諸刃の剣
いつも誤字報告ありがとうございます。
本当に助かってます。もう本当にです。
そして皆暴走する機体好きなのが分かったよ。まぁ、自分も大好物なんですけどね!
胸の装甲部分が三又に開きHELブラスターのエネルギーが充填される。その間にマルチロックを行いホーミングレーザーを起動させる。
「ネロ、マルチロックが完了次第撃て。俺は今から少し忙しくなるからな」
「了解しました」
俺はウシュムガルの両腕を前に突き出す。そしてトリガーを引くと両腕が勢い良く空へと飛んで行く。
「全員、生かして帰すかよ。この何も無い場所で惨めに、無様に、虚しく、誰にも看取られる事無く、死んで行けぇ‼︎」
そして有線で繋がれた両腕から強力なビームが次々と敵MWイーゲルやCR-9チャンパー攻撃ヘリに襲い掛かる。
【アレは何だ!ドローンか何かか!】
【攻撃が効かねえ⁉︎こんなの無茶苦茶だ!】
【後退だ!後退しろ!兎に角逃げッ⁉︎は、離せ!離しやがれ!コノヤロー⁉︎】
一機のイーゲルが捕まり、そのまま握り締められる。コクピット内は軋みを上げ、パイロットは混乱状態になってしまう。
【うわあああ⁉︎誰か!援護しろ!は、早く⁉︎】
慌てて仲間が助ける為にウシュムガルの腕を攻撃する。しかし、攻撃が効いている様子は無い。
今も死にたく無いと必死に踠いている敵MWイーゲルのパイロット。だが、そんな物は無駄な努力なのだ。
「逃さねぇって……言ってんだろうがよおおおおおお‼︎‼︎」
俺は叫び声を上げながらトリガーを引く。同時にウシュムガルの指からビームサーベルが展開。無駄に抵抗をする敵イーゲルをゆっくりと丁寧に斬り刻んで行く。
【嫌だあああ‼︎死にたくッ⁉︎】
そして敵イーゲルのコクピットにビームが貫通。パイロットは一瞬で蒸発しながらイーゲルと共に爆散して行く。
「ハハッ!ハハハハハッ!良い死に様だったよ!傑作だよ!じゃあ、他の連中はさっき以上の死に方をやって貰おうか!」
「マルチロック完了しました。ホーミングレーザー、発射します」
両腕飛行型有線ビーム砲を操作している間にホーミングレーザーが大量に発射される。
僅かに生き残っているコンフロンティア軍の兵士達に最早、抵抗する力は残ってはいなかった。
【な、何故だ。どうして……こんな、事に】
辛うじて生き残っていたハーゲルは、次々と逃げ惑い、背中から攻撃されて爆散して行く味方を見ながら呟く事しか出来無い。
そしてウシュムガルの胸部分に搭載されているHELブラスターに集まるエネルギーの塊。その、暴力的なエネルギーが悪意と共に自分達に向けられる瞬間。
【わ、私は、こんな所で死ぬ人間ではッ】
最後の台詞すら満足に言える事無く、HELブラスターから放たれた超高出力ビームの渦に飲み込まれて消えて行ったのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ……終わった……のか?」
「はい。目標の殲滅を確認しました」
「……そうか。ネロ、後は任せる。俺は、少し疲れた」
「了解しました」
妙に気怠い感覚を覚えながらパイロットシートに身を預ける。しかし、ウシュムガルに乗った時の高揚感は確かに有った。
(結局、上手い話は無いって訳か。これは少しナナイに調べさせるか。尤も、間に合えばの話だが)
俺はウシュムガルの存在自体は否定しない。データ上のスペックだけなら何も問題は無かった。
圧倒的火力と防御力で敵を倒す戦略級AW。それがウシュムガルと言う機体なのだ。
だが、それにしては妙に興奮してしまった。確かに戦略級AWに搭乗出来る機会なんて一生に一度以下の確率だ。つまり、俺の様な奴は本来なら搭乗出来る筈が無いのだ。
それが何の星の巡り合わせか知らないが、ウシュムガルに搭乗する権利を得た。これで興奮しない方がどうかしてる。それにしては普段以上に感情が暴露した感じだったが。
「はぁ……まぁ、いいか。どうせ、腐る程居るゴーストの一部が消えただけだ。足りなくなれば別の所からも調達は出来るもんな」
結局の所、ゴーストを皆殺しにしようが、世界にとって何一つとして問題は無いのだ。
ゴーストがどう言う存在なのか。俺は身をもって知っている。元ゴーストだからこそ、僅かながら同情する気もある。
だが、正規市民共はどう思う?
野良犬や野良猫が何処で死のうが知った事では無い。逆に見える場所で死んだら死体が邪魔だと思われる始末だ。
同じ生きている者達だと認めていないのだ。
(時代がそう言う風に出来ているんだ。なら流れに身を任せれば良いんだ。そうすれば何一つとして苦悩する事は無い)
孤児院に居たイリアお姉さんや子供達の様に。戦友達や恋人の様に。
ゴーストだからと処分され、切り捨てられようとも。
それが、今の時代の生き方だ。
「いつの時代も冷酷な面は持ち合わせる……か」
俺は無駄に感傷に浸りながら目を閉じるのだった。
シュナイダー総統は執務室でウシュムガルによる戦果の報告を聞いていた。
『先遣部隊である反乱軍の全てを撃滅致しました。また、パイロットと共にウシュムガルの損害は有りません』
「そうか。しかし、痛ましいものだな。ゴーストに手を差し伸べていると言うのに、その手を噛まれてしまうとは」
『仕方がありません。奴等は常識やモラルと言う物を理解していませんので。寧ろ、それでもゴーストに救いの手を差し出す総統の広い器に感服致します』
通信越しで司令官はシュナイダー総統を賛美する。そんな司令官を見て静かに頷きながら肯定する。
しかし顔には出てはいないが、つまらない者を見る様な冷徹な瞳だけは隠し切れていない。
尤も、それに気付く者は誰も居ないのだが。
「それで、ウシュムガルの戦闘データは記録しているね?」
『ハッ!勿論であります。パイロットのバイタルデータと共に全て記録してあります』
「それは良い事だ。これで連邦も一先ずは満足するだろう」
ウシュムガルが実際に運用された回数は決して多くは無い。強力な兵器だからこそ、抑止力的な意味合いが強くなってしまったのだ。
お陰で大戦中では十数回の出撃実績しか無いので、満足な戦闘記録が無いのが実情だ。
その為、これを機にウシュムガルの戦闘データを記録して地球連邦統一軍へ送るのだ。そうすれば連邦も快く我々の味方になるだろう。
とは言え連邦はエルフェンフィールド軍との交戦を避けている。だが武力介入はしなくとも、後方に艦隊が待機しているだけでも価値は有る。
少なくともゴースト共には大局の本質を理解出来る筈が無い。満足な知識が無く、無知だから理想と現実の区別が付かない連中だ。
そんな愚かな連中を纏め上げたヤン・ハオティエン。良き友であった。しかし、今や排除しなければならない存在になってしまった訳だが。
『それから一つ、懸念事項が有りまして』
「何かね?」
『ウシュムガルに搭載されている【疑似ギフト装置の高揚】の件についてです。現パイロットであるシュウ・キサラギ少尉に関してですが、想定以上のシンクロ率であったと』
「それは次の戦闘で何か問題が出るのかね?」
『いえ、恐らくですが問題は無いかと。唯、想定以上に高揚の影響を受けてしまう可能性が……』
少し口籠る司令官。しかしシュナイダー総統の表情に変化は無い。その事が余計に司令官の不安を煽り、都合の良い事を言ってしまう。
『その、無論、こちらでも調整は可能です。今回は少々高揚させる速度が速すぎました。なので、次の実戦では少し速度を落とせば問題は無いかと』
「そうか。恐らく、次の戦いが決戦になるだろう。尤も、ヤンが賢い奴ならウシュムガルの存在を知れば無条件で降伏かも知れんが。だが、そうでなければ全て始末すれば良い。反乱分子を労働施設に入れるのは少ない方が良いからな。その方が従順な者が多くなる」
『では、キサラギ少尉に関しては』
「そのままパイロットは継続させろ。但し、疑似ギフト装置に関しては君に一任する。しっかりと手綱を握る様に」
『ハッ!了解致しました!』
「それにだ。ウシュムガルの性能を満足に扱える者は少ない。想像以上に複雑な操作系統はパイロットに大きな負担を強いる。初戦で充分使いこなしている以上、問題は無い」
そして通信を切り一息吐くシュナイダー総統。
「やれやれ、一体いつから正義の味方気取りになったのだ?ヤン、君らしく無い。寧ろ、君は……」
そこには居ない人物に語り掛ける様に話すシュナイダー総統。勿論答えなど返ってくる筈も無い。
それでも問い掛けたくなるのだ。今でも良き友人であると思っているから。
ティラナ軍事基地に到着すると野次馬と化した仲間達が遠巻きに見ていた。
しかし、俺はそんな連中の事は殆ど眼中に無かった。何故なら非常に疲れていたからだ。
正確に言うなら精神面が圧迫された感覚だ。例えるなら気を使う上司と同席してしまった感じだろうか。
「ふぅ、やっと休める。ネロ、すまないが後の事は頼む」
「了解しました」
ウシュムガルを基地の敷地内に入れて、格納庫の横に移動させて停止させる。
俺はコクピットから出てナナイ軍曹を呼び出す。
「ナナイ、至急頼みたい事がある」
「何でしょうか?」
ナナイ軍曹は文句を言わずに聞いてくれる。この辺りは本当に良い女だと思う瞬間だな。
「ウシュムガルについてだ。俺が知らない機能。正確に言うなら公式に出されていない機能を探して欲しい」
「公式に無い機能ですか。ウシュムガルは地球連邦統一軍の切り札的な役割の機体です。また多くのブラックボックスの塊で出来ています。その機体に手を出せばどうなるか。貴方なら分かりますよね?」
「無理は承知で言ってるよ。だが、出来無いと言わない辺り凄い女だよ。お前は」
俺の言葉に呆れた表情をするナナイ軍曹。そして溜息一つ吐いてジト目でこちらを見る。
「貸し一つですからね」
「分かったよ。多分だが精神に干渉してくる何かだ。一応機体データは渡しておく」
「お願いします。それでは、私は一旦失礼します」
「おう。何か分かったら連絡頼む」
ナナイ軍曹は足早に離れて行く。俺はナナイ軍曹の良い尻を見ながら見送る。
いや、本当に良い尻してるわ。眼福眼福。
「センパーイ!先輩!先輩!何なんスか!あの機体!」
「ちょっと、落ち着きなさい。アズサ軍曹」
「とか言いながらチュリー少尉も気になってるんスね?」
「それは……まぁ、多少はね」
騒がしいアズサ軍曹と保護者のチュリー少尉。俺はそんな二人を見ながら気持ちを切り替えてから軽く手を上げる。
「ウシュムガルが気になるか?まぁ、お前らじゃあ一生掛かっても乗れねぇかもな」
「普通は乗れないわよ。専用機の次は戦略級AW?ちょっと手を出し過ぎじゃない?」
「言ってろ。デルタセイバーを潰すには火力が必要なんだよ」
「先輩、ブラッドアークはどうするんスか?」
「一旦お預けだな。それに幾つかシステムエラーも出てたみたいだし」
ブラッドアークで戦ってた時は気にならなかったが、一部スラスターや戦闘システムにエラーが出てたらしい。
まだまだ最新鋭機であり先行量産型のAW故の宿命だな。
「取り敢えずはウシュムガルの火力と防御力があればデルタセイバーは抑えられる筈だ。後の雑魚はお前達に譲るさ」
「それは別に良いんスけど」
「何だよ。何か不満でもあるのか?折角稼げるチャンスだってのによ」
少し歯切れの悪いアズサ軍曹。しかし、その答えを聞くと少しだけホッコリした。
「いえ、チャンスなのは分かっているんスけど。ただ、先輩体調悪そうッスけど。大丈夫なんスか?」
「そう?私はいつも通りに見えるけど」
「まぁ、チュリー少尉は仕方ないッスよねー。だってー、先輩との付き合いは全然無いッスもんねー」
「何で煽る様な言い方するのよ。貴女は」
妙に得意気な表情をするアズサ軍曹を呆れた表情で見るチュリー少尉。
どうやら要らない心配をさせてしまったみたいだ。一応ポーカーフェイスで隠していたんだがな。
そして、俺はアズサ軍曹の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「心配すんなって。この戦いはもう直ぐ終わる。どんな結果になろうともな」
「ウニャニャニャ〜。そ、そんなに撫でないで〜」
「ハッハッハッ、相変わらず愛い奴だな。お前は」
暫くアズサ軍曹の頭と猫耳を撫で続ける。幸いな事にアズサ軍曹も満更では無い様子だ。
「さて、後はどうなるか。服従を選ぶか。それとも無様に足掻く事を選ぶか。まぁ、どっちを選んでも碌でもない道になるがな」
間も無く最終決戦が始まる。
惑星ニュージェネスの未来を賭けた戦い。
その先に待つのは希望か。それとも絶望か。
それは当事者だけにしか分からない事だ。