オペレーション・ゴーストダウン3
宇宙での戦いは停滞しているが地上での戦いは更に激しさを増していた。
ウシュムガルが前面に出た事により自治軍、傭兵部隊も追従する形を取る。その結果、一部部隊は市街地戦に突入し激しい攻防戦を繰り広げていた。
『敵戦車を確認!対戦車ミサイル持って来い!』
『2時方向!60度上の建物に敵歩兵!頭を出させるな!弾幕!』
『航空支援を要請!ポイントC-10-65!繰り返す!ポイントC-10-65!』
『MWとAWを前に出させろ!遠慮はするな!正面から制圧してやれ!』
既に自治軍の兵士達は入口の橋頭堡確保を行なっていた。
無論、コンフロンティア軍もやられっ放しでは無い。
【敵MW来ます!数は5!】
【屋上から対戦車ミサイルを撃ち込んでやれ!MW部隊はまだか!】
【シュナイダーの犬共が!死ね!死ねええええ!】
【地雷起動確認!やったぞ!戦車を吹き飛ばヒギィッ⁉︎】
激しい銃撃戦の応酬が徐々に各所に広がり始めていた。
そしてウシュムガルとデルタセイバーの戦いも更に激しさを増していた。
先程からデルタセイバーは縦横無尽に空を飛び続けている。幾らギフト増幅があるとは言え、やはりチートみたいな機体だなと再認識してしまう。
「まぁ、こっちも攻守ならチートみたいな性能してるけどなぁ!行けよ!」
両腕の飛行型ビーム砲を再び射出してデルタセイバーに攻撃を仕掛ける。
少々扱い難い兵装だが、シミュレーターではまぁまぁな結果は出せた。後はネロにフォローして貰う形を取っているので良い感じに追い詰めれている。
だが、邪魔者は何処にでも現れる。
【クリスばかりに負担を掛けるつもりは無い。皆!行くぞ!】
ガイヤセイバーを筆頭にスピアセイバー部隊の猛攻撃が始まる。迎撃しようとする自治軍のAWや戦闘機は呆気ないくらいにやられて行く。
ガイヤセイバーの持つ大型のビームライフルにより爆散するサラガン。
スピアセイバーに近接戦を挑んだがアッサリやられるマドック。
空からマッキヘッド部隊が強襲を掛けるがビームマシンガンにより瞬く間に撃破されて行く。
「チィッ!使えない連中だな!ヴィラン1よりキャット1!援護出来そうか?」
『了解ッス!取り敢えず弾幕張ってきゃあっ⁉︎な、なんスか?今の攻撃は?』
突如として傭兵部隊の方に向けて何者かが狙撃を始める。無論、直ぐに逆探知されるのだが敵は直ぐに狙撃ポイントを変えて行く。
その熟練とした動きは生半可な狙撃兵では無い事が分かる。
『キャット1よりヴィラン2へ!空から狙撃型のAWは見えないッスか?』
『今確認したわ。けど動きが速い。軽量機で地上特化型の様ね。牽制はするから今の内にヴィラン1の援護をして上げて頂戴!』
突如として現れた敵の狙撃型AW。更に複数居るらしく、足止めを食らう羽目になっていた。
「敵も馬鹿じゃないって訳か。ネロ、ホーミングレーザーをエルフェンフィールド軍に向けろ。それで連中の動きを抑えろ」
「了解しました。目標、敵AW。マルチロックを開始」
市街地戦に侵入した途端に一気に侵攻速度が遅くなる。ウシュムガルにとって市街地戦との相性は良くない。
だから、どうしても一歩後ろで待機して砲台と化してしまうのだ。
(これが平地とかなら派手にやれるんだが。流石に街中に向けて攻撃する訳には行かんからな)
街諸共にコンフロンティア軍を巻き込む事は容易だ。だが、避難出来てないゴーストと市街地戦に突入した自治軍を巻き込む訳には行かない。
「ハンッ!丁度いいハンデだ。来いや!デルタセイバー!ぶっ飛ばしてやる!」
飛行型ビーム砲でデルタセイバーに対して攻撃を再開する。
それと同時にビームガトリングガンで反撃しながら対艦ビームサーベルを構えるデルタセイバー。
両者共に一歩も譲らない戦いが始まる。
だが、その戦いに水を差す連中が居る事に当事者達は気付いていない。
バーフラーの艦橋内では士官の何人かは戦況を見守りながらオペレーターに指示を出す。与えられた指示を各部隊に伝えるオペレーター達が忙しそうにしていた。
その中で一部の士官だけは別のモニターを見ていた。
「ウシュムガルの前進が止まったか」
「仕方あるまい。市街地戦はウシュムガルとは相性は悪い。それよりデルタセイバーを破壊して貰わんと困る」
「デルタセイバーを連邦に渡せば資金提供も容易になる」
既に惑星ニュージェネスの資金具合は宜しく無い。
ニュージェネスを含めた周りの資源は殆ど掘り尽くした。それでもニュージェネスには多くの人々が残っている。
市民に対して柔和政策を多く行い、企業に対しても優遇措置を実施している。
しかし、既に限界なのだ。
度重なる柔和政策は財政を圧迫。企業に対する優遇措置を行うも、資源も無ければ立地も良いとは言えない為集まりは宜しくは無い。
それでも必死に惑星ニュージェネスを生かし続けているのだ。
この惑星に住む人々を生かす義務があるのだから。
「デルタセイバーか。中々良く動く。あれだけ空を高速飛行し続けるとは」
「仮にアレが量産されていたら、我々の中の戦略に変更を余儀無くされそうだな」
「だが、たかが1機のAWに戦場を荒らされては敵わん。擬似ギフト装置を起動させろ」
「了解しました。擬似ギフト装置を起動開始」
それと同時にウシュムガルのメインカメラが一瞬光る。
ウシュムガルの顔面の口部分が開き冷却装置が起動する。
「擬似ギフト装置の稼働を確認。パイロットへの干渉を開始」
「パイロットへの干渉を確認。徐々に高揚し始めてます」
「干渉は規定値内。システムは正常です」
「良し。デルタセイバーに対する集中攻撃を命じろ。それで全てが終わる」
ウシュムガルは本領を発揮する。
戦略級AWとして敵対勢力を威圧し力の抑制をさせる存在などでは無く。
その多大な火力を使用し、敵対勢力を殲滅する事を目的としている事だ。
敵が鬱陶しいと感じた。いや、邪魔な存在でしかないとしか感じなくなり始めている。
きっと圧倒的な力を使ってるからだろう。強大な力は人の本性を曝け出す。
「だが、一番邪魔なのはデルタセイバー。貴様の存在が俺を苛立たせる!」
「ホーミングレーザー発射します」
超大型シールド内のロケット弾と対AWミサイルをデルタセイバーに向けて発射。それと同時にホーミングレーザーもデルタセイバーを追従する。
しかしデルタセイバーは華麗に回避するだけで無くミサイル群をビームガトリングガンで迎撃してしまう。
「対応され始めてるか。だがなぁ、ウシュムガルのパイロットは俺なんだよぉ⁉︎」
拡散ビーム砲でデルタセイバーを牽制しながら飛行型ビーム砲を射出する。
「ヴィラン1より各機!良い加減に終わらせようぜ。デルタセイバーに向けて集中攻撃だ!他の雑魚は後回しにしろ!」
返答は聞かない。聞く必要は無い。デルタセイバーさえ破壊出来れば勝てるのだから。
「テメェさえ居なければ俺の存在は正しい事の証明になる!」
目に映るのはモニター越しに縦横無尽に空を駆けるデルタセイバー。
だが、不思議と俺には他の景色が見えていた。
「ここまで来たんだ‼︎全部踏み台にしてここまで‼︎」
失った戦友達。
任務で一緒に行動した傭兵達。
見捨てた人々。
救えなかった子供達とお姉さん。
そして……
「間違って無い。俺は……何一つとして間違って無い!この世界では正しい生き方なんだ!」
飛行型ビーム砲でデルタセイバーを追い詰める。
だが、敵はデルタセイバーだけでは無いのだった。
強大な力に抵抗する者達。
この時、そんな者達が目と鼻の先に居るとは微塵も思っていなかったのだ。
コンフロンティア軍は既に劣勢に追い込まれている。いや、最初から分かっていた事だ。
勝ち目の無い戦いに身を投じているのだ。
【隊長!デルタセイバーが!】
【分かっている!各機、今は目の前の敵に集中しろ!】
FG-101Yフォッケナインで編成されたムラサメ飛行中隊。ニュージェネス自治軍のF-86マッキヘッド部隊と空中で制空権争いをしていた。
しかし、ウシュムガルの存在は制空権を確保していようが関係は無いだろう。
攻守共に規格外の存在だ。だからこそ隊長は思案する。
(デルタセイバーさえ生き残ってくれるなら。まだ勝機はある)
ムラサメ中隊も万全の状態とは言えない。自治軍や傭兵部隊との戦闘で既に半壊している。
だが、隊長は今しかチャンスは無いと判断した。
【ムラサメ1より各機へ。生き残りは何人だ?それから残弾もだ】
【こちらムラサメ2。機体に異常は無し。残弾が少々心許ないですね】
【ムラサメ5。異常無し。さっき補給は済ませた】
【ムラサメ6。多少被弾して左に寄りますが問題無し。残弾もまだあります】
【こちらムラサメ11。問題有りません。まだ戦えます】
【ムラサメ12。こちらも異常はありません。しかし、ムラサメ11のエンジン部は被弾しており煙が出てます】
【へ、平気だって。まだまだコイツは戦えるさ】
そして隊長は覚悟を決める。仲間を巻き込む形になるが。
それでも誰かがやるしか無いのだ。
【ムラサメ11は一度後退しろ。残りのヤツは……悪いが俺と一緒に貧乏クジを引いてくれ】
【待って下さい!俺はまだやれます!】
【聞け!俺は今からウシュムガルに対する強行攻撃をする。万全な状態で無ければ無理だ】
【な、ウシュムガルに強行攻撃?正気ですか?隊長】
【正気さ。今のウシュムガルと他の自治軍共を見てみろ】
彼らの目にはデルタセイバーに対し猛攻撃を行なっているウシュムガルと自治軍の部隊が見えた。
地上にいるAWやMWですら装備している武装を使いデルタセイバーを攻撃している始末だ。
【今ならウシュムガルに対して防御陣が手薄だ。チャンスは今しか無い】
確かにその通りだ。対空砲や対空ミサイルは今もデルタセイバーに夢中だ。
なら、その隙にウシュムガルに向けて接近戦は不可能では無い。
【しかし俺達の武装でウシュムガルは倒せますかね?無理だと思います】
【確かに。普通なら無理だろう。だが、俺の機体の腹に積んであるのを見てみろ】
FG-101Yフォッケナインには不釣り合いな武装。
軽戦闘機にはデメリットしか無い大きなミサイル。
【対艦ミサイルだ。コイツを奴の足の関節部に撃ち込めばバランスを崩すだろう。
【いつの間にそんな物を】
【補給してる最中に気付いたのさ。デルタセイバーに対し過剰な攻撃をしているとな】
【確かに対空ミサイルとか大分減ってますよね。お陰でマッキヘッドに集中出来ましたけど】
ウシュムガルに対して確実なダメージを与えられる。
例え破壊は出来なくても必ず次には繋がる筈だ。
【だからムラサメ11は後退しろ。良いな】
【何言ってるんですか!隊長!数は多い方が良いに決まってますよ!一度機体を乗り換えれば】
【ムラサメ11、俺の部屋の引き出しに手紙と端末が置いてある。後で妻に渡しといてくれ】
【た、隊長……そんなの、自分で渡せば】
しかし隊長の表情は真剣だ。だからこそムラサメ11は言葉を失ってしまう。
そして、他の仲間達も覚悟を決める。いや、決めてしまう。
どう足掻いても生きて帰還する事は叶わない。
なら、せめて自分達の最後の言葉を託す事のだ。
【ムラサメ2よりムラサメ11。私の分も頼むよ。隊長と似た様な物だから】
【お前しか頼める奴が居ない。俺の分も頼んだぞ】
【なら俺は飲み屋のツケを代わりに払っといてくれ。ちゃんと後で返すからよ】
【頼みましたよ。まぁ、私は生きて帰還しますけどね】
そして5機のフォッケナインは編隊を組み直しウシュムガルに向けて突撃を敢行する。
相手は元ゴーストで有りながら全てを手に入れたエースパイロット。
手強いだけでは済まない。
それでも……俺達にも意地はある。
【全機!生きて帰還するぞ!無駄死にだけは許さん!突撃!】
【【【【了解!】】】】
愛する人、愛する家族。そして周りの人達を明日へと生かす為に。
ウシュムガルへと立ち向かうのだった。