アーミュバンカーVSスティング
デルタセイバーとブラッドアークが激闘を繰り広げていた頃。キャット1ことアズサ軍曹は目の前のカスタム軽量機相手と対峙していた。
「随分と華奢な機体に乗ってるんスね」
【そう言う貴女は動きが鈍そうな機体ですけど】
「これで良いんスよ。そんな45ミリ程度じゃあアーミュバンカーは負けなんでね!」
最初に攻撃を仕掛けたのはアズサ軍曹のアーミュバンカーだ。四連装ショットガンから次々と散弾が繰り出される。
しかし、軽量機のAWは高く跳びながら射線をズラしながら反撃する。
【火力だけはある様ですね。しかし、私と【スティング】の相手には物足りない】
「ムッカー!なら、こいつもくれてやるッス!」
反撃を喰らいながらも大口径ガトリングガンを展開。更なる弾幕を張りながらスティングを狙い撃つ。
しかし、シズリが操るスティングは非常に堅実であり確実にアズサ軍曹を挑発していた。
建物から飛び出してはアーミュバンカーに45ミリを撃ち込み、そのまま直ぐに射線を切る様に隠れてしまう。徐々にアーミュバンカーの周りの建物が穴だらけになるか、崩壊を始めて行く始末。
「ニャアアァァ……全然当たらないッス。何でなんスか?」
【それはね、貴女が唯何も考えずに撃ってるからよ】
「うぐっ。だ、だって、狙って撃つのとか余り好きじゃ無いし。まとめて吹き飛ばすのが良いじゃないッスか!」
シズリが茶化す様に言うと律儀に返すアズサ軍曹。この辺りはどこかの主人公とは大違いだ。
しかし、アズサ軍曹には若干の焦りが生まれ始めていた。大抵の敵なら撃ち続けていれば撃破出来ていた。だが、目の前の敵機はこちらの攻撃を見切っているのだろう。でなければ、あんな戦い方はしない。
(厄介ッスね。けど、簡単には引き下がらないッスよ)
レーダーを見ながらスティングの位置を把握する。しかし、突如別方向から攻撃を受けてしまう。
【敵AWを発見!攻撃だ!】
【味方が攻撃を受けている。援護するぞ】
【アレは傭兵か。なら遠慮なんてしなくて良い。派手に撃ってやれ!】
【そんな鈍重そうな機体で孤立してると危ないぞぉ。今みたいな状況になるからな!】
AW三機、MW六機、戦車六輌の敵の混戦部隊と接敵してしまう。
「邪魔するんじゃねえッスよ!」
しかし、アズサ軍曹は真っ向から反撃態勢を取り前進を開始。足元にある車や大破した戦車の残骸を蹴散らしながら前進する。
【馬鹿が!たかが一機で何が出来る!ミサイル一斉発射!】
敵AWとMWからミサイルが次々とミサイルが放たれる。無論、アーミュバンカーにも肩部側面用の迎撃ミサイルポッドを搭載している。そしてミサイルの接近を検知した迎撃ミサイルポッドから迎撃ミサイルが発射される。
空中で何発かは撃ち落とす。しかし、残りのミサイルがアーミュバンカーに迫る。
「邪魔ッス」
四連装ショットガンを飛んで来るミサイルに向けてトリガーを引く。そしてミサイルと散弾が打つかり大爆発が起こり、爆炎がアーミュバンカーを襲う。
【やったか!】
【よし!一機撃破!俺達だってやれるんだ!】
【良くやった。次を探すぞ。まだまだ倒さなければならない敵は多いからな】
喜びながらも次の獲物を探すコンフロンティアの兵士達。しかし、爆煙の中から何かが飛び出して来た。
「頂きッス!」
大口径ガトリングガンを構えながら前進をするアーミュバンカー。一部の追加装甲が破損している以外、目立った損傷は無い。
そう、アズサ軍曹はあの僅かな時間で確実に自分に飛んで来るミサイルを撃ち落としたのだ。更に被害も最小限にした上で敵機に対して照準を向ける。
力強く地面を駆けながら四連装ショットガンと大口径ガトリングガンの銃口を敵混戦部隊に向ける。
そして怒涛の弾幕が敵部隊に襲い掛かる。
【か、回hッ⁉︎】
【まだ奴は生きてギャッ⁉︎】
【撃ち返せ!反撃を!】
反撃する間も無く敵混戦部隊は凄まじい弾幕の中に散って行く。唯一、正面装甲が硬い戦車だけが数発ほど反撃する事が出来た。だが、その砲弾もアーミュバンカーの増加装甲に阻まれるだけに終わってしまうのだった。
「はぁ、はぁ……ッ!あの軽量機は」
【見事な見切りでした。しかし、隙が大き過ぎます】
「ッ‼︎」
背後から凄まじい速度で迫るスティング。更に45ミリの弾幕がアーミュバンカーに襲い掛かる。
慌てて旋回するが、既にスティングの間合いに入ってしまっていた。そして、スティングの肩部特殊兵装アラクネが展開。二本の近接用サーベルを展開しながら迫る。
アラクネから繰り出される斬撃により左手に持つ四連ショットガンと左肩の大口径ガトリングが斬り裂かれる。
「ニャアアアア⁉︎修理費ー‼︎」
瞬く間に脳内で武器の修理費と購入額の数字が浮かび、つい悲鳴に近い叫び声を上げるアズサ軍曹。しかし、それでもシズリの攻撃は止まらない。
決して正面に回らない様に立ち回るスティング。徐々にダメージが蓄積されるアーミュバンカー。
【何て硬さですか。これだけダメージを与えているのに】
しかし、アーミュバンカーは非常に硬く堅牢だ。多数の45ミリが被弾していると言うのに未だに稼働している。
既に大口径ガトリングガンと左手に持つ四連装ショットガンは破壊した。更に何度も斬りつけた結果、左腕を損壊させ背中のブースターにも損傷を与えた。
後は時間を掛けて行けば勝てる。
しかし、そんな絶望的な状況でもアズサ軍曹は諦めてはいなかった。
(まだッス!まだチャンスはあるッス!)
最後までスティングが隙を作るのを辛抱強く待ち続ける。
そして、遂にそのチャンスが来た。
【まだ戦う意志がある事に敬意は評します。しかし、結果は変わりません。これで終わらせます!】
再び45ミリの弾幕をアーミュバンカーに浴びせながら猛スピードで接近するスティング。
そして、アラクネから繰り出される斬撃がアーミュバンカーに迫る。
だが、接近戦をすると言う事は自身も相手の間合いに入る事を意味する。
「この距離ならこれでも喰らえッスよ‼︎」
【なッ⁉︎】
振り向き様に右手に持つ四連装ショットガンを振り上げる。流石に銃器を鈍器として扱う事を想定していなかったのか完全に隙を突かれた形になるシズリ。
そしてアラクネが持つ二本の近接用サーベルがアーミュバンカーの装甲を抉り、頭部を斬り飛ばす。
しかし、代わりにアーミュバンカーから振り下ろされた四連装ショットガンがスティングの頭部を叩き潰す。
「まだまだああぁぁ‼︎ドッセイ‼︎」
【ガハッ⁉︎な、なんてデタラメな】
更にアーミュバンカーは生きているブースターを使い一気に前進。そのままスティングに向けて体当たりを敢行。
流石に軽量機のスティングでは重量機であるアーミュバンカーの体当たりに耐える事は難しい。しかし、シズリにとって幸いな事にアーミュバンカーの突進速度は速くは無かった。
咄嗟にアラクネを使いコクピットを防御したが、脚部が損傷。一気に機動力が落ちてしまう。
【……中々、やりますね。流石はスマイルドッグの傭兵と言った所でしょうか】
形勢が不利と悟ったシズリは直ぐに距離を取り撤退する。その引き際の良さは敵ながらお見事としか言えないくらいに良かった。
「あ!逃げるんスか!」
【見逃してあげるんですよ。現に貴女の機体にはまともな武器が無いでしょう?】
「うぐ。そ、それはアンタが破壊したんスよ!あ、修理費が!」
そしてアズサ軍曹と距離を取りながら通信をゲンさんの方に切り替える。
【ゲンさん、すみませんが離脱します】
【一人でも大丈夫ですかい?】
【えぇ、離脱くらいなら問題はありません。そちらは?】
【一撃離脱を徹底されてますわ。まぁ、俺の名前が知られてる以上は仕方ありませんわな】
鬼神のゲンの異名は伊達では無い。対艦バスターソード一本で間合いに入った敵機を問答無用で叩っ斬られると言われている。
その姿は一騎当千。正に向かう所敵無しと言える程の腕前と度胸を持っているのだ。
その為、ベテランや慎重派の傭兵は鬼神のゲンと出会えば自ずと一撃離脱に撤するか遠距離攻撃に切り替えるだろう。
中にはキサラギ少尉の様に問答無用で接近戦を挑むパイロットも居るが、そんな酔狂な奴は稀なのだ。
【まぁ、自分もそろそろ離脱しますわ。機体も俺と同じで余り無茶が出来無いので】
【そうは見えませんよ?ゲンさんはまだまだ現役ではありませんか】
【いやいや、ご覧の通りもうオジさんになってるんでね。取り敢えず後方から指揮する形を取ります】
【分かりました。では、一度離脱しましょう】
そしてシズリとゲンは素早く後退して行く。追撃する事も考えたチュリー少尉だったが、アズサ軍曹の状態を確認する事を優先した。
『キャット1、生きてる?機体は、うーん……何と言うか悲惨ね』
アーミュバンカーの近くに降り立ったチュリー少尉は思った事を口にしてしまう。
何故ならアーミュバンカーの全周に渡って被弾しており、武装は全て破損状態。更に左腕は完全に使い物にならない状態になっていた。
『うわーん!こんなに被弾しちゃったら修理費がー!』
『経費で落ち無いの?』
『グス、落ちるには落ちるッスけど。自前の機体や武器は基本自腹ッス』
『一応ギガントのカスタム機でしょう?機体分くらい経費で落として貰いなさい』
『落ちるかな?でも社長はドケチッスから。多分、武器分は絶対に落ち無いッス。後、無駄に依頼額が高額な任務を回して来るッス』
しょんぼりと落ち込んでしまうアズサ軍曹。しかし、何はともあれ生き残る事が出来た。更に敵のエース機を撤退まで追い詰めたのだ。臨時報酬に僅かな希望を託すしか無いだろう。
この後の市街地での攻防戦はニュージェネス自治軍の撤退と言う形で幕を下ろした。
何故なら市街地に多大な被害が出た上に、集中攻撃を終えた後にデルタセイバーがガイヤセイバーを連れて元気に空を飛行しながら上空から攻撃を再開したのだ。
あんな化け物みたいなAWを見せられてしまったら、士気がガタ落ちするのも仕方ないだろう。
結果として都市に多数の被害を出したにも関わらず、ニュージェネス自治軍はコンフロンティアの進撃を止める事が出来なかったのだ。
尤も、それは地上戦での話になるのだが。