戦艦アルビレオVS戦艦グラーフ2
スマイルドッグ傭兵企業所属の戦艦グラーフを指揮するベイヤー・マクドナルド艦長の策略により、満足な反撃が出来ない戦艦アルビレオ。
そして、戦艦アルビレオにトドメを刺す為に再び収縮砲を緊急充填する戦艦グラーフ。
もはや、これまでと覚悟を決めたセシリア准将は真っ直ぐ突っ込んで来る戦艦グラーフを睨み続ける。
だが、この瞬間に戦艦アルビレオの盾になる艦が現れた。
【巡洋艦レオニードが本艦の前に出ます!】
【レオニード!】
船体を真横に向けながらアルビレオとグラーフの間に入り込む巡洋艦レオニード。旧ダムラカの反乱、マザーシップ戦で僚艦を務め続けて来た。
そんな優秀な艦長率いる以下船員達が乗るレオニードは砲門を、かつて肩を並べて戦った戦艦グラーフに向けて攻撃する。
しかし、その直後に戦艦グラーフの収縮砲から一瞬の光が出る。
収縮砲からエネルギーの暴力的な塊が一条の光となり発射。
そして巡洋艦レオニードのエネルギーシールドと船体を貫き、機関部に直撃する。
【セシリア准将、後はお任せしま】
敬礼と共に後を託す巡洋艦レオニードの艦長。だが、その直後に通信が切れてしまう。
同時に巡洋艦レオニードの船体が真っ二つに分かれて爆散する。
巡洋艦レオニードの命を賭けた行動。だが、その行動に一切の表情を変えないベイヤー艦長。
「艦首ミサイル全弾発射!続いて主砲一斉射撃!」
確実に戦艦アルビレオを潰す。もしくは行動不能まで持ち込もうとする強い意志。
レオニードの爆煙の中を躊躇無く突き進み、再び戦艦アルビレオに狙いを絞る。
【反撃!主砲攻撃!】
対してセシリア准将も反撃命令を下す。もはや互いの距離は近過ぎる状況。それでも相手を潰す事を優先しての攻撃命令。
互いの主砲が同時にビームを発射。既に対ビーム撹乱粒子の効果が無い距離。どちらもエネルギーシールドを貫き船体に大きなダメージを受けてしまう。
「舵そのまま‼︎敵艦隊を抜ける‼︎」
そしてアルビレオとグラーフの船体が互いに擦れ合いながら交差する。艦内には大きな振動が走り、船体が大きな軋み声を上げる。
同時に敵艦隊に突入して孤立してしまうスマイルドッグ艦隊。
だが、既に勝敗は決していた。
戦艦アルビレオの重力砲が使用不可能になったのと同時にニュージェネス軍第一艦隊が再び前進を開始。更に左翼から第二、第三艦隊が攻撃を開始。
慌てて対ビーム撹乱粒子を散布するコンフロンティア艦隊とエルフェンフィールド艦隊。しかし、既に戦力差は圧倒的不利な状況。頼みの綱となる旗艦アルビレオは大きな被害を受けた上、重力砲に損害が出てしまう有様だ。
【ッ……やられたな。完全に】
セシリア准将は悔しそうに呟きながら反転命令を出す。少なくとも撤退する為の道はニュージェネス側が用意していた。何故ならエルフェンフィールド軍と本格的に戦う事を望まない上層部が決めたのだ。
【相手を侮っただけで無く、情けを掛けられるとは。これは……屈辱だ】
戦艦アルビレオの性能は間違い無く優秀だ。それこそ超級戦艦、弩級戦艦に確実なダメージを与えられる程に。
しかし、その性能の胡座をかいてた隙を突かれた結果が今の状況だ。然も己の慢心の所為で巡洋艦レオニード一隻と乗組員達の命を失う結果となった。
悔しさに顔を歪ませながらも撤退する事を命じるセシリア准将。そして同時にスマイルドッグ艦隊への追撃中止を命じる。
情けを掛けられた上、満身創痍のスマイルドッグ艦隊を攻撃する。こんな屈辱的な事をする程、セシリア・ブラッドフィールド准将は落ちぶれてはいなかった。
スマイルドッグ艦隊はコンフロンティア艦隊を抜けたのと同時に、ベイヤー艦長は直ぐに被害を報告させる。
「船体左側が大きく損傷。また収縮砲も熱暴走寸前です」
「駆逐艦二隻、フリゲート艦二隻轟沈。他の艦艇も中破、または大破しています」
「第二格納庫に被害、及び負傷者多数」
「衛生班緊急出動せよ。繰り返す、衛生班緊急出動せよ」
「AW部隊は七割が健在。現在も対空警戒を継続中」
「敵からの追撃有りません。どうやら味方艦隊が上手く惹きつけてくれています」
戦艦グラーフだけで無く、駆逐艦二隻とフリゲート艦二隻を損失。更にAW部隊の三割を失う結果となった訳だが。
「のおおぉぉ……被害額が。おのれぇ、エルフェンフィールド軍の奴等めぇ。貴様らと違ってこっちには税金なんぞ降って来んのだぞ!無駄に足掻きおって!」
既に大赤字となった艦隊の惨状を見て社長は頭を痛める。だが敵艦隊に突っ込んだ挙句、敵旗艦アルビレオにダメージを与えただけでも上等だ。更に言えばスマイルドッグ艦隊はまだ戦闘続行可能レベルなのだ。
最早、奇跡に近い素晴らしい結果を出したと言っても過言では無いだろう。
「社長、落ち着いて下さい。幸い敵からの追撃はありません。寧ろ味方艦隊の攻撃により撤退しています」
「ぐぬぬぬぬ……ふん、わざわざ逃げ道を用意してやったのだ。これで、こちらの意図を理解した筈」
「少なくともエルフェンフィールド軍は理解したでしょうな。残りのコンフロンティア艦隊に関しては何とも言えませんが」
「まぁよい。これで当分の危機は去った。それに敵地上部隊も完全に孤立させる事も出来た。これより一部のAW部隊以外は全て地上に降下させろ。残党狩りで稼がせて貰わんとな」
社長は既に頭を切り替えて次の稼ぎ場所に部隊を送る事を決める。
「宜しいのですか?相手にはデルタセイバーが居ますが」
「構わん。その為のキサラギだ。奴の腕ならデルタセイバーを足止め出来る」
「キサラギ少尉を信頼しているのですね」
「ふん、そんなんでは無い。無理して奴の専用機の搬入を急かしたのだ。それ相応の結果は出して貰わんとな」
社長の言葉を聞いて素直では無いと内心思いながら、地上部隊の編成を行うベイヤー艦長であった。
傭兵達はティラナ軍事基地に撤退していた。もはや地上のコンフロンティア軍の勢いを止めるのは困難な状況となった。
だが、此処に来て戦場の女神は俺達に微笑みを向けた。
宇宙での戦いではコンフロンティア艦隊、エルフェンフィールド艦隊の撃退に成功。その結果、地上のコンフロンティア軍の補給線を断つ事になった。
満足な補給と援護が無くなり、完全に孤立したコンフロンティア軍に最早勝利する事は不可能だろう。
「後は、デルタセイバーだけだな」
ナナイ軍曹から宇宙での戦いの詳細を聞きながら現状を確認する。
恐らく次の戦いはティラナ軍事基地周辺で行われるだろう。ティラナ軍事基地を抜けながら少し遠回りに行けば首都まで行ける。そうなれば嫌でも首都防衛戦をしなければならない。
しかし、ニュージェネス軍もコンフロンティア軍も共に首都での戦いは避けたい筈だ。首都はこの惑星の心臓部だ。大事な心臓を傷付ければ、治療するのは結局自分達が行わなければならない。
コンフロンティア軍はゴースト更生労働法の破棄を望み、ニュージェネス軍は首都圏での戦闘は避けたい。
つまり、次の戦いがある意味決戦になる。
何方も首都に被害を出したい訳では無いだろう。ヤン・ハオティエンもシュナイダー総統も優秀で理性的な人種だ。最低限の線引きくらいは考えているだろう。
「しっかし、俺達の部隊も結構被害出たな」
「はい。その分の補充と言う訳では有りませんが、宇宙よりAW部隊が派遣されます」
「どうせ宇宙でやる事が無くなったんだろ?そうなるとジャンとか来るのかな?嫌だなー、絡んで来ると面倒だしー」
「傭兵達の間では人気に入るジャン大佐に対して、そんな事を言うのは貴方だけです」
「褒めんなよオペ子。それよりだ。見てみろよ。あのガラクタになっちまってるアーミュバンカーの姿を」
俺が指を刺す方には穴だらけになり、武装も破壊され尽くされた無残なアーミュバンカーの姿があった。そして、猫耳と尻尾がションボリとして元気の無いアズサ軍曹の姿も見える。
パッと見る限り怪我はしている風には見えない。全く、悪運の良い奴だ。
「アズサ、怪我はしてないか?」
「先輩。怪我は擦り傷程度なんで大丈夫ッス。でも……自分の機体が」
「言いたい事は分かる。自分の専用機がコテンパンにされる時程、悔しい物は無い。だけどな、お前は生きて帰って来た。然もほぼ無傷だ。なら、お前の代わりにガラクタになった機体に感謝しとけ」
「そうッスね。アーミュバンカーには感謝しかないッス。けど、修理費が」
多分、アズサ軍曹が一番頭を悩ませてるのは出費の部分だろうな。
アーミュバンカーのベースがTZK-9ギガントだとしても色々カスタムされている。共通部品はあるだろうが、専用機特有の特殊パーツも使ってる。
現状のアーミュバンカーを見ても良くて胴体の内部と脚部の履帯は無事なので、装甲張り替えで対応出来るだろう。だが、他は全部は交換か修理が必須だ。
「武器も派手に壊れてるもんな。次は諦めてノーマル機でも使っとけ」
「ううぅぅ……先輩」
「嫌です」
「まだ何も言って無いッスよ!」
「どうせ修理費半分負担か敵を引き寄せて欲しいのどちらかだろ?生憎だが俺はデルタセイバーの相手で手一杯なんでな」
「そうッスよねぇ。はぁ、何でデルタセイバーが……いや、エルフェンフィールド軍が居るんスか」
「俺が知りてぇよ。全く、普段は介入する事なんて無い引き篭もり連中なんだがな」
しかし、アズサ軍曹の落ち込み具合が酷い。次の戦闘で引き摺られても困る。
俺は仕方無いと割り切りつつも、溜息一つ吐いて端末を出す。
「アズサ、端末出せ。今なら利息無しでなら貸してやるよ」
「……マジッスか?」
「早くしろ。嫌なら別に良いけど」
「ま、待って下さい!はい!お願いしゃッス!」
俺は少なくない額をアズサ軍曹の端末に送る。全額払う気は無いが多めには貸してやる。まぁ、こう見えて俺はクレジットを持ってるからね。
基本的に機体を壊そうとも、それ以上の戦果と報酬を持って帰るから赤字にはならない。
まぁ、エースが成せる荒技ってやつだ。
「返済は無理にする必要は無い。代わりにしっかり稼いで来い」
「はいッス!自分先輩に一生着いていきまッス!」
「調子の良いニャンコめ」
俺は元気を取り戻したアズサ軍曹の頭と猫耳をわしゃわしゃと撫でる。アズサ軍曹はされるがままだが嫌な顔はしない。
「何と言いますか。貴方は特定の人には変に優しいですよね」
「そうかぁ?コイツが働いてくれないと俺の負担が増えるからな」
「そう言う事にしておきましょう」
暫く格納庫で喋っているとニュージェネス自治軍の士官一人と兵士数人が近付いて来た。
「失礼します。スマイルドッグ所属のシュウ・キサラギ少尉で?」
「えぇ、自分がそうですが。何か?」
「申し訳有りませんが首都まで御同行を願います。シュナイダー総統よりキサラギ少尉が指名されましたので」
ヨハネス・シュナイダー総統。惑星ニュージェネスの統治者でゴースト更生労働法を推し進めており、同時に現在の戦いの発端的人物だ。
故にコンフロンティアの親玉になっているヤン・ハオティエンとは敵対関係になっている。
元々は同じ志を持つ者同士だったのに、僅かな行き違いで今の様な状況になっている。然も何方も優秀な政治家だからこそ、強力な戦力を招集して紛争を早期終結を目指している。
尤も、被害を悪戯に増やしているのは皮肉としか言えんが。
そんな総統閣下殿が俺を呼び出しているとは。何を企んでるか知らないが報酬が高い物だと良いんだがな。
「シュナイダー総統から?了解しました。唯、先にシャワーとか着替えても?」
「勿論構いません。ではヘリポートで待っています。それでは」
そう言って敬礼をしながら去って行く士官と兵士達。俺達はそんな彼等の背中を見送る。
「さてと、何か知らんけどお呼ばれされたから行ってくるわ」
「気を付けて下さい。シュナイダー総統は優秀で切れ者ですので」
「分かってるよ。まぁ、サインが欲しいって言われたらファンサービスには応えてやるさ」
そしてナナイ軍曹とアズサ軍曹と一度分かれて自室に戻る。そしてシャワー浴び、着替えをしてネロをアンドロイドボディに移動させる。
「マスター、私はどうしましょうか?」
「着いて来い。何があるか分からんからな。流石に暗殺紛いな事はされんだろうが。一応な」
「了解しました。警戒モードに入ります」
「心配すんなって。多分大丈夫だからな」
瞳の色が赤と青に分かれた戦闘モードになるのを止めさせながらヘリポートに向かう。
一応最低限の護身用に武装するのも忘れずにな。
「さてはて、次は何が待っているのやら。デルタセイバーやエルフェンフィールド軍以外なら何でも良いか」
今や目の上のタンコブと化した二つの存在を思いながらヘリポートに向かうのだった。
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