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デルタセイバーVSブラッドアーク2

「終わりだ‼︎デルタセイバー‼︎」


 パイルバンカーの先端がデルタセイバーのコクピットの射程に入った。後はトリガーを引くだけで全てが終わる。


 だが、本当にトリガーを引いて良いのか?


 俺は()()大切な何かを失うんじゃないか?


(今更、失うモノなんて無い‼︎)


 ゴーストとして生を受けた瞬間に諦めと絶望の連続だ。それでも上へ行く為に全力でやって来た。


 例え、大切な恋人を失ったとしても。


 例え、大切な戦友と敵対したとしても。


 もう、引き返す事なんて出来無い。過去に行けたとしても次々と無理難題が降り注いで来る。その全てを防ぐなんて俺には出来無い。


 自分の身を守るだけで精一杯なんだ。


 だからトリガーに掛かる指に力を入れる。僅かに力を入れるだけでパイルバンカーから強力な杭が突き出される。


 そして、トリガーを引いた。


 だけど、今までで一番重く感じたんだ。


 だが、次の瞬間だった。デルタセイバーが一瞬だけ淡い蒼光が出たと思った時だ。モニターからデルタセイバーの姿が消えたのだ。


「ッ⁉︎消えた!どこだ⁉︎」


 一瞬の事で完全に思考が遅れてしまう。

 確実に仕留める事が出来た距離だった。手応えも確かにあった。勝ちを確信していたんだ。


 なのにデルタセイバーの姿が捉えられ無い。


 慌ててレーダーを確認すると高速で動く何かが居た。しかし、レーダーでも照準でも捕捉しきれてい無い。


「嘘やろ!トラン○ムやN○- Dシステムじゃあるまいし!世界線が違うんだよ!」


 メタ発言を吐きまくりながらも反応がある方に向けて咄嗟に試作プラズママシンガンで弾幕を張り接近させない様に牽制攻撃をする。しかし、次の瞬間には試作プラズママシンガンが真ん中から切断されて爆散する。

 辺りに冷却剤が撒き散らさられる。だが、そのお陰で命拾いした。


「あっぶね⁉︎こ、殺す気か‼︎このクソエルフが‼︎」


 冷却剤を突き抜けてながら対艦ビームソードを構えて突っ込んで来るデルタセイバー。咄嗟に左に回避するが左肩部の上装甲と35ミリガトリングガンが斬り裂かれる。

 お返しとしてプラズマサーベルを抜き接近戦を挑む。最早、この距離なら下手に離れるより張り付いた方が捕捉出来る。

 何より俺にはギフトがある。一対一なら負ける気は無い!


「ハハ、ハハハハ!ようやく本気になったか!それで良い!そうじゃねえと戦い甲斐が」

【そうよね。最初からこうすれば良かったのよ。首輪を着けて側に置いておけば良いじゃない。何で私、こんな簡単な事に気付かなかったのかしら】

「…………ゑ?」


 通信からトンでも無い台詞が聞こえた気がするが、気の所為だろうか?いや、気の所為だよ。気の所為だよな?


【大丈夫よ。バレない様に監禁しちゃえば。お金はあるからキサラギ少尉一人なら問題無いわ。そうと決まれば早速】


 デルタセイバーから淡い蒼光と一緒にドス黒いナニかが溢れ出て来た。いやー、これはちょっと特殊システムとは違うよな。ヒロイン補正って訳でも無さそうだし。


「ぬおおおお⁉︎ふざけんなああああ‼︎こんなオチがあって溜まるかああああ‼︎」

「警告、デルタセイバーより未知の高エネルギー反応を検知。非常に危険です。距離を取って下さい」

「今は無理だ!だが、遅かれ早かれってやつだけどな!」


 何とかプラズマサーベルで対艦ビームソードを捌いているが、このままでは限界がある。なので俺はオペ子に通信を繋げる。


「オペ子!全部隊にデルタセイバーを攻撃しろと命令しろ!」

『そんな無茶な命令は出来ません。ヴィラン1への誤射の危険性が高いです。後、私はナナイです』

「良いからやれ!俺の次はお前達になるかも知れないんだぞ!」


 そして市街地に入り何とか僅かだが距離を取る。だが、クリスティーナ少佐は全く引き退る様子は無い。


【大人しくしててよ。でないと貴方を傷付けてしまうわ。あ、でも安心して。怪我をしてもちゃんと介護してあげるから】

「その見た目で安心出来る要素を探す方が難しいんですけど⁉︎」


 最早、淡い蒼光よりドス黒いナニかの方が多いもん。折角のヒロインっぽい機体が闇堕ちした風にしか見えないもん。

 いや、もうコレ完全に(病み)堕ちてるわ。

 闇と病みを掛けったってか?喧しいわ!


「良いか?よく聞け。俺達は今戦争やってんだよ。分かる?個人の感情は必要無い状況な訳」

【ええ、そうね。だから貴方を捕まえて動けない様にすれば問題無いわ。そうすれば私達が殺し合う必要は無いもの】

「そ、そう言う能書きは必要無いんだよ。敵と味方。殺すか殺されるか。戦争の現場ってのは至ってシンプルなモノなんだよ」

【ええ、分かってるわ。だから私は貴方を捕まえて監禁する。それが全てよ】


 会話が満足に通じない。いや、今のクリスティーナ少佐にとって会話する必要が無いんだ。そして、俺の言葉なんてお構い無しに再びデルタセイバーが動き出す。今度はビームガトリングガンを乱射しながらだ。

 咄嗟に建物の影に入り射線を切るが、関係無いと言わんばかりに建物を貫通して来た。いや、それはヤベーやつだわ。


「ちょっとおおおお⁉︎それOP(オーバーパワー)ってやつだよ!場合によっちゃあブーイング物だよ!」


 最早、言葉での説得は不可能と判断。こうなればもう一度パイルバンカーで攻撃するしか無い。コクピットは無理だとしても腕の一本、足の一本を破壊すれば目が覚めるだろう。

 だが、そう考えた瞬間に目の前の建物に斜めの線が走る。そして建物が斜めに崩れたのと同時に土煙が舞う。

そしてデルタセイバーのツインアイがこちらに向けて強く光る。


(こ、殺される。このままだと物理的か社会的のどちらかに殺される!じょ、冗談じゃねえぞ!)


 今まででこんな恐怖を抱いた事があっただろうか?

 歩兵時代に弾丸が耳元を掠めた時の音。敵AWとのギリギリの接戦。大量のオーレムに囲まれた中での戦闘。

 どれもこれも必死に足掻いて潜り抜いて来た死戦ばかり。だが、現在の状況はどうだ?死の危険と言うより社会的死の危険と言うのはコレ如何に?


「ヴィラン2!俺を援護しろ!少しで良い!」

『無理よ!私も鬼神のゲン相手に手一杯なのよ!寧ろこんな厄介な相手を押し付けないでよね!』 

『ロト1よりヴィラン1!そっちにオレンジが抜けちまった!すまない!』

「Fu○k!もう駄目だ。お終いだぁ」


 つい弱音が出てしまうがデルタセイバーの猛攻は止まらない。

 ビームガトリングガンと同時にショットカノンが撃ち込まれる。勿論、先読み出来ていた攻撃だったので建物を使って射線を切りビームキャノン砲で反撃。

 しかし、ビームキャノン砲から放たれた高出力ビームを正面から防ぐデルタセイバー。相手の攻撃は当たれば危険。こちらの攻撃は殆ど効果が無い。


(クソが。こんな戦場に長居は無用だな。サッサとトンズラさせて頂くよ)


 この状況で説得なんて出来る訳が無い。だが、このままでは追い詰められてしまう。

 幸いな事にまだニュージェネス自治軍は健在だ。なら、後は彼等に任せるとしよう。

 そう考えた瞬間だった。ロックオン警報が鳴ると上空からビームが降り注いで来る。今度は冷静に回避しながら確認する。


「オレンジ野郎……確か、ガイヤセイバーとか言ってたな。全く、次から次へと。これが有名税ってやつか?ケッ、全く嬉しく無いっつーの」


 しかし、愚痴をこぼしていても状況は変わらない。なら、最後まで足掻くまでだ。


【クリス!一体どうしたんだい?デルタセイバーも何だか不調に見えるけど】

【大丈夫よ。それより邪魔しないで頂戴。彼に逃げられてしまうわ】

【彼?あぁ、あの機体か。なら、僕に任せてくれ。ガイヤセイバーの試験運用には丁度良さそな相手だからね!】

【え?あ、ちょっと、待ちなさい!アーヴィント大尉!】


 今度はガイヤセイバーが攻撃を仕掛けて来る。

 あの時にビームライフルを破壊したが、どうやら誰かから借りたらしい。スピアセイバーとも武装共通が出来る事から次期主力機の候補機と言った所だろうか。


「良い気なもんだな。だが、所詮はデルタセイバーの劣化版みたいな機体なんだろ?そのガイヤセイバーとやらは」

【君の様な見た目だけで判断する奴なら、僕とガイヤセイバーの相手には相応しく無い!消えろ!】


 景気良くビームライフルで攻撃しながらビームサーベルを展開するガイヤセイバー。どうやら相手は接近戦がお望みらしい。


「じゃあ、御教授願おうか!ガイヤセイバーの実力ってやつをな!」


 こちらもプラズマサーベルを展開しながら一気に間合いを詰める。そしてビームキャノン砲を撃ち相手の体勢を僅かでも崩す。


【うおおおお‼︎貰ったあああああ‼︎】


 ビームライフルを放棄して更にビームサーベルを展開。一気に2本のビームサーベルを振り抜いて来る。

 しかし、こんな正面から機体性能に頼り切っている動き。そんな情け無い動きについ鼻で笑ってしまう。


「はい、残念でした。次会う時までにどうしてこうなったのか考えておく様に」


 振り被る瞬間にタイミングをギフトを使い確認しながらパイルバンカーをセット。更にプラズマサーベルを振り上げて決める。


【なっ⁉︎そんな……有り得ない】


 アーヴィント大尉は信じられない光景がモニターに映っていた。何故ならガイヤセイバーの右腕にはパイルバンカーが突き刺さり、左腕はプラズマサーベルにより斬り裂かれていた。


 完全に動きを読まれていたのだ。


「おいおい、そんな深刻な声を出すまでも無いぜ。正直に言ってギフトを使うまでも無く、教本通りみたいな動きだったしな。要はパターンってやつなんだよ!」

【グハッ⁉︎】


 最後に蹴りを入れてガイヤセイバーを仰向けに倒す。そしてガイヤセイバーのコクピットに脚を乗せながらクリスティーナ少佐に通信を繋げる。


「いやはや、残念だったなぁ。一時はどうなるかと思ったが。けどまぁ、結果的に俺の立場は不利な状況から有利な状況になった訳だから。俺にとっては問題無いんだけどな」

【…………】

「分かってんだろ?少佐殿。大事な大事な機体なんだろ?このガイヤセイバーって機体は。見た限りスピアセイバーより高性能みたいだからな。おい、暴れんなよ!」

【うわっ⁉︎ク、クリス……ごめん。僕は】


 暴れようとするガイヤセイバーのコクピットを何度か粗く踏み付ける。そうすると静かになるんだ。

 やはり、躾には多少の痛みは必要なのかもな。


「ハッハッハッハッ!形勢逆転だな!さっきまでは完全にヤバかったが。まぁ、使えない味方と一緒に居る事を恨んどくんだな」

【クリス、僕の事は良い。早く、逃げるんだ】

【……アーヴィント】


 どうやらエルフ特有の三文芝居が始まりそうだ。だが、此処は戦場。そんな事をやってる暇は無いんだよ。


「クククク、随分と親しい関係みたいだな。アレか?婚約者とか許嫁関係ってやつ?かー!羨ましいねぇ!」

【え?いや、違】

【そうさ。愛する人を逃したい気持ち。君には一生分からないだろうけどね】


 このアーヴィントとか言う野郎は何故かドヤ顔で反論して来る。こいつ、自分が今にも殺される立場なのを忘れてんのか?


「ハン!余計なお世話だよ。さて、クリスティーナ少佐殿。愛しのフィアンセを助けたければ【フィアンセじゃ無いわよ‼︎‼︎】ッ…………」

【ク、クリス?】


 余りにも、余りにも大きな声での許嫁関係の否定。一瞬だが耳がキーンとなったのは秘密だ。

 しかし、随分と大きな声で否定するもんだからアーヴィント君が呆然としながら意気消沈してるのが見て取れる。


「あー……まぁ、何だ。女なんて星の数程居るじゃん?ほら、今度【サキュバス宮殿】にでも行ってリフレッシュして来いよ。な?」

【煩い!君の様な奴に慰められる筋合いは無い!……放っといてくれ】


 すっかり拗ねてしまったアーヴィント君。後、拗ねながも涙声になってて少し哀れに思えてしまい、ちょっとだけ同情してしまう。


(参ったなぁ。こんな時に慰めるにはどうすれば。いやいや、俺が慰めてどうすんだよ。一応俺達は敵同士だぞ)


 何だかややこしい状況になりつつなっていたが、オペ子から緊急で通信が入る。


『ヴィラン1聞こえますか?各部隊よりデルタセイバーに向けて全力攻撃が開始されます。直ちに離脱して下さい』

「え?……あ、しまった。オペ子、その攻撃はキャンセルだ。今、完全に俺が有利な」

『ミサイル着弾まで10秒を切りました。直ちに離脱して下さい。急いで!』


 オペ子の慌てた声と名前を訂正しない状況。そしてレーダーに大量のミサイル群が接近して来る。


(そ、そんな……馬鹿な。デルタセイバーの動きを抑えた千載一遇のチャンスなんだぞ!誰だよ!攻撃要請した奴!あ、俺だ。やっちまったぜ☆)


 仕方なく、俺はガイヤセイバーを放置して離脱。それと同時にデルタセイバーはガイヤセイバーを守る様に入れ替わる。

 そして次々とミサイルと砲弾の雨がデルタセイバーに襲い掛かる。だが、レーダーには未だにデルタセイバーとガイヤセイバーは健在状態だ。


「クソ、納得出来無い事だらけだが。しかし、あのまま戦っていたら」


 そこから先の言葉を飲み込む。何故なら言わなくても分かる事だからだ。

 デルタセイバー……いや、クリスティーナ少佐が本当の意味で覚醒すればデルタセイバーはそれに応える。そうなれば機体の性能差が広がるばかりで、勝てる要素が無くなって行く。


(火力だな。デルタセイバーを倒すなら今以上の火力が必要だ。あのエネルギーシールドを貫ける程の圧倒的な火力が)


 結局、ブラッドアークの初陣は結果として見れば引き分けと言った所だろう。

 だが、俺の気持ちでは完全に押し負けた。唯、それだけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何故かは自分でも分からないけど、クリスはこの方向に覚醒する予感がしていた。 露骨な前振りは無くとも、布石がしっかりしてたってことなんでしょうね。
[良い点] 人の感情の起伏 喜怒哀楽の描写が秀逸だと思います。特にクリスティーナ少佐の闇(病み)堕ちオーラの描写は『他人の不幸は蜜の味』を因果応報で主人公が受けたので面白いです。 [気になる点]  エ…
[良い点] ( ゜д゜)クワッ 覚醒のヤンデレエロフ…
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