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戦略級AW

 惑星ニュージェネスの首都トメラスは非常に先進的な場所だ。

 高い高層ビルが幾つも連なり、人工的な山を形成。更に高層ビルの間を沢山のレールが通っており人々の交通の不便を解消している。

 また首都上空には大小様々な輸送艇がひっきりなしに行き来してたり、地上は沢山の働く人々で溢れていた。

 正に惑星ニュージェネスの中心地である事が分かる。


 端末を片手に取引先と連絡を取る男性。

 時計台と噴水がある場所で相手を待っている女性。

 友達と店を巡りながら日頃の愚痴や気になる人の話をしている人達。


 自分達の直ぐ側で多くの人々が嘆き、悲しみ、死に絶えているにも関わらず、彼等はいつも通りの日常を送っていた。

 いや、彼等は実感していないのだ。直ぐ近くで殺し合いが起きている事を。情報でしか知る事が無い紛争は他人事と変わらない。自分達と関係無い人達が何処で死のうとも、生活レベルは変わらない。

 無論、多少の影響は徐々に出始めている。


 物価が僅かに値上がりした。


 その程度の影響しか無い。正確に言うなら市民達に勘付かれるのを阻止したいと政権内で決定しているのだ。

 市民達に真実を伝える必要は無い。そして、市民達は政府から出される情報だけを信じていれば良い。そうすれば何も心配は要らない。


 安心して今までと変わらない日常生活が送れるのだ。


(天才から見たら、大衆ってのは扱い易いんだろうな。でなければ簡単に従わせる事なんて出来無いだろうし)


 ヨハネス・シュナイダー総統は本物の天才だ。大衆を味方に付け、自分に都合の良い政策を出す。然も、ちゃんと大衆にも還元する形を取る事で多くの支持を得ている。

 俺には惑星ニュージェネスがシュナイダー総統の私物に見えてしまう。あの異様に高い高層ビル群も日常生活を営む人々も、全てが計算された上で成り立っている。

 結局の所、一部の天才が世界を動かし統治する。それが大衆にとって一番楽な生き方なのかも知れない。少なくともニュージェネスの市民達は今の状況を受け入れているのは間違い無い。


「まぁ、何でも良いか。報酬が貰えるんならさ」


 今後の惑星ニュージェネスの未来が発展しようが衰退しようが至極どうでも良い話。傭兵にとって戦場が有るか無いか。それ以外は関わりを持つ事は殆ど無い事だろう。

 VTLO式の輸送機が随分とご立派な高層ビルの屋上に降り立つ。俺とネロは誘導されるがままに輸送機から降りる。


「お待ちしておりましたキサラギ様。申し訳有りませんが武器は預からせて頂きます」

「勿論良いですとも」


 シュナイダー総統の秘書と思われる美人さんの指示に従い、隣に居る護衛にS&W500マグナムとコンバットナイフを預ける。そして秘書の後ろに着いて行きながら。この後の事を思考する。


(さてと、シュナイダー総統とやらが俺を指名した訳だが。一体、何をやらせたいのやら?たかが傭兵一人を呼び出す辺り、真っ当な内容じゃないのは理解出来るが)


 この場合、簡単に相手の言う事を信じるのは良くない。何故なら俺と言う存在を利用して何かを成そうとしている。

 つまり、俺を人柱にする可能性も有り得る訳だ。

 だが、同時にそう言った内容が来ると言う事はある意味有名人になったとも言える。

 これが大した腕も名声も無い奴なら存在すら認知されない。しかし、特別なギフトを持つ者や実力でのし上がった者は色々と注目を浴びる。そして、利用しても問題無いと判断されれば今の様な状況に陥る訳さ。


(何にせよピンチはチャンスだ。大方、デルタセイバーを倒せとかだろ?まぁ、言われるまでも無いんだがな)


 何方にせよ、俺にとって利益になるなら良い顔くらいはしてやるさ。


「こちらです。シュナイダー総統は寛容な方では有りますが、余り無礼な態度は」

「勿論、理解していますよ。その為に身嗜みは整えて来た訳ですから」

「失礼しました。それから……アンドロイドの方は」


 チラリとネロを見る秘書。


「ネロ、お前は此処で待機してろ」

「了解しました。マスター、お気を付けて」


 そして秘書がインターホンで話を通すとドアが開く。

 部屋の中にはタブレットにサインをしている人物。淡い金髪をオールバックにし、鷹の様な鋭い眼光。そして精悍な顔で厳格な雰囲気が出ていた。いや、実力者であり指導者としてのカリスマ性も溢れていた。

 そう、惑星ニュージェネスを統治し国民から絶大な支持を得ているヨハネス・シュナイダー総統が居た。


「失礼致します。傭兵企業スマイルドッグ所属、シュウ・キサラギ少尉です」

「うむ、ご苦労。そこにある端末を見て欲しい。機密扱いになるが気にする必要は無い」


 俺は机の上にある端末を手に取り、ソファーに座る。

 シュナイダー総統はそのままタブレットを眺めてつつ、サインをして行く。全く、仕事熱心な事で。

 俺は端末に表示されている内容を確認する。色々と書かれているが、要約すればデルタセイバーの破壊。可能であれば鹵獲して欲しいとの事だ。

 他にもコンフロンティアに関する事も書かれていたが無視しても構わないだろう。


(無茶な内容だな。デルタセイバーの性能は戦闘データからある程度把握出来ている筈。それを自分達では無く、傭兵にやらせようとする辺りクソみたいな依頼になりそうだ)


 これは早めに拒否する事も念頭に置くべきだ。

 そう考えた時だ。最後の一文に興味が湧いた。


『尚、機体に関してはシュウ・キサラギ少尉の為に調整済みである』


「調整済みだと?」


 この一文はブラッドアークの事では無い。なら、一体どの機体を指している?


「気になるかね?」

「えぇ、まぁ。そちらが用意した調整済みの機体。その機体が自分の専用機を超える性能が有るのか。言っては何ですが、ブラッドアークはサラガンやマドックより遥かに上な機体ですが」

「無論、承知している。しかし、デルタセイバーには手が届かない。違うかね?」

「ククク、お言葉ですが。正面以外のやり方なら幾らでも有りますよ」


 俺は暗にそちらが用意した機体が無くてもデルタセイバーは撃破出来ると伝える。しかし、シュナイダー総統はその回答を望んではいなかった。


 彼が望んでいるのは敵を殲滅する事が出来る人物だ。


「君の機体は機動力では互角と言った所だろう。しかし、火力と防御力が不足している」

「…………」


 シュナイダー総統の指摘は間違っていない。寧ろ的確な物だ。

 ブラッドアークで唯一互角にあるのが機動力だ。しかし、それ以外は圧倒的に不足している。至近距離からのビームキャノン砲の攻撃を防がれた時点で悪態を吐きかけたくらいだ。


(唯の統治者と侮ってたか?全く、これだから天才肌って奴は)


 まさか機体に関して色々突っ込まれるとは思わなかった。

 ブラッドアークは曲がりなりにも最新鋭機。然もバンタム・コーポレーションが主力商品として現在進行形で力を入れているZCM-08ウォーウルフをベースにした機体だ。

 にも関わらずシュナイダー総統は自分が用意した機体の方を勧めて来る。これは完全にブラッドアークに期待していないと言っている様な物だ。


「いやいや、参りましたね。現在存在しているAWでブラッドアーク以上の性能を持つ機体は限られてますよ?その限られた機体を用意していると?ハハハハ……今は冗談を言える状況では無いと思いますが?」

「無論だとも。だからこそ、君にこの機体を預けたいのだ」


 端末に送られる情報データ。それを目にした瞬間、俺は息を呑み目を見開いてしまう。


「この機体……いや、三大国家か限られた大企業しか保有していない筈」


 端末に映る機体。いや、戦略級AWの存在に目を疑ってしまう。

 そもそも戦略級AW自体、使われる事が殆ど無い。マザーシップ戦でも戦略級AWの使用許可が間に合わなかったくらい手続きに時間が掛かる希少な機体。

 戦略級AWが開発された経緯は、西暦2740年頃に起きていた大戦の膠着状態を打破する為に作られた機体だ。古い機体ではあるが改修されたり、新しく製造されたりと今でも現役な機体だ。

 尤も、現役な機体と言っても基本的には使用される事は無い。良くて抑止力程度で納めるのが理想の機体だ。


「一体、どうやって」

「気に入ってくれたかね?私もそれなりに苦労した物だが。この機体があればデルタセイバーと互角以上に戦えると思うがね。特に君の様にデルタセイバーと刃を交えた者なら分かる筈だ」


 俺は戦略級AWの機体データを見ながら確信した。この戦略級AWは地球連邦統一軍製の物。つまり、地球連邦統一軍はデルタセイバーを欲しているのだ。

 しかし表立って行動すれば色々と面倒な事になる。だが代行してくれる存在が居るなら地球連邦統一軍としては良い事だ。

 そして仲介人として名乗りを上げたのがシュナイダー総統。


(で、代行者が俺って訳か。チッ、上手く利用されてるな)


 シュナイダー総統の思考が何となく読めた。だが、それ以上に戦略級AWの存在が魅力的過ぎた。

 確かにブラッドアークではデルタセイバー相手には力不足なのは否めない。だからと言ってデルタセイバーに対抗出来るAWが簡単に見つかる訳が無い。

 だが、戦略級AWなら火力と防御力なら互角以上に渡り合えるのでは無いか?代わりに機動力は完全に有ってない様な物だが。

 それでもデルタセイバーに対抗出来る要素はブラッドアークより多いのは間違い無い。


「君が引き受けてくれると本当に助かるのだよ。君は地球連邦統一政府より認められた名誉市民だ。連邦も君の様な素性が分かる人物なら安心出来るからね」

「成る程。確かに、その通りですね」

「あぁ、報酬に関しては期待して貰って構わないよ。破壊しても構わないが、鹵獲すれば一生遊んでも使い切れない額を用意している」


 シュナイダー総統の甘い言葉を聞きながら、もう一度戦略級AWの機体データを見る。

 そもそも報酬より戦略級AWの存在が魅力的過ぎた。こんな超希少な機体を操縦するチャンスが向こうから転がって来たんだ。


 ならば、俺の答えは一つだ。


 静かに立ち上がりシュナイダー総統に向けて敬礼をする。


「了解しました。戦略級AW【ZXGT-01 ウシュムガル】を受領致します」


 俺は営業スマイル以上の笑顔をシュナイダー総統に向けながら依頼を了承したのだった。

これで更新は止まるんじゃよ。


え?此処から胸熱展開なのに切るのかって?









切っちゃうんダナァ!これがぁ!

ウヒョヒョ(°∀°≡°∀°)ウヒョヒョ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近になってこの作品を読み始めました めちゃくちゃ面白かったです。作者さんがロボット物がすごい好きなのがよくわかるし 主人公のキャラも主人公だけど主人公じゃない感じがすごく好みです 応援し…
[一言] あぁん~いけずぅ~
[一言] デカブツは確かにやられ役。だけれどもその代わりとして主人公以外への圧倒的な優位性があるよね。だいたい敵勢力の半分ぐらい吹っ飛ばしてトップエースを叩きつぶしてから主人公にやられる。ライバルポジ…
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