新しい時代の風
惑星ニュージェネスの都市部での無差別テロ。
実行犯は名も無きゴーストだと分かった。だが、首謀者としてある人物の名前が出た。それ以上に衝撃的な名前が浮上した。
ヤン・ハオティエン氏
ヤン氏はシュナイダー総統の相談役として、陰ながら政権を支え続けて来た人物だ。
シュナイダー政権にとっても重要人物であったが故に、ヤン氏が主犯として逮捕された事は政権内に衝撃が走った。
だが、此処に来てシュナイダー総統は放送を通じて演説を始めた。
『惑星ニュージェネスに住まう臣民達よ。先日、マライア都市で起きた無差別テロは知っているだろう。多くの市民が犠牲となった』
演説を聞く為に多くの人々は足を止めてテレビに目を向ける。
『だが、この結果を生んだのは誰か!それは我々が怠惰に過ごして来た結果なのだ!ゴーストを野放しにし、管理せず、放置し続けた結果だ!』
シュナイダー総統による糾弾。それは自分達に向けられた物。だが、次の言葉で人々の見方が変わる。
『故に管理せねばならない。我々が、不穏分子であるゴーストを。我々の手で!』
管理。それは同じ種族の者達を自分達が管理する。
だが、この歪な事柄に誰も気付かない。いや、気付こうとしないのかも知れない。
そんな残酷な事を認める訳には行かないのだ。
『今直ぐに処理させるべきだと言う者達も居るだろう。だか、それで死んだ罪無き人々が報われると私は思わない』
そして、新しい選択肢が現れる。
『ならばどうするのか。その為のゴースト更生労働法だ。ゴーストを更生させ、正しい道に導いて行く。我々の手で!我々が正義である事を教える為!彼等に罪を償わせるのだ!』
人々はシュナイダー総統の演説を聞き続ける。
ゴーストを導くのは自分達しか居ない。自分達の正義が今必要としているのだ。
ならば、やるしか無い。無差別テロで死んだ者達に報いる為にも。
この演説の後、被害者達によるゴースト更生労働法の必要性が訴えられる。
愛する我が子を失った親が。最愛の妻を失った夫が。まだ見ぬ孫と息子夫婦を失った老夫婦が。
自分達の様な悲劇が起こらぬ為に世間に訴える。そして、被害者達の訴えは人々を動かした。
全てはヨハネス・シュナイダー総統の手の上で踊らされている事を知らずに。
バンタム・コーポレーションからの依頼を終えた俺達は沢山のお土産と共にスマイルドッグに無事に帰還した。
ネロちゃんからお土産を受け取った者達の中には素直に喜ぶ者、喜ばない者、めっちゃ喜ぶ者に分かれている。
「オペ子、お前用の【お肌お手入れスペシャル君】だ。これ、結構高いのな。お兄さん、ちょっとびっくりしちゃったぜ」
「ナナイです。それから有難うございます。本当に買って来るとは思っていませんでした」
「無難な物を選んだオペ子の勝利だよ。ほら、あそこに見えるのが無理な物をリストに入れた敗北者共の末路だ」
「一部の人達は嬉しそうにしてますが」
落ち込み気味の同僚達。その中にはアズサ軍曹の姿もあった。
今や猫耳と尻尾が垂れ下がり、落ち込んでるのが良く見て取れる。
「アッハッハッハッ!あの姿を見ただけでめっちゃウケるんですけど!ザマァねえや!」
「あー!先輩!先輩!先輩!何なんスか!コレ!」
「頑張って作れよ。ちゃんとお前の搭乗機に合わせて買った来てやったんだから」
「自分がお願いしたお土産と全然違うッスよ!これ、プラモデルじゃないッスか!
アズサ軍曹がこちらに見える様に見せて来るのは、TZK-9ギガントのカッコいいイラストが描かれた1/144プラモデルだ。
バンタム・コーポレーションは兵器関連も凄いのだが、玩具関係も中々のシェアを誇っている。特にプラモデルに関してはトップシェアに輝いているのだ。
「俺に文句を言う前に、自分がリスト出した物をよ〜く思い出してみろ」
「えっと、ギガントに取り付ける新型30センチ砲スね」
「んなモン買えるか馬鹿野郎。常識の範囲内で物事を考えな」
「んにゃ〜」
しかし、アズサ軍曹とは対照的に喜ぶ奴も居る。寧ろ他の奴からプラモデルを回収してる始末だ。
そんな中、一人の人影が近寄って来た。それに最初に反応したのはアズサ軍曹の猫耳と尻尾だった。
「はぁい、キサラギ少尉。お土産ありがとね」
「チュリー少尉か。気にすんな。常識の範囲内だったから問題ねえよ」
「そう?でも、この香水って高く無かった?」
「別に、他のも纏めて買ったら割引が効いたからな」
「それでも高い方じゃない」
「女って、身嗜み一つで結構金掛かるのな」
「正確に言うなら身嗜みをする人達はね。そこに男も女も関係無いわ」
「言われてみればそうかもな」
「先輩先輩、この人には香水買ったんスか?」
「おう」
アズサ軍曹はチュリー少尉の持つ香水と手元にあるギガントの1/144プラモデルを見比べる。
そして決意を溢れる表情で一言言う。
「先輩、自分も香水お願いしまッス!」
「売店で買って来い馬鹿野郎」
「嫌ッス嫌ッス!何で新参者に香水買って来るんスか!自分も香水が良いッス!」
「良いかアズサ、良く聞け」
俺は静かにアズサ軍曹の両肩に手を乗せて語り掛ける。
すると少し頬が赤くなるのはご愛嬌といった所だな。
「プラモデルを貰った奴等は皆欲深く、自分の事しか考えていない愚か者ばかりだ。そんな連中はプラモデルが出来るまで部屋に引き篭もってろ。良いな?」
「先輩のバカーッ‼︎キメ顔で言う台詞じゃねえッスよ‼︎」
「ほら、他の愚か者共と一緒にプラモ作って来い。ついでにジオラマもな。あの辺に整備兵の連中も居るから、規模の大きな作業が出来るぞ。出来たらちゃんと呼ぶんだぞ?写真くらいなら撮ってやるからな」
「う、ううぅぅ……先輩のバカ‼︎うにゃああ〜ん」
アズサ軍曹は最後の罵声を浴びせて何処かに走って行く。全く、忙しい奴だぜ。
「良いの?彼女泣いてたわよ」
「良いの良いの。所詮は愚か者の末路って奴だ」
「……本当、何でこんな男が良いのでしょうか?理解出来ません」
「尻揉むぞオペ子」
暫くネロちゃんがお土産を他の連中に渡しているのを見ていると、端末から連絡が来る。
「んー?あれ、ジャンからだ」
珍しい事に傭兵企業シルバーセレブラムの団長ジャン・ギュール大佐から連絡が来ていた。何事かと思いながらメールを開くと内容は依頼の勧誘だった。
:キサラギ、このメールを見ても見なくても俺からの依頼を受けろ。この間のエルフ共に譲った借りを返して貰う。
だが安心しろ。報酬はしっかりと払う。
今回の依頼は惑星ニュージェネスの軍部からだ。詳細は別に送るが、簡単に言えば反乱勢力を殲滅する内容だ。
お前一人でも良いし、スマイルドッグを巻き込んでも構わん。好きな方を選べ。
内容は以上だ。期待しているぞ。
ジャンからのメールの内容。それは新しい戦場への強制招待状だった。
「惑星ニュージェネスか。確か数週間前に無差別テロが起きた惑星だっけ?」
後は凄いお偉いさんが捕まったとか。そのお偉いさんが逃げ出したとか。そして現在は反乱軍が現れてゲリラ活動をしながら、自治軍と各地域で衝突しているらしい。
今や惑星ニュージェネスは俺達の様な奴等にとって、ホットスポットな訳だ。
「んー、社長も誘おうかな?偶には皆でピクニックと洒落込むのも良いよな」
善は急げと言うからな。俺は早速社長室へと向かう。社長室に向かってる途中で依頼の詳細を見て行く。
(ふぅん、これは交渉が上手く行けば良い額が貰えるんじゃないか?)
そして社長室の前に到着して、インターフォンを鳴らす。するとドアが開く。
中に入ると傭兵企業スマイルドッグの親玉が、踏ん反り返って椅子に座っていた。
「社長、皆でピクニック行きましょう。場所は惑星ニュージェネス。後は分かるでしょう?」
「来て早々に何を言い出すかと思えば。貴様は自分の機体すら用意出来て無い状態で行くのか」
「新しい機体のお披露目は戦場でと言う事で。ここは一つ」
「ふん、惑星ニュージェネスか。で、どちら側に着くのだ?」
「勿論、自治軍側ですよ。ほぼ勝ち戦決定みたいな戦場ですがね」
そして社長にジャンからのメールも見せる。社長は内容を見ながら考える素振りを見せる。
「ふぅむ、ギュール大佐からの依頼か」
「そそ。俺個人で行っても良いんですがね。反乱勢力も中々の規模になってるみたいで」
「全く、これは情報収集が必要だな」
「世間では自治軍優勢と言われてますが。意外と反乱軍側も良い戦力を持ってるんですわ」
地上戦はほぼ反乱軍が起こすゲリラ戦に対処する自治軍。だが、宇宙では睨み合いの状態になっている。
何処から集めたのか知らない。ならず者共が徒党を組んだのか。はたまた企業が裏から手を貸しているのか。
何方にせよ、碌な事では無いと言う事は間違い無いだろう。
「ですがね、自分達が行くのは地上戦が良いかなと思ってるんですよ」
「理由は?」
「地上の憂いをさっさと無くした方が、自治軍は感謝するでしょう?ゲリラ規模の連中なら、俺達でも如何とでもなりますからね」
「艦隊はその間、宇宙の反乱軍を牽制する訳か」
「そうそう。自治軍の艦隊に加えて、ジャン大佐が率いるシルバーセレブラムの艦隊も居るんだ。まず負ける事は無い」
それに他の傭兵企業もチラホラ居るみたいだしな。今ならまだ間に合うと言った感じだろう。
「それに、ジャン大佐からの紹介を受けたと言えば無下にはされませんよ」
「確かにな。なら、決まりか」
そう言うと社長は惑星ニュージェネスの近くにある傭兵ギルドを探す。何事も傭兵ギルドを通した方が色々都合が良いからね。
確かに惑星ニュージェネスの政府から直接依頼が来るなら話は別だ。だが、今回はこちらから依頼を受ける形になる。勿論、使えるカードは使うだろうが。
「しかし、惑星ニュージェネスの連中がこんな時代にこんな物を作るとは。いや……こんな時代だからこそ、こんな物が作れるんでしょうね。時代の流れを感じますよ」
惑星ニュージェネスに関するトピックスを見る。すると大半はゴースト更生労働法に関する内容ばかりだ。
そもそも、ゴーストの正確な人数は誰にも分からない。だが、三大国家や独立国家群の登録された正規市民の三倍と言われている。もしかしたら、それ以上のゴーストが存在している可能性だってある。
「いやはや、単純に見れば今や四人に三人はゴーストですかね。正規市民も随分と偉くなった物だ。ゴースト三人か四人に担ぎ上げられてる状態なんですから」
「貴様も正規市民だろうが。いや、地球連邦統一に行けば名誉市民にもなれるではないか」
「つまり、俺も偉くなったって訳か。社長、偉くなったついでに給料アップ願います」
「ハァ……何でこんな奴が名誉市民になれるのか」
こうして、傭兵企業スマイルドッグは新たなる戦場に向かう。
だが、この時は想像すらしていない事態となる。
何故なら戦場で最も敵として出会いたく無い陣営と対立。
更に自身の存在意義を訴える事になろうとは。
東郷組。彼等はグンマー星系内で生き残って来た組織だ。
グンマー星系では弱肉強食。実力が全て物を言う宙域だ。厳しい環境である物の、代わりに希少な資源や需要の高い資源が豊富に存在している。
特に希少な資源は度々争いの火種となる。僅かな資源でも非常に高く売れる。その一握りの資源の為に多くの死者が出ている。
「お父様、お呼びでしょうか」
「うむ、お前にしか頼めん事だ。シズリ」
和風の居間で見つめ合う二人。
一人は東郷組を仕切る東郷・ジョセフ。もう一人は東郷・ジョセフの一人娘の東郷・シズリ。
東郷・シズリは父親譲りの力強い眼力、母親譲りの整った容姿と艶やかな黒髪。左の目元には泣きホクロが一つ。そして紅く龍の紋様が描かれた着物を身に纏っている。そして、一番目を惹くのは口元を大きく塞ぐ様なガスマスクの様な物を着けている事だろう。
そんな彼女は東郷組の跡取り娘であり、いずれこのアストベルト宙域を統治する存在だ。
「お前には艦隊と部隊を率いて惑星ニュージェネスに行って貰う。そこでヤン・ハオティエン氏の護衛をやって貰う」
「分かりました。全身全霊を持ってして護衛致します」
「理由は聞かんのか?」
「お父様の願いとあらば聞く理由など有りません」
芯のある声がジョセフの心に響く。自分の娘ながら他者を寄せ付けない程の女傑となり、誰よりも美しく成長したと思える程に。
だからこそ、ジョセフは愛娘であるシズリに打ち明ける。
「ヤン・ハオティエン氏は旧知の仲だ。だが、それ以上にこの宙域の支配を優遇してくれた恩人だ」
「…………」
静かに姿勢を正し話を聞くシズリ。
「それだけでは無い。ヤン氏の手腕は確かだ。旧式となった兵器の融通、人員の誘導など。無論、ヤン氏にも利益があってこその行動だ。だが、その行動によって我々東郷組は大きく成長したのだ」
東郷組を創設するに当たっては苦難の連続だったと聞いていた。だが、それを実力だけで排除して来た訳では無い事はシズリも理解はしていた。
そして、その疑問がこの瞬間に解けたのだ。
「だが、それ以上にヤン氏を守る理由がある。もし、ヤン氏が死ぬ事となれば奴等が黙ってはおるまい」
「奴等とは?話して頂けますか?」
ジョセフは一度息を吸いながら外の庭を見る。一流の庭師が丹精込めて作り上げた風景。それは芸術作品以上に心が穏やかになる。
そしてジョセフはシズリの目を見ながら口を開く。
「ヤン・ハオティエン。彼は正統なる……」
ジョセフの言葉を聞いたシズリは目を見開いたものの、直ぐに頭を切り替えて静かに頷いたのだった。
惑星カルヴァータはエルフ達の総本山と言える惑星だ。
人口の七割はエルフ種であり、魔術と技術の融合により他の陣営より一歩二歩先に居る。
しかしエルフ故の出生率の低さが相まってか、高度な技術を持つも三大国家からは脅威と捉えられていない。何方かと言えば友好的な状況にしたいと各陣営が思っている。
勿論、三大国家も旧ダムラカの一件もあり警戒されている所はあるが。
惑星カルヴァータの衛星軌道上には軍用宇宙ステーションがある。そこでは日々周辺宙域の警備や新開発された武器などの試射が行われている。
一機の白いAWが宇宙ステーションへと帰投する。その機体は【GXT-001デルタセイバー】。今や多くの企業や組織から狙われてる超高性能機だ。彼等の見解では現行機を遥かに超える性能が有り、早急な次世代機の開発が必要だと言われている。
尤も、その次世代機ですら勝てるか怪しいとまで囁かれてる。
デルタセイバーは宇宙ステーションの格納庫に収納される。そして空気が注入されると、コクピットハッチが開く。
「やっぱり良い機体ね」
そう呟きながらクリスティーナ・ブラットフィールド少佐はヘルメットを取りながら機体を見つめる。
自身の持つギフトと合わせる事でスペック以上の性能を叩き出すデルタセイバー。そんな機体をクリスティーナ少佐は気に入っていた。
「お疲れ様です。クリスティーナ少佐」
「有難う」
一人の整備兵が飲み物と端末を渡しながらクリスティーナ少佐に近付く。
「デルタセイバーの砲撃戦仕様での機動テストは数値以上でした。後は近接戦仕様の機動テストのみですね」
「そう。ようやく此処まで来れたのね」
「はい、クリスティーナ少佐の腕のお陰です」
「皆のお陰でしょう?私一人では何も出来無いんだから」
そう言うと飲み物に口を付けながら端末を見つめる。
砲撃戦仕様は宇宙専用しか無かったが、最近になり地上での使用も可能になった。勿論機動性は多少落ちる事になるが、それでも高い機動性は維持し続ける事が出来ている。
しかし、何と言うべきか。以前のクリスティーナ少佐はもう少し冷たい印象があった。それは間違いなく姉のセシリア准将の影響があっただろう。
だが今は如何だ?何処となく柔らかくなり、時々儚げな雰囲気を出しながら宇宙の遠くを見つめる。そんな姿に惚れてしまう男性エルフが後を絶たないとか。
現に今も周りの男性エルフ達の視線を釘付け真っ最中だ。
だが、そんなクリスティーナ少佐に声を掛ける無粋な輩が現れた。
「流石クリスだ。以前より腕を上げたみたいだな」
「あら?アーヴィント大尉。ちゃんと少佐って言いなさい」
クリスティーナ少佐に近付く優男。彼の名前はアーヴィント・アルドリッジと言い、クリスティーナ少佐とは幼馴染の関係だ。
容姿は貴公子並みに整っており、美しいオレンジ色の髪とキメ細やかな白い肌。そして紫色の瞳も良いアクセントとして彼の魅力を上げている。
そして立ち振る舞いも、しっかりとした教育がされている事が窺える。
そんな彼はクリスティーナ少佐に近寄りながら馴れ馴れしく口を利く。お陰で周りの男性エルフの鋭い視線を独り占めするが、一切気にせずに話を続けるアーヴィント大尉。
「良いじゃ無いか。僕達は幼馴染。いや、いずれは許嫁になるかも知れない。父上と母上も君なら納得する」
「私は幼馴染のままで良いわよ。それに、まだデルタセイバーの方が重要だもの」
「そうかも知れない。けど、もう直ぐそれも終わるさ」
「終わる?どう言う事?」
「直ぐに分かるさ」
アーヴィント大尉は意味深的な事を言いながら搬入口を見る。すると搬入口の扉が開くと一機のAWが入って来る。
その機体はデルタセイバーに非常に酷似していた。色はオレンジをベースに黒と白が要所で使われていた。全体的にはデルタセイバーの色違いと見えるが、細かい場所を見れば所々で違いはある。
「この機体は……」
「そう。GXT-001デルタセイバーをベースにした機体。【GXS-900ガイアセイバー】だよ」
「ガイア……セイバー。いつの間にこんな機体を?」
「デルタセイバーの機体データ自体はもう集まっていたからね。後は僕達の得意とする分野さ」
アーヴィント大尉は前髪をかきあげながら、ガイアセイバーに近付きながら得意気に喋る。
「この機体はまだ試作段階だが、デルタセイバーの先行量産型と言った所だよ。これから実機試験も行う予定なのさ」
「そう。でも、デルタセイバーもまだ試作兵器を扱ってるわ」
「その試作兵器もいずれガイアセイバーにも取り付けられる。此処まで予定が早くなったのもクリス、君のお陰なのさ。クリスがデルタセイバーのスペック以上を引き摺り出した結果なんだ。誇ると良い」
「…………」
クリスティーナ少佐はデルタセイバーを見上げる。
果たして自分はデルタセイバーを全開で扱えたのだろうか?
勿論、スペック以上の性能を叩き出した自負はある。だが、それを自分一人で出来たのだろうか?
(彼なら……もしかしたら、私以上に)
そんな考えが浮かんだが首を横に振るう。デルタセイバーは自分のギフトと同調して初めて機能する。ならば、自分以外に結果を出す事なんて出来無い。
「クリス、ガイアセイバーの初陣も間も無くだ。このガイアセイバーでしっかりとし結果を出せれば量産が決まる」
「……そう。それは良かったわね」
本来なら喜ぶべき事。デルタセイバーの量産型なら他陣営のAW相手なら圧倒出来る。
自分が出した結果が先行量産型として目の前に存在している。
なのに、ほんの僅かだけ心が痛みを訴えたのだった。
その痛みはクリスティーナの物なのか。それともデルタセイバーの物なのか。
誰にも分からぬままに時は進む。