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疑似ギフト装置

 目標となるコンフロンティア軍をレーダーで捕捉した。


『ヴィラン1、間も無く降下態勢を取る為に高度を下げます』


 ハスキーのパイロットから通信が入る。しかし、俺は高度を下げる事に反対する。


「いや、高度はこのままで良い」

『しかし』

「連中に一発デカいのを撃ち込んでやるからさ。頼むよ」


 どうせならインパクトの強い登場シーンが欲しいからな。

 この見た目もそうだが完全に暴力の化身その物だ。なら、その暴力の化身として姿を存分に披露してやろうではないか。


『了解しました。では、降下態勢用意』

『二番機了解。水平飛行を維持』

『降下速度まで30秒前、29、28、27、26』


 降下カウントが始まったのと同時にHELブラスターの充填に入る。するとウシュムガルの胸の部分の装甲が三又(みつまた)に分かれてHELブラスターが露出。そして、徐々にHELブラスターにエネルギーが溜まり始める。


『3、2、1、降下開始。御武運を』

「そっちも無事の帰還をな」


 そしてZXGT-01ウシュムガルがVt-85ハスキーから切り離される。徐々にスピードを増しながら降下するウシュムガル。

 上空から見えるコンフロンティア軍共は無警戒と言わんばかりに前進を続ける。


 その姿を大量の獲物を吟味する様に見つめるウシュムガル。


「HELブラスターの充填率70%。警告、迎撃ミサイルを確認」

「今更遅いんだよ。ネロ、ジャミング装置を起動しろ。その後に降下地点に向けてHELブラスターを発射」

「了解しました。ジャミング装置の起動開始」


 迫り来るミサイル群。それと同時に何機かの飛行型MW【R-15Eイーゲル】が接近して来る。


【上空に敵一機確認。しかし、データに有りません】

【迎撃ミサイルの着弾まで残り5秒。何だ?機影が妙に大きい】


 そして敵の迎撃ミサイルが着弾する前にジャミング装置を起動。ミサイルは全て在らぬ方向へ飛んで行き自爆して行く。


「HELブラスター充填100%。いつでも撃てます」

「何事も最初の挨拶が肝心だからな。さぁて、派手に行こうか!」


 目標をコンフロンティア軍の前方に固定してからトリガーを引く。


 そしてHELブラスターから凄まじい破壊力を持つエネルギーの塊が放たれる。


【か、回hッ⁉︎】


 HELブラスターの攻撃に巻き込まれ、消炭となって行く敵MWイーゲル。そして地上に突き刺さるHELブラスターの攻撃。

 地面が抉られるのと同時に超高温により真っ赤に染まるのは一瞬。莫大なエネルギーは大爆発となり地面と空気を揺らす。そして爆炎と爆煙が混ざり合い空を覆う。


【な、何事だ⁉︎今の攻撃は何なんだ⁉︎】


 ハーゲルはTTB-660タイタンのハッチを開けて状況を確認する。何が起こっているのか、自分の目で直接確認する必要があったのだ。


 だが、直接確認しない方が良かったのかも知れない。


 爆煙が舞い、地面が紅く染まり灼熱の風が肌を撫でる。そして爆煙の中から四つの光が現れる。


【な、な、なぁ⁉︎】


 目を見開き、言葉が満足に出せないハーゲル。そして周りのコンフロンティアの兵士達も同じ様に動揺してしまっている。

 地面を揺らし、灼熱の大地を踏み締めながらゆっくりと前進する巨人。

 黒いボディに金と銀が威厳溢れるデザインと共に施されている。更に赤と青が僅かな場所に染められており、細かい場所にまで拘りが見て取れる。

 そして、何より胸の上部分と頭部のメインカメラの間には地球連邦統一軍のシンボルマークが施されていた。

 見た目の威圧感は鎧武者の様に見える兜も合わさり凄まじく、一部の臆病な者は既に後退している始末。だが、一体誰が彼等を責められようか?

 死にたく無いと感じるのは生きる者として当然の感情だ。然も、目の前に威厳溢れるのと同時に悪意が滲み出る程の禍々しい雰囲気があるのだ。


 ZXGT-01ウシュムガル


 表向きの運用目的は拠点制圧や反乱分子に対する圧力を掛ける事である。

 しかし、その実態は敵性勢力の殲滅を主目的とする。


 今此処に、目覚めてはならない暴力の化身がコンフロンティア軍に対して牙を向けようとしていたのだった。




 先に動き出したのは何方だったか?

 恐怖に押し潰されて、ついトリガーを指で引いた少年兵だったか。それとも恐慌状態になる事から抵抗し、己を鼓舞する為に大声を出した奴か。

 はたまた指揮官のハーゲルの言葉に反射的に反応して引き金を引いた兵士か。

 一人が撃った銃声はあっという間にコンフロンティア軍全体に広がり、一斉攻撃がウシュムガルに襲い掛かる。

 迫り来る多数の弾丸とミサイル群。しかし、搭乗者であるシュウ・キサラギ少尉は唯笑みを浮かべるだけであった。


「ハッ!抵抗する事を選ぶか。攻守拡散ビーム砲展開」

「エネルギー伝達は全て正常」

「全部撃ち落としてやんよ!」


 モニター越しに迫るミサイル群を捕捉しながらトリガーを引く。するとウシュムガルの両肩に搭載されている攻守拡散ビーム砲が唸りを上げながら拡散ビームを放つ。

 瞬く間にミサイル群と多数の砲弾が空中で撃ち落とされる。それも僅かに数秒でだ。


【ば、化け物】


 一人のコンフロンティアの兵士が呟く。いや、呟くと言うより絶望してつい出てしまった言葉だ。


【怯むなぁー‼︎撃って撃って撃ちまくれぇー‼︎相手は一機だけだ!上空からの攻撃を合わせれば迎撃の隙が出来る筈だ!】


 ハーゲルは咄嗟に出来る事を命じる。そして自身が乗るタイタンにも攻撃をさせる。

 多数の砲弾が再びウシュムガルに襲い掛かる。しかし、結果は殆ど変わる事が無い。


「警告、二時方向上空より敵MWイーゲルの編隊接近」

「せめて左右から挟む様に攻撃すれば良いものを。焦って満足に指揮が出来てない様だな」


 敵MWイーゲルを捕捉。そしてマルチロックを完了させる。


「じゃあ今度はこいつだ。纏めて消し飛ばしてやるよ。ホーミングレーザー発射」


 トリガーを引くと背中のホーミングレーザーユニットから多数のレーザーが空を舞う。そして目標物となった敵MWイーゲルの編隊に向かって飛んで行く。


【何だ!ミサイルじゃないぞ!】

【ランダムブレイク!兎に角回避しろ!】

【駄目だ!チャフが効かなッ⁉︎被弾した!被弾した!】

【畜生!イーゲルで満足に回避なんガアアアアッ⁉︎⁉︎】


 満足な攻撃をする事無く撃墜されて行くMWイーゲル。決して弱くは無いMWなのだが、ウシュムガルが圧倒的過ぎた。


「さて、今度はこちらの番だ。撃ったら撃ち返される。当たり前の事だよなぁ。そう思うだろ?」


 両腕有線飛行型ビーム砲の銃口をコンフロンティア軍へ向ける。全部で10門の強力なビーム砲がコンフロンティア軍へ襲い掛かる。


「さぁて、たっぷりと楽しませろよ!良い感じに回避すれば生き残れるかも知れんからなぁ!」


 そして次の瞬間にはビームの雨がコンフロンティア軍へと襲い掛かる。

 次々とビームが貫き爆散して行く敵AW。そして、こんな絶望的な状態に居ながら必死に抵抗を続けるコンフロンティア軍。


【クソッ!クソッ!クソッ!クソッー⁉︎】

【グワッ⁉︎き、機体が保たなッ⁉︎】

【こんな遮蔽物も何も無い場所は不利だ!唯の的になっちまってる!】

【間違ってたんだ。俺達は反抗なんてしちゃ駄目だったんだ。もう、終わりだ……】


 中には抵抗する事を諦めた者まで居る始末。しかし、そんな事は側からみれば分かる筈も無く平等にビームが襲い掛かる。


「さて、大方潰せたな。ヴィラン1より司令部、敵はもう抵抗する力は無さそうだが?」

『こちら司令部。敵は殲滅せよ。繰り返す。敵は殲滅せよ。一匹足りとも逃す必要は無い』

「ふぅん。まぁ、殲滅がお望みとあらば期待に応えるのが一流の傭兵よ。ちゃんと追加報酬は用意しとけよ」

『…………』


 都合が悪いのか、答えは返って来なかったが、司令部からの殲滅命令を受けたので攻撃を続行する。


「悪く思うなよ。まぁ、運が良ければ一人か二人くらいは生き残れるんじゃ無いかな?」


 心にも無い事を呟きながら目標に向けてビームを発射し続ける。


 作戦は順調に進行していた。何も問題無く、目の前のコンフロンティア軍が全滅するのは時間の問題だ。


 しかし、司令部側はこの結果に満足してはいなかった。




 首都トメラスの軍事基地ではウシュムガルの活動状態を逐一確認し続けていた。

 ウシュムガルは地球連邦統一軍より特別に授かった戦略級AW。しかし、その運用実績は無かったのだ。

 今までは置物状態であり軍費を大量に消費する金食い虫に過ぎなかったのだ。しかし、此処に来てウシュムガルが日の目を見たのはチャンスと言えた。


「想定以上の結果であり、想定以下の戦果だな」


 キサラギ少尉が操縦するウシュムガルはコンフロンティア軍相手に、ほぼ一方的な戦闘を続けていた。僅かながら被弾はあるものの、その全てが分厚い装甲に防がれている。更にコンフロンティア軍の早期戦意消失は予想以上の結果だった。

 しかし、ウシュムガルの性能を以てすればもっと早くに敵を殲滅出来る筈だ。

 無論、キサラギ少尉の腕前は素晴らしい。短期間の完熟訓練でウシュムガルを扱い切れている。

 しかし、それでも完璧とは程遠い殲滅スピードだ。


「流石のエースもウシュムガルを扱うのに手こずるか。奴には早急にウシュムガルを手懐けて貰わねば総統に顔向け出来ん」


 司令官はキサラギ少尉に対し少々辛辣な評価をしながら、オペレーターに指示を出す。


「至急、ウシュムガルに搭載してある【疑似ギフト装置の高揚】を使用しろ。そして再び殲滅命令を出させろ」

「了解しました。これより疑似ギフト装置を起動確認」

「パイロットのバイタル状況は逐一チェックしろ。万が一があっては困るからな」


 そして、人の悪意とも呼べる指示が出される。最早パイロットを人間としてでは無く、ウシュムガルのパーツとして扱う様に。




 一瞬、妙な違和感を感じた。何となくそう感じたんだ。

 何が?と言われれば良く分からない。唯、無性に興奮し始めている自分が居た。


「ふぅ、どうやらウシュムガルに乗って興奮が後から来たか?やれやれ、俺のロボ好きも此処まで来たら世話がねぇな」


 一度深呼吸してから再びモニターとレーダーを確認する。

 ウシュムガルからの猛攻を凌ぎ、辛うじて生き残ったコンフロンティア軍は撤退をしている最中だ。唯、多くの味方機の残骸とウシュムガルの攻撃により地形が変化してしまい、撤退速度は遅くなっている様だが。

 しかし、何だ?徐々に違和感が強くなっている。何だコレは?


「ハ、ハハッ、ハハハハハッ!何だよ。逃げちゃうのか?戦いはコレからだろ?こう見えて俺ちゃん、お前達を殲滅しないとダメなんだよ。だから、お前達も生き残る為に足掻かないとダメなんだよ‼︎」

「マスター?どうされましたか?」

「どうもこうもあるか!あいつらは正規市民に反旗を(ひるがえ)した脳無しのクズ共だろうが!なのに今じゃあ連中は自分の命欲しさに尻尾を巻いて逃げやがる。ここまで反抗しておいて今更都合良く逃げれる訳が無いだろうが!あの根性無し共が!」


 俺は何故か我慢出来ずオープン通信を使いコンフロンティア軍へ通信を繋げる。


《何でテメェら逃げようとしてんだよ?あん?一度撃った弾丸はこっちの味方を沢山殺してんだよ!なのに、それで撃ち逃げで終わらせようってか?そんな都合の良い世界があると思ってんのか‼︎》


 コンフロンティア軍の動きが止まる。しかし、同時に過去の記憶が芽生えて来た。正確に言うなら感情なのかも知れない。


《そうさ。世界は常に辛く、力の無い者にとって苦痛以外何者でも無い。ずっとそうだった。お前達もそうやって生きて来て、此処まで来たんだろ?》


 静かに語り掛ける様に話す。ゴーストとして生まれ、育ち、武器を持ち敵を殺したあの頃を思い出しながら。


《辛いよなぁ。苦しいよなぁ。何で俺がこんな目に遭わなければって常に思ってたよ。けどさ、仕方ないよね。生きる為には、どこかで妥協する必要があった》


 気が付けばコンフロンティア軍の動きが完全に止まっていた。そして知らん奴から返事が来た。


【君は……ゴーストなのかね?ならば、我々に手を貸して欲しい。そうすれば君がして来た行動は全て許そう】


 許す。果たして許すと言う言葉に意味は有るのだろうか?大体、ゴーストは許す許さないを選べる立場には居ないんだ。

 ゴーストが生きる世界はそんな甘い場所じゃ無い筈なのに。


《クク、ククククク……許す?許すだと?一体、貴様は何様だよ。あぁ、そうか。お前は搾取する側か。じゃあ……死んじゃえよ》

【ま、待て!君は何か勘違いをしている!我々は同じゴーストの筈!】


 HELブラスターの再充填をしようとした矢先だった。再び司令部より通信が来た。


『司令部よりヴィラン1へ。再度命令する。敵反乱分子を殲滅せよ』

「ヴィラン1……了解。敵を殲滅する」


 最早、俺には躊躇する必要が無かった。何故ならそう言う命令が来たからだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネロが頼りだな
[一言] レイド戦キタコレw
[一言] あれ?なんか主人公が戦死するヴィジョンが…ステラ…フォウ…うっ頭が…
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