戦艦アルビレオVS戦艦グラーフ
地上での戦闘が激化していた頃。宇宙でもコンフロンティア艦隊とニュージェネス艦隊の戦闘が本格化し始めていた。
「やれやれ、何とか説得には間に合ったか」
「社長、お疲れ様でした。ですが、社長のお陰でエルフェンフィールド軍の旗艦アルビレオにダメージを与える事が出来る可能性が上がりました」
「奴等さえ居なくなれば後は烏合の衆に過ぎん。そうなれば惑星軌道上の制宙権は我々の物になるからな。宇宙からの支援を満足に受けられなくなりコンフロンティアは弱体化する」
今も続いている地上の戦いの推移を決めると言っても過言では無いだろう。
だからこそ、ジャン大佐を筆頭とした他の傭兵企業のトップに言ったのだ。一番被害を受ける役割を担当する代わりに全力で援護しろと。
結果としてシルバーセレブラムを始めとした他傭兵企業とニュージェネス艦隊から了承を得た。
「艦長、間も無く作戦開始時間になります」
オペレーターからの言葉に時間を確認する。
「ではベイヤー艦長。後は頼むぞ」
「了解しました。各艦、第一戦闘用意!」
「各艦へ通達。第一戦闘用意。繰り返す、第一戦闘用意」
「各砲座、エネルギー伝達を開始」
「主砲一番から五番のエネルギー充填開始」
「艦首大型ミサイル装填完了」
「艦載機、発艦準備完了しました。いつでも出せます」
こちらの動きを察知したコンフロンティア艦隊も迎撃体制を取り始める。
「ならず者の集まりにしては中々良い動きをする」
「ならず者とは言え、このグンマー星系で鍛えられた戦闘技術は本物でしょう」
「それは同じグンマー星系出身から見た意見か?」
「私もかつては艦隊を指揮していた身。その経験から言わせて頂きますと奴等は手強いです」
そして艦隊の戦闘準備が整ったのとほぼ同時に作戦時間となった。
「3、2、1、作戦開始時間です」
「主砲、艦首ミサイル一斉射撃!撃てえぇー!」
艦隊により漆黒の宇宙に眩いビームの光の束が走り交差する。そして次々と艦載機が艦隊より出撃して行く。
『さて、ようやく俺達の出番だ』
『待ちくたびれたぜ。このまま地上の連中だけが稼ぐかとヒヤヒヤしてたぜ』
『スピアセイバーも強敵だが、他の敵AWにも気を付けろってベイヤー艦長からの有り難い忠告だ。気を引き締めろよ!』
『伊達にキサラギからメインのオカズを取られ続けた訳じゃねえって事を証明するぞ』
次々とカタパルトから出撃するAW部隊。そんな中、ベイヤー艦長は敵となった戦艦アルビレオをモニター越しに睨み続ける。
「強力な武装が万能で無い事を教えてやろう」
そして帽子のツバを掴み位置を整えながら次の指示を出すのだった。
傭兵企業シルバーセレブラムも今回は積極的に行動していた。何故ならスマイルドッグ艦隊の右側に展開する様にシルバーセレブラムの艦隊が居るからだ。
「さてと、エルフェンフィールド軍の皆さん方は俺の欲求をどう満たしてくれるのかなぁ?」
自身の愛機【YZD-23Sアンファング】に乗り込み戦闘システムを立ち上げるジャン・ギュール大佐。
その表情は狂犬的な笑みが浮かんでいる。
『ジャン、あんまり無茶な事は駄目よ?貴方は団長であり私達を率いているんだから』
「分かってるさジェーン。それに、俺が心配だから着いてくるお前の方がよっぽと無茶してるぜ」
『私は良いのよ。貴方の為に死ねるなら本望よ』
「全く、相変わらず危なっかしい台詞を言うよなぁ」
ジェーンもパープルカラーの【YZD-23Fロンファング】に搭乗しており、出撃する準備を終えていた。
何方も互いを大事に思っているのは間違い無いだろう。それでも戦場に出て戦うのは本人の業なのかも知れない。
『ギュール大佐、間も無く出撃になります』
「了解した。さて、じゃあひと暴れしようかね!」
機体がカタパルトに移動される。武装はビームマシンガン、250ミリバズーカ。両肩に特殊兵装ビット。肩側面部には追加ブースターで機動力を上げている。
ハッチが開けば既に艦隊同士の激しい撃ち合いの真っ最中。そんな戦場を見て己の中に居る獣が高揚する。
『進路クリア、発進どうぞ』
「ルシファー1、出るぞ!」
強烈なGを感じながら宇宙へと羽ばたくアンファング。
続いてジェーンもカタパルトに移動して武装を整える。ビームライフル二挺と両肩にはショットカノン。肩側面部には小型多目的シールドを装備。
『姐さん、団長をお願いします』
『えぇ、任せて頂戴。そっちもガーディと艦隊を任せるわ』
『お任せ下さい。お二人が帰って来る場所は必ず守ります』
艦長の言葉に笑みを浮かべるジェーン。その魅惑の笑みに絆される訳には行かないと首を振る艦長。
『進路クリア、発進どうぞ』
『ルシファー2、出るわ』
パープルカラーのロンファングが勢いよく宇宙に飛び出してルシファー1の後を追う。
「それじゃあ、まずは邪魔な小物を片付けるか。やっぱり本命は最後の最後で楽しまねぇとな」
レーダーを見れば前方から多数の戦闘機とAWが接近して来る。
【敵AW部隊を確認!畜生!スパイダーだ!エースだぞ!】
【エース機は俺達が対処する。その間に敵艦を一隻でも墜とせ】
【連中は気でも狂ったか?艦隊の距離が近過ぎるぜ】
そうなのだ。本来なら簡単にAWや戦闘機を艦隊に近付けさせない為に距離は取る必要がある。
だが、ニュージェネス第一艦隊は徐々に間合いを詰める様に前進しているのだ。
この動きを察知したコンフロンティア艦隊は間合いを維持させる為に後退せざるを得なかった。
「来たか。数だけで攻撃しようとしても意味はねぇぞ!行けよ!ビットォ!」
アンファングから解き放たれは多数のビットは、目の前の敵AW部隊に向けて襲い掛かる。
【ッ⁉︎ビットだ!円陣防御!】
【弾幕を張れ!ビットを近付かせッ!うわあああ⁉︎後ろから⁉︎】
【囲まれてる!本体だ!本体に集中攻げヒギィッ⁉︎】
【畜生!四方八方からの攻撃かよ!】
必死に抵抗する敵AW部隊。しかし、瞬く間に隣に居た筈の仲間が消えて行く。
「オラオラ!どうした!威勢が良いのは最初だけかぁ?つまんねぇんだよ!」
ビームマシンガンの射程内に入った敵サラガンを穴だらけにしながら接近するジャン大佐。
しかし、敵も黙ってやられる訳では無い。一機のマドックがミサイルを発射しながらアンファングに向けて吶喊する。
【貴様だけでも!道連れにしてくれるわ!】
60ミリショットガンで邪魔するビットを撃ち落とし、僅かに出来た突入路に向けて加速する敵マドック。
だが次の瞬間には上から散弾の雨が降り注ぎ、そのままブースターを破壊され、あらぬ方向へ吹っ飛びながら爆散してしまう。
『貴方程度の存在がジャンの近くに寄らないでくれるかしら?』
冷徹な声と共に両肩のショットカノンでジャン大佐に近付く敵機を消して行く。
ジャン大佐はビット兵器を扱える上に接近戦も難無く行える。しかし、それでもビット兵器を扱う時は僅かとは言え隙が出来る。
その隙を極力ゼロにする事がジェーンの役目でもあり、ジャン大佐の願いを直ぐに叶える為の行動だ。
「ジェーン、いよいよ始まるぜ。スマイルドッグ艦隊のチキンレースが」
『本当に作戦は成功するのかしら?』
「確かに作戦内容はぶっ飛んでた。だが、そうでもしねぇと墜とすのが困難だと理解した上での事だろうさ」
スマイルドッグから提示された作戦内容は実に単純だ。エルフェンフィールド軍の旗艦アルビレオが重力砲を展開したのと同時にスマイルドッグ艦隊が突撃。そして戦艦グラーフの持つ収縮砲を直撃させ重力砲の機能を破壊。もしくは一時的にでも機能停止に追い込む。
一見無謀な作戦にしか見えない。しかし、アルビレオには確実にやる行動がある。
重力砲を展開する為に艦隊より前に移動する事。
それは重力砲により味方を巻き込まない為の行動でもあり、己を危険に晒す行動。
だからこそ、そこにアルビレオにダメージを与えるチャンスがあるのだ。
「それに、重力砲を展開させる為に艦隊が態々近付いたんだ。近付いた分、援護射撃は充分通る」
『敵艦隊からの集中攻撃にどれだけ耐えれるかよね。ハァ、あの坊やだけでも手が掛かるのにスマイルドッグも手が掛かるなんて』
本当に世話が掛かるわねと一言呟きながら、味方艦隊に接近しようとする敵戦闘機部隊を蹂躙する。
そして、遂にエルフェンフィールド艦隊の旗艦アルビレオが前に出る。
「来たか。後はスマイルドッグ艦隊の腕の見せどころだな」
実際の所、ジャン大佐にとってスマイルドッグ艦隊がどうなろうとどうでも良い。寧ろアルビレオと刺し違えたとしたら、キサラギ少尉を勧誘する腹積りがあるくらいだ。
それでも今回は一番被害を受ける役を自ら立候補した為、全力で援護はしてやるつもりだ。
それがジャン大佐が出来る最低限筋を通すと言う事だ。
敵旗艦アルビレオが前進を開始した。それと同時にスマイルドッグ艦隊は作戦を開始する。
「アルビレオの前進を確認!艦隊の前方に出て来ます!」
「来たか。機関最大出力!スマイルドッグ艦隊最大船速!」
「全砲門攻撃自由。敵機を近付かせるな」
スマイルドッグ艦隊がブースターを全開にしながら敵艦隊に向けて突撃を開始。そしてスマイルドッグ艦隊を援護する様に後方から対ビーム撹乱ミサイルが発射される。
「AW部隊、船体に着地確認。そのまま攻撃を続けて下さい」
『任せろ!サニー隊は右翼に向けて全力射撃!死んでも撃ち続けろ!』
「上方より敵戦闘機接近!対空砲!弾幕!」
単独で突撃をする艦隊は敵にとって格好の獲物。だが、それでも速度を落とせば瞬く間に敵に囲まれて終わる。
一度突撃をしたら最後まで速力を落とす訳には行かないのだ。
そして敵旗艦アルビレオの重力砲が攻撃を行う為に艦首部分が広がる。
「敵旗艦アルビレオが重力砲を展開!エネルギー急速に上昇!」
「来たか。収縮砲緊急充填!砲術!外すなよ!」
「各艦はアルビレオに集中攻撃!此方の意図を読ませるな!」
収縮砲の緊急充填。これは艦首に搭載してある収縮砲の充填速度を僅か6秒にする代物。そして、これこそがスマイルドッグの旗艦グラーフの切り札。
同時にその切り札は二枚ある。
戦艦グラーフが収縮砲を緊急充填をして3秒経った頃にセシリア准将はスマイルドッグ艦隊の意図を把握する。
【面舵!回避機動!】
しかし、気付くのが少々遅かった。回避機動を取ったのと同時に戦艦グラーフの収縮砲から高エネルギーの塊が発射される。
収縮砲から放たれた攻撃はアルビレオのエネルギーシールドを貫通して左側の船体に直撃。重力砲を展開する為にエネルギー配分を重力砲寄りにしたのが仇となった。
【うわあああ⁉︎直撃です!】
【被害報告!敵戦艦の動きはッ!】
【なッ!て、敵戦艦の速度落ちません!突っ込んで来ます!】
【なんだと?まさか!】
更に距離を縮めて来るスマイルドッグ艦隊。そして戦艦グラーフの艦橋内でベイヤー艦長は更に畳み掛ける様に命令する。
「収縮砲、再度緊急充填開始!同目標、敵旗艦アルビレオ!」
再び収縮砲にエネルギーが急速に集まり始める。
【重力砲を緊急停止!前方に向けてエネルギーシールドを全開に回せ!】
【しかし緊急停止は船体に大きなダメージが】
【その程度で反論するな!緊急停止!急げ!】
副長の反論を一喝で無視して命令する。しかし、その間にも戦艦グラーフとの距離は確実に縮まっていた。
戦艦グラーフとの距離が既に間近に迫っている。そして艦首の収縮砲に集まる高エネルギーの塊。砲撃の雨の中を突き進みながら、確実に戦艦アルビレオを仕留める為に狙いを絞る戦艦グラーフ。
(まさか、この最新鋭艦のアルビレオが)
そこら辺の有象無象と大差無い戦艦一隻に墜とされる。そう思ってしまったセシリア准将。
いや、思わざるを得なかった。圧倒的優位にある筈だった。戦艦アルビレオの性能は既に多くの勢力が知っている。そうなれば簡単に手を出す事はしなくなる筈だった。
それを、アルビレオの性能を間近で見て良く知るスマイルドッグ艦隊が打ち破った。
【慢心した報いか】
セシリア准将は覚悟を決めてモニターに映る戦艦グラーフを睨む。
艦首の収縮砲から光が溢れ出すその時まで。