クリムゾン・ウルフVS東郷組2
圧倒的不利なのは最初から理解している。戦力差は元より、ギフトも満足に使えない状況。
だが、それが一体何なのだと言うのか?
プライドを満たす為に他者を蹴り落とす。
利益の為に大勢の者を巻き込む。
目的の為なら手段を選ばない。
どれもこれも自分勝手な理由ばかり。だが、そんな理由でも罷り通ってしまう。
それがこの希望溢れるクソッタレみたいな世界。
なら、俺も同じ事をしてやろう。それで文句言う奴は踏み潰して終わらせる。
そうやって出来た世界なんだ。なら、その流儀に則っても何一つとして問題は無い。
「前方に敵AWが展開。上空には敵航空機複数接近中」
「捉えれるものなら捉えてみな!行くぞネロ!」
飛行している状態をやめて一気に急降下する。地面には多くのMWやAWが弾幕を張り俺を撃墜しようとする。
「そんな弾幕程度で俺はやられねぇよ!」
機体を右へ左へと追加ブースターを吹かしながら弾幕を避けて行く。そして35ミリガトリングガンで敵機を撃破しながら地表に降り立つ。
そのまま市街地に侵入し敵との間合いを一気に詰めて行く。
【奴が来るぞ!白兵戦用意!】
敵マドック小隊が45ミリアサルトライフルを撃ちながら近接用サーベルを構えながら迫る。
無論、簡単に接近させる程俺は甘くは無い。試作プラズママシンガンと35ミリガトリングガンで敵マドックに対して弾幕を形成しながら、動きを抑えビームキャノン砲を展開。
「纏めて頂く」
発射された高出力ビームが敵マドックを2機貫き爆散。更にショットカノンで残りの敵マドックを穴だらけにしながら通り過ぎる。
ミサイル接近アラートがコクピット内に響く。咄嗟に建物の影に隠れると上空から戦闘機によるミサイルとロケットの雨が降り注ぐ。
無論、簡単には逃すつもりは無い。そのまま上空を通過するのと同時に試作プラズママシンガンとショットカノンを撃つ。何機か墜とすが次から次へと敵はやって来る。
「簡単には行かせないってか?上等、道は無理矢理こじ開けるのみ」
建物の陰から出て地表を滑る様に移動する。すると前方に敵戦車部隊と敵攻撃ヘリが展開中だった。
「悪く思うなよ。全部頂くぜ」
敵戦車からの砲弾を避けつつビームキャノン砲で反撃。更に攻撃ヘリには試作プラズママシンガンと35ミリガトリングガンで撃ち墜として行く。
【うわあああああ⁉︎クリムゾン・ウルフだあああああ⁉︎】
【何ッ⁉︎この距離で避けられガッ⁉︎】
【味方のAWは何やってんだ!もう敵がこんな場所にまで来てるじゃねえか!】
残った敵は無視して更に前進する。残された時間は多くは無い。
そんな時だ。物陰から接近する機影を確認する。咄嗟にショットカノンを撃つが相手は対艦バスターソードで防ぐ。
そして、俺の正面に降り立つのはBR-Z5ミスト。
【また会ったな兄ちゃん。だが、此処から先は通行止めだ】
「通行止めなら看板でも立てとくんだな。でないと俺みたいなのが無理矢理通って来るからな」
35ミリガトリングガンを撃ちながら周りを警戒。恐らくもう一機来る筈だ。
すると案の定と言うべか。両腕を二連装45ミリマシンガンに換装している軽量機が強襲して来る。
【残念ですが、これ以上先には行かせません。そして貴方を帰す訳にも行きません。私達のプライドに懸けて】
「なら、そのプライドごと破壊してやるよ。そうすれば難儀な生き方しなくて済むぜ」
45ミリの弾幕を回避するが、回避した先にミストが対艦バスターソードを振り被りながら接近して来る。
【粉砕ッ‼︎】
回避するが試作プラズママシンガンが真っ二つに切り裂かれる。そのまま放棄するのと同時にショットカノンで反撃。
だが相手は既に予想していたのだろう。対艦バスターソードを盾に再び距離を詰めて来る。
更に45ミリによる弾幕が回避先に張られてしまう。上空に逃げれば間違い無く集中砲火を受けるだろう。
【大したモノだ。それだけの腕前が有りながら、自ら不利な戦場に来るとは】
対艦バスターソードを振りながら距離を詰めるミスト。しかし、俺はサイドスラスターを使い回避しながら一定の距離を維持させる。
流石の東郷組も味方への誤射は無理だろうからな。
【こうやって俺と近距離戦やってんのも想定通りなんだろう?それだけの腕と頭があるってのに。勿体無いな】
俺は35ミリガトリングガンをミストに向けて撃ちながら、遠くから狙っていた敵AWに向けてビームキャノン砲で消し飛ばす。
【何故だ。何故、貴様は此処に来た。答えな、クリムゾン・ウルフ】
対艦バスターソードを構えながら動きを止めるミスト。俺は鬼神のゲンの質問に応える事にした。
「リベンジマッチだよ。それ以上も無ければそれ以下も無い。俺が最後の最後に勝者として終わらないと気がすまない。どうだ、満足する答えかな?」
【……傲慢だな】
そう呟くと対艦バスターソードを構え直す。俺も次の攻撃に対し身構える。
【全く、生まれてくる時代を間違えたな。兄ちゃん】
「そうでも無いさ。どんな奴も生きてる限り傲慢なのさ。既に他者を下敷きにして出来てる世界。コレが傲慢と言わず何と言うか」
【……確かに、な。なら、これ以上の言葉は不用か】
目の前に居るミストの気配が明らかに強者としての気配に変わる。だが、その程度の気配で引き退る理由にはならない。
(三秒先が見えなくても。俺のテクニックは変わらん)
最終的に必要なのは相手を威圧する気配では無い。戦場で培われた技量。優秀なギフトがあろうとも、それを活かせるだけのモノが無ければ意味が無い。
【終わりだ。兄ちゃん】
「あぁ、終わりだよ。オッさん」
一瞬にして間合いを詰め、対艦バスターソードを振り下ろすミスト。
俺は自身の直感に従い機体を左に避ける様に操作する。
対艦バスターソードが振り下ろされたのと同時にブラッドアークの左腕の一部装甲と左肩側面追加ブースター……そして、ミストの両腕が宙を舞う。
一瞬の判断。俺は35ミリガトリングガンを放棄してプラズマサーベルを2本展開。そのまま交差しながら間合いに入りミストの両腕を斬り裂いたのだ。
【ッ⁉︎】
【ゲンさん!逃げて!】
俺はプラズマサーベルを振り下ろしミストの両足を切断。そして重力に従い地面に倒れるミスト。
更に背後から迫る45ミリの弾幕が迫る。だが多少被弾するも対艦バスターソードを拾いながら盾にする。
「無闇に間合いを詰めたのは減点だよ。お嬢ちゃん」
【お嬢!逃げるんだ!】
そのまま対艦バスターソードを盾にしながら35ミリガトリングガンを回収。そのまま35ミリの弾幕を張りながら敵軽量機に接近して行く。
対艦バスターソードは重いが、ブラッドアークの出力は現行のAWより遥かに優れている。
つまり、対艦バスターソードの重さ程度では速度は然程落ちる事は無い。
45ミリの弾幕を対艦バスターソードで防ぎながら敵軽量AWを間合いに入れる。
至近距離でショットカノンを発射。吹き飛ぶ頭部と右肩の装甲が破壊される。そして、そのまま勢いのまま軽量機に体当たりし体勢を崩させる。
後方に飛ばされる軽量機の横を通り過ぎる様にブースターを全開に吹かす。そして胴体を切断しながら前進して行く。
「じゃあな。精々二対一で負けた己の技量不足を恨むんだな」
俺はそう言い残すと更に前進する。どうやら敵軽量AWは運が良かったのか爆発しなかったらしい。
だが、敗者となった存在を気にしてる余裕は無い。俺は敵を無視してヤン・ハオティエンが居ると思われる飛行場に向かう。
無論、東郷組もそれは理解している。だからこそヤン・ハオティエンが乗る輸送機を最優先で打ち上げるしか無いのだ。
外が随分と騒がしい。最後の最後に悪足掻きをする連中は何処にでも居る。
だが、その抵抗も大局には何一つとして影響は無い。
無駄な抵抗とは正に今の状況を言うのだ。
「とは言え中々終息しないのは頂けないな」
敵は少数だと聞く。なのに未だに銃声や爆発が収まらないのはどう言う事だ?
「まさかな……この状況は少々想定外だよ」
私は座席から立ち上がると見た目を変更する。
そう、コレは我々カルヴァータ家が持つ特別な魔術の一つ。それこそ有象無象のギフトとは訳が違うのだ。
無論、魔術を使用するにあたって適正かどうか調べる必要はあった。
そして、私は変身系の魔術と歴代最高の適合率を叩き出した。
その瞬間、私の運命は波瀾万丈な物となったのだ。
「私だけの特別な魔術。他の者には絶対に真似出来ない代物」
呟きながら姿を変更して行く。
男性から女性へ。
少し弛んだ身体を男好きしそうなメリハリの効いた身体へ。
初老の顔から妙齢で魅惑的な美貌を持つ顔へ。
次いでに服装も女性用タイトスーツに切り替えておく。
そこに現れたのは全くの別人。
「後は優雅に待つだけかしらね。良い女は常に余裕を持たないと」
再び座席に座り直し優雅にワインを一口飲む。
だが、次の瞬間だった。
私が乗っている輸送機を防衛しているMW部隊が突如、空に向けて発砲したのだ。
断続的な銃声が直ぐ側で鳴り響く。
『馬鹿な!たった一機に!突破されたと言うのかッ⁉︎』
高出力のビームが一機のMWを貫くと爆散する。更に35ミリの弾幕が上からMW部隊に向けて降り注ぐ。
回避機動を取り一瞬だけ弾幕が薄くなる。だが、その隙を狙っていたと言わんばかりに何かが接近して来る。
「アレが…………」
私は言葉が出なかった。
宇宙を駆け回っていれば戦場に巻き込まれる事もある。
だが、私が居た場所は常に強固に守られ敵性勢力は近付く事すら困難な場所。
今居る場所もそうだ。
私の周りは東郷組と言う荒事には慣れた者達。戦闘が起きても対処出来る戦力があるのだ。
なのに……今の私の命は危機的な状況に陥っていた。
地面に降り立った一機の大型AW。
既に被弾している痕跡が多く見られた。
頭部の右装甲は破損しており中身のメインカメラが半分見える。更に左肩は斬り裂かれた後があり、装甲が一部欠けていた。
胴体もそうだ。元は綺麗な紅色と黒色をしていた筈だ。だが、今の姿は傷だらけで弾痕と焼け焦げた痕が見える。
更に左脚は完全に装甲が剥げており、中身が見えており時折火花が散っている始末。
満身創痍と言っても過言では無い大型AW。
だが、まだ動いている。
私が見ている間にも大型AWは対艦バスターソードを振り被りながら東郷組のMWを斬り裂いて行く。更に35ミリガトリングガンやビームキャノン砲を使い暴れる。
だが、東郷組もやられっ放しでは無い。
独特な文字を付けている三機のサラガンが敵大型AWに接近する。
『これ以上好きにはさせないぜ!俺達、三連ノ竜星が再び見参!今度こそお前を倒す!行くぜ!ヤス!アツシ!』
『任せろ!宇宙での借りは返させて貰うぜ!クリムゾン・ウルフ!』
『今度こそ確実に狙う。確実にだ』
トゲ付きナックルガードを構え、肩に装備している追加ブースターを全開にしながら突撃するサラガン。
更に先頭のサラガンを確実に援護する様に、二連装ビームガンで弾幕を形成しながら後に続く二機目のサラガン。
『オジキの対艦バスターソードを返して貰うぜぇ‼︎それは、お前の様な奴が持って良いモノじゃねえええええ‼︎』
トゲ付きナックルガードを使い攻撃をしようとするサラガン。
だが、相手が悪過ぎた。
【前回と同じで攻撃が単調過ぎる。減点】
『はぇ?え?え?え?』
交差した瞬間に両腕と頭部が斬り飛ばされるサラガン。だが、その瞬間を狙う様に二連装ビームガンを構える二機目のサラガン。
【援護が遅い。後、近過ぎだ】
『何ぃ⁉︎うわっ⁉︎』
援護しようと接近し過ぎたのが仇となった。近距離でのショットカノンの連射を受けて後ろに向けて倒れ込む二機目のサラガン。
だが、まだ三機目が残っている。
『なら、これで死に晒せぇ‼︎化け物が‼︎』
両肩に250ミリキャノン砲を装備した三機目のサラガン。仲間がやられたとしても距離はある。
この間合いなら近寄らせる前に終わらせれる。
既に敵大型AWは捕捉している。後はトリガーを引けば、この悪夢は終わる。
だから躊躇は無かった。
この化け物を仕留めれるなら何でも良かった。
250ミリの弾頭が敵大型AWに迫る。
咄嗟に対艦バスターソードで防ぐが、既に過剰な負荷を掛け過ぎていたのだろう。
対艦バスターソードは半分にへし折れ、左肩のショットカノンも破損。更に反動で敵大型AWは後ろに向かって倒れ込もうとする。
あのクリムゾン・ウルフを倒せる。仲間を何人も殺し、散々苦渋を飲まされて来たあの悪魔みたいな化け物を倒せる。
そう確信したアツシ。
だが、ブラッドアークはまだ止まらない。
250ミリの爆発の反動を使い、背中のメインブースターを駆使して機体を回転させながら一瞬にして体勢を立て直す。
更に回転しながら半分に折れた対艦バスターソードをアツシの乗るサラガンに向けてぶん投げる。
一瞬の判断。勝ったと慢心した所を狙ったかの様な予想外な攻撃。
メインモニターに映るのは、迫り来る半分にへし折れた対艦バスターソード。
そしてサラガンの右上半身に直撃し、対艦バスターソードがめり込む。
『嘘だろ⁉︎こ、こんなやり方って⁉︎』
無茶苦茶だ。
こんなのエースの様な綺麗な戦い方じゃない。
泥臭く、最後まで諦めず、足掻き続ける戦い方。
だが、それでも最後に立っているのはブラッドアーク。
機体が保たないと判断したアツシは速攻で脱出する。それから暫くすると機関部が暴走し爆破するサラガン。
そして、その爆発に巻き込まれブラッドアークに向かって吹き飛ぶ対艦バスターソード。
だが、クリムゾン・ウルフは冷静に対艦バスターソードの回転を見て掴み取る。
最後の最後に曲芸染みた事をしてから勝者となった。
「…………」
言葉が出てこなった。
私は長い人生を生きていた。
エースパイロットと呼ばれる者達が戦う姿を見た事はある。
だが、こんなにも胸を熱くさせるエースパイロットが居ただろうか?
ここまで圧倒する戦い方をするエースが居ただろうか?
「アレが……本物の、エースパイロット」
認めようではないか。
君は強者だ。
この戦場では間違い無く君が一番だよ。