過去の俺と前に進まない俺
キサラギ少尉の悲鳴に近い叫び声。更に制止の声を無視して攻撃を続行する姿。
誰の目から見ても異常な状態なのは明らかだ。だが、自治軍からの命令はウシュムガルから離れろと言う始末。
『なんなんスか!それ!先輩を見捨てろって言うんスか!』
『不明です。しかし、ウシュムガルの何かがキサラギ少尉に干渉しているのでは無いかと』
『ならネロはどうなの?ネロと通信は繋がるのでしょう?』
『はい、繋がりました。しかし、コントロールは全てキサラギ少尉が持っている事。また、一度コントロールを強制的に移動させようとしたら銃口を向けられたと』
『何よそれ……。とてもじゃ無いけど、キサラギ少尉はまともな状態では無いわね』
ネロも自分のマスターの異常な状態は把握しているだろう。しかし、止めようとすれば物理的に処理されてしまう可能性が非常に高い。
今のネロがアンドロイドなのも間が悪いと言えた。
仮にネロがいつも通りの球体型だったら、ウシュムガルのメインシステムに簡単に侵入し偽りのシステムエラーを出せただろう。
だが今のネロはあくまでもアンドロイドで、手動での操縦する事を目的としている。下手にシステム内に侵入しようとすればキサラギ少尉にバレてしまう。
そうなったらネロに対して容赦無く手持ちの銃を発砲するだろう。
『だからと言って先輩とネロを見捨てられないッス!先輩!ネロ!一度後退して機体から降りるッスよー!』
『待ちなさい!キャット1!今近付くのは危険よ!』
アズサ軍曹は機体をウシュムガルに近付ける。今も街とコンフロンティア軍に向けて容赦の無い攻撃を続けている。
『先輩!もう戦わなくても大丈夫ッスよ!後は全部自治軍がやってくれるッス!だから!』
『邪魔をするのかあああああ!貴様もおおおおお!』
『ちょっ!先輩!マジッスか!』
躊躇無く腕部ビーム砲を向けられ攻撃される。ギリギリで回避したが、間違い無く直撃コースだ。
『キャット1!生きてる⁉︎』
『ニャアアアア‼︎死ぬ死ぬ死んじゃうッスー‼︎』
更にロケット、ミサイルの追撃も加わりアズサ軍曹は悲鳴を上げながら回避して行く。
デコイを散布しながら建物の影に隠れ、更に追撃してくるミサイルは二挺の35ミリガトリングガンを使い迎撃する。
『いやー、死ぬかと思ったッス』
『……良く生きてたわね。貴女』
『ちょっと被弾したッスけど平気ッス。それより、先輩マジでヤバかったんスけど』
とてもでは無いが理性的な所は殆ど残って無いだろう。
キサラギ少尉は目を血走らせ、鼻血を垂れ流しながら戦い続ける。その姿はある意味狂気的だ。
『て言うか、先輩味方機に対しても攻撃出来る様にマニュアル操作してたんスね。良くあの機体でマニュアルなんてやるッスね』
『もしくはIFFを切ったか。それも私達に攻撃する為でしょうね。ミサイルが追撃したのは恐らくソレが原因よ』
理由はどうあれ今のキサラギ少尉は危険極まり無い。
このまま放置するのが安全策だろう。だが、そうすればキサラギ少尉の精神面がどうなるか?
最悪なのは廃人か植物状態になる可能性も否定出来ない。
『ヴィラン2よりナナイ軍曹。このままだとキサラギ少尉が危ないわ』
『恐らくですがウシュムガルのブラックボックスと思われる何かが、キサラギ少尉に干渉していると思われます』
『……干渉スか。なら、あの頭が一番怪しいッスよね。何か発動してるっぽいスよ?』
ウシュムガルの頭部はメインカメラが赤く光、口から冷却剤が大量に流出していた。
それは、そこに何かありますよと言わんばかりだ。
仮に頭部の何かが原因だとしよう。恐らくウシュムガルを止める方法は頭部を破壊するしか無いだろう。
唯、一つ問題がある。誰が破壊するかだ。
そもそも鉄壁に近い堅牢な装甲。更に圧倒的な火力は敵を簡単には近寄らせない。
あのデルタセイバーですら苦戦を強いられ撃墜されたのだ。生半可な腕では無理だ。
『キャット1の言う通り確かに頭部にブラックボックスがあります。しかし、頭部を狙うと言う事は必然的にキサラギ少尉の視界に入ります』
『最悪ね。まさか味方の攻撃に気を付けるなんて』
『クロウ1よりキャット1。俺は撤退をお勧めするぜ。こんなの作戦とは言えねぇよ。現にヴィラン1は暴走しながらゴースト共に攻撃してるし』
『俺もクロウ1に賛成だ。寧ろ、下手に刺激したらヴィラン1が危険な気もする。大体、自治軍共は何やってんだよ。あの機体は向こうさんのヤツだろ?』
自治軍はもはや当てには出来ない。ウシュムガルから離れろなんて命令を出した時点で制御不能に陥ったのは明白。
仮に否定したとしても状況証拠とキサラギ少尉のバイタル。更にネロ本体による記録映像もある。
自治軍が言い訳するにはかなり厳しいと言わざるを得ないだろう。
『ですが、今はヴィラン1から距離を取るしかありません。私達が残ってた所でキサラギ少尉に負担を掛ける可能性はありますので』
ナナイ軍曹の冷静な言葉によりスマイルドッグと他の傭兵部隊は徐々にウシュムガルから離れて行く。
孤立するウシュムガル。多数被弾しているにも関わらず、損傷らしい所は殆ど無い。更に攻撃を受ければ反撃と言わんばかりに持てる火力を使い徹底的に敵を蹂躙する。
戦略級AWの火力と装甲を遺憾無く発揮している。
『ガアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎沈めええええええええ‼︎‼︎‼︎』
例え、中のパイロットが暴走しようとも。
いや、コレが正しい姿なのかも知れない。
パイロットをウシュムガルのパーツの一部として考えるなら。
しかし、まだ希望は潰えてない。
悲劇を止めるヒーローはいつも遅れて来るものなのだから。
ずっと戦って来た。沢山の人達を踏み台にして生きて来た。
でも、罪悪感はとうの昔に無くなってしまった。傭兵やって戦場に立てば、いつ自分が身代わりの肉壁にされるか分からない。
今も俺は戦っている。飽きもせず戦い続けている。
戦略級AW、ウシュムガルのパイロットとして暴走しながら。
そして、そんな自分自身の姿を背後から見ている自分が居た。
何とも不思議な感覚だ。
自分自身が雄叫びを上げながら戦っている姿を見ているのにも関わらず、達観した状態になっている。
暴走状態の俺は防御と言う概念を遠くに投げ捨ててしまったのだろう。ネロが必死に敵からの攻撃を防ぐ為にジャミングプログラムや拡散ビーム砲で敵弾を防いでいた。
(何で俺は……こんな状態になっちまったんだ?)
何となく。本当に何となくだ。歩いてみた。
歩くと言う表現は例えだ。今の俺は意識だけみたいな物。だから歩くと言うより浮遊していると言った方が正しいのかも知れない。
けど、歩いてる感覚はあるからコレで良いんだ。
歩いて行くと過去の記憶が徐々に見えて来た。
味方サラガンの裏切りにより大破したバレットネイターと俺自身が立っている姿。
マザーシップに向かって気合いを入れて吶喊して行く姿。
宇宙クラゲのナッツ君にピーナッツを上げてる後ろ姿。
(この辺は最近のヤツだよなぁ。つまり、コレって俺の記憶なのか?)
更に歩いて行けば過去の懐かしい記憶が見えて来た。
初めてジャン・ギュール大佐と出会った時。
MWのMC-61Eオーガに搭乗して必死の防衛戦を行なっていた時。
同じミッションを受けた傭兵に戦果を売っている時。
そして、レイナと戦友達が戦死した時。
「……此処から本当の意味で理解した気がするよ。この世界の正しい生き方ってヤツをさ」
共同墓地の端末に記入された外人部隊第603歩兵小隊の戦友達。
懐かしさの余り文字を手で触って行く。
「なぁ、俺……連邦の正規市民どころか名誉市民にまでなれたんだぜ?凄いだろ。出来ればお前達と一緒が良かったんだがな」
叶う事の無い願い。仮に一緒に生き残ってたとしても、正規市民にはまだまだ成れなかっただろう。
それでも、楽しくやれてただろうと思う。
互いに背中を預けれる戦友達と一緒なら。
「じゃあな。次に会う事はもう無いさ」
俺は再び歩き出す。満足に顔向けなんて出来るとは思えないからな。
それから更に懐かしい過去の記憶が沢山見える。
その内の一つは孤児院で一緒に居たミーちゃんと言う女の子に串焼きの買い食いがバレた事だ。
『あー!串焼き食べてるー!』
『ヤベッ。バレた。マジでヤベー』
この時は本気で焦ったんだよなぁ。
使える廃材を売って小遣い稼ぎとは言え所詮は端金。そんな中、数少ない娯楽として串焼きを買い食いしてる所を見られた訳だから。
『下僕の分際でズルい!イリアお姉ちゃんに言っちゃうんだから!』
『まぁ、待て。ちょっとコッチにおいで〜』
俺はミーちゃんを呼び止めて串焼きを差し出す。
『はい、あーん』
『え?あ、あーん』
まだまだ食べ盛りの子供だ。甘辛いタレの良い香りに抵抗出来る筈もない。
ミーちゃんはあっさり陥落したのだった。
『ミーちゃんも食べちゃったね。これで俺達は共犯だ。運命共同体ってヤツさ』
『う、運命?で、でも。今のは』
『串焼き美味しい?』
『うん!美味しい!』
『正直なのは良い子の証拠さ。残りも食べて良いよ』
『やったー!シュウ大好き!』
チョロインとはミーちゃんの事を言うのかも知れない。
全て計画通りに進んだ俺は非常に悪どい顔をしていた。
「子供ながらの俺って……こんなクソガキだったのか。我ながら救い様がねぇな」
純粋な子供を騙している様にしか見えないからな。
「今更だけどミーちゃんって獣人系だったんだな」
ピンク色の髪と一緒に長い耳が頭から生えていた。
とは言うものの耳は普段から垂れ下がっており髪とほぼ同化していた。
多分、犬か兎系のどちらかだろう。
「まぁ、どっちでも良いんだけどな」
それから更に過去の記憶を見る。
夜中に泣く子の側に行っては抱き締めてあやす姿。
廃棄場所に放棄されたAWのコクピットの中で大興奮する姿。
ミーちゃんと離れ離れになって泣き付かれた姿。
孤児院から逃げ出す様に走って行く自分の後ろ姿。
そして、傭兵ギルドから走って孤児院へ向かう姿。
この時の記憶は結構ショックだったよ。レイナお姉さんを含めた子供達全員が院長によって毒殺されたのだ。
俺には子供達の死体を放置する事なんて出来なかった。
暗闇の中、ライトの灯り一つを頼りに庭に穴を掘り続けている俺の幼い時の後ろ姿。
俺は近場にあるブランコに座り黙って見続けた。一言も喋らず、涙も流さず一心不乱に墓穴を掘り続ける子供の頃の俺。
前世の記憶があるとは言え普通は放置するだろうに。
「なぁ、俺。そんな事をして意味があると思うか?」
『…………』
何となく過去の自分に問い掛けてみた。
案の定反応は無い。当たり前だ。所詮、過去の記憶なのだ。返事が来る訳が無い。
それでも俺は口に出してしまった。
「答えは無しだ。誰も同情する奴も居なければ悲しむ奴も居ない。周りは明日生きる事が精一杯な連中ばかりだ。全く、救い様が無い世界だよな。お前もそう思うだろ?」
『…………』
それでも穴を掘り続ける子供の頃の俺。
俺は孤児院の周りを見渡して懐かしんでいると聞き覚えのある声を聞いた。
『意味はあるよ。少なくとも同情する人と悲しむ人は居る』
「……どこにいる?周りにそんな親切でお人好しな奴は居ないぜ?」
俺は内心馬鹿にする様に言い放つ。だが、それが正しいんだ。ゴースト相手に同情する奴は居ないし、悲しむ奴も居ない。
だが、過去の俺は今の俺に言ったんだ。
『アンタの目の前に居るじゃないか』
俺は言葉に詰まってしまった。散々馬鹿にして来た相手からそう言われてしまったのだから。
「何言ってんだよ。俺が同情?馬鹿な事を言うな」
『なら、何故俺は穴を掘り続けていると思う?それが答えさ。俺自身の事は俺自身が良く分かってる筈だ。そうだろ?』
反論は出来なかった。それどころか言葉が何一つとして出て来ない始末だ。
『辛いよな。自分だけ逃げて生き延びて来た。他の子達からしたらズルいって言うかも知れない』
「…………」
『けど、俺が残ってた所で死体が一つ増えただけに終わるさ。そして、子供達の事は誰の記憶に残る事無く消えてしまう』
ゴーストに辛く苦しい現実。野垂れ死んだ所で日常の一つとして片付けられてしまう。
俺はまだ運が良い方だ。最初からスタートダッシュを決める事が出来たんだから。
『それでも俺はちゃんと覚えていた。少なくとも記憶に残る事無く死んで行くゴーストに比べれば良いさ。あぁ、それから院長を恨むなよ?あの人なりに色々悩んだだろうし』
「……言われなくても。院長がやった事は間違って無い。どの道、生き残ってた所で下衆野郎のオモチャになるか。物理的に食い物にされるかだ」
ゴーストの強制退去が決まった時点で力無い者達の運命は決まったんだ。
だから院長は高価なショートケーキを使ってまで子供達を毒殺したんだ。
きっと、院長なりの優しさの表れだろう。本当の意味で悪人に成れなかった哀れな人だけどな。
『そうか。分かってるなら良いさ』
「余計なお世話だよ」
それから少しだけ過去の俺と色々話した。同じ記憶を共有してるから話題には困らない。
だが過去の俺は要らない事を言い出して来た。
『ところでだ。お前は誰を選ぶんだ?』
「は?何の事だよ」
『惚けんなっての。クリスティーナ、ナナイ、アズサ。この三人の事に決まってるだろ?あ、後は傷心中の所を突けばチュリーも行けるんじゃないか?何だかんだで気に入られてるっぽいしな』
いつの間にか過去の俺は穴掘りを終えて下世話な話をして来た。
こいつ、本当に俺なのか?
「別にどうでも良いだろ。俺はまだレイナを思い続けてる訳だし」
『おいおいおい。それ本気で言ってるのか?散々彼女達の気持ちを弄んでるのに放置プレイとは。いつかメール送られて、内容に気を取られてる隙に背後から滅多刺しにされるぞ』
やれやれと言った感じでオーバーリアクションする過去の俺。大体、その死に方はどこかの屑ハーレム野郎じゃねえか。
だが、この煽りを含めた言い方は間違い無く俺自身だな。
「何だよ。文句でもあるのかよ。本気で愛した女を思い続ける事が悪いって言うのか?」
『悪いとは言わねぇよ。唯、お前がずっとその場所から動かないのは不誠実だと言っている。それに、アイツらの気持ちを知らない訳じゃ無いだろ?』
反論は出来なかった。過去の俺が言っている事は間違ってない。
大体、俺自身がアイツらの想いと向き合って無い。いや、逃げているのだ。
『怖いんだろ?また失うのが。その気持ちは良く分かるよ。俺だって怖いさ。大好きな人が目の前で死んでしまう恐怖。守れない己の無力』
止めろ。これ以上言うな。
あの時、俺はレイナが……戦友達が……死んで行く姿を見て行く事しか出来なかったんだ。
無力な自分が許せない。だから力を持つ自分が必要だったんだ。
エースパイロットとしての強い自分自身が。
『だが。それは生きてる限りずっと付き纏うリスクだ。特に俺達みたいな連中はな』
「それが分かっているなら何故?」
『そんなの決まってるだろ。レイナの為だ』
「レイナの……為?」
過去の俺は真剣な表情になり俺に問い掛ける。
『レイナの死が原因で、ずっと立ち止まっている俺を見て喜ぶ女だと思うか?俺はそうは思わない』
「俺だってそう思っているさ。けど、俺は……」
『レイナを理由にして立ち止まって良い理由にはならない。今、お前がその場で座っている様にな』
ブランコに座り続ける今の自分と墓穴を掘り終えた過去の自分。
何方が前を向いているか何て明白だ。
『過去は過去だ。なっちまった物は仕方ない。後戻りが出来る程、この世界は都合良くは無い。それは生きてる皆が同じなんだ』
正規市民もゴーストも立場は違えど中身は同じだ。
明日に向かって誰もが前を向いて歩いている。中には俺と同じ様に崩れ落ちた奴も居る。
それでも世界が止まる事は無いんだ。
『さぁ。此処から先はお前自身が決めろ。後ろを向き続け過去の懺悔し続けるか。それと全部背負った上で這い上がり前を歩くか』
「……なぁ、一つ聞いて良いか?」
『良いぜ。お前が満足出来るかどうかは知らんがな』
「俺は……前を向いて歩けるだろうか?たったの三秒しか視る事が出来ない俺に」
三秒先を視る事が出来るギフト。
戦場以外に役に立つ事なんて無いギフト。
俺の問い掛けに過去の俺は鼻で笑って答える。
『知ってるか?大半の連中は一秒先も視れないんだぜ?』
そうだよな。他の連中は今を生きている。それこそ未来に向けて歩き続けている。
社長、ジャン、ナナイ、アズサ、チュリー。多くの同僚や知り合い達。
そして、誰よりも馬鹿みたいに真っ直ぐに前を向いて輝き続けているクリスティーナ。
なら、俺が立ち止まって良い理由にはならんよな。
それにだ。
「情けない姿を他人に晒すのは性に合わん」
俺は立ち上がり子供達の死体がある場所に向かった。
あの場所でずっと座ってても余計に惨めで情けなくなるだけだ。
だから、過去の俺が穴を掘ってる間に死体を布で包む事にしたのだ。
一人ずつ優しく、丁寧に。
例え記憶の中だとしても。乱雑になんて扱いたくは無い。
そして全ての遺体を布で包み込んだら穴の中へ入れて行く。
過去の俺と今の俺。不思議な組み合わせの共同作業。
『全く。過去の俺が涙を流さなかったのに。今の俺が涙を流すとはね。涙腺緩くなったか?』
「うるせぇよ。俺だって感傷に浸る時はあるさ」
『そっか。まだ俺にもそう言った感情がある。戦場で戦い続けると色々擦り減るからさ。少し心配してたよ』
何だか過去の俺に色々心配された。俺もお前も同じだと言うのに。
本来の俺はお人好しなのかも知れんな。
『特にほら。今、相当ヤバいんじゃない?』
「それは……まぁ、そうかもな」
そう言えば今は戦闘の真っ最中だったな。今の今まで忘れていたよ。
『でも、野郎を叩き起こすには丁度良いのが来たかも』
「あ?何が来るんだよ」
俺の問い掛けに、過去の俺はニヒルな笑みを浮かべながら言う。
『3秒後に分かるさ。さぁ、行って来い。そして、勝って来い。エースパイロットさん』
過去の俺はニヒルな笑みを浮かべながら敬礼をする。
その姿を最後に俺の視界は真っ白になって行く。
そして……。
【キサラギ少尉!私と勝負しなさい!】
俺は再びこの嫌いな世界に再び意識を覚醒させた。
モニターを見ればクリスティーナ少佐からの通信が来ていた。
左腕を失くし、傷だらけのデルタセイバー。
だが、その姿に俺は一瞬で目を奪われた。
勝ちたい。
あの強い機体に。
この宇宙で一番強いAWに勝ちたい!
勝ってこそ俺がエースパイロットだと言う証になるのだから!
俺はデルタセイバーとの通信を繋げて言い放つ。
「……良いぜ。だが、勝つのは俺だ!」
口の中に溜まっていた血を吐き捨てながら操縦レバーを握り直す。
既に身体も頭も無性に痛い。だが、そんな事で引き退って良い訳が無い。
【行くわよ‼︎ウシュムガル‼︎】
「来い‼︎デルタセイバー‼︎」
俺はデルタセイバーを捕捉しながらトリガーを引くのだった。