コミュニケーション
結果として俺達のやり方は最高の結果を叩き出した。
デモ隊の説得中にコンフロンティアによる妨害。然も市街地での無反動砲の使用。更に他の重火器を使用し、俺のヘルキャットに対しても攻撃を行なっていた。
この一連の出来事は国営ニュースで大々的に放送された。
見出しはとして【デモ隊を説得する中でも武力を行使する反乱軍】と言った感じだろうか。
「お陰でデモ鎮圧は多少は進んでるみたいだな」
「はい。元々限界も近かったのでしょう。食料も大した物は無かったとの事です」
ゴーストをデモ集団として利用するまでは良かった。だが詰めが甘いが為に綻びが生まれ、そこに付け込まれる。
無論、他の地域では抵抗を続けてるデモ集団もある。だが、それもじきに終わるだろう。
俺の場合は優しい方だ。無用な殺生をするつもりも無い。だが、中には結果を出す事を優先する企業もある。
デモ隊に武器を持たせるか。それとも誰かを紛れ込ませるか。
所詮、自作自演と言う奴だ。
「けど、デモはあっさり終わりそうッスね」
「彼等は捨て駒だったんでしょう。でなければ簡単に切り捨てたりはしないわ」
アズサ軍曹とチュリー少尉の意見には同意する。結局、最初に想定していた通り彼等は自治軍を引き付けるだけの存在に過ぎ無かった。
捨て駒が使えなければ切り捨てるだけ。俺が出来る事と言えば早く夢から目が覚める事を祈るだけ。結局、逃げるか服従するかを選ぶのは彼等次第だからな。
「皆さん、恐らくですが近い内に大規模な作戦が行われます。そこからが本番だと思って下さい」
「オペ子の言う通りだ。もう何回かデモ隊を鎮圧したら、自治軍との共同作戦があるかも知れんし」
今後の展開を予想していると同じスマイルドッグの制服を着た連中が集まって来た。
「流石、キサラギ少尉ですね。偶々、運良く成果を出せた様で」
「……見ない顔だな。誰だテメェ、所属と名前を言えよ」
「ッ!さっき一緒に出撃してたでしょうに!顔も満足に覚えられ無いんですか!」
顔に怒りを滲ませながら怒鳴る同僚らしき男性。
だが、俺だってちゃんと覚えてる連中は居るぞ。基本的に古参でベテラン揃いのガリア、アイアン、サニー中隊の連中達とは馬が合うからな。
唯、オーレムの襲撃により半数が還らぬ人となってしまった。結構、模擬戦とかやって虐めて……じゃない、訓練してたんだがな。
「お前らヘルキャットに搭乗してる連中か。つまり、新参者な訳か。だが、マザーシップでの戦いは生き残って来ただろ?なら、何で下らねえ事で絡もうとしてんの?」
「先輩先輩。この人達はマザーシップ戦に参加して無いッス」
「……はあ?じゃあ、何でスマイルドッグに入ってんの?社長はマザーシップ戦でフリーランスになってる傭兵を雇ったって言ってた筈だが」
「半数はそうです。因みに、その半数は現在艦隊の護衛隊として配備されてます」
「じゃあ、こいつらは……一体何者なんだ?」
俺は新参者共に視線を送る。すると一人が代表して一歩前に出る。
「確かに、俺達には実戦経験はまだ無い。だが、シミュレーターやAW適正の結果は高いんだ。分かったか?エース様」
「いや、全然分かんねえよ。先ず最初に実戦経験の無いヒヨッコの分際で、その態度が有り得ねえ。常識の結果は最低だってのは分かったが。てか、社長……絶対に俺にこいつら押しつけたよな」
俺はオペ子達に視線を送るとネロちゃん以外の全員が視線を逸らす。
だが、俺は狙った獲物は逃さねえ主義だ。速攻で立ち上がりチュリー少尉とアズサ軍曹の背後に周り肩を組む。
「お前達だけは絶対に逃さねえよ。先輩としてヒヨッコ達の指導しろ」
「私まだ入社したばっかりッはう!」
チュリー少尉が戯言を言おうとしたので狐耳を甘噛みしてやる。
俺はやる時はとことんやる主義だ。
「えと、あの、自分はッひゃう!」
アズサ軍曹も安全圏に退避しようとしたので尻尾の付け根からじっくりと揉み解す。
そして交互に愛b……もとい、獣人達との正しいコミュニケーションを取る。
このコミュニケーションは正しいの!今此処では俺が法律なの!だから俺が正しいんだ!
「はむはむはむ……返事は?」
「わ、分かったから……もう、ダメェ」
「ふにゃぁぁ……自分も……ぅんん、あふん」
「良し!言質は取った!ネロ、ちゃんと録音したな」
「はい勿論です。マスター」
「やっぱりお前は最高だぜ!」
「貴方は最低ですけど」
オペ子は今回は見逃してやろう。あくまでもオペ子はオペレーターだ。立場の違いも有るし、荒事ばかりやってる傭兵の面倒を見ろと言うのは酷だろう。
だが、後で尻揉みはする。絶対にな!
「な、なんて羨ま……けしからん!貴様をエースとは認めない!」
「今本音が漏れたぞ。若いって我慢が効かないからな」
「煩い!次のデモ隊の鎮圧は俺達がやる。邪魔は絶対にするなよ」
「じゃあ、俺外寒いから基地で休んでるわ。チュリー少尉、アズサ軍曹、現場の指揮は任せた。ナナイ軍曹は二人をバックアップだ」
「えぇー、私達を散々弄んだのに?」
「そうッスよ!まだ先輩の……その、えっちぃ感触が残ってるんスよ!」
「えっちぃとか言うな。さっきのは小動物を純粋な気持ちで愛でた様なもんだよ」
そして俺は自然を装いながら立ち上がり、そのまま立ち去ろうとする。
しかし、そうは問屋をおろさない奴が居た。
「まだ話は終わっていませんよ?キサラギ少尉。寧ろ、この状況で自然も何も無いですよ」
「……流石、オペ子だ。素晴らしい状況判断だと褒めてやるよ」
「ナナイです。有難うございます」
律儀に名前の訂正と感謝を述べるナナイ軍曹。だが、これで俺の動きが止まってしまった。
背中に獣娘コンビからの強い視線を感じる。間違い無い、この視線は肉食動物特有の狩りをする時のだ。今、この場では誰かが動いた瞬間に始まる。
(フッ、勝ったな。俺にはギフトが有る。つまり、お前達の初動は全部丸見えなのさ)
俺は内心勝利を確信。最早、目の前には暖かい部屋でネロちゃんの御奉仕を受ける俺の姿が見える始末。
雪が降り続ける外。時折り風が強く吹く。そして、風が止んで一瞬の静寂が訪れた瞬間に動き出す。
ギフトで視えたのはアズサ軍曹が猛スピードで体当たりしてくる姿。なら、俺は横に避けながらドアに向かって逃げれば良い。
(視える、視えるぞ!俺にも獣娘の動きが見えッゲボォア⁉︎」
横に避けた瞬間だった。突然背中に強い衝撃を受けてしまう。
何が起きたのか理解出来なかった。俺は一瞬、頭の中が真っ白になりながら地面に倒れ込む。
「ば、馬鹿な。確かに、アズサの体当たりは避けた筈」
横を見れば四つん這いで、こちらにゆっくりと近付くアズサ軍曹が居た。いや、あのー、その近付き方はちょっと怖いんスけど。
「残念だったわね。戦場では二手、三手先を読む事は重要よ?」
「ぬぅ……ぬかったか。確かに、チュリー少尉の姿を視ていなかった」
ギフトは確かにアズサ軍曹が突っ込んで来るのを映し出していた。だが、それは俺からの視線しか分からない。
そう、チュリー少尉はアズサ軍曹の後ろに隠れていたのだ。アズサ軍曹の体当たりがミスした時のカバーをする為に。
「先輩……覚悟は良いスか?」
「いや、良くは無いかな。取り敢えず先ずは話し合おう。そうだな、一服しながらはどうだ?何なら俺が奢るよ」
「フシュウウゥゥ……」
「いや、マジでお前の瞳孔ヤバいから。完全に肉食動物の瞳孔してっから!分かったよ。俺もやるよ!やれば良いんでしょう!」
「最初からそうしてれば良いのよ」
チュリー少尉の拘束が外れる。そしてアズサ軍曹は俺の頭の周辺の匂いを嗅いだ後に元に戻った。
「いやー、何か記憶が少し曖昧になったッスね」
「何でこんな事で退化してんだよ。猫娘だからって先祖返りして良い訳じゃねえんだぞ」
「にゃはは〜」
俺は立ち上がりながら新入り共に視線を向ける。
「さて、色々と高度かつ複雑な交渉の結果だが。遺憾ながら俺も参加する事になった」
「高度?複雑?」
「唯イチャついてただけじゃねえか!」
「キサラギ少尉!いや、師匠!どうやったら師匠みたいにモテますか!」
「これがエースの実力だって言うのかよ。クッ、納得……出来るかよ」
罵声を浴びせる者、尊敬の眼差しを送る者、何故かライバル視してくる者。
多種多様な新人達が居てくれて、俺ちゃん嬉しくて涙が出そうだよ。
「ゴホン。次のデモ隊鎮圧も俺達は駆り出されるだろう。その時、基本的には武力での制圧は厳禁とする」
「何故ですか?相手はゴーストです。それに、デモ隊の鎮圧は早くやった方が良いと思いますが」
「その意見は尤もだ。だが、それではゴーストを余計に刺激するだけに終わる。寧ろ、世論を味方に付け続ける必要がある。世論とは自分達の都合の良い方に傾くからな」
ならば綺麗にデモ隊を鎮圧した方が良い。それに、ニュージェネス政府はゴースト相手にも真剣に考えていると伝わる方が良い。寧ろ、コンフロンティアの方が危険と思わせた方が利口だ。
「それに、今後の事もある。結果が良くても過程がズタボロだとスマイルドッグの評価にも繋がる。最悪、ニュージェネスの連中に切り捨てられたら堪ったもんじゃ無いからな」
このデモ隊鎮圧任務は単純な話では無い。
如何にしてコンフロンティアに悪意を押し付けるか。如何にしてニュージェネス政府が正義だと言う事を印象付けるか。
それに、全ての罪を背負ってくれる存在が居るんだ。それを使わない手は無いだろう。
それに、噂では三大国家も注目しているらしい。ゴースト更生労働法の執行が上手く行けば三大国家も同じ事をする可能性は高い。
(新しい時代の幕開けになるかもな。果たして、大吉と出るか大凶と出るか)
大吉が出れば惑星ニュージェネスの発展は約束されるだろう。だが大凶と出れば惑星ニュージェネスは再び地球連邦統一政権の元で統治される。
一度独立したにも関わらず、再び連邦政権下の元に降る。そして惑星ニュージェネスに待っているのは組織内部の再構築だ。然も連邦政権で余っている人員が送られて来るのだ。
更に民衆達にも厳しい生活が待っている。税率は上がり、他の惑星への移住制限も厳しくなる。何故なら税の安定収入を第一優先にされてしまうのだ。
「ま、上手くやれるだろう。相手は所詮ゴーストなんだ。余程の事が無い限りな」
この時はニュージェネス側が勝利する事を確信していた。如何にコンフロンティアが手を尽くそうとも世の中、大の力に勝てる程甘くは無いのだから。
デモ隊鎮圧任務は順調に進んでいた。
基本的に武器を持たない無力なゴーストだ。指示に従わなければ、空に向けて45ミリサブマシンガンを乱射して強制的に大人しくする。
少なくとも、俺達が担当しているデモ隊は簡単な方だった。
だが、別の方では武力衝突にもなったらしい。どうやらデモ隊の中に武器を持っていた奴等が居たとか。そして陸戦部隊が前に出て強制的にデモを鎮圧した。
「自作自演の可能性は高いよな」
「そうですね。コンフロンティアとは言えゴーストの支持率を自分達から落とすとは考えられません」
ナナイ軍曹も俺と同意見らしい。
どれだけニュージェネス政権が綺麗事を言おうとも、ゴースト達にとってはゴースト更生労働法によって出れるかも分からない施設に強制連行されるのだから。
「それからキサラギ少尉。デモ隊に関しては目処が付くそうです」
「そうか」
「はい。ですので、我々に新たな任務が来ると思って頂いても結構です」
ナナイ軍曹の言葉を聞きながら外を見る。
今も空の様子は厚い雲に覆われており、また雪が降る事が予想出来る。
(きっと宇宙の方は嵐の前の静けさに包まれてるんだろうな。そろそろジャンの奴も苛立ってそう)
だが、この時は予想していなかった。コンフロンティア側に強力な艦隊が追加される事を。