デルタセイバーVSウシュムガル
漁夫の利を狙う屑共は物理的に黙らせた。
身の丈を考えずに、俺とデルタセイバーの間に入って来たんだ。消されて当然の報いと言えるだろう。
だが、これで邪魔者は居なくなった。
「後は……お前だけだ。デルタセイバー!ネロ!ホーミングレーザーは任せる!任意のタイミングでやれ!」
「了解しました。捕捉開始します」
デルタセイバーを再度捕捉した俺は飛行型ビーム砲を射出して攻撃しながら追従させる。
10のビームが断続的にデルタセイバーに襲い掛かる。しかし、デルタセイバーはエネルギーシールドを使い耐える……事は無かった。
「ッ⁉︎回避するか!この弾幕を!」
ギフトを使い三秒先を先読みしながらの攻撃。しかし、デルタセイバーは紙一重で回避しながら徐々に迫って来る。
「やるじゃ無いか。だがなぁ、回避した所でウシュムガルには勝てねぇんだよ‼︎」
右手でビームを射撃しながら接近しつつ、左手ではビームサーベルを展開しデルタセイバーに斬り掛かる。
左手の5本の強力なビームサーベル。デルタセイバーは対艦ビームサーベルで捌く。その隙に右手のビームサーベルを展開。そのまま一気にデルタセイバーに吶喊させる。
「終わりだぁ‼︎デルタセイバー‼︎」
【まだ終わって無いわ‼︎デルタセイバー‼︎‼︎‼︎】
クリスティーナ少佐の叫びに呼応する様に対艦ビームサーベルの出力が一気に増す。そして左手を弾き飛ばしながら右手のビームサーベルを斬り裂く。
「ッ⁉︎まだだぁ‼︎」
咄嗟の判断だ。
弾き飛ばされた左手は後方に下がらせながらビームを発射。更に右手も至近距離からのビームを発射させる。
同時に今度こそと思った
あのデルタセイバーを破壊出来るのだ。俺とは真逆の位置に存在している機体。環境に恵まれ、パイロットに恵まれ、軍からも愛と期待を一身にうけている機体。
何故こうまでデルタセイバーに固執するのか?
答えは簡単だ。
俺はデルタセイバーが嫌いなんだ。
泥臭くて、胸を張る事が出来ない人生を歩んで来た俺とは真逆の存在。
恋人も、戦友達も、子供達も。全部踏み台にして来たんだ。全部見捨てて来た。全部俺の力不足だったから死んだ。
だから、絶対に負ける訳には行かないんだ。
俺のこの生き方を否定される訳には行かないんだ。
でないと……あの子達の死が本当に無駄になってしまうから。
「墜ちろおおおおお‼︎‼︎‼︎デルタセイバー‼︎‼︎‼︎」
しかし、現実は非情だ。
デルタセイバーは世界に愛されている。だから、他の誰かから手助けを受けられるんだ。
右手の飛行型ビーム砲に何かがぶつかる。その結果、射線がズレてしまいデルタセイバーを仕留める事が出来なかった。
一瞬、何がぶつかったのか理解出来なかった。しかし、理解した瞬間頭の中が沸騰してしまう。
「何をやっている‼︎ヴィラン2‼︎貴様も、俺の邪魔をするのか‼︎」
『行って!クリスティーナ少佐!キサラギ少尉を止めれるのは貴女しか居ないわ!』
チュリー少尉のヘルキャットは人型形態になりながら右手を蹴り飛ばしたのだ。
【敵は潰せ。全て潰せ。邪魔するモノは全てを消し去れ】
頭の中に呪詛の様な言葉が響く。だが、そんな事言われなくてもやってやる。
「だからスッ込んでろ‼︎どいつもこいつもおおおおおお‼︎‼︎‼︎」
超大型シールドをデルタセイバーとヴィラン2に向けて躊躇無くミサイルを発射。しかし、下側からの弾幕によりミサイルやロケットが迎撃されてしまう。
「……お前もか。キャット1」
『先輩!もうダメッスよ!これ以上戦ってたら先輩が!先輩が!死んじゃうッス!』
「そうか……なら、お前もおおおおおお‼︎‼︎‼︎」
俺は吼える。同時に更に気分が高揚する。
この全能感。ウシュムガルに身を委ねれば全て問題無い。そう思えてしまうくらいに高揚したんだ。
ウシュムガルのメインカメラが更に強く光る。そして冷却材が大量に放出される。
それは擬似ギフト装置が危険な領域にまで稼働しているのを意味していた。
ウシュムガルは手に負えない程に危険な領域に入りつつあった。自分の邪魔をする者は敵味方容赦無く攻撃をする姿。
既に敵味方はウシュムガルが距離を取っている状況。しかし、スマイルドック所属の一部の傭兵達はキサラギ少尉を救う為に行動を起こす事にしたのだ。
『先輩!マジでダメッスよ!これ以上戦ったら、戦ったら。先輩、死んじゃうッス!』
半泣きになりながらもキサラギ少尉に語り掛けるアズサ軍曹。しかし、アズサ軍曹に対する返答は60ミリバルカン砲による射撃だった。
しかし、ビーム砲を使わない辺りまだギリギリ理性は残っているのかも知れない。尤も、理性が消えるのも時間の問題だろう。
60ミリバルカンで近場に居る傭兵部隊を攻撃するウシュムガル。しかし、横から高出力のビームがウシュムガルを襲う。しかし、距離が遠いのかエネルギーシールドに防がれてしまう。
【クリス!僕も援護する!このままだと街が壊滅するだけじゃ済まないみたいだからね!】
アーヴィント大尉が操るガイヤセイバーからの援護射撃。更に生き残っているスピアセイバーも戦線に復帰して、デルタセイバーの援護の為に攻撃を開始する。
しかし、ウシュムガルに対しては明らかに火力不足。
『クリスティーナ少佐。私達が少しでも気を引くわ。その間にキサラギ少尉をお願いするわね』
【チュリー少尉。ええ、分かったわ。必ずキサラギ少尉を救ってみせる】
『頼むわよ。キャット1!私が一度囮になる!その間に一度退きなさい!』
『りょ、了解ッス!うひゃー!60ミリの威力が半端無いッス!』
チュリー少尉の操るヘルキャットがウシュムガルに向けたミサイルを多数発射。それと同時にアズサ軍曹もグレネードを撃ちながら後退する。
『全く。キサラギ少尉にはそれなりの借りがあるからな。丁度良い。今回の件で全部チャラにさせて貰うぜ!』
『俺もだ。ならキサラギの救出作戦と行きますかね』
『あの野郎。アズサちゃんを泣かせやがって。一度本気で謝らせてやらぁ!』
色々と文句や愚痴を言いながらも付き合いの長い連中はウシュムガルに向けて攻撃を開始。
様々場所から攻撃を受けるウシュムガル。
「クソがッ‼︎どいつもこいつも雑魚の分際で邪魔ばかりしやがって‼︎全部、全部潰してやる‼︎ネロ‼︎ホーミングレーザーで消し飛ばせ‼︎」
「……申し訳有りません。ホーミングレーザー用のジェネレーターが破損している為、射撃不可能です」
「なら予備のジェネレーターを使うんだ‼︎それで潰せるだけ潰せ‼︎」
もはや敵と味方の区別が付いていないキサラギ少尉。しかしネロは擬似ギフトの干渉を受けていない為、ジェネレーター破損と偽り味方に対し攻撃出来ないと言う。
こうしてウシュムガルの使い勝手が非常に良いホーミングレーザーが封印されてしまう。
だが、それでもウシュムガルの火力は残っている。
スマイルドック所属のヘルキャット部隊、エルフェンフィールド軍のスピアセイバーが上空から撹乱攻撃をする。
続いてサラガン部隊による地上での撹乱。更に遠距離からギガント部隊による砲撃。
予想外の場所から攻撃を受けるウシュムガルは遂に痺れを切らしてHELブラスターを起動させる。
「邪魔する奴は全部消し飛ばす‼︎逆らう奴は皆殺しだ‼︎」
しかし、それと同時にデルタセイバーが動き出した。
【キサラギ少尉!余所見してる余裕は無い筈よ!】
「ッ⁉︎デルタセイバー‼︎貴様だけは必ず‼︎」
デルタセイバーが間合いを詰める為に一気にブースターを全開にして、ウシュムガルに向けて突っ込んで行く。
【行くわよ!キサラギ少尉!】
「潰す‼︎俺の存在意義に懸けて‼︎」
しかし、距離はまだ遠い為ウシュムガルの独壇場。
ウシュムガルは超大型シールドから対AWミサイルを発射。更に飛行型ビーム砲で攻撃しながら射出。
一気にデルタセイバーを破壊する為に火力を出す事を惜しまない。
だが、デルタセイバーの機動力は伊達では無い。
【デルタセイバー!私に力を貸して!】
まるでクリスティーナ少佐の言葉を理解したかの様に動きが一気に変わる。
各関節部から淡い蒼光が出現。更に機体全体を覆う様に輝き始める。
「ッ⁉︎どこまでも、どこまでも俺を不愉快にさせるか‼︎デルタセイバー‼︎」
デルタセイバーが突っ込んでくる進路を予測。左手にはビームサーベルを展開。右手は射撃しながら間合いを詰める。
高出力のビーム。直撃すれば唯では済まない。しかし、デルタセイバーの淡い蒼光はビームを防いでしまう。
「なら、コレで‼︎」
左手のビームサーベルでデルタセイバーを狙う。
だが、デルタセイバーのメインカメラが一瞬強く光る。
同時に対艦ビームサーベルの出力が急上昇。そのまま正面から左手を切断してしまう。
咄嗟にデルタセイバーの背後に右手を回しビーム砲で狙う。しかし、ビームガトリングガンにより簡単に穴だらけにされ破壊されてしまう。
「ッ⁉︎冗談‼︎」
更に間合いを詰めるデルタセイバー。攻守拡散ビーム砲を使用して近寄らせる訳には行かない。
これ以上の接近はウシュムガルにとって死角同然なのだ。
デルタセイバーは淡い蒼光だけでは無い。パイロットでもあるクリスティーナ少佐の技量。
この二つが組み合わさった結果、拡散ビームの全てが回避されてしまう。
距離が近付けば近付くだけ密度は高くなる拡散ビーム砲。しかし、そんな弾幕は薄いと言わんばかりに回避しながら迫り来る。
もはや喋る余裕は無い。
まだ残っている左手の飛行型ビーム砲。ビームサーベルを展開しつつHELブラスターでデルタセイバーを狙う。
(確実に……確実に仕留める)
拡散ビームに紛れ込む様に予備の左手をデルタセイバーに接近させる。
そしてビームサーベルを振るいながらデルタセイバーを狙う。
交差する一瞬。斬り飛ばされたのは2本の指。人差し指と中指の部分が斬り飛ばされ、その合間を縫う様にして更に間合いを詰めるデルタセイバー。
「曲芸かよ‼︎クソがッ‼︎」
一瞬の反転。追撃の為に残りのビーム砲で攻撃をする。
だが、次の瞬間。左手は対艦ビームサーベルにより真っ二つに切断され爆散してしまう。
だが、時間稼ぎは充分だ。
「この距離なら避けられねぇよ‼︎消し飛べええええええ‼︎‼︎‼︎」
近距離からのHELブラスターによる攻撃。莫大な高エネルギーの渦がデルタセイバーに迫る。
デルタセイバーは咄嗟に左に避ける。だが、避けた所で結果は同じ。
HELブラスターでデルタセイバーを追従し左脚を消し飛ばす。
これで全てが終わる。
だが、勝利の女神は俺には微笑む事は無かった。
損傷した右脚。重力配分の変更。
この二つの要因によってデルタセイバーの追従が不可能になっていたのだ。
反動がデカいHELブラスターは正面に発射する分には問題無かった。
だが、あの軽戦闘機フォッケナインの体当たり攻撃。最後の最後まで諦めず、命懸けで行った次に生かす死に物狂いの行動。
かつては自分もその立場に居た。だからこそ慢心してしまったのだ。
そして、その慢心を突く様にゴーストの最後の意地がここに来てウシュムガルに牙を剥いたのだ。
「ば、馬鹿な……こんな、事が。認められるか‼︎」
発射されているHELブラスターのギリギリを沿う様に移動しながら迫るデルタセイバー。
既にウシュムガルの死角同然の間合い。対してこの距離はデルタセイバーの間合い。
俺は咄嗟に60ミリバルカン砲で反撃する。ギフトを使えば先読みも容易の筈。
なのに、デルタセイバーは……避ける素振りが一切無い。
対艦ビームサーベルを突き立てながら猛スピードで真っ直ぐに迫り来る。
【キサラギ少尉イイイィィィ‼︎】
4門の60ミリバルカンにより弾幕は苛烈だ。次々と被弾するデルタセイバー。頭部の左半分が破損し吹き飛び、右肩の装甲が弾け飛ぶ。
綺麗な装甲は次々と被弾して傷付き、破損して行く。
だが、そんな事は些細な事だと言わんばかりにデルタセイバーは加速して目の前に迫る。
地球連邦統一軍の象徴的な機体。戦略級AWとして確かな位置に存在しているウシュムガル。
そんな機体が敗北するなど許されない。許される筈が無いんだ。
そして、遂にデルタセイバーは辿り着いた。
デルタセイバーの持つ対艦ビームサーベルがウシュムガルの頭部を貫いたのだった。
勝って来いと言われて負ける主人公とかいるぅ?
いねぇよなぁ‼︎(ドドン)