予期せぬ介入
合流地点に到着すると他の味方部隊も丁度来ていた。俺達はそのまま攻撃目標となる、コンフロンティアが根城にしている場所に向かう。
その間に空中給油をしながら周りの戦力を確認しておく。
「ネロ、今ある戦力の数は?」
「Vt-85ハスキー33機、F-86マッキヘッド28機、SuD-95シャーク12機、UA-10サンダーボルト12機、FA-11ヘルキャットは本機を合わせて20機になります」
「思ってたより頼りにならない戦力だな。大体、この任務に攻撃機は要らねぇだろ」
周りの攻撃機は全部フリーランスの傭兵達の物だ。恐らく地上攻撃で戦果を上げる腹積りだろう。まだ戦力になるヘルキャットはスマイルドッグ所属が一番多いと来ている。
「チッ、余り風向きが良く無いな。ヴィラン2、嫌な予感がする」
『奇遇ね。私も似たモノを感じてるわ』
「一波乱は確実か。ヴィラン1より各機、コン……反乱軍は恐らく本気で来るぞ。今の内に気を引き締めておけ。他の傭兵で頼りになるのは同じヘルキャット乗りだけだからな」
『ロト1、了解。何となくですが理解しました』
『クロウ1、了解。連中、真面目に仕事する気あるのか?』
『仕事する気があったら攻撃機は微妙なラインだよな』
『金欠気味なんだろ。俺も似た様な事やった事あるしな!』
『ロト3、偉そうに言う所じゃないぜ?』
そして予想通りレーダーに反応が来る。
『グリフィン1より各部隊へ。レーダーに多数の反応を確認。正面から来る様だ。数は確認出来てるだけで30機を超えている。直ちに迎撃に入れ』
「ヴィラン1、了解。ハンッ、今度は小細工抜きでやろうってか?その度胸だけは褒めてやるよ!」
機体を加速させて一番前に出る。こうなったらヘッドオンで何機か墜としてやるさ。
「ヴィラン1より各機、なるべく格闘戦はせず、一撃離脱を心掛けろ。スーパーエース様からの有難いアドバイスって奴だ。感謝しろよ」
そしてコンフロンティアの戦闘機部隊と接敵する。
【目標を捕捉した。攻撃機は回り込んで爆撃機を墜とせ。AWと戦闘機は俺達が対処する。アゼル隊、行くぞ!】
【ナアル隊も遅れるな。アゼル隊に続け!】
正面から来るフォッケナインをギフトを使って先読みする。相手がミサイルを発射するが、軽く機体を動かして回避する。相対速度が速い分回避は難しいが、慣れれば最低限の動きで避ける事が出来る。
そのままの流れでトリガーを引いて、20ミリ機関砲と45ミリサブマシンガンを撃つ。敵機は吸い込まれる様に20ミリと45ミリの弾幕の中に突っ込んで行く。
敵戦闘機部隊と交差して直ぐにUターンして追撃する。相手も同じ考えなのか、こちらに機首を向けようとしていた。
「ふん、馬鹿正直にドッグファイトをする訳ねえだろ」
確かにフォッケナインは優秀な戦闘機だ。だが、それでも所詮は戦闘機。AW相手に簡単に勝てる素質は無い。
「小型とは言えこっちはプラズマジェネレーター積んでるんでね。スピードが段違いなんだよ」
一気に急上昇して上へと昇って行く。その間に味方のヘルキャット部隊とマッキヘッド部隊も横から殴り掛かる様に攻撃を始める。
「背後に三機が追いかけて来ます」
「ネロ、ジャミングは使えるか?」
「三分程でしたら可能です」
「充分だ。タイミングは任せた」
「了解しました」
再びUターンして一気にダイブする。そして味方と交戦している敵フォッケナインを狙う。
「馬鹿が。味方を頼り過ぎて警戒を怠ったな」
ミサイルを発射する。そのまま別のフォッケナインに向かい20ミリ機関砲で狙う。
親指でセンター内に敵フォッケナインを入れてトリガーを引く。敵フォッケナインは20ミリの弾を多数受けて、切り揉みしながら爆散する。
「警告、ミサイル接近。ジャミングプログラムを起動」
ミサイルがジャミングプログラムで在らぬ方向へ飛んで行くのと同時に人型に可変しながら反転。そして45ミリサブマシンガンで瞬く間に背後に居た三機を墜とす。
直ぐに飛行形態に戻して離脱する。人型形態はより高度な三次元機動が可能だが、速度が一気に落ちる。もし、その瞬間を狙われれば瞬く間に墜とされているだろう。
(まぁ、ヘルキャットは各部にスラスターが付いてるからな。飛行形態でも多少は無理矢理な機動は取れるし)
そして再び横槍を入れる様に攻撃を始める。
周りを見るとヴィラン2も既に何機か撃破しており、周辺に敵の姿が見えなかった。
「ヴィラン2、かなり好調だな」
『まぁね。元々フォーナイト乗りだったから。ヘルキャットでも問題無かったから』
「それでも結構墜としただろ?これは、もしかしたら俺のスコアが負けたか?」
『さぁ?どうかしらね。でも、まだ敵は来るみたいよ』
再びレーダーに反応が現れる。今度も二十機程と中々の数が接近して来る。
「馬鹿な連中だぜ。勝てる戦いに参加してナンボだろうが」
『それでも反乱する理由があるんじゃない?正義感とか』
「ハン!戦場にあるのは正義感じゃない。弱肉強食、実力主義だけだ。それに、正義って言葉は国のお偉いさんが使う言葉だ。民兵擬きの反乱軍には似合わねぇよ」
『……それもそうね。唯、誰かに扇動されただけね』
そしてロト隊、クロウ隊にも迎撃させる様に指示を出しながら、目の前の敵フォッケナインに向けてトリガーを引くのだった。
敵の迎撃を退けた為、予定通り目標地点まで向かう。
順調な空の旅を行なっている爆撃機隊も作戦通り集中爆撃をする予定だった。
『司令部よりグリフィン1へ通達。予定変更になった』
『こちらグリフィン1。何かあったのか?』
『あぁ、宇宙の方で少々トラブルが発生した。だが、まだ対処可能範囲内だ』
司令部より緊急通信が入る。勝利が確定している時点で多少の悪足掻きはあるだろう。その悪足掻きが作戦変更を指示させただけの話だ。
『成る程な。しかし、その悪足掻きも意味の無い事になるだろう。敵ながら同情してしまうよ』
『仕方がない事だ。ヤン・ハオティエンが素直に負けを認めれば死ぬ事は無かったのだ』
『いつまでも権力に拘り続けるか。堕ちたものだな。グリフィン1、了解した。これよりプランBへ移行します』
『プランBの移行を確認。作戦の成功を祈っている』
司令部とのやり取りを終えたグリフィン1。そして爆撃機隊のみに通信を繋げる。
『グリフィン1より爆撃機隊へ通達。これよりプランBへ移行。繰り返す、プランBへ移行する。以上』
目標地点までは距離がある。その間に後何回か強襲が来るだろう。
だが、問題は無い。爆撃機ハスキーは長距離飛行が可能で高い対空能力を持つ戦略級爆撃機だ。戦闘機に襲われたとしても簡単に墜とされる訳では無いし、対ミサイル防御も万全だ。
『悪く思うなよ。ゴースト共』
目標地点までの道のりは実に快適な物になると確信していたのだ。
間も無く目標地点の街が見える筈だ。都市開発が失敗して放置された街。そこにゴーストが住み着いているのだから放っておけば良いと思う訳だが。
「ヴィラン2、この作戦をどう思う?因みに俺は態々ゴースト共を刺激する理由が未だに分からん」
『コンフロンティアの主力が根城にしてるんでしょう?まぁ、気持ちは分かるけどね』
「だろ?そもそもだ。都市開発が失敗した街があるからゴースト達は他の場所に行かないんだよ。簡単に言えば……ゴーストホイホイ?」
『何が言いたいのか良く分かったわ。言い方は凄くアレだけど』
考えてみれば分かる。惑星ニュージェネスはグンマー星系の中でも治安は結構良い。観光や休息地としても有力候補に上がるくらいに良い。
現在は内戦状態だが、鎮圧は時間の問題。遅かれ早かれ元に戻るだろう。なのにゴーストが大勢居る場所を刺激するのだがらイマイチ理解出来無い。
「しかし、反乱軍共と戦ってみたが民兵に毛が生えた程度の戦力だし。一体、何を焦ってるんだが」
「マスター、推測を述べても宜しいですか?」
「勿論だとも」
「目標は街やゴーストでは無く別では無いでしょうか?例えばヤン・ハオティエン氏などです」
ネロの推測はコンフロンティアのリーダー的な存在が居ると言う物だ。
確かに考えてみれば辻褄は合う。だが、普通は殺すより捕縛する方が良い。何故なら殺せば第二、第三のヤン・ハオティエンが生まれる可能性がある。
そうなれば惑星ニュージェネスの内戦は泥沼化になるのは必須になるだろう。
「可能性は有りそうだな。だが、リスクが高過ぎる」
「はい、その通りです。ですが、リスクを負ってでも攻撃する理由は何でしょうか?恐らくですがゴースト更生労働法に関係する物だと考えます」
「ゴースト更生労働法か。噂に聞く限りだと身体の何処かに極小マイクロチップが埋め込まれて、施設に収容されるんだっけ?」
『問題はその後よ。政府は更生が終えたら社会に出すと言ってるけど、実際は誰も出る事が出来無いって噂よ』
そう、このゴースト更生労働法は一見まともな物に見える。社会から弾かれたゴースト達に救いの手を差し伸べている。
だが、実際は施設に入れて一生使い潰すと言われている。恐らく二度と陽の光を浴びる事は無いだろう。
「結局、噂は噂だもんな。実際の所、立案者と関係者しか事実は知らない訳だし」
『その関係を始末するのが目的なら、この任務にも納得が行くけど』
「後はオペ子頼みだな。基地に戻るまで分から……ん?」
ふと、気になった事がある。それは爆撃機隊の編隊間隔が広がっているのだ。集中爆撃をするなら広がる理由は無い筈だが。
「ヴィラン1よりグリフィン1、集中爆撃をするんじゃ無いのか?その間隔だと絨毯爆撃になると思うんだが?」
俺が爆撃機隊の隊長機でもあるグリフィン1へ問い掛ける。すると相手は悪びれる様子も無く質問に答える。
『司令部から作戦内容に若干の変更命令が来た。それだけだ』
「で?集中爆撃はするのか?」
『いいや、先程言っていた絨毯爆撃を敢行する。この際だ、諸君達傭兵に新しい任務を与えよう。目標の街に対する絨毯爆撃後に敵残存部隊の殲滅を行なって貰う。報酬は歩合制、より多くの敵を破壊した者が儲かる』
突然の作戦変更。本来ならもう少し早くに通達しても良いとは思うんだが。まぁ、中にはゴーストとは言え民間人相手に無差別殺戮に抵抗がある奴も居る。
俺?俺自身が直接手を掛けなければ、どうでも良いさ。それに、俺は自分が小綺麗な人生を歩んでいるつもりは無いし。
「そうかい。なら、俺はパスだ。他の連中も聞いての通りだ。やりたい奴だけやれ。後はお前達の好きにして良いぞ。但し、報酬目当てで同士撃ちだけはするなよ」
『なら俺は参加するぜ。報酬上乗せされるならやった方が良い』
『今月は賭けで結構損しちまったからな。これで辻褄合わせが出来て助かったぜ』
『クリムゾン・ウルフが抜けるならスコアを稼ぐチャンスだ。やるぜ!』
新兵や他の傭兵達は乗り気だ。歩合制なので撃破した分だけ報酬が貰える。そうなると先を争って敵を撃破しようとする。
尤も、目標地点は敵の主力が根城にしている場所だ。簡単に報酬が貰える展開にはならないと思うんだがな。
『んー、私もパスかな。正直、そこまでって感じだし』
チュリー少尉も今回はパスするらしい。チュリー少尉が抜けると言うと、周りの傭兵達は誘い込もうとする。
「美人は美人で大変だな。むさ苦しい連中に群がられるんだから」
俺はそのまま周りを警戒する。目標地点まで後数分で到着する距離だ。
すると再びレーダーに反応がある。どうやら地上から飛行装備を装着しているAWが上がって来ているらしい。しかし、こちらは既に高度一万フィート以上だ。例え飛行装備のAWとは言え簡単に上がって来れる距離では無い。
(所詮は素人同然の集まりか。まともに兵器の運用も出来てないみたいだ)
最早作戦は予定通り進むだろう。例え、敵に何かしらの秘策が無い限りな。
「宇宙も地上もこっちが主導権を持ってるし。勝ち戦程、楽な戦いは無い」
身の安全はある程度確保されてるし、クレジットは稼げるし。
爆撃機隊も敵の迎撃を警戒して高度を上げる。無論、俺達は自分達の仕事を完遂させる。
「ヴィラン1より各機、目の前の敵AW部隊を殲滅するぞ。数はこちらのヘルキャットより優っているが、腕と質はこちらが圧倒的だ」
そして機体を加速させて敵AW部隊に突撃する。最早、誰も止める事は出来無い。
この惑星に住むゴースト達は全員が生贄になるのだ。
何故ならそう言う法が議会を通ってしまったから。
時代がソレを求めているから。
だから足掻いた所で無駄なんだ。
敵との距離が縮まる。俺達のヘルキャットを先頭にマッキヘッド部隊と他攻撃機部隊も追従する。
既に勝敗は決している。俺は内心で勝利を確信しながらトリガーに指を掛けた。
だが、次の瞬間だった。上空から複数の高出力のビームとプラズマが爆撃機に突き刺さる。
そして、暫く飛行したと思ったら大爆発を起こし爆散して行く。
『隊長機に被弾!』
『こちらグリフィン4!第四、第五エンジンが被弾!速力低下!』
『グリフィン1、3、6墜落!駄目だ、グリフィン8もッ⁉︎畜生!爆散したぞ!』
『上空からの攻撃だと⁉︎対空監視!何をやっていた!』
『馬鹿な。宇宙も空もこちらの勢力下の筈!それに、俺達は今高度一万四千フィート以上の高さに居るんだぞ!』
『上空に何か居るぞ!迎撃用意!』
更に次々と高出力のビームが爆撃機隊に襲い掛かる。爆撃機隊も20ミリの対空砲と対空ミサイルを発射し迎撃する。しかし、不明機はその攻撃を容易く回避しながら接近する。
「何ッ!一体、何処のどいつだ!」
俺は急いで機体を上空に向けて加速させる。確かに遥か上空からビームとプラズマを乱射しながら、対空ミサイルを回避している機体が居る。
「マスター、不明機の識別が判明しました」
「あんな機体の識別登録されてんのか?一体、どんな機体だ」
モニター越しに機体の識別ナンバーが表示される。だが、この識別ナンバーは……。
「まさか……そんな、何であいつが此処に居るんだ!」
信じられ無かった。そもそも、彼等に今回の出来事は全く関係無い筈。例え手を貸すとしても、コンフロンティアに手を貸す事は絶対に有り得ない。
なのに、現実は違っていた。
「識別ナンバーを確認。エルフェンフィールド軍所属、GXT-001Dデルタセイバーです」
ネロの言葉を聞いて俺は操縦レバーを強く握り締める事しか出来なかった。