自己完結
エルフ艦隊の艦船は企業や軍が製造する物より上である。然も艦船だけでは無い。AWは勿論の事武装面でも頭一つ二つ飛び抜けている。故に戦艦クラスのビーム射程でも巡洋艦の艦砲でも届くと言う反則的な攻撃が可能となっていた。
『トリガー隊、出撃準備急げ』
「B装備で頼む。それさえ整えばいつでも出撃出来るよ」
『了解した』
サラガンにB装備が装着される。機体チェックも済ませて後は出撃を待つのみ。
「ネロ、俺との初実戦だ。フリーズしてる暇は無いからな」
「了解です」
『トリガー5。B装備の装着が完了した。間も無く出撃になる』
「トリガー5了解。さてお仕事お仕事ってな」
機体が第二カタパルトへと移動する。俺は機体の最終チェックをする。
「一つ宜しいでしょうか」
「何だネロ。俺が撃墜されると思ってんのか?」
「私にはマスターの戦闘能力がインプットされてません」
「ならこれからインプットすれば良い。さあ、そろそろ出撃だ」
「それで質問なのですが」
『トリガー5出撃だ。貴官の戦果を期待する』
「任せてくれ。トリガー5、シュウ・キサラギ軍曹、サラガン出るぞ」
そしてカタパルトから機体が押し出される。何時ものGを身体に受けながら宇宙へと出る。
「此方トリガー5出撃完了した。さて他の連中でも待つかね」
アルビレオを中心とした艦隊の艦砲が止めどなく放たれる。青いビームはセクタルの宇宙基地を容赦無く叩き潰して行く。
無論セクタル側も撃たれっ放しではない。宇宙基地に設置されてるビーム砲台やミサイルが必死の抵抗を行い駆逐艦や巡洋艦が何とか出航して此方との距離を詰めようとする。
【第28、32、45ビーム砲台沈黙。基地にも被害多数発生してます】
【格納庫にある機体は全て出すんだ!そうだ全てだ!出し惜しみはする必要は無い!】
【此方駆逐艦トップ、これより発進する。援護頼む】
【不味いぞ。燃料に引火した!退避退ひッ⁉︎】
【これ以上好き勝手にやらせるな。迎撃機の発進急がせろ】
【クソ、連中はエルフ共だ。最悪基地の放棄を視野に入れるしかないか。おい亡国の連中を呼べ。奴等なら足止め以上の働きはしてくれる筈だ】
セクタルの宇宙基地と艦隊は必死に迎撃しようと試みる。だがエルフ艦隊は戦艦一隻に巡洋艦六隻の戦力しか無い。例え高性能とは言え艦砲の数は多い方では無い。
それはセクタルにとって朗報になる。
【良し、迎撃機順次発進。敵艦隊を左右から挟み込め。その後戦闘機と攻撃機を出せ】
【エルフだか何だか知らねえがセクタルに楯突いた事後悔させてやる】
【やるぞやるぞ!一気に距離を詰めろ!人間に反抗する種族なんぞ滅ぼされて当然だ!】
それは同時に傭兵にとって朗報になる。
「稼ぎの時間が来たぜ!」
【何!敵機がグワッ⁉︎】
トリガー5のサラガンから250ミリキャノン砲が放たれた。そして砲弾が直撃して爆散する敵のサラガン。味方が爆散した事で動きが止まる敵AW部隊。
『やるわねトリガー5。私も行くわよ』
『良く当てたな。トリガー1エンゲージ』
「ネロの射撃補正のお陰よ。結構速く修正してくれたからな。良い買い物したぜ」
『僕も負けてられませんね。トリガー2狙撃開始』
『トリガー4攻撃開始』
傭兵部隊のトリガー隊は敵AW部隊に対し躊躇無く突っ込み攻撃を仕掛ける。勿論敵AW部隊も反撃する為に態勢を整えようとする。
「宇宙のど真ん中で止まるとか、ゆとり世代かよ。そいつは俺の世代だぜ」
敵マドック、サラガンをマルチロックして十二連ミサイルポッドから多目的ミサイルを放つ。何機か直撃したがシールドで防いだりして撃破には至らない。更に追撃の為45ミリアサルトライフルで狙い撃ち一機が爆散する。
「中々良い補正するじゃないかネロ。特にマルチロックは凄く良かったぜ。お陰で敵の動きが止まった」
「問題ありません。それで最初の質問なのですが宜しいでしょうか?」
「質問?何だそりゃうおっと。危ねえな。当てるならしっかり当てろ!」
「はい質問です。宜しいでしょうか?」
「後からじゃダメか?」
「……構いません」
ならばと思い戦闘に集中する。トリガー1、3はほぼ完璧な連携で敵機を撃破して行く。トリガー2、4も堅実な戦い方で隙を見せる事なく敵を圧倒し続ける。
「こいつは負けらんねえな。今回もトップスコアは譲るつもりはねえよ」
更に自機を敵AW部隊に向けて攻撃を仕掛ける。勿論敵は反撃するが俺には視えるのだから問題無い。ギリギリの紙一重で回避し距離を詰めて45ミリの弾丸をプレゼントする。
【何だコイツ!こっちの攻撃が当たらねえ!】
【今のを避けるか。こっちの攻撃が読まれてるのか?】
【此奴間違いなくギフト持ちだ!クソッタレ、同じ機体なのに此処までの差が出るとは】
【何故エルフの味方をする。貴様等は傭兵だろうに。見下され貶す事を当たり前としてる連中に媚びを売るとは。プライドは無いのか!】
プライドか。勿論あるよ。尤も一般人より低くなってるだろうけどな。
「ハッ!笑わせんな。景気良く一千万クレジットをポンと前払いする連中に媚び売って何が悪い。お前らセクタルなんて先の無い貧乏組織に所属してる方が異常なんだよ。大金貰って人生楽しむのが利口だぜ」
尤も媚び売る所か喧嘩売っちゃってる気がするけど仕方ない。それは所詮コラテラルダメージってやつだぜ。
【戦争屋風情が何を語るか。我々の理想は】
「理想やプライドで飯食っていけるなら続けろよ。俺は文明の豚だからな。長いモンに巻かれて楽させて貰うぜ。お前らを踏み台にしてな!」
【貴様の様な奴は生かしておけるか!覚悟!】
直後トリガー1の持つプラズマサーベルにより胴体より泣き別れして爆散する。
「感謝しろよ。お前らを踏み台にしてやってるんだ。無駄死にじゃねえからよ」
『トリガー5敵との通信はやめろ』
「しょうがないじゃん。連中オープン通信で話し掛けてくるんだもん」
『それでもだ。それからそろそろ敵の攻撃機とAWが来るぞ。一機たりとも艦隊に行かせるな』
「了解。雇い主はしっかりと守らねえとな」
レーダーで他の部隊を確認する。俺達とは反対の右翼側にいるクリスティーナ大尉達も平気そうだ。それにしても戦艦と巡洋艦の艦砲が全然止まる気配が無い。
「交互撃ちか。それにミサイルも撃ち込んでAWを撃破してるのか。こりゃ今回は戦艦と巡洋艦の方が撃墜数は多いだろうな」
ならば他の連中には負けられない。それが今の俺だからだ。
何故態々傭兵を選んだのか。信念も無ければ戦う理由も無いのにだ。きっとそこに理由なんて無い。強いて言うならAWに乗りたかったからだけだ。
(ギフトだって戦闘用でピッタリだったし。これだけ揃ってAWに乗らない手は無いだろうよ)
それにAWに乗れば現実感が薄れる。正にSFの世界に飛び込んでる様な気分になる。
「ま、気分だけだがな。さて残敵も他の連中が処理するか。敵さんの二次攻撃の後からが本番だしね。気合い入れて行きますか」
自機を加速させて戦場を駆け抜ける。それが生き残る術だと理解しているからだ。
そして予想通り宇宙基地から多数の攻撃機とAWが味方艦隊に向けて強行突入して来る。しかしレーダーを見ると中々の数だ。
【マリー1より各機。これより敵艦隊への直接攻撃を敢行する。味方のフリゲート艦と駆逐艦が生きてる今しか無い】
【やってやりましょう。奴等の様な禍の源になる存在を許しては宇宙が滅びます】
【此方護衛機のスーラ1だ。マリー隊の障害になる存在は全て此方で引き受ける。一機足りとも墜とさせるな】
【世に平穏を訪れる事を願う。それが我々セクタルの存在意義だ】
相変わらず敵さんはオープン通信で此方に聞こえる様に話す。正直過激な宗教に近い雰囲気があるからすっごく近寄りたく無い。
「あ、でも世に平穏には同意するわ。目の前の屑共を消せば、少しは世の為人の為俺の為ってな」
主に臨時ボーナス的な話になるけど。
前方から敵の反応が出る。それと同時に機体を加速させるが操作にワンテンポの遅れを感じる。
「故障か?ネロ機体のチェックを頼む。大至急でな」
「……」
「ネロどうした?返事は……チッ、フリーズしたのか。所詮は不良品の安物か」
ネロを見ると赤いランプは点滅してるが反応が無い。仕方ないのでネロと繋いでる戦闘補助システムを解除しようとする。だがパネルから操作するが反応が無い。
「マジかよ。ロックも出来ないしオートバランサーも一部機能して無いじゃん。敵味方の識別は出来てるのが不幸中の幸いだな。はぁ、仕方ないか」
俺は戦闘補助システムとネロに繋がってるコードを物理的に外す。すると少し機体が揺れるが戦闘は出来る様にはなった。
軽く動かすとワンテンポの違和感も無くなっている。だがこうなると大半の行動をマニュアルでやらなくてはいけなくなる。
「要はロック機能無しと大半の機体のアシストシステム無しで戦えって事だろ。通信は繋がるし識別も出来るから少ししか問題ねえわ」
通常なら敵をロックオン→武装による補正を行う→敵の動きを予想→攻撃になる。
だが今の俺は最初の二つが出来ない状況に陥ってる。つまり当たる距離で確実に狙って攻撃するしかない。それでも機動戦の中そんな悠長な事は出来ない。ならどうするか。答えは簡単だ。
「当たる距離で撃てば良い。単純な話さ」
機体を加速させる。勿論バランスは悪いし安定機動なんて無茶な事。だがやるしか無い。
(そう言えば初めてAWの宇宙での戦闘訓練も似た様な事あったな)
勿論オートバランサーは付いてたし補助装置も動いてたから問題は無かった。だが訓練の時にシステムダウンが発生しマニュアルで操作しなくてはならない状況に陥った場合の想定訓練があったのだ。
勿論クソ教官はそんな俺達初心者AW乗りに手加減する事なく有難い訓練を行った訳だ。その時はクソ教官の八つ当たりだと皆で話してたのを思い出す。
戦闘システムがダウンする確率は殆どない。今やEMP対策はデフォルトだ。殆どの機体に対策が施されてる。そんなご時世に行われた訓練は必要ないと思っていた。
だが現実では似た様な状況に陥ってしまった訳だ。
(教官、今貴方の教えが活かされてます。必ず、必ず……)
心の中だけでもクソ教官に感謝しようと思ったけど、訓練中の事を色々思い出したら沸々と怒りが込み上げて来ましてだね。
「必ずお礼参りに行くからな‼︎今度会ったらタダじゃおかねえ‼︎」
気が付けば感謝の気持ちが全部吹っ飛んでしまった。
「畜生。これも全部クソ教官が悪い!だから恨むならクソ教官を恨みな!」
そして最終的にクソ教官への罵倒に戻ってしまった。何という自己完結。下らない事を考えながら戦闘に集中する。
モニターに映る敵攻撃機隊を捕捉し狙いを付ける。
それと同時にロックアラームが鳴り響いたので機体を右回転させミサイルを回避する。前方からUA-10サンダーボルトの編隊を先陣に突っ込んで来る。
サンダーボルトの30ミリバルカン砲とロケット弾に撃たれる未来が視えたのでギリギリで回避し反撃する。45ミリの弾が吸い込まれる様にコクピット付近に当たる。
そのまま他のサンダーボルトに対し接近する。そして左手にサーベルを掴み一気にサンダーボルトを真正面から切り裂く。サンダーボルトは縦に真っ二つに分かれながら爆散する。
(これ思ってる以上にムッッッズ!当たる距離まで詰めるのが一番キツイっす!)
正面から来るならギリギリなんとかなる。相対的に距離は縮まるからだ。後は度胸と根性とギフトを使って攻撃する。
だが抜けられた場合は無理だ。そもそも敵をロック出来ないから予測出来ないからだ。
(漏らした奴は他の味方に任せよう。うん、そうしよう)
「まあ、やるだけやるさ」
それでも操縦レバーを握り締めペダルを細かく踏み機体を動かす。モニターに集中し攻撃を避けながら反撃する。例え色々システムが使えなくとも戦えてるのは間違いないのだから。