表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/282

無差別テロ

 欲望には底が無い。


 ある者は自分達の権利を主張する。

 ある者は自分達の利権を確保する。

 ある者は自分達の自由を求める。


 自分達には幸せになる権利があると思い上がっている民衆。だが、彼等がやってるのは国民として当然の事をしているに過ぎない。

 それ以上の事を成し遂げているのは、ほんの一部の天才と権力を持つ者ばかり。にも関わらず今以上の物を渇望し続ける。

 故に人々は一部の天才が作り出した技術と文化を得て欲望を満たして行く。

 経済を発展させ、より良い生活の為に努力を惜しまないだろう。

 そして、より大きな欲望が生まれて更なる欲望を満たす為に求め続ける。


 しかし、天才が作り出した物でも時が流れば時代遅れとなり、誰も見向きもしなくなる。経済も常に新しい試みを試し続けねば衰退してしまう。

 かつて世界最強のステルス戦闘機ですら、今ではコレクターの自慢の一品に成り下がっている。


 時間とは残酷な物だ。どんな偉業を成し遂げた所で、徐々に歴史の中に埋れて行く。誰かが意図的に引き上げなければ永遠に沈み続ける。

 例え、最新鋭の端末や軍事兵器も時間が経てば旧式となり何れ消えて行く。


「分かるだろ?我々はそうやって全てを発展させて来た。強欲こそ我々の強みでもあるのだ」

「…………」

「君がこの都市を余り好ましく思っていない事は知っている。私もこの都市が嫌いだからね。欲のヘドロが積もり積もって固まって出来た都市と言っても過言では無い」


 高層ビルの窓から見えるのは幾つもの高層ビルと、間を列車と車と配達ドローンが常に行き交っていた。更に厳しい気候にも耐えれる様に、都市全体を包み込む透明で大きな傘。

 この光景を見ても誰も知る事は無いだろう。この惑星に危機が迫っている事を。


「だが、私は愛国者だ。どれほどの国民が無能で怠惰な存在であろうとも、私はこの惑星を救わねばならない」

「その為にあの法案を出したのか」

「その通りだ。誰も悲しむ事の無い素晴らしい法案だ。無論デメリットを如何に抑えるかに全てが掛かっているがね」


 その言葉に対面に座っていた男性は立ち上がり指を指しながら糾弾する。


「その様な矛盾を許せると思うのか!今の今まで我々は彼等を見下し、蔑んで来た!なのに今更利用するだと?そんな事をすれば暴動が起きるぞ!」

「その為に軍備を増強しているのだ。良く考えるんだ。この惑星……そして、周辺の宙域にも資源は底を尽き掛けている。それが何を意味しているのか。聡明な君なら理解出来る筈だ。いや、どんな無知な者でも危機感くらいは覚えるだろう」


 座っていた男は立ち上がり窓の外を見る。その目は外の風景を見ているが、既に別のビジョンを思い浮かべている。

 そして、男は振り返りながら語り掛ける。


「今ならまだ間に合う。協力したまえ。この惑星を再び連邦政権下に入れる訳には行かんのだ。それに私は、友人と呼べる者をこんな形で失いたくは無い」

「そう言って貰えるのは非常に嬉しく思いますよ。ヨハネス・シュナイダー総統。しかし、【ゴースト更生労働法】は惑星全体を危険な状況に陥らせる。唯でさえ、人口比率はゴーストの方が圧倒しているんです」


 どちらも譲るつもりは無いのだろう。互いにこの惑星の為に尽力して来た者同士。故に譲れない物もあるのだ。

 そして、シュナイダー総統はため息を一つ吐きながら再度問い掛ける。


「私に……付く気は無いのだな」

「申し訳ありません。シュナイダー総統。貴方には恩があるのは理解しています。しかし、惑星全体を危険に晒しゴーストに要らぬ知識を与える事に賛同致しかねます」

「革命とは常に血が流れている。大量出血しようとも、早期に止血する事が出来れば問題は無い」

「その止血が上手く行く保証は何処にもありません。ゴーストの数は今や正規市民の三倍……いや、五倍にまで膨れ上がっていると言われています」

「そうか…………実に残念だよ」


 シュナイダー総統は窓の外を見続ける。


 間も無く始まる序曲を見る為に。




 人々はいつも通りの生活を過ごしていた。国営ニュースでは財政が厳しい状態が続いていると放送し続けている。

 しかし、財政難と言われても自分達の生活には一切関わっていない。その為、財政難と言われても実感は全く湧かない。

 寧ろ財政難を打開する為の法案がもう直ぐ出来ると言われている中、今更自分達に一体何の関係があると言うのか。


 ゴースト更生労働法


 簡単に言えば自分達の税金を使って、ゴーストを真っ当な人種に引き上げる為の法案。寧ろ、こんな事に税金を使うならもっと別の事に使うべきだ。

 一人のテレビアナウンサーがドローンカメラに向かって喋っていた。そして街行く人々に街頭でのインタビューを行っていた。


「ゴースト更生労働法についてはどう思われますか?」

「んー、どちらかと言うと反対ですね。だって、施設から出たゴーストが街に紛れ込むんでしょう?正直、不安しか無いですよ」

「しかし、ゴーストには極小マイクロチップがランダムな場所に埋め込まれます。このマイクロチップにより場所も何を買ったかの履歴も直ぐに分かる様になります」

「それで犯罪者が抑制される訳じゃ無いでしょう?この場でゴーストが銃を持ってたらどうするのさ」


 いつも通りの日常。人々は生活の為に働き、その日を過ごして行く。


 そうなる筈だった。


 いつからだろうか。一台の大型トラックが停まっていた。大型トラックは路駐をしたまま、ずっと停まったままだ。

 大型トラックに自治軍の車両が二台とレッカー車が一台来る。そして大型トラックの周りを見てからレッカー車に繋げる。


 だが、突然大型トラックの荷台部分が開く。


 中から現れたのは一機のAW。機体名はZC-04サラガン。

 45ミリサブマシンガン、多目的シールド、右肩に中口径グレネード砲、左肩に六連装ミサイルポッドを装備していた。

 機体も武装も戦場では良く見る物ばかり。だが、此処は大勢の正規市民が居る都市部だ。


「こちらパトロール101!AWだ!AWが街中に⁉︎」


 自治軍の兵士が通信で状況を伝える。しかし、サラガンの対人用12.5ミリマシンガンが兵士達を消し飛ばす。


【俺達、ゴーストは、お前らの道具じゃねええええ‼︎‼︎】


 外部スピーカーのスイッチを入れて、外に聞こえる様に大声で叫ぶ。それと同時に45ミリサブマシンガンが火を噴いた。

 突如として銃声が街中に響く。そして続く様に爆発音が次々と起こる。

 人々は何事かと思い辺りを見渡す。しかし、所属不明のサラガンの無差別攻撃は止まらない。サラガンは前進しながら45ミリサブマシンガンを乱射し続ける。更に、車が密集している道路に中口径グレネード砲の銃口が向けられる。

 危険を察知した民衆達は慌てて車から降りて走って逃げ出す。だが、そんな事は関係無いと言わんばかりに中口径グレネード砲から砲弾が放たれる。

 爆発と共に吹き飛ぶ車両と人々。だがサラガンの暴走は止まらない。


【お前達が!お前達が悪いんだ!俺達をゴミの様に扱いやがって!俺達だってな!】


 パイロットの叫び声が燃え盛る都市に響く。だが、この状況を許す訳には行かない。

 自治軍の攻撃ヘリ【AH-89サンダー】が二機駆け付ける。


『サザー1、目標を確認。これより攻撃を開始する』

『サザー2、攻撃を開始します』


 上空から対AWミサイルがサラガンに向かって降り注ぐ。

 咄嗟に多目的シールドで防御姿勢を取るサラガン。だが、ミサイルの爆発した衝撃によりバランスを若干崩す。だが、それでも倒れる事は無い。


【貴様等がああああああ‼︎‼︎】


 サラガンから六連装ミサイルが発射される。サンダーはチャフを散布しながら回避機動を取る。だが、一発のミサイルがサンダーに被弾する。


『被弾した!駄目だ、墜ちる!』

『サザー2!クソ、テロリストが調子に乗るな!』


 旋回して再び攻撃態勢を取るサザー1。そしてロケットポッドからロケット弾の雨を降らせる。更に20ミリマシンガンもサラガンに向けて撃ちまくる。

 ロケット弾がサラガンに襲い掛かる。しかし、安価なAWとは言え簡単に撃破される物では無い。伊達に様々な組織に運用されている機体では無いのだ。


【そんな攻撃で!俺達が!負けると思うな!俺達は、お前達の都合の良い道具じゃねぇんだよ‼︎


 パイロットの叫び声。それはゴースト更生労働法に対する物だった。

 唯でさえ貧困に喘ぎ、劣悪な環境に押し込まれている状況。ゴーストの存在自体、正規市民が汚い物を部屋の隅に追いやった結果に過ぎない。

 更に、正規市民は劣悪な仕事をやる事は無い。危険で汚い仕事は全てゴーストに押し付ける。

 それでも、やるしか無かった。そうしなければ日々生きる事すら困難なのだ。

 ゴーストの生活環境は弱肉強食だ。誰が殺されようが、誰が拉致されようが、誰も救いの手を差し伸べる事は無い。自分自身を守るだけで精一杯だからだ。


【ぐううぅぅう、負けねえ。俺は絶対に負けねえ!俺がやらなくて、一体誰がやるってんだよ!】


 徐々に被弾して動きが鈍くなるサラガン。だが、まだ動ける。なら、まだ戦える。

 だが、モニターに見えたのは戦車TT-750A9ドーベンの四輌が主砲をこちらに向けていた。更に自治軍の輸送機からMWが四機降りて来る。

 咄嗟に45ミリサブマシンガンで迎撃するが距離が遠過ぎた為、弾はバラけてしまう。その間にドーベン四輌は射撃態勢を整える。


『目標のテロリスト機を捕捉しました!いつでも撃てます!』

『これ以上都市に被害を広げさせるな!全車、攻撃開始!』


 四輌のドーベンが持つ175ミリ滑腔砲が一斉に射撃される。175ミリの砲弾が次々とサラガンに直撃する。


【ぐわああああ⁉︎ううぅぅ、まだだ……俺はまだ!】


 姿勢を崩しながら中口径グレネード砲で反撃するサラガン。しかし、反撃は此処までだった。

 上空から20ミリの弾丸が降り注ぎ、周りからはMWの30ミリマシンガンによって撃たれ続ける。サラガンは穴だらけになり、内部機関もズタズタに引き裂いて行く。それはコクピットも例外では無かった。


【ぉ………ぁ…………アー、ニャ……】


 誰を思い呟いたのか。その一言を呟いた後、パイロットの動きが止まる。

 それでも執拗に攻撃が続けられ、最後には爆散するのだった。


 パイロットの死そのものが無意味である事を象徴するかの様に。


 都市は多数の被害を受けた。辺りは火災が広がり、誰かの悲鳴と叫び声が響き渡る。

 この光景は()()居合わせたテレビカメラによって全ての記録が中継されていた。


「ご覧下さい!今、正にこの場所で無差別テロが行われました!犯行声明も無く、無慈悲に民間人に向けて攻撃をしたのです!」


 サラガンの外部スピーカーは故障していたのか。パイロットの命を賭けた叫び声は誰にも聞かれる事無く終わった。

 この映像を見ていた男は目を疑いながらシュナイダー総統に問い掛ける。


「まさか、シュナイダー総統……貴方は」

「使える物は何でも使う。それが汚らわしいゴーストであろうとも。少なくとも、ゴースト更生労働法の礎になったのだ。彼の死は無駄では無い」

「市民を巻き込んだのですか!そんな事をすれば!」

「犠牲は必要なのだ。後のシナリオは簡単だ。ゴースト出身者がAWに乗り無差別テロを実行した。そして、AWを手配したのは……君だ」

「なっ……最初から、そのつもりで」

「まさか。支持をしてくれれば良かったのだ。そうすれば別の代役を用意した。さて、主犯にはそれ相応の罰を与えねばな」


 ドアが開けられる。そして中に入って来たのは特殊部隊の精鋭達。その精鋭達全員が男に向けて銃口を向ける。


「こんな事が、許される筈が無い」

「そうだとも。市民を巻き込んだ無差別テロは許されない。尤もゴースト更生労働法に無意味に反対し、反対派勢力に手を貸した君の言葉に意味は持たないがね」

「シュナイダー!貴様!」

「連れて行け。今回の無差別テロの主犯だ。丁重にな」

「待て!まだ話は終わってガッ⁉︎」


 精鋭部隊の一人に殴られて気を失う男性。そんな男性を無視して、燃え盛る街並みを見るシュナイダー総統。


「惑星ニュージェネスを救う為だ。安らかに眠りたまえ」


 無差別テロで死んだ者達に向けて静かに目を閉じるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 新章の頭からハードで奥が深い話になりましたね。 充分現代の情勢にも通用します。
[一言] この星の状況がまだいまいちはっきりしてないけど再び連邦の政権下云々っていうことはおそらく都市国家あるいは小国、それも国境沿いの過去なんらかの理由で連邦から独立、最悪は連邦と帝国に挟まれたもの…
[一言] MGSのテーマが流れそうな殺伐さ。 ゴーストが正規市民の数倍ってもう革命一歩手前の状況じゃん……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ