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クリムゾン・ウルフVS東郷組3

 目標となる輸送機は動き始める所だろう。窓際に妙齢の美女が居るが知った事では無い。

 俺は35ミリガトリングガンで輸送機のエンジン部を破壊して行く。更に格納庫の中にある輸送機も全て破壊する。

 特にエンジン部は念入りにだ。


「絶対に宇宙には上げさせねぇからな。精々ニュージェネスの連中か連邦に頭下げるんだな」


 途中で35ミリガトリングガンの弾が切れたので放棄。ビームキャノン砲で格納庫ごと撃ち抜き破壊して行く。


「輸送機の破壊を完了しました。直ちに作戦領域外へ離脱して下さい」

「いや、まだだ。どうせなら最後にヤン・ハオティエンの顔を拝みたい。苦虫を噛み締めた表情してるだろうしな」


 俺は滑走路で停止している輸送機に向かう。恐らくこの輸送機の中に居る筈だ。


 え?他の輸送機に居たらどうすのかって?


 その時はその時に考えるから良いんだよ。


「さて、どこに引き篭もってるのかねぇ〜?頼みの綱の東郷組はご覧の有り様だしな」


 既に作戦離脱時間が迫っている。東郷組の組員自体に手練れが無駄に多い。そのお陰で何度も足止めを食らう事になった。

 今はまだ相手が混乱しているから追撃は無い。だが、それは所詮一時的な物だ。更に無理矢理前進して来たものだから、ブラッドアークはボロボロになってしまった訳だが。


「居ないなぁ。やっぱり見えない場所に引き篭もってるな。全く、今目の前に居る女を見習えってんだ。随分と度胸があるみたいだし」


 普通、敵AWが来たら逃げるか身を隠すかだ。だが、この女はずっと此方を見続けている。


「んん〜?何か違和感が……」


 だが、この女は可笑しい。何処かで見た気がするんだ。

 いや、こんな美人なら簡単には忘れない筈だが。


「…………そうか。テメェがヤン・ハオティエンか」


 性別も年齢も見た目も全く違う。だが、俺はこの女がヤン・ハオティエンだと思った。いや、確信した。

 この世界は自分を中心に回ってると言わんばかりの態度。更に無駄に度胸がある今の姿勢。


 そして、自分が全く死ぬとは思って居ないと信じて疑っていない純粋な瞳。


 確かに俺はヤン・ハオティエンを殺せない。殺したら間違い無く俺は誰かに殺される。

 ヤン・ハオティエンと俺とでは人としての価値が比べ様にならない程違うのだ。


 ヤン・ハオティエンは様々な所で重要人物。


 俺は精々戦場の中くらいなもの。


 何方が重要なのかは一目瞭然だ。


 だが、それでもだ。この瞬間だけは俺が勝者だ。誰が何と言おうとも変わらない事実なのだ。


 俺は最後に捨て台詞を吐く為にスピーカーをオンにする。


《貴様がヤン・ハオティエンだな。見た目は変わっても、そのクソみたいに計算高い瞳は変えられなかったみたいだがな》


 俺の言葉に目を見開き驚きの表情をする美女。だが、この表情を見れただけでも儲け物だ。


《フン、安心しな。俺はお前を殺さない。いや、殺せない。だが、変わりに色々と苦労して貰うがな。惑星ニュージェネスから上手く脱出出来るか見ものだぜ。尤も、ご覧の通り脱出用の輸送機は全て破壊させて貰ったがな!》


 そして俺は最後に滑走路のど真ん中にへし折れた対艦バスターソードを突き刺す。


《あばよ!ヤン・ハオティエン!精々、連邦かニュージェネスの連中に泣き付くんだな!最後に勝つのは俺だけで充分なんだよ!お前はモヤモヤした状態で逃げるんだな!ザマァみやがれ!》


 実に見事な捨て台詞を吐いて、俺の気分はスッキリだ。

 そして、そんな捨て台詞を吐かれるとは思わなかっただろう。妙齢の美女となったヤン・ハオティエンは僅かに悔しそうな表情をしているではないか。


「最後の最後に気を抜いたツケだよ」

「警告。上空より敵戦闘機が複数接近中」


 どうやら東郷組の皆さんは体勢を立て直し始めたらしい。

 迎撃しようにも現在の俺の手持ちの武器はプラズマサーベルとビームキャノン砲しか無い。


 まぁ、無ければ有る所から取れば良いんだが。


「ネロ、自治軍が放棄している武器を全てマップに出せ。識別が味方ならそのまま使える筈だ」

「武器、及び識別を確認。マップ上に放棄している武装は全て使用可能です。しかし、破損している物も有りますので注意して下さい」


 俺はブラッドアークを動かす。まだまだ戦いは終わりそうに無いからな。

 そんな時だった。ナナイ軍曹から通信が入る。


『キサラギ少尉。間も無く作戦終了時間になります。直ちに戦域を離脱して下さい』

「分かっている。だが、敵の追撃が激しい。このまま脱出ポイントに行けば、お前達も巻き込まれる」


 俺は自治軍の置き土産の45ミリサブマシンガンを回収して敵戦闘機を攻撃する。

 僅かに回避機動を取り高速で接近して来る。やはり手練れは相手にするのは厳しい物がある。


 だが、俺は引き退るつもりなど一切無い。


「先に撤退しろ。俺は自分で何とかする」

『何を言って……。そんな事、出来ません。また外部から敵増援が来ています。直ちに戦域を離脱して下さい!』

「それなら尚更離脱は出来ない。俺が敵を引きつける。その間に撤退しろ」


 60ミリショットアサルトを拾いながら再び反撃。更に市街地でも敵サラガンが接近して来る。


『しかし!それでは貴方が』

「自分で選んだ運命だ。なら自分で運命を切り開く。行け!お前達も自分で生き残る運命を選べ」


 敵サラガンに60ミリショットガンを出合い頭に撃つ。同時に45ミリサブマシンガンで確実に破壊する。

 破壊したサラガンの後ろから近接用アックスを構えた敵強化型マドックが現れる。


【死に晒せぇ‼︎クソ野郎‼︎】


 近接用アックスが振り下ろされるのと同時に45ミリサブマシンガンを手放す。45ミリサブマシンガンは破壊されるが、既にプラズマサーベルを展開済みだ。

 そのまま敵強化型マドックのコクピットにプラズマサーベルを捻じ込む様に押し当てる。


 だが、敵の攻勢は止まらない。


 次々と多数のミサイルが確実に俺を殺す為に向かって来る。


「……負けてたまるかよ。俺は」


 まだ戦える。


 ブラッドアークは傷だらけだが致命傷は無い。


 戦闘補助AIには頼りになるネロ(相棒)が居る。


 何より俺の戦意を全く失っていない。


 例えギフトが使えなくとも。互いの条件がイーブンになっただけに過ぎない。


 最後まで足掻く。クリムゾン・ウルフの名前の通りに狩り尽くしてやる。


「行くぜネロ!ジャミングプログラム最大!後は俺に任せろ!」

「了解。ジャミングプログラム最大出力。マスターならやれます」


 相棒の期待に応えない訳には行かない。

 レーダーに映るのは全て敵。なら、俺はこの全てを撃破すれば良いだけだ。


「さぁて、どこからでも掛かって来い。武器はまだまだ大量に転がってるんだ」


 既に俺の中では生きて帰還する事は頭の中に無い。


 唯、刻み込んでやる。


 この戦いで俺と言う存在(エースパイロット)が猛威を振るったと言う事実を。


 このクソッタレな世界に教えてやる。


「恐怖しろ。本物のエースがどう言う物なのか。その身をもって味わい、心の底から屈服し、そして絶望しろ‼︎」


 弾幕の中を潜り抜けながら俺は敵AW部隊の中に吶喊するのだった。



 この戦いは後に【クリムゾン・ウルフの傲慢】として宇宙に広く知られる事となる。


 戦いは既に決していたにも関わらず、己の意志一つで動いたシュウ・キサラギ。


 最新鋭機であり専用機とは言え、たった一機で一つの組織と激闘を繰り広げ勝利した。


 また、現役を引退しているとは言え鬼神のゲンを打ち負かした事実。


 そして、最新鋭機ZCM-08ウォーウルフのPV動画が世間を更に賑わせた。


 本人の意思とは別に。






 俺は離脱予定ポイントに向かっていた。

 東郷組の連中は一時的に後退した。しかし、あくまでも一時的に過ぎない。戦力自体はまだ残っているので再編した後に追撃が来るだろう。

 既に俺もブラッドアークも満身創痍だ。ギフトを使用出来ない分、神経をいつも以上に研ぎ澄ませなければならなかった。

 だが、お陰で疲労困憊になり今はネロに操縦を一時的に預けている状態だ。


 俺自身もそうだがブラッドアークは更に酷い有様だ。


 右腕は損失。左脚部の稼働とスラスターは完全に停止。一部スラスターの損傷により使用不可な部分がある。

 更に全体的に被弾しているので、逆に綺麗な装甲部分を探すのが難しいくらいだ。

 また胴体、腕、脚の装甲は大きく損壊。内部にもダメージが入っているのでシステムエラーが多数出ている始末。


(流石に、これ以上の追撃が来たら俺も終わりだな。寧ろ、良く生きて此処まで離脱出来たものだ)


 ネロには少々悪い事をしたかも知れない。俺の無茶な機動や戦い方に一生懸命フォローしてくれていた。

 特に敵の位置を伝えて貰えたのは大いに助かった。レーダーを見ているが、どうしても目の前の敵機に集中すれば周囲への警戒が散漫になってしまう。

 ネロはそんな隙を口頭で伝えてフォローしてくれていたのだ。


 お陰で致命傷を受けずに最後まで戦えた訳だが。


「……前方にレーダー反応だと?」

「識別を確認。味方機です」

「味方機って……」


 誰だよと言いそうになった。

 モニターを見れば右エンジンから黒煙を出している輸送機が、一機のヘルキャットと共に接近していたのだ。


 俺は呆れたよ。同時に心の中で感謝もしていたし疑問も出た。


 俺は素直に感謝出来なくて疑問を先に聞いた。


「何故、戻って来た。撤退しろと言った筈だが?」


 俺の疑問にチュリー少尉は答える。


『良い女は融通が効くのよ。お帰りなさい。エースパイロット』


 その言葉を聞いて俺は輸送機が降りて来るの待つのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スッキリした。 [一言] 世間の評判が気になる。
[気になる点] ほとんどスクラップに思えるけど歩けるって事は見た目ほど致命的な損傷ではないってことかな。 手足はさすがにもう新品に交換なんだろうけど、肝心な胴体は装甲はボロボロだけど中身は無事で修理だ…
[一言] 早く書籍化しないかなぁ
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