オペレーション・ゴーストダウン1
コンフロンティア軍は街での迎撃準備は完了していた。
敵が侵入して来た際の市街地戦は勿論の事、ゲリラ戦すら可能とする程に。
しかし、戦う意志の無い避難民と化したゴースト達は未だに多く残っていた。
確かに避難誘導はされた。しかし、その先に安住の地など無い。唯、街から出て行く事を強制されただけだ。
誰だってそうだろう?面倒事は抱え込みたくは無い。
その結果、避難した多くのゴースト達は寒さで身を凍らせながら歩いていた。だが、結局行き着く先は決まっていたのだ。
『ゴーストの収容はどうなっている?』
『予定通り順調です。流石の連中も反抗する意思は無い様で』
『なら引き続き収容作業に入れ』
ニュージェネス自治軍はゴースト達の避難行動を把握していた。そして一部部隊を派遣していたが反撃などは無く、簡単に接触する事が出来た。
『しかし、連中も哀れなものですな。護衛と思われる車両は俺達を見た瞬間に逃げ出した訳だし』
『流石に少し同情しちまったよ。最初から最後まで程のいい捨て駒扱いなんだからよ』
ゴースト達の表情は疲れ切っていた。
散々利用され振り回された挙句、住む場所を追われる始末。怒りや恨みの感情を超え解放して欲しいと願うばかり。
何故私達が?
私達が何をした?
もう放っておいてくれ。
その疑問に答える者は居ない。唯、彼らは運が無かった。それだけだ。
『今頃、本隊の連中はどうなってますかね?総攻撃は始まったのだろうか?』
『さぁな。唯、今日明日で決着が付くだろうな』
『問題なのはエルフェンフィールド軍だけなんだよな。全く、こんな辺境惑星に何の用があるんだが』
『知らねぇよ。あんな閉鎖的な連中の考えなんざ。ま、見た目だけは良いんだがな』
『それな』
そしてゴーストを尻目に下世話な話をする自治軍の兵士達。
俯き、声を発する事なく黙って従うゴースト達。その姿を見ても自治軍の兵士達は誰も同情する事は無い。
それが自然であり当たり前の時代なのだ。
それでも時代に抗う者達は居る。
例え、未来の運命が変わらないとしても。
コンフロンティア軍は敵がいつ来るか警戒していた。
AW、MWの配置は勿論の事。戦車、対空車両、VTOL戦闘機。そして歩兵や装甲車も自治軍が来るのを待ち構えていた。
「こちらマーシャル33。定時報告、異常無し」
【了解した。引き続き警戒せよ】
MC-61Eオーガに搭乗するパイロットはタツヤ。定時報告を終えてレーダーに視線を送る。
「……ハァ、落ち着け俺。ちゃんとシュミレーターは出来たじゃないか」
操縦レバーを知らずに強く握っていた事に気付いた。一度操縦レバーから手を離し、懐から写真を一枚取り出す。
その写真には幼い男の子と女の子が写っていた。女の子は男の子の腕に嬉しそうにしがみ付き、男の子は少し仏頂面になっていた。
「ちゃんと逃げたんだろうな。お前はいつも俺にくっ付いていたからな」
世話の掛かる奴だった。泣き虫で直ぐに抱き着いて来る。お陰で俺のシャツとかズボンは涙と鼻水で汚れる事が多かったが。
それでも手を振り解く気にはならなかった。お互い恵まれない環境だからこそ、この繋がりは大切にしたかった。
「……エマ。俺は」
その時、コクピット内に警報アラームが鳴る。
咄嗟に写真を懐に仕舞おうとするが上手く入らずコクピットシートの下に落ちてしまう。
しかし、そんな事に意識を向ける暇は無かった。何故ならレーダーには多数の熱源が接近し、モニターからも確認が出来たからだ。
「ッ!ミサイル接近中!来るぞ!」
大型シーズンを構えながら、45ミリマシンガンをミサイルが来る方向に向ける。
そしてミサイルと砲弾の雨が降る中で必死に各部隊が迎撃を開始する。
【敵襲!敵襲!各部隊は戦闘体制に入れ!】
【撃て!撃てええええ!一発でも墜とせええええ!】
【畜生!シュナイダーめ!俺達ごと街を消し飛ばす気かよ!】
【怯むな!俺達はシュナイダーの圧政には屈しない!正義を背負ってここに居る!】
中には自分達の正義に酔いしれている者も居るが、そんなのは関係無いと言わんばかりに砲弾の雨が降り続ける。
【敵の砲撃は2時の方向!推定距離25キロ!】
【海の方からも多数のミサイルが接近中!至急迎撃体制を取れ!】
【攻撃機と戦闘機を出せ!それからMWイーグルも向かわせろ!】
必死の迎撃を行うも砲弾とミサイルの攻撃は止まる事は無い。それどころかミサイルが直撃して爆散するMWや対空車両が多数出ている。
「このままだと街に残ってる人達が!」
大型シールドで砲弾を防ぎながら周りの様子を確認する。
既に街の一部は崩壊しており、火の手が多数上がっている。それでも砲撃は止まる気配は無い。
絶望がコンフロンティア軍を支配する中、一筋の希望が空を走った。
そのビームは何発も空を駆けながら多数のミサイルと砲弾を破壊して行く。
誰がやったのか何て見なくても分かる。例え信用出来ない味方でも縋ってしまう程の力。
「アレが……デルタセイバー」
高速で空を飛びながら強力なビームを多数発射するデルタセイバー。その姿は現代に現れた救世主と言わんばかりだ。
味方からは羨望を。
敵からは畏怖を。
その二つの感情を一身に受けるデルタセイバー。
だが、それ以外の感情も向けられている事をデルタセイバーはまだ知らない。
ウシュムガルはその巨体故に行軍する事に問題がある。ホバー移動は可能なのだが長時間移動すれば機体への負荷が大きくなる。またパイロットへの負担も大きくなるのも問題点の一つだ。
そこでウシュムガルを運搬、サポートを前提とした移動施設が必要となった。
ウシュムガル専用大型地上運搬戦艦 バーフラー
ウシュムガルを迅速に運用させる為だけに作られた地上用移動戦艦。履帯で動く為速度自体は速い訳では無いが、行軍行動には問題は無い。
更に整備、補給だけで無く前線指揮所としての役割。支援砲撃を可能とした武装。また護衛としてAW6機を搭載可能であった。
『バーフラーよりヴィラン1へ。デルタセイバーを確認しました。出撃準備に入って下さい』
「ヴィラン1了解。ネロ、俺達の出番だ」
「了解しました。スリープモード解除。システム戦闘モードに移行します」
俺は首を軽く解しながら操縦レバーを握る。
『ハッチ解放。出撃、お願いします』
「ヴィラン1、ウシュムガル出るぞ」
ウシュムガルが動き出す。それと同時に地面が僅かに揺れる。
「システムは全て問題無し。攻守共に完璧。強いて言うなら扱い難いって事と鈍足って事くらいだな」
ホバーシステムを起動させてコンフロンティア軍の本拠地に向けて移動を開始。それと同時に味方もウシュムガルに追従する形を取る。
『うひゃー。流石にデカいッスね!でも、その姿はめちゃくちゃ頼もしいッス!』
「だろ?コイツならデルタセイバーだけで無く周りの雑魚も一掃出来るさ」
『あんまり無茶だけはしないでよね。死角は私達がフォローするけど』
「分かってるさ。ま、見てろって。最初でデカいの撃ち込んで戦意を削りまくってやんよ」
アズサ軍曹とチュリー中尉と軽く会話を挟みながら前進して行く。
しかし、俺達が行軍するのと同時にコンフロンティア軍も反撃に出た。
【敵本隊の接近を確認!ウシュムガルも居ます!】
【砲撃始め!ウシュムガルを破壊すれば我々が圧倒的有利になる!】
街の至る所から砲弾とミサイルが発射される。だが、それは既に予想の範囲内だ。
「前方より多数の熱源が接近中」
「攻守拡散ビーム砲展開」
両肩に搭載されている大型の拡散ビーム砲。エネルギーが集まる。
そしてエネルギーが規定値内に溜まったのと同時にトリガーを引く。
空に無数のビームが放たれる。それと同時に迫る砲弾とミサイル群が次々と迎撃されて行く。
空が爆発と爆炎に染まり轟音が辺りに響く。だが、そんな物は関係無いと言わんばかりにウシュムガルは前進を続ける。
【こ、攻撃が効いてません!何発かは直撃しているのに!】
【怯むな!攻撃を続けろ!戦略級AWであろうとも被弾し続ければタダでは済まん!】
【全砲兵は攻撃を続行!目標に変更無し!ウシュムガルを狙え!】
更に継続して砲撃を続けようとするが、確認出来ていなかった火砲やミサイル発射台を露呈する事になる。
『敵砲台を多数確認しました。各部隊にデータリンク送ります』
『バーフラーより砲撃部隊へ通達。データリンク合わせ。目標に対する砲撃を開始せよ』
『攻撃合わせ。目標、α、β、γと呼称』
『ロール1了解。目標に照準合わせ良し』
『ローレンス1了解。データリンク合わせ確認』
『攻撃開始。繰り返す、攻撃開始』
互いに砲撃とミサイルの応酬を繰り返す。しかし、どちらも決定打に欠けていた。
コンフロンティア軍の砲撃はウシュムガルが迎撃し、ニュージェネス自治軍のミサイル群はデルタセイバーが迎撃してしまう。
そして同時に空中戦も始まる。コンフロンティア軍のFG-101Yフォッケナインとニュージェネス自治軍のF-86マッキヘッドが激しいドッグファイトを繰り広げる。
その隙にAH-86サンダーが市街地に接近。地上の対空設備を破壊して行く。
長期戦になれば自治軍側が優勢となるだろう。だが、それを許す程、自治軍上層部は甘くは無い。
『バーフラーよりヴィラン1へ。前進し敵前衛部隊を殲滅せよ』
「おいおい。俺はデルタセイバーの相手が第一だろ?雑魚の相手くらい手前の軍隊で処理出来るだろうが」
俺はウシュムガルのメイン武装を選択する。そして目標は勿論デルタセイバーだ。
「ま、当たらないのは理解しているさ。けどなぁ……俺を無視し続けるのは失礼ってなもんだろうがよぉ!」
HELブラスターを起動させる。エネルギーが徐々に溜まり始める。
ウシュムガルの攻撃を察知したデルタセイバー。そのまま真っ直ぐに突っ込んで来る。
「デルタセイバー高速接近中。ロックオン完了。ホーミングレーザー発射開始」
ネロの判断でウシュムガルの背中に装着されているホーミングレーザーがデルタセイバーに襲い掛かる。
【ッ!その程度の弾幕なら!】
しかし、ホーミングレーザーの弾幕を回避しつつ自前のエネルギーシールドで防ぎながら更に接近して来る。
「馬鹿か!それは最初から想定の範囲内だっての!」
ウシュムガルの両手は強力なビーム砲となっている。そして、10本の指から発射される弾幕は凄まじいの一言だ。
俺はギフトを使いデルタセイバーの動きを先読みしながら確実にビームを当てて行く。流石のデルタセイバーとは言え耐え切る事にも限界はある筈だ。
「エネルギー充填完了。ホーミングレーザー発射します」
そして再びホーミングレーザーがデルタセイバーを襲う。
流石のクリスティーナ少佐も不味いと判断したのだろう。一度距離を取り回避に専念し始める。
だが、ここで追撃を緩める訳には行かない。
「ハッ!逃がしゃしねぇよ!行けよ!」
俺はウシュムガルの両腕有線飛行型ビーム砲を射出。そのまま追撃を続行する。
【クリス!一度退がるんだ!援護する!】
別方向からのビーム攻撃が両腕ビーム砲に襲い掛かる。
どうやらデルタセイバーの護衛役と言えるガイヤセイバーとスピアセイバーの御登場らしい。
「良いぜぇ。まとめて相手してやるよ!掛かって来い!このウシュムガルと俺を倒せるものならなぁ!」
エルフェンフィールド軍の正式機から最新鋭機を相手に互角以上の戦いを見せるウシュムガル。
味方から見れば頼もしい巨人兵だが敵からしたら悪夢としか言えない光景だ。