オペレーション・ゴーストダウン2
空を縦横無尽に駆けるデルタセイバー。しかし、ホーミングレーザーや対空ミサイルが絶えず襲い掛かって来ている状況。
そんな状況にクリスティーナ少佐は焦りを感じていた。
(デルタセイバーなら勝てる筈。なのに、今の私は追い詰められている)
回避機動を取りながらビームライフルで反撃する。しかし、ウシュムガルにはビームシールドが備わっており無効化されてしまう。
【なら少し時間は掛かるけど!】
自身の持つ【ギフト増幅】を使いビームライフルと機体のコアに集中させる。
エネルギー充填率が一気に上がって行く。普通のビームライフルでは発射する事は無い高出力ビーム。
【この攻撃なら!受けなさい!】
ウシュムガルに向けて高出力ビームが発射される。
しかし、それと同時にウシュムガルの4つのメインカメラが一瞬光った。
ウシュムガルは左肩から腕を覆う超大型シールドをデルタセイバーに向ける。そして超大型シールドの内側から多数のミサイルが発射される。
ミサイルは発射されて直ぐに爆散して行く。そして対ビーム撹乱粒子が散布される。
【ッ……成る程。キサラギ少尉なら知ってるものね】
対ビーム撹乱粒子が散布されたのは高出力ビームの射線上。確実にビームの威力を減衰させエネルギーシールドで防ぐ。
《ハッハッハッハッ!残念だったなぁ!デルタセイバーさんよぉ!手前の武装も攻撃手段もビーム兵器主体なのは全部お見通しなんだよぉ!》
この戦場に居る者達に聞こえる様に外部スピーカーを使って挑発するキサラギ少尉。
《大体、デルタセイバーを本領発揮させるには優秀なエースパイロットが護衛に居ないと無理だもんなぁ?本来なら超級戦艦くらい貫ける威力出せるからな!》
キサラギ少尉の言ってる事は的確だった。旧ダムラカとの最終戦争の時がそうだった。
キサラギ少尉が殆どの敵を一身に引き受けた結果、エネルギーを危険領域まで充填した後に至近距離で超級戦艦を貫いたのだ。
エースパイロット。戦局を変える事は出来なくとも、戦局を変化させる事は出来る。
《頼りにならない味方には感謝するぜ。お陰でこっちは勝ち戦になってるんだからなぁ!》
再びホーミングレーザーと拡散ビーム砲がデルタセイバーを襲う。そして距離を取りながらウシュムガル攻略に向けて思考する。
(わざわざスピーカーを使って煽って来るなんて。キサラギ少尉らしいわね)
だがウシュムガルの攻撃はまだ続いていたのだ。
それこそコンフロンティア軍の戦意を勢い良く削るくらいに。
「マスター、HELブラスターのエネルギー充填95%になります」
「丁度良い。現実って奴を連中に教えてやらんとな」
デルタセイバーに向けてホーミングレーザーを発射しながら正面の敵にHELブラスターを向ける。
そして一番高い建物に目標を定めて照準を合わせる。
「エネルギー充填完了しました。いつでも撃てます」
「馬鹿みたいな正義感を振りかざし悦に浸ってる連中には良い目覚ましになるだろうよ!」
そして目標をロックオンしたのと同時にトリガーを引く。
ウシュムガルの胸部に搭載されているHELブラスターから高出力のビームが発射される。射線上にいた敵の攻撃ヘリやMWイーグルを巻き込みながら建物を消し飛ばす。
放たれたビームは街を超えた先の丘に着弾。大爆発を起こし、地面と空気を激しく揺さぶる。
その圧倒的な破壊力は戦場を一時的に止めてしまう程だ。
《エルフェンフィールド軍に告ぐ。お互い知らない仲でも無いんだ。慈悲をくれてやるよ》
俺は再び外部スピーカーをオンにしてエルフェンフィールド軍に一方的に伝える。
《貴様らが何をもってして屑共の味方をしているのかは知らん。だがな、テメェらが利用されてるって事くらいは気付いてるだろ?》
俺はエルフェンフィールド軍だけを撤退させても良いと思っている。
現状、敵対している訳だが共闘もしている仲だ。それに勲章ブルーアイ・ドラゴンなんて珍しい物も貰ってる。
手強い強敵でもあり、頼りになる味方。そんな強い奴らが下らん連中の掌の上で踊る姿は見てられん。
《自分達を義賊か正義の使者と勘違いした連中のお守りをする。そして、その事に全く気付いていないゴースト共。そんな下らん連中の為に俺の前に現れるのが哀れでならない》
だからこそだ。これが俺が出来る慈悲でもあり最終通告だ。
《悪い事は言わない。自分の仲間と装備を集めてサッサと逃げな。時間が経てば経つほど不利になるのは理解している筈だ》
【やれやれ、困った人だよ。君は】
《あん?誰だテメェは》
俺がエルフェンフィールド軍に語り掛けてるのに間に入ってくる奴が来た。その姿には見覚えがあった。
ゴースト共を焚き付けてエルフェンフィールド軍すら巻き込ませた張本人。
《ヤン・ハオティエンか》
どうやら、俺の行動が相当気に入らないらしい。柔和な笑みを浮かべてはいるが目は笑ってない。
【初めまして。キサラギ少尉。君の武勇は聞いているよ。ゴーストから連邦の名誉市民にまで成り上がった事も含めてね】
《ハッ!だったら何だよ。俺がゴースト出身だからお前達の味方をするとでも?冗談はその万人受けする笑顔だけにしとけよ》
俺は敢えて挑発する様に言う。しかし、それでも笑みを崩さない辺り政治屋は伊達じゃないだろう。
【君はゴーストと言う存在が今の世界にとってとても重要不可欠な存在なのは知ってるかね?いや、君なら知っている筈だ】
《誰もやらない。命懸けの仕事すら低賃金で動かせる捨て駒だろ?知らない訳が無いだろ。俺もそうだったからな》
【そこまでは言わないよ。だが、君が言っている事も事実だ。だが、そんな存在に首輪を着けてしまったらどうなると思う?】
まるで俺を試すかの様な言い方だ。何が目的で俺に話し掛けたのかは知らんが大方の予想はつく。
恐らく今エルフェンフィールド軍に撤退されては困るのだろう。まぁ、ウシュムガルの相手がゴースト共に務まる筈は無いからな。
《さてな。興味も無いしどうでも良い事だ。だが……新しい時代の幕開けなのは理解出来るがな》
俺は皮肉気な笑みを浮かべながら言う。
【ほぅ、理解しているにも関わらず君は此処にいると?】
少し驚いた表情をするヤン・ハオティエン。そして柔和な笑みを消し、真剣な表情になる。
【それなら尚更、君はこの戦場から退がるべきだ。今の時代を崩すにはまだ早過ぎる。次の時代にはまだ人々は耐えられない】
《随分と甘いんだな。アンタは。そんなに揺籠を守りたいのか?こんな事をしてまで守る価値があるとでも言うのか?》
俺は苛立ちを感じている。今の世界を守る。それはつまりゴースト共を踏み台にし続けると言うのだ。
そんな奴がコンフロンティア軍の親玉なんだから笑えない。この男は俺以上に相当な屑で悪党な野郎だ。
【守らなければならない立場にいるのだ。私はね。だが、それを理解しない愚か者はどこにでも居る。そして……そんな愚か者がトップに立てば被害を受けるのは力無き市民達だ】
ここまでストレートにシュナイダー総統を酷評するとは。かつてはシュナイダー総統を支える立場の人間だったとは思えない発言だ。
【だからこそだ。君には……いや、君達には正しい選択をして欲しい。隣にいる戦友。愛すべき家族や恋人を守る為に。そして、世界を歪ませない為に】
そんな正義感たっぷりな台詞を聞いて俺は笑いが込み上げて来た。今時、そんな安っぽい台詞を吐く奴が居る事に驚きだ。
だから俺はそんな台詞を切り捨てた。
《正しい、正しく無いなんてどうだって良いんだよ。テメェらは全員反乱分子。つまり世間的には悪って訳だ。つまりだ……俺達は容赦しねぇって事さ》
俺は超大型シールドを前方で固まっているコンフロンティア軍へ向ける。
【行けない!退避して!】
そして危険を察知したクリスティーナ少佐はデルタセイバーを一気に急降下させてウシュムガルに接近戦を挑む。
しかし、そこは簡単には近付かせない。ホーミングレーザーから各所からの対空ミサイルや弾幕に妨害される。
《教養も何も無い癖に変な所だけ知識を持っている。そんな救い様の無い屑ばかりの集まり。それがゴーストだ》
目標は多数存在する。捕捉させるのに僅かだが時間は掛かる。その間に敵もようやく俺が敵意丸出しなのを理解したらしい。
慌てた様子で砲撃やミサイルを撃つが全てが無駄だ。ウシュムガルの装甲に生半可な攻撃は通用しない。
《テメェらがやってる事が正義だとしてもだ、世間様にとっては都合の悪い正義は悪なんだよ》
そして完全に捕捉したのと同時にトリガーを引く。
無数のロケット弾と対AWミサイルが発射され、コンフロンティア軍の中央前衛部隊に多大な被害が発生する。
《能書き垂れるのは他所でやるんだな。俺には何一つとして通用はしない》
そして再び戦いは始まる。
戦いが再開したのと同時に宇宙でも戦端は開いていた。
とは言うものの何方も決定打に欠ける砲撃戦ばかり。まず第一にエルフェンフィールド軍の旗艦アルビレオの損傷だ。
今も重力砲の使用は不可能。その為、全てのエネルギーを砲撃に回してはいるが砲塔も幾つか破壊されている。
対して傭兵企業スマイルドッグは後方へ退避。戦艦グラーフは応急処置はしているものの、艦載機の殆どは地上に降ろしている。
また他の傭兵企業の艦隊も似たり寄ったりで、宇宙での戦闘は現状維持出来れば良いと考えていた。
相手が地上に支援出来ない戦況を維持させる。偶然にもどちらの考えも同じ結論に至っていた。
その中で一番貧乏くじを引いて荒れに荒れてる人物が居た。
「クソッタレが!なんなんだ。この、クソつまんねぇ戦場はよぉ!こんなの飲まなきゃやってられっかよ」
傭兵企業シルバーセレブラムのトップにして高いカリスマ性を持ち、パイロットとしてもエースの名を欲しいままにしている人物。
ジャン・ギュール大佐である。
「落ち着いてジャン。偶には良いじゃない。こうやって安全に進む仕事があっても」
「ジェーン、そう言うがな?地上じゃあキサラギの野郎がウシュムガルに乗ってるんだぞ?波乱の一つ二つは確実に起きる」
「ウシュムガルねぇ。よくもまぁ、こんな惑星が手に入れたわねぇ。やっぱりシュナイダー総統の政治的手腕ってやつかしら?」
「それもあるだろうな。だが、それだけじゃねぇのは確かだ」
ジャンは端末を操作してウシュムガルのデータを出す。
本来なら幾つかの場所は閲覧不可能になっている。しかし、そこは人材豊富なシルバーセレブラム。ハッキング関係のギフト保有者に解析させていた。
「擬似ギフト装置の【高揚】よね。パイロットの感情を昂らせる為のモノ」
「あぁ、そうだ。強大な火力故に通常のAW以上に周りに被害を出す。特に市街地戦をやるなら最悪な機体だな。民間人を平然と巻き込む」
「でも、今回は投入されているわ。対デルタセイバー用の兵器として」
現状、デルタセイバーに唯一対抗出来るのは戦略級AWウシュムガル以外には居ないだろう。
勿論、キサラギ本人が居ればブラッドアークでも対処出来ると言うだろうが。
「アイツも中々ハードな人生歩んでたからなぁ。下手に刺激するとどうなる事やら」
「確か、元ゴーストでしょう?今の彼には色々思う所があるでしょうに。少し不安よね」
「それだけじゃねぇ。16で正規市民になったんだ。運の良いゴーストでも大体20以上でなる。それも傭兵ギルドに入った場合だけだ」
ゴーストは法も権利も何も無い。だから低賃金でのその日暮らしが一般的だ。
中には貯金をして正規市民になろうと必死に働くゴーストもいる。それでも怪我も病気もせずに貯金し続けるのは実に難しい。
「アイツの過去の詳細は聞いた事は無い。だが、アイツは早期に気付いたんだ。傭兵ギルドに入る事が一番の近道であると」
「でも傭兵になっても簡単には行かないわ。まぁ、色々やってたって話は聞いてるけど」
「まさか、戦果を売るとはな。最初聞いた時は考えたなと思ったぜ。アイツの腕は悪くない。むしろ、かなり良い方だ。だからこそ、戦果欲しさに躍起になってる奴を狙ったんだろうな」
無論、そう言った連中に限って大したクレジットを持っていない事が多い。だからこそ仕事が一緒になった奴を狙ってたのだろう。
『今回の報酬と引き換えに戦果を売るよ。命懸けのリスクより安く済む。どうだい?悪くない取り引きだと思うよ?』
甘い、そして強い誘惑。AWを傭兵ギルドからレンタルした時は更に稼いでた筈だ。
この方法でキサラギは単純に倍の報酬を手に入れられる。1000万クレジットを貯めるのは大分楽になる筈だ。
「それで付いた渾名が【クレジットの死神】だったかしら?」
「アイツ自身は否定しているがな。本人曰く「戦果売っただけ。それ以上もそれ以下も無い」ってさ。よく言うぜ。大体、傭兵ギルドに入った連中はどいつもこいつも一旗上げたいか見栄張りたい奴らばかりだ。自尊心を満たすのと同時に引き返せない所に追い詰められる」
キサラギ自身の操縦センスは高い。AWだろうが、MWだろうが必ず何かしら破壊して帰還してくる。
戦果を金で買った傭兵は周りに自慢し、羨望と嫉妬を味わい己のプライドを満たす。
それは一種の麻薬に近いのかも知れない。自分には出せない戦果をクレジットを支払えば手に入る。然も一緒に依頼を受けた場合のみ。
キサラギ本人から口外される心配は無いし、無理な金額で戦果を買う必要も無い。
戦果の売買を知っていたとしても傭兵ギルドは何も出来ない。何故なら特に違反をしている訳でも無いのだ。
仮に出来たとしても簡単な口頭での注意くらいだろう。
無論、指定依頼に関しては下手な人物を紹介する訳には行かない。しかし、高い戦果持ちが優先されてしまうのは仕方ない事なのだ。
「引き下がれない。引き下がりたく無い。更に指定依頼故に高い報酬は非常に魅力的だ」
「簡単には受けられない指定依頼。高額報酬と同時に高い難易度を誇る。そんな餌を目の前にされたら受けるわよねぇ」
「中には指定依頼にキサラギを同行させた奴も居た筈だ。無論、その時は戦果を売らなかっただろうがな」
「売る相手が居なくなったの間違いじゃない?」
「それもあるだろうな。兎に角、キサラギは良く頭が回る奴だ。だからこそ今では連邦の名誉市民になっちまってるがな」
キサラギは公私混同はしない。普段は口が悪いし敵対してる相手には挑発紛いな事も言う。
しかし、依頼人や上の立場の人には敬語を使うし礼儀をもって接する。
「まぁ、一番の所は品性があるって所だな。俺はそこだと思うよ」
「品性ねぇ。ゴーストと言う環境で品性が養えるとは思わないんだけど」
「多分、ガキの頃に正規市民と出会ったんじゃねぇか?それ以外には思い付かねぇし」
「そう考えると不思議な子よねぇ。何と言うか噛み合ってない感じ」
そう言ってジェーンは不思議そうな表情をする。そして、それを見たジャンはクツクツと笑いながら言う。
「そこがキサラギの一番魅力的な所だろ?」
「本当……妬けちゃうわ」
そう言いながらジェーンはジャンの頬に自身の整った美貌の顔を擦り寄らせるのだった。