企業案件2
アズサ軍曹が蕩けた表情をし始めた頃にネロちゃんがやって来た。なので早速ボウリングをやろうとしたら無粋な連中も寄って来た。別に君達はお呼びでは無いんだがな。
「おい、オメェがシュウ・キサラギだな。さっきから聞いてれば有象無象とか抜かしやがって」
見知らぬ顔の奴だ。口振りからして社長が新しく入れた連中だろう。全く、社長はモニター越しで人を判断するから。だから、こんなクソ生意気な連中が集まるんだよな。
「やれやれ、またこの展開かよ。俺がお前らみたい大した事の無い補充戦力相手にするのが初めてだと思うか?ん?」
「だったら何だよ!今からやろうってのか?アァ!」
「やっても良いが……唯、やるだけなら詰まらない。賭けをしよう。どうだ?やるか?」
「賭けだと?」
「あぁ、そうだ。幸い、お前達は自分の腕に覚えがあるみたいだな。なら……実機での演習で決めようじゃ無いか」
「面白え、受けて立つぜ。ルールは何だ?」
「一対一でも、多数対一でも良いぜ。俺としては多数対一をお勧めするよ。そっちの方が早く終わるからな」
この瞬間、連中の顔が強張る。だが、それはそうだろう。何故なら暗に全員が来ても俺には勝てないと言われた様な物。
下手にプライドが高い連中だ。直ぐに頭に血が昇って冷静さを欠いてしまう。
「上等じゃねえか。だが、その条件で呑むと思うなよ」
「ん?呑まないの?そっちの方がお前達に絶対的に有利じゃん」
「なめんなよ。俺だって伊達に死線は潜って来てねぇ。だから一対一で勝負だ!」
「良いけどさ〜。それだと俺がダルいだよね〜。じゃあ、一番強い奴を出してくんね?」
「良いだろう!なら俺が相手に」
「いいや、俺が相手だ!俺は三対一でも勝った男だ!」
「此処は私に任せて貰おう。【疾風のゴールデン】とは私の事だ!」
「疾風のとか聞いた事ねぇよ。俺の操縦テクニックは相手を惑わせる技量がある」
「いや、俺が」「自分が」「雑魚はスッ込んでろ!」「何だと!くたばれ!」「やろうってか!上等だ!」
何やら騒がしくなったが無視してボウリングを楽しむ。んー、今日は一回目でストライクか。幸先良いな。
「先輩先輩。これ全部企業案件なんスか?」
「ん?まぁな。社長からも専用機OKの許可が降りたからな。多分格納庫の一角は俺専用になるな」
「うわー、マジッスか。正直羨ましいッス」
「本当よね。あ、スパイダーがあるじゃない。もうこの機体で良いんじゃない?」
「スパイダーは高性能ですが、拡張性が少々難が有ります。マスター好みの機体構成を造るには向かないと思われます」
「あら?元々高性能なのよ?下手に改修する必要は無いわ。それだけのスペックがスパイダーにはあるんだから」
「ハッ!ギガントの爆裂セットがあるじゃ無いッスか!目の前の敵を全て爆炎の中にお届けするヤツ!」
「何コレ、三十センチに速射機能を持たせたの?然も、プラズマジェネレーターも一品物じゃない。ダメよこんなの。前線で修復出来なくなるわ」
「それで浪漫が手に入るなら安い物ッスよ!」
「対価が命とか高過ぎるわよ」
和気藹々とお喋りをする女性陣。そんな中、ネロちゃんがポツリと一言漏らす。
「マスター、サラガンの製造元でもあるバンタム・コーポレーションからの正式なオファーが来てません」
「……何?」
その一言が俺の中のAW愛に直撃した。ボウリングのボールを投げた後の決めポーズをしたままネロちゃんに問い掛ける。
「もう一度確認してくれ。スマイルドッグに入ってからサラガンを使用し続けてるこの俺に、バンタム・コーポレーションからのオファーが無いだと?」
「はい。しかし、代わりにこの様なオファーが有ります。ご覧になりますか?」
「見せてみろ」
ネロから端末を受け取り見る。すると中々刺激的は内容が書かれていた。
:平時よりZC-04サラガンを愛用して頂き誠に有難う御座います。
本日、シュウ・キサラギ様にある御提案をさせて頂きたく御連絡させて頂きました。
現在、我々バンタム・コーポレーションは少々苦境に立たされています。しかし、この苦境を乗り越えるには貴方の力をお借りしたいのです。
我々の都合による依頼になりますが、それ相応の対価を御支払い致します。
何卒、宜しくお願い致します。
バンタム・コーポレーション第七兵器開発課。
「第七兵器開発課?聞いた事無いな。多分、兵器開発だからAW関連だと思うんだが」
「検索しました。バンタム・コーポレーション第七兵器開発課は元々会長が自身の息子の為に作られた場所です。当時より安価で戦闘力の高いAWの開発を目的としており、幾つかの試行錯誤と試作機の開発によりZC-04サラガンが開発されました」
ネロちゃんからバンタム・コーポレーション第七兵器開発課の話を聞く。
しかし、第七兵器開発課か。考えてみればサラガン開発元からの依頼。これはある意味、試作機や通常機を渡されるより光栄な事ではなかろうか。
「また現在はZC-04サラガンの改修、OSのアップデートなどを主に行なっております」
「随分と落ち着いた部署になったのね。サラガンを開発したんだから、もっと色々やってるのかと思ったわ」
「ZC-04サラガンを開発した後、会長に評価され代表取締役に抜擢されたそうです。現在は引退され、中央区で余生を過ごしております」
「そうなんスね。てっきりサラガンの後継機を作ってると思ってたッス」
「会長の息子と言う立場で無ければやってたのかも知れないわね」
俺はネロ達の話を聞きながら、もう一度端末に視線を戻す。
バンタム・コーポレーションと言えば大企業の一つだ。今も軍事兵器から大人と子供向け玩具を販売している企業。色んな意味で民衆からの知名度は高い。
(中々面白そうな依頼じゃねえか。俺個人の力で大企業様が救われるかも知れないんだろ?これ程滑稽な話は無いけどな)
実際の所は大して問題は無いのかも知れない。それでも大企業からの依頼なら簡単には無下に出来無い。
え?以前引き抜きの奴を全部破棄したって?勘違いすんな。俺はこう見えて義理堅いんだよ。
「ネロ、早速だが出発準備だ。目的地はバンタム・コーポレーション第七兵器開発課だ」
「了解しました。直ちに準備致します。AWは何に致しますか?」
「そんなもんサラガンに決まってんだろ!何だか楽しくなって来たぜ!」
ネロに指示を出す。その間に俺は食品や娯楽品を用意しておく。
そして準備を終えて格納庫で待っていると高速輸送艇がやって来る。
『マスター、準備完了しました。サラガンの武装は対AW仕様となっております』
「完璧だ。なら出発と行こうかね」
俺は高速輸送艇に乗り込み運転席に向かう。そして通信でブリッジに繋げる。
「オペ子聞こえるかー?今から出掛けるから。細かいのは省略して良いぞ」
『了解しました。それから私はナナイです』
「俺が素直にナナイって言ったら調子狂うだろ?じゃあ、行ってくるわ。取り敢えずバンタム・コーポレーションの救世主になって来るぜ」
『調子は狂いません。では、救世主になれる様に頑張って下さい』
「お土産は何が良い?後、他の連中のも聞いといて。俺の気分が滅茶苦茶良かったら買ってくるから」
高速輸送艇が所定の位置に固定される。そして前方のハッチが開き僅かな星の輝きが頼りになる漆黒の宇宙が広がる。
『期待せずに待っています。進路クリア、発進どうぞ』
「そこは嘘でも良いから愛想良くしとけよ。ヴィラン1、出るぞ」
『無事の帰還を』
オペ子の声を聞きながら高速輸送艇を勢い良く発進させる。
「ネロ、基本は戦闘はしない事にする。どうしてもの場合は応戦する形になる」
「了解しました。しかしマスターとのお出掛けは初めてですので、少し高揚している自分が居ます」
「そうかい?まぁ、そのアンドロイドボディなら大抵の場所なら歩いて行けるからな」
「はい。マスターと一緒に街を歩ける事を楽しみにしています」
「なら時間が出来たら出掛けるか。観光巡りするだけでも悪く無いだろうからな」
何せ目的地はバンタム・コーポレーションが保有する宇宙ステーションだ。その宇宙ステーションの人口の九割以上がバンタム・コーポレーションの従業員らしい。
まぁ、大体大企業が保有する宇宙ステーションは似たり寄ったりな形になるからな。中には超級戦艦の中に都市を築いたり、未開惑星そのものを自力で開発して住める様にしたり。
基本的に大企業はやる事のスケールがデカいのだ。それこそ、数多の中小企業が束になっても返り討ちに出来る程にだ。
「楽しみだなぁ。いや、本当に楽しみだよ」
大企業からの依頼を受ける立場にまでなった。バレットネイターを失ったが、それ以上に運が回って来ている気がする。
この場所まで上り詰めた自分を内心褒めながら、モニターに目的地の宇宙ステーションまでの道のりを入力するのだった。
バンタム・コーポレーション。軍事兵器から子供向け玩具にまで最多に渡る商品を展開している大企業。
そんな大企業が持つ宇宙ステーションは非常に大きく、様々な広告ネオンが浮かんでいた。
「流石、高速輸送艇だ。最寄りのワープゲートを殆ど使わずにワープ出来るから到着するのが早い」
勿論、高速輸送艇とは言えワープを何度も連続して使用するのは難しい。その為、ワープ機関を休める間は最寄りのワープゲートを使用するのだ。
そうすれば長距離移動すら一日足らずで終わらせる事も可能になる。
様々な技術を取り込み、日々成長し続ける三大国家。そして、三大国家に利益と力を与えながら自分達も利益と力を得る大企業群。
世の中には権力一点集中と非難している子煩い連中も居るが、そんなのは遠くで囀る小鳥の鳴き声に過ぎ無い。
何故なら大企業に歯向かう馬鹿は周りが自主的に処理するからだ。囀るのは勝手だが、周りも巻き込もうとする連中だからな。同情する気には為らんがな。
「見ろよネロ。この宇宙ステーションの周りに浮かんでる沢山の広告塔ネオン。アレ一つで百万クレジットはするんだぜ?」
「素晴らしいですね。この光景だけで何百億クレジットになりそうです」
「百億クレジットの宙域か。残念ながらデートスポットには向かねえみたいだがな」
確かに彩り豊かな光景だが、近くで見ると広告塔ネオンの中にはストレートな内容も見えてしまう。
何事も距離感は大事だと教えてくれる宙域だ。
「こちら傭兵企業スマイルドッグ、シュウ・キサラギ少尉。IDナンバーN-67834。第七兵器開発課からの依頼を受けに来た。確認されたし」
『こちら管制塔です。IDナンバーの確認が取れました。ようこそ、宇宙ステーション【バンタム・コーポレーション・ベルハルク】へ。第77ゲートへお願い致します』
「了解した」
『本日はお忙しい中、第七兵器開発課の依頼を受けて頂き有難う御座います。それでは、お仕事のご健闘を』
これまた綺麗で丁寧な言葉遣いの女性オペレーターの指示に従い、第77ゲートに向かう。
「いやはや、流石に少しばかし緊張するな。下手な事をしたら一瞬で全てが無くなるからな」
「ご安心をマスター。マスターなら大丈夫です。マザーシップの撃破。そして、絶望的な中での生存率。全てにおいてマスターの方が優っていると信じております」
「やっぱりネロちゃんは最高だな。これでもかと俺を持ち上げてくれるからな」
「いいえ、マスター。全て事実です」
「ネロ……お前、最高かよ」
此処まで言われたら期待に添える様にやるしか無いな。
俺は自分に気合いを入れる様に深呼吸をして、第77ゲートに高速輸送艇を向かわせるのだった。
疾風のゴールデン
兎に角縦横無尽に動き回り戦場を荒らす。またブースターから出る色が金色だった事が由来となっている。
尚、撃破率は今の所ゼロである。




