オペレーション・ゴーストダウン4
俺ならやれる。どれだけデルタセイバーが恵まれた機体であろうとも。
今の俺にはウシュムガルと言う力の象徴を動かしているのだ。
地球連邦統一軍の技術の粋を集めて製造された戦略級AW。
「そんじょそこらのAWとは訳が違うんだよ!」
超大型シールドをデルタセイバーに向けて対AWミサイルを大量に発射する。
「小バエの様に飛び回りやがって。所詮お前はその程度なんだよぉ‼︎」
「再度捕捉完了。ホーミングレーザー発射」
更にホーミングレーザーもデルタセイバーに向けて追従する。
だが、クリスティーナ少佐は伊達にデルタセイバーを与えられた訳では無い。自身のギフトとの相性は勿論の事、その操縦センスを見出された結果なのだ。
【そう何度も同じ手は通用しないわよ!】
ビームガトリングガンとショットカノンでミサイルを迎撃しながら弾幕の中を突っ切って行く。
狙うはウシュムガルただ1機のみ。
「決めに来たか!上等、此処で終わらせてやる!」
拡散ビーム砲を撃ちながら飛行型ビーム砲を射出させる。
(生半可な攻撃は効かない事は百も承知だぜ?デルタセイバーさんよぉ)
俺は予定通り拡散ビーム砲を自前のエネルギーシールドで防ぎながら突っ込んでくるデルタセイバーを見ながら舌舐めずりをする。
「チャンスは一度切り。へへへ、腕が鳴るってなもんよ」
左手の飛行型ビーム砲で射撃しながら右手の方ではビームサーベルを展開させる。
「コイツでも近接戦は充分出来るんだよぉ!墜ちろおおおぉぉ‼︎デルタセイバー‼︎」
仕留められる。そう思える程上手くやれてると自画自賛するレベルだ。
だが、デルタセイバーは対艦ビームサーベルを展開。そのまま右手の飛行型ビーム砲を正面から切断する。
【貰ったわ!覚悟しなさい!キサラギ少尉!】
そのまま対艦ビームサーベルを突き出しながら猛スピードで吶喊するデルタセイバー。
対してこちらは既に間合いに入られてしまっている。
万事休す。
誰もがそう思えるくらいの構図。
ウシュムガルがやられる未来がギフトを使わなくても見えるくらいだ。
「う、うわああああああああ‼︎………………なんてなぁ」
【ッ!クハッ⁉︎】
突如デルタセイバーの左側から何かが突っ込んで行く。そして、そのままデルタセイバーを巻き込みながら建物に突っ込んで行く。
「クククク……クハハハハ。残念だったなぁ。デルタセイバーさんよぉ」
そして建物から出て来たのはウシュムガルの予備の右手の飛行型ビーム砲。
「こんだけデカい図体してるんだぜぇ?予備の武装の一つや二つくらい積んでるのは当たり前だろぉ?」
確実にトドメを刺す為に建物に向けて大量のビームを撃ち込む。
建物は直ぐに崩壊してデルタセイバー諸共瓦礫と化して行く。
「さて……こうして見ると、随分と呆気ない勝利だったな。けど、これで理解しただろ。圧倒的力の前には何者も歯向かう事は不可能だと」
まだ戦闘は続いているのにも関わらず、俺は勝利の余韻に浸っていた。
だが、これでゴースト共も理解した筈だ。最初から勝ち目なんて無い事をな。
そんな時だった。まだ反抗する連中が牙を剥いたのだ。
「警告。5時方向より敵戦闘機急速接近」
「……なんだと?そっちは自治軍の持ち場だろうが」
そして俺は見た瞬間に目を見開いてしまう。対空砲の弾幕を潜り抜けて来た3機の軽戦闘機がウシュムガルに向かっている姿を。
無理、無謀な事を承知の上で来る連中。
だが、それはどんなエースパイロットが操るAWより厄介な存在なのだ。
たったの5機になってしまったムラサメ中隊。普通なら敵陣の上を飛行するなんて自殺行為だ。
それでも彼等の表情は覚悟を決めた戦士だった。
【ムラサメ1より各機へ。まだデルタセイバーは持ち堪えている。少し遠回りしてから超低空で侵入するぞ】
【超低空ですか?腕が鳴りますよ】
【やってやるぞ。俺達の最後の意地を見せてやる!】
編隊を組みながら戦域を僅かに離れる。そして隊長のタイミングに合わせて突入を開始する。
【各機!目標はウシュムガル!他に構うな!】
【【【【了解!】】】】
超低空で一気に敵陣上空を飛行する。少しでもレーダーに探知されるのを防ぐ為だ。
『ん?あ、後方から戦闘機が接近中だ!迎撃用意!』
『他の連中にやらせろ!こっちはデルタセイバーを狙ってるんだ!』
散発的な迎撃。それはムラサメ中隊のメンバーからしたら、気まぐれな女神が味方してくれてるとしか思え無いだろう。
(いや、死神かも知れんな)
隊長は心の中で愚痴りながら目の前の敵陣に集中する。
しかし、敵も馬鹿では無い。地上だけでなく上空にも注意は必要なのだ。
【上空よりマッキヘッドの新手です!数は6!】
【ミサイル来るぞ!回避しつつチャフを散布!】
咄嗟の判断で回避しミサイルを避ける。しかし、このままでは墜とされる。
【隊長!行って下さい!後は任せます!ムラサメ5、エンゲージ!】
【ムラサメ5援護する!ムラサメ6、エンゲージ!】
ムラサメ5、6は敵マッキヘッド部隊に向けて格闘戦を仕掛ける。しかし、それは敵陣の上空へ飛び出すと言う事だ。
【……すまん】
そして遂にウシュムガルを捕捉する。しかし、此処に来て遂に死神も本性を晒したのだ。
デルタセイバーが地に墜ちる。そして周囲の建物ごと止めを刺すと言わんばかりに、強力なビームを撃ち続けるウシュムガルの姿。
【ッ!間に合わなかったか!】
【隊長!自分が前に出ます!】
【ムラサメ12!】
そして本格的に狙われ始めるムラサメ中隊。
たった3機相手に苛烈な対空弾幕が始まる。
更に隊長機に対空ミサイルが多数迫る。
だが、此処で希望を無くす訳には行かない。
【隊長おおおおお‼︎‼︎】
ムラサメ12がわざと機体を起こし対空ミサイルの射線上に入る。
【ムラサメ12!】
【隊長!ウシュムガルまで後少しです!】
既に対艦ミサイルの射程には入っている。だが、このまま発射した所で確実に迎撃されてしまう。
それはムラサメ2も分かっていた事。
【デカブツめ!私はこっちよ!】
手持ちのミサイルを全弾発射するムラサメ2。
だが、次の瞬間。前方より強力なビームがムラサメ2の機体を貫く。
【隊長、後は任せまッ】
更にウシュムガルの後部股下より凄まじい弾幕が形成される。正に鉄壁を体現している。
しかし、隊長は僅かな隙を見つける。
それはムラサメ2が放ったミサイルを全て迎撃するウシュムガルの後部股下の対空砲。
恐らく自動迎撃で行われているのだろう。
【なら、隙は作れる!勝負だ!ウシュムガル!】
対艦ミサイル以外のミサイルを順次発射して行く。
予想通り自動迎撃する様でミサイルを追尾して行くでは無いか。
この事に一番焦りを感じたのは他でも無いシュウ・キサラギ少尉だ。
背後から来る軽戦闘機は何かして来る。だから迎撃するのは当たり前だ。
だが、迎撃しようにもビーム砲を使う事がほぼ無理な状況になっていたのだ。
『クソッ!味方が射線に入って!』
下手に撃てば自治軍ごと破壊してしまう。だが、躊躇していれば敵は更に接近して来る。
この無謀とも言える吶喊行動には何かがある。だから必ず迎撃する必要がある。
『自動迎撃によりミサイルを撃破』
『ミサイルなんてどうだって良いんだよ!コントロールを寄越せ!』
急いで手動で狙いを付けて弾幕を張る。そして、ギフトを使い確実に墜とす。
だが、ギフトを使うのが遅過ぎた。
ほんの僅かな判断ミスにより視えてしまった未来。それでもと思い狙いを絞りトリガーを引く。
30ミリの弾幕がフォッケナインを襲う。
次々と着弾して穴だらけにして行く。
だが、それでも間に合わなかった。
血塗れになりながらも操縦レバーを離さない。
計器類の横に貼ってある一枚の家族写真。
(お前達だけでも守ってみせる。必ず……な)
そして、ウシュムガルの右足の関節裏に機体ごと体当たりを敢行。
ムラサメ中隊はその命と引き換えに目標を達成したのだった。
衝撃がウシュムガルに走る。無論、被弾したくらいでウシュムガルがやられる訳が無い。
だが、被弾場所によっては被害が洒落にならないのも事実だ。
「おいおい、マジかよ。たかが1機の戦闘機に倒されるのか!」
「右脚部損傷。姿勢制御に異常発生。倒れます。衝撃に備えて下さい」
「クソッタレがあああ!のわああああああ⁉︎⁉︎」
ウシュムガルが右に傾きながら仰向けに倒れる。それと同時に自治軍と傭兵部隊も大慌てで回避する。
『ウシュムガルが倒れるぞ!』
『回避しろ!回避イイイィィ!』
『逃げろおおお!潰されちまうぞ!』
『ニャアアアア!自分ペチャンコになりたく無いッス!』
ウシュムガルが倒れる。同時に味方を何機か巻き込み爆発が起こる。更に地面を揺るがす衝撃が戦場を響かせる。
「…………」
「姿勢制御に異常発生。右脚部の膝裏に被弾。損傷は激しく移動は少々困難になります。またホーミングレーザーの一部が損傷しました」
俺はエラー表情により赤くなったコクピット内で沈黙していた。
一体、何故こうなったのだ?デルタセイバーを叩き潰した所までは良かったのに。
通信からは多数の問い合わせが来ているが全部無視している。
「……ネロ。起き上がるぞ。姿勢制御を任せる」
「しかし、背後には味方が多数居ます」
「役立たずの味方なんざ要らねぇよ。こうなったら俺一人でゴースト共を踏み潰してやる」
「了解しました。姿勢制御を維持します」
そして操縦レバーを前に出す。
ウシュムガルの背中の大型スラスターが一気に吹かされる。
例え、下敷きになっている味方が生きていようがお構い無しだ。
「ウシュムガルの上半身上がります」
「一気に起き上がるぞ」
「右脚部の損傷により立ち上がるのは困難です」
「反重力システムを左30、右70で割り振れ」
「了解」
更に股下と脚部のスラスターを全開で吹かす。
そして再びウシュムガルは立ち上がる。
敵を根絶やしにする為に。
『バーフラーよりヴィラン1へ。そちらの損傷具合を報告せよ。繰り返す』
「……報告?バイタルデータから把握しろ。それと、足手纏いの自治軍共を退がらせろ」
『なんだと?貴様、我々を侮辱する気か』
「手前の対空防御陣を抜けられやがって。たかが3機の軽戦闘機如きに、このウシュムガルが倒されたんたぞ」
そして、バーフラーのオペレーターを睨みながら言い放つ。
「俺の邪魔をするなら。貴様らから先に消し炭にしても良いんだぞ」
そして腕部ビーム砲を自治軍に向けて発砲する。
無論、流石に率先して味方殺しをするつもりは無い。だから脅し目的で直ぐ側を撃ち抜く。
ウシュムガルのビーム砲は強力だ。例え直撃しなくとも脅しとしては充分だろう。
「分かったら……さっさと退け」
そして通信を切る。
「ネロ、ウシュムガルを前進させるぞ。ホーミングレーザーの目標は地上だ」
「了解しました。目標、捕捉開始」
俺は腕部ビーム砲、拡散ビーム砲、超大型シールドを全て街に籠城しているコンフロンティア軍へ向ける。
「ハハハハハハ……全部、消し飛んじゃえよ」
俺の嫌いな過去の記憶と共に。
ウシュムガルからの怒涛の攻撃。建物は崩壊し、瓦礫が戦車やMWを巻き込んで行く。
AWサラガンはシールドでウシュムガルのビームを防ごうとしたが、貫通して爆散。
空中で回避機動していたスピアセイバーだが脚部に被弾して墜落して行く。
大型ビームライフルで反撃しつつ回避するガイヤセイバー。
コンフロンティア軍、エルフェンフィールド軍関係無く次々と撃破されて行く。
戦略級AWウシュムガルが本領を発揮した瞬間だった。
デルタセイバー!討ち取ったりー!←