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クリムゾン・ウルフVS東郷組

 ヤン・ハオティエンにとって世界とは容易な物だ。


 自分の手を汚さず、自分の都合の良い環境にする。


 様々な人物となり、様々な惑星の政治に介入。そこでパイプを作り、惑星カルヴァータにとって最低限不利な状況にならない様に努めて来た。

 無論、その政争の中で派手に暴れた事もある。その際、自分にとって都合の悪い連中を数多く処分して来た。

 処分と言っても物理的だけでは無い。穏便な方法として政界から追い出し隠居に追い込んだりもした。


 今では三大国家とも複数のパイプも持っている。もはやこの時点で負ける要素は殆ど無くなった訳だが。


「この惑星ともお別れか。やはり、一番の収穫はゴースト更生労働法に大きく介入出来た事だね」

「左様ですか。しかし、連邦にもパイプがあるとは恐れ入りました」

「大した事では無いよ。私の息の掛かった者を何人か配置する事くらいはね」


 大気圏離脱用の輸送機の座席に座りながら、ヤン氏は何でも無い風に言う。いや、実際彼にとっては大した労力は使って無いのだろう。

 既に出来ているパイプを使用して口添えする。またヤン氏には多くの顔を持つ。


 つまり、ヤン・ハオティエン以外の繋がりを利用出来るのだ。


「しかし、シュナイダー君には悪い事をしてしまったよ。私に歯向かったとは言え彼は実に優秀な人物だった」

「それ程に優秀な方だったのですか?」

「優秀だよ、シュナイダー君は。反抗しなければ良き友として交流し続けてたくらいだ。彼は滅びる可能性が高い惑星を必死に立て直そうとしていた。そして、ゴーストに対する可能性を見出した」


 予想以上にシュナイダー総統を高評価するヤン氏。

 恐らくシュナイダー総統は本気で惑星ニュージェネスの為に動いていたのだろう。だからこそ、ヤン氏とは相容れない関係だったのかも知れない。


「まともな資源も人材も無いこの惑星にとって最後の賭けだった。だがね、私はゴーストに知識とチャンスを与える事に反対している」


 シュナイダー総統はゴーストの中に埋もれている才能ある者達を取り出そうとしていた。

 それは大量の砂の中から原石を見つけ出す様なもの。


 だが、それでもやるしか無かった。


 惑星ニュージェネスに住む正規市民達(有害な寄生虫共)のケツを蹴り上げる為に。


「シズリ君。君はゴーストの総人口を知っているかね?」

「いえ、詳細は不明です。しかし、全ての正規市民の3倍以上だとは聞いています」

「3倍?ハハハ。そんな甘い数字な訳が無いだろう」


 シズリの答えに笑って否定するヤン氏。しかし、目は全く笑っていなかった。

 そして、ヤン氏は右手を広げて答えた。


「5倍だよ。一人の正規市民を生かす為に5人のゴーストが必要なのだ」


 5倍。その数字が途方も無いゴーストの数を意味する事は容易だった。

 果たして正規市民達はその事に気付いているのだろうか?いや、仮に気付いたとしてゴースト達に手を差し出すだろうか?


 答えは否。誰も自分の立場を失いたく無い筈だ。


「その事に気付いたゴースト達はどうすると思うかね?間違い無く反乱を起こす。反乱だけなら良い。だが、状況が悪くなれば間違い無く全宇宙を巻き込む。そうなれば軍とゴーストの戦いに大量の正規市民の犠牲者が出てしまう」


 ヤン氏は言葉にシズリは否定する事が出来なかった。

 寧ろ、ヤン氏の言う最悪の未来は近い将来起きても可笑しくないと思えてしまう程だ。


「ゴースト達には申し訳無いが。私達の様な権利者になりたいなら自らの手で登り詰めて貰う。それ以外の手段を私は断じて認める訳には行かない」


 コップに入っているワインを一口飲むヤン氏。


「この世界を守る……だなんて大層な事は言わないよ。だが、区別は付ける必要があるのだよ」


 そう言ってヤン氏は話を締め括る。

 その時だった。シズリの通信機に連絡が入る。


「それは本当なの?」

『はい。間違い有りません。所属不明の輸送機とAWが一機ずつ接近しています。如何いたしましょうか?』

「迎撃して頂戴。今は余計なリスクを増やす必要は無いもの」

『了解しました』


 シズリは通信を切りながらヤン氏に言う。


「どうやら今の状況に納得していない者達が来ている様です。離陸を早める様にしますので」

「分かっている。ちゃんと大人しくしているさ」

「それから私も一応現場に行きます。最悪な事には絶対にさせませんので。ご安心下さい。それでは、失礼します」


 シズリはヤン氏に一礼してから下がって行く。

 どんな小さな障害も確実に撃破出来る様に。


「しかし、たった数機での攻撃とは。唯の無謀な奴なのか。それとも……」


 シズリが居なくなり、一人になったヤン氏は窓の外を見る。

 対空ミサイルを搭載している砲台が起動して動き出す。それに合わせて護衛のMWオーガが輸送機を守る様に移動して行く。


 不安は全く無い。戦力の殆どは練度の高い東郷組だ。故にこの奇襲も簡単に撃退出来るだろう。


 だが、世の中には予想外な事が起きる事がある。


「果たしてどう転ぶのかな?私の退屈を満足させる事が出来るなら大した者だよ」


 そう言って再び一口ワインを飲むのだった。






 無茶な事に巻き込んでしまっている自覚はある。

 これから始まる戦いは何一つとして戦略的価値など無い。

 強いて言うなら俺自身が満足出来るか出来ないかだけだ。


「…………」


 目を閉じてこれから始まる戦いに集中する。

 現状ギフトは満足に使う事は不可能だ。僅かに使う事が出来たとしても、負担が蓄積してしまう。

 最悪、後遺症が残ってしまう可能性が高い。

 今の状態なら安静にするのが一番だ。だが、そんな時間は無い。


 ヤン・ハオティエンにとって惑星ニュージェネスもゴーストも既に無用となっている。


「俺は……何がしたいんだ?」


 それに既にヤン・ハオティエンは惑星から離脱している可能性はある。


 なら、これ以上戦う理由は無い筈だ。


「何がしたい。何の為にコクピットに座っている?」


 だからこそ俺は自分自身に問い詰めた。

 答えが直ぐに出る訳じゃ無い。だが、今の俺には時間が無い。

 間も無く敵のレーダー圏内に入る筈だから。


「俺は……俺はッ」


 本心。それを自分の口から出す事は難しい。

 けど、今の俺なら言える気がするんだ。


『こちらヴィラン2。敵の迎撃ミサイルを確認したわ。少し荒っぽくなるけど文句は受け付けないから!』


 チュリー少尉はミサイルを回避する為に輸送機を乱暴に動かす。


『キャット1、ミサイルを捕捉したッス。これより迎撃するッスけど、あまり期待はしないで欲しいッスよ!』


 そしてミサイルを撃ち落とす為にヘルキャットを加速させ、ミサイルに銃口を向ける。


 外では戦闘が始まった。輸送機の近くで何発かミサイルが爆発する。その度に輸送機は揺れて動きが乱れて行く。


 そんな中、俺は思い出した。ガキの頃の俺と話した夢を。


 夢の内容なんて殆ど覚えてはいない。


 けど、俺はあの夢の中で約束したんだ。


『勝って来い。エースパイロットさん』


「あぁ、勝ってみせるさ。エースパイロットとしてな」


 目を開けて状況を確認する。既に大量の弾幕が輸送機を襲い始めていた。


『このままだと不味いわ。こうなったら敵陣に一気に接近する。ナナイ軍曹、少しキツくなるけど』

『構いません。私の事は気にする必要はありません』

『キャット1!行くわよ!』

『了解ッス!先陣は自分が行くッス!』


 そして急降下するヘルキャットと輸送機。既に迎撃する為に上昇して来ている敵戦闘機とかち合う形になるのだが。


『退けッスよ。先輩の邪魔だけは絶対にさせないッス!』


 キャット1の操るヘルキャットはトリッキーな動きと共にミサイルと45ミリの弾幕を形成する。


【ッ!各機回避しろ!こんな所で死ぬんじゃ無いぞ!】

【チッ、たった一機のヘルキャットで攻撃しに来たのか?迷惑な連中だぜ】

【輸送機を優先にしろ。もしかしたら大量破壊兵器を積んでる可能性が高い】


 更に迎撃による攻撃が苛烈になる。既に輸送機にも対空ミサイルが向かっている状況だ。


「ヴィラン1よりヴィラン2。無理に接近する必要は無い。どんな状況でも良い。俺を出せれば良いんだ」

『遠過ぎたら唯の的になるわよ!そんな事するくらいなら』

「構わん。伊達にクリムゾン・ウルフなんて呼ばれて無いからな」

『なら私も伊達に女一人で傭兵やって来て無かったんだから!荒くなるけど文句は受け付けないわよ!』


 チュリー少尉はそう言うと輸送機を一気に急降下させる。

 輸送機全体が想定以上の負荷を掛けられて派手に揺れる。その姿はさながら墜落している様に見える。

 だが、それでも敵は攻撃の手を緩める事は無い。

 迫り来る弾幕やミサイル。更に軽戦闘機フォッケナインが追撃して来る。


『上がりなさいよ!この鈍足輸送機!』


 無理矢理操縦レバーを引き上げるチュリー少尉。更に小さく可愛い声で悲鳴を上げるナナイ軍曹。


『ちょっ!大丈夫なんスか!それ!』


 ヘルキャットで敵を撃破しつつ曲芸みたいなトリッキーな動きをしながら輸送機を見るアズサ軍曹。

 そしてギリギリの所で下部スラスターを噴出させ無理矢理機体を上げるが、腹の部分が若干擦れるのはご愛嬌と言えるだろう。


「ハッハッハッハッ!良いぞチュリー少尉!その調子で突っ込んじまえ!」

『何故貴方は笑っていられるんですか!この状況で!』


 ナナイ軍曹からの突っ込みを受けながらブラッドアークの最終チェックを行う。

 武装は右手に試作プラズママシンガン、左手には35ミリ小型ガトリングガン。

 右肩にはビームキャノン砲、左肩にはショットカノン。更に両肩側面には追加ブースターを装備。

 他にもデコイを数個と接近用プラズマサーベルを装備して接近戦にも対応可能だ。


「マスター。機体の最終チェック完了しました。問題は有りません」

「分かった。ヴィラン1よりヴィラン2、タイミングは任せる。頼んだぞ」

『全く、本当に無茶な事をするわよ。貴方も!私も!』


 超低空飛行で敵に接近する輸送機。そんな輸送機に対して東郷組は焦り始める。


【奴はカミカゼだ!何としてでも墜とせ!】

【下手に近づくなよ。爆発に巻き込まれたら洒落にならねぇからな】

【悪足掻きしやがって。テメェらは負けたんだよ!さっさと諦めちまえ!】


 輸送機を迎撃しようと街から攻撃が来る。しかし、まだ輸送機は上がらない。


『チュリー少尉!このままでは危険です!』

『まだ……まだよ。後、少し』


 ナナイ軍曹の言葉に呟く様に返すチュリー少尉。

 俺は操縦レバーを握り締め、いつでも戦える様に備える。

 そろそろ攻撃密度が高くなり始める。


 その時だった。


 チュリー少尉は一気操縦レバーを引き上げながら格納庫ハッチを開ける。


『ヴィラン1!後は頼むわ!』

「感謝する。ヴィラン1、ブラッドアーク出るぞ!」


 地表に近い状態での出撃。一気にブースターを吹かしながら輸送機の横を通り過ぎる。


「さぁて、悪いが此処から先は俺の相手をして貰うぞ。まずは挨拶代わりの一発だ!」


 目標を捕捉してビームキャノン砲を展開。そのままトリガーを引く。

 大出力のビームが敵MWに直撃。更に後方のロケット車両も巻き込み大爆発を起こす。

 更に輸送機に狙いが行かない為に上空へ一気に舞い上がる。そして試作プラズママシンガンと35ミリガトリングガンで次々と敵MWと対空砲を破壊して行く。


【ッ!嘘だろ!照合が出た!クリムゾン・ウルフだ!敵はクリムゾン・ウルフ!】

【近付かせるな!絶対にこの場所を死守するんだ!】

【悪足掻きするにも程があるだろうが!何でエースが出張って来るんだよ!】


 余りに理不尽な敵に悲鳴に近い声が出てしまう東郷組。しかし、そんなのは関係無いと言わんばかりに前進するクリムゾン・ウルフ。


「目標はヤン・ハオティエンが乗る輸送機。次に大気圏離脱用の輸送機も全て撃破だ。あの野郎だけは絶対に勝ち逃げさせない。いや、させてたまるか!」

「了解。ヤン・ハオティエンが居ると思われる場所を指定しました。周辺には輸送機が複数存在します」


 散々色々荒らしまくった癖に、自分だけ悠々と宇宙に逃げるとか許さん。

 あの余裕ある表情は絶対に歪ませてやる。


『先輩!自分も色々限界ッス!後、もう気持ち悪くて吐きそうッス!』

「戻す前に離脱しろ。コクピットの中で吐いたら色々残念なニャンコになるぞ」


 キャット1は一目散に撤退。

 アズサ軍曹が高機動な機体に乗りたく無い本当の理由。それは余りに変則的な機動をすると気持ち悪くなるのだ。

 更に酔い止め用の処置を行なって無いから尚更タチが悪いのだ。何でも処置するのが怖いとか。

 まぁ、それ以上に弾幕が大好きな奴なので今後も高機動なAWに乗る事は少ないだろうが。


「勝者は一人で充分だ。お得意の交渉術は俺には通用しないぞ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ほろ苦い終幕を絶対に許さない主人公の鏡! やったれ主人公!一人勝ちを許すな!
[一言] 今までは上手く世界に混沌を振り撒いて来れたけどついに天誅が。 因果応報大いに結構、邪悪が世間にのさばったままとか物語の中では成立させる必要ないもんねw だって現実では悪党こそが勝ち組で世を謳…
[一言] やっちまええ┌ (°Д゜)┐
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