事でプラズマジェネレーターにも余裕が出来た結果、光学兵器の標準装備が可能となっている。また機動力、装甲厚の向上により高い生存性を獲得。

 操縦系統もZC-04サラガンを受け継いでおり、古参パイロットの機種転換が容易となっている。

 更にPV(プロモーションビデオ)では実機によるZC-04サラガンとの熱い戦いが使われており、初手としての顧客に対する印象掴みは良かった。


 しかし、良い所ばかりでは無い。


 ZC-04サラガンに対し値段が高価になってしまった事。サラガンとの部品共通は6割程となっている為、自治軍や傭兵企業などには受けが良く売れ行きは良い。

 だが、フリーランスの傭兵やバウンティハンターは新規販売の機体もあり様子見をしている状況だ。


 販売されたばかりのZCM-08ウォーウルフ。

 戦場で致命的な不具合が起きたら死に繋がる可能性がある。

 だからある程度時間を置いてから購入を考える者達は多くいるのだ。


 まぁ、単純に値段が高いと言うのもある。


 性能の割に安価なのは間違い無いのだが。


「売れ行きは好調なのよね。でも、活躍話が全然無いのが寂しいわねん」

「仕方ありませんよ、主任。先行型の一部が企業やエースパイロットに渡りましたが、まだまだ不具合が出ない訳では有りませんし。今は自治軍や傭兵企業を中心に販売して行くしか無いですよ」

「はぁ、キサラギ少尉みたいに良い意味で頭のネジが2、3本取れた傭兵は居ないかしら?」

「……それって良い意味で有りましたっけ?」


 主任ことカヲル・テクマンは量産されているZCM-08ウォーウルフを見ながら黄昏れながら思い出す。

 ウォーウルフに対しサラガンで食らい付いたキサラギ少尉の戦い。模擬戦とは言え実機での戦い。

 幸いバンタム・コーポレーション所属の優秀なテストパイロットのお陰で勝利したが、ギリギリの辛勝だった。


 あの時の熱意を顧客にも伝えたい。


 確かにPV映像は高評価を得た。PV映像を見てウォーウルフ購入を決めた傭兵企業もあったくらいだ。


 だからこそ、もっと多くの人達に知って欲しいのだ。

 本物のエースパイロットが強敵となった戦いを。


 それから暫くテクマン主任が黄昏れていると端末に一通の動画付きのメールが送られる。


「あら、キサラギ少尉から?何かしら」


 メールには一文が添えられていた。


 :使いたいならクレジットを払いな。そうすれば別角度の映像もくれてやるよ。

 後、映像見たら分かるがブラッドアークがかなり損傷した。修理してくれると助かる。


 それと同時に動画を再生する。


 その動画にはZCM-08Rブラッドアークが戦う映像だった。

 弾幕を形成しているのにも関わらず、平然とビームキャノン砲で反撃しながら吶喊して行くブラッドアーク。

 ブラッドアークに対し対艦バスターソードで斬り掛かるミスト。

 対艦バスターソードを振り回しながら敵MWを次々と破壊して行くブラッドアーク。

 250ミリバズーカ砲の銃身を掴みながら逸らし、サラガンに対し至近距離で60ミリショットガンを撃ち込むブラッドアーク。


 動画が進めば進む程ブラッドアークは被弾して行く。

 頭部の右装甲は破損し、サラガンの内部センサーが見える。

 脚部の装甲は無くなっているのにも関わらず、スラスターを吹かしながら地面を駆ける。

 右腕が流れ弾により吹き飛ぶが、左手にはプラズマサーベルを展開しながら敵に向かって行く。


 満身創痍。一人の技術者として、これ以上の戦闘は不可能だと判断する。

 だが、ブラッドアークは動き続ける。中のパイロット(シュウ・キサラギ)の意思を体現するかの様に。


 センサーアイが力強く光る。そしてプラズマサーベルが敵マドックに向けて振られる。


 まるで紅色の狼が敵を噛みちぎりながら次の獲物に襲い掛かり、縦横無尽に駆けている様に見えてしまう程に。


 そして、最後は稼働しているのが不思議なくらいな状態になりながら離脱して行く姿。


 そこで映像は終わる。


 長い様で短い動画だ。敵陣に向かって単機で立ち向かう姿。

 そんなのは物語のエースパイロットがするだけの事だ。


 だが、この映像は本物であり一切の編集が無いのが分かる。


 更に他の角度の映像もあると言うでは無いか。


 テクマン主任の行動は早かった。直ぐに第七開発部から予算を掻き集めたのだ。

 本来であるなら職権濫用と言われてしまう行動だ。


 だが、それだけの価値があるとテクマン主任は判断したのだ。


 そして纏まったクレジットをキサラギ少尉の口座へと送る。


 それから暫く待つと再び動画付きメールが送られる


 :確認した。予想以上の額で満足したよ。後は好きに使いな。まぁ、カヲリんなら使い道は分かってるだろうがな。


 キサラギ少尉のメール内容を見てテクマン主任は目を閉じて深呼吸する。


 そして目を見開き覚悟を決めた。端末から各部署へと連絡を入れて行く。


「さぁて、これから忙しくなるわ。今すぐ第七開発部のメンバーと広報部と営業部の主要メンバーを読んで頂戴。大至急よ、大至急。ウォーウルフを……サラガンを超える売り上げを叩き出すわよ!」


 徹夜は免れないと思いながら動画を見返す。どうやらコクピット内部の映像もあるみたいなのだ。


「やだん。サービス精神高いわねん。流石エースパイロット様ね」


 この動画は瞬く間に集められたメンバーを熱くした。営業部はコレならマドックを……いや、スパイダーですら蹴散らせると言い、広報部は使えない映像を探す方が困難だと歓喜し、第七開発部はブラッドアークの為に部品を調達し直ぐに送り込む準備をする。

 そしてウォーウルフのテストパイロットをしていた女性パイロットは瞬きを忘れた様に動画を喰い入る様に観続ける。


 若干頬が赤くなって目が潤んでいるのは気の所為だと信じたい。


 それから暫くしてZCM-08ウォーウルフの販売促進させる為の第二弾PV映像が世に放たれた。無論、最初にカスタム仕様だと一言添えながら。

 だが、そんな一言は無用だったのかも知れない程に魅力的で闘争を掻き立てる代物。

 PV映像としては少し長い動画ではあるが誰もが釘付けとなった。

 その圧倒される戦い方に他のエースパイロット達は目を鋭くさせる程に。

 そして、他のフリーランスの傭兵達はこぞってZCM-08ウォーウルフ購入予約を行った。


 現在のZCM-08ウォーウルフの生産ラインはバンタム・コーポレーションのみしか持っていない。

 また、ZC-04サラガンの部品共通もありバンタム・コーポレーションは莫大な利益を上げる事となる。


 だが、注文が殺到し過ぎてバンタム・コーポレーションは生産ラインを多数増設する事となった。


 それに伴いバンタム・コーポレーションの軍需産業部門は更なる繁栄をする事となった。






 ZCM-08ウォーウルフの第二弾PV映像。それは味方ばかり作る訳では無い。

 マドックを生産しているライバル企業は経営に危機が迫っていると判断。そしてバンタム・コーポレーションの邪魔を露骨にする様になった。

 それ以外にも新規のAWを販売しようとしていた企業も打撃を受ける事となった。


「たかが、こんな映像如きに負けただと?僕が作ったネオ・アーマード・ウォーカーは現存するAWより遥かに優れていると言うのに‼︎」


 QA(クワイエット)・ザハロフ。そして社長室で声を荒げているのは現会長でもありトップでもあるロイド・ザハロフ氏だ。


「ハァ、ハァ……後少しで、本物のL・D・Sが完成する。今までの欠陥品とは違う本物がだ」


 多数のゴーストを捕らえ、違法なL・D・Sを使わせ実験して来た。

 その中で最高の素体が瀕死の状態で来たのだ。

 だからその素体を徹底的に改造しL・D・Sと適合させる様に仕上げた。

 今や満足に残っている部分は脳味噌くらいだろうか。


「なのに、無能な大衆共は目先の映像何かに騙されやがって。こんな芸当ならウチでも簡単に出来るんだよ‼︎」


 近くに置いてあった高級な置物を次々と壁に向けて投げる。

 一つ数百万クレジットはするだろう置物があっという間に価値を無くして行く。だが、そんな事はどうでも良いと言わんばかりに息を荒くするロイド・ザハロフ。


「……まぁ、良いさ。本物が出た時に後悔すると良い。間も無くL・D・Sは完成するだろうからね。ククク、クハハハハ、ハハハハハハ!」


 そして一人高笑いするロイド・ザハロフ氏。

 様々な人物や企業に影響を与えてしまったPV映像。

 そんなPV映像を見て、一人の女が覚悟を決める。


「タケル、ごめんね。無茶な事頼んで」

「気にするな。お前の為なら何でもしてやる。だが、こんな事をすれば」

「良いの。後は私自身でやりたいの」


 暗い研究施設内。その中にレイナとタケルは居た。

 そして、タケルの言葉を遮りレイナは言葉を続ける。


「それにね。もう、分かるんだ。私自身が保たないんだって」

「そんな事は無い。もう実験は終わる。そうすれば全部捨てて逃げれば良い。それだけのクレジットならある」

「……有難う、タケル。でも、私は決めたの」


 タケルも分かっていた。既にレイナと言う存在が希薄になっていると言う事に。


(それも、何もかもシュウ・キサラギと言う存在が悪いんだ。何故、レイナがこんな目に遭わなければ)


 シュウの存在を使いながら無力な自分を責める様に葛藤するタケル。だが、そんなタケルの頭を優しく抱き締めるレイナ。


「タケルもシュウも悪く無い。唯、運が無かった。それでも、私はシュウの隣に立ちたい。皆もそうだった。背中を見るんじゃなくて、一緒に隣に立ちたいって」

「レイナ……」

「それにね。これが最後のチャンスなの。もう、私は用済みになるだろうから」


 レイナの見る先には一つの機械があった。

 ソレは液体の中で浮いており、幾つものチューブが繋がれていた。


「ねぇ、タケル。私を……()()()()

「……あぁ、分かっている。分かっているさ」


 そして静かに抱き合う二人。


 覚悟を決めたレイナ。


 覚悟を決めていないタケル。


 そんな二人の姿を静かに見つめる液体に浮かぶ一つの機械に搭載されているカメラアイ。




 誰も救われない物語が、今ゆっくりと動き出したのだった。

はい。最後不安になる一言を添えて第四章を終了とさせて頂きます。


一時期一年近く放置してしまってたので、続きが無いと不安になっていた方も居たかも知れません。


無事に更新出来ました!やったね!


今回の話は結構楽しめて投稿出来たかなと思います。

巨大人型兵器や最後の主人公による無双。この辺りは結構楽しく書けましたね。

特にリベンジマッチの戦い。実に気持ち良く書けました。やっぱり難しいけど何だかんだ言って、自分は戦闘シーン書くのが好きなんですよねぇ。


色々と気になる所もありますよね。

ゴーストって結局救われないの?とか。

ヒロインは結局誰なん?とか。


まぁ、色々あると思いますが話が進めば解決するのもありますので。取り敢えずヨシ!


最後に。沢山の誤字報告、感想、いいね、評価をして頂き有難う御座います。

また、この小説III count Dead Endをツイートなどで拡散して頂き感謝しております。

改めまして気に入って頂けましたら高評価、ブックマーク、いいね、レビューなどをしてくれると自分の糧になります。

どうぞ、宜しくお願い致します。


それでは。書き貯めが出来るまで暫く更新が止まりますが、また会いましょう!



















私にとって、あの人は希望なの。


ゴーストに生まれた以上、虐げられる人生なのは決まっていた。


勝手に使われ、勝手に切り捨てられる。


だから皆、諦めと妥協を強制されていたの。


だけど、貴方は違っていた。


誰よりも未来に希望を見ていた。そして、その光を私達にも見せてくれた。




暗い未来に僅かな光が灯ったの。




だから生きて欲しかった。私よりもずっとずっと必要としている人達が現れるから。


貴方はいつも私達の事を想っていてくれて……。


それが、私達にとってどれだけ感謝していたのか。貴方はきっと気付いていない。





それでも、貴方なら笑って全てを受け入れてしまうんだと思う。





だから、一つだけ我儘を許して欲しいの……。


私は……、私は……ッ。


「勝ちたい。貴方に……勝って、隣に立ちたい」


目の前に迫るのは愛する人が操る紅色の大型AW。


私は戦う事を選んだ。


既に先の無い命。それでも貴方は私と一緒に居ると言ってくれた。


それが叶わぬ願いだと理解しながら。


「でもね、神様は本当に居るんだよ」






だって、こうして私達は巡り会えたんだから。








有難う……神様。









次回【大好きな人】











大好きだから……貴方を、殺すわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あとがき次回予告、希望に満ちていた過去を偲びながらどうにもならない現実を前に悲壮な決意と願いを静かに語る女の子の独白にぴったりなオルゴール系のBGMが脳内で流れてたのに、最後の一文でいきなり…
[気になる点] L・D・S? [一言] スクエニの、みんなのトラウマかな?
[一言] レイナが出てくる度に泣ける。体を売って金を稼いだとの記述で何かNTRた気持ちになったのが懐かしい。 あとがき部分、可愛さ余って憎さ百倍ということですか。誰も救われないとの事ですが、一抹の救…
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